星見祭 15.式典控室
「護!!おめぇ………。しっかり守れてたなあ!!
さすが俺の倅だ!!
ただ、ちと殺気飛ばしすぎだなあ………。
戦略的には《無の境地》も必要なんだぜ?
まあ!良くやった良くやった」
「フルカスの親父さん!!」
式典の控室には雷クラスの親御さんが集まっていた。
その一角で巨体を揺らして笑っていた大男がのしのしと地響きを立てて岸に近づいた。
そしてせっかく綺麗にセットされたピンク色の岸の頭髪をこねくり回した。
岸は抵抗しているようで抵抗していない。
まるで大型犬の親子のじゃれ合いだ。
「わ………。三尊の《豪傑のフルカス》だ」
「あの勇者御一行の?!伝説じゃん?!」
「さすが勇者候補筆頭。三尊の子供かよ………」
「怖………。家柄が怖………」
「わ………。岸のお父さんおっきい………」
フルカスと呼ばれた男は青みがかった黒髪をオールバックにし後ろに束ねている。
メッシュを効かせたピンクの髪の一房が茶目っ気を出していた。
筋骨隆々とした身体を白銀の鎧で覆っている。
上背はニメートルは越えそうだ。
「お前を聖域騎士学院「アイギス」に入れたかったんだがな。
でも目的があるんなら応援するのが親だろ?
ま。俺もここが母校だから良さがわかる。
いやあ!200年ぶりに来たら。変わったイベントしててビックリした。
サチ婆は変わんねぇけど」
ガハガハ高らかに笑いながら岸の背中を叩いた。
痛そうだったけど岸は困り顔で笑う。
「あれ。このイベント200年前なかったの?」
「星見祭の後、すぐステラ・ランキングだったな。
まず団がなかった。
ただの《生徒会》だ。
それをどっかのクソガキが変えたんだろな。全く。
変なものも続くと様式美じみるんだなーーー」
そんな親子の会話を見守っているとバチリとフルカスとりんは目があった。
ヘラリと笑いながらりんはお辞儀した。
彼は一瞬固まった。
「リリー………?いや。………か」
「ん?親父。リリーじゃない。
あいつがりんだよ。佐藤 りん。
リリス様のとこの子だよ」
呟いた言葉を聞き取れなくてりんが首を傾げると、彼はにっかりと笑った。
その笑顔が岸に似ていて。
りんは岸がこの幽玄異郷に来てから明るくなったのはこのお父さんの影響だと察した。
気のいい親父さん。そんな笑顔だった。
「お。この子か?
護の《仲良し家族にしか見てくれない罪深い女のこ》って。
このりん嬢か!?
こりゃあ!!確かにめんこい!!
好みが俺似だなあ?!お前ほんとに養子か?
俺、現し世に女いなかったよな?!モテなかったからなあ。
誠と違って。
いや。誠いたからもっと目立たなかったか?
誠は柔和な顔した人ったらしでなあ………数々の女を泣かしてーー」
「ちょッ?親父ッ………!!
勇者の話はここでは良いだろ?!」
岸がぎょっとして諌めている。
岸が《護》と呼ばれていることも面白いけど、フルカスの語る《誠》もイマイチ誰か分からないけど。
近所のおじさんは総じて若い子がわからない昔話と昔の友達の話をするからそれだろう。
「え?モテない?
岸のお父さん、岸そっくりですよ!!岸、学園でモテモテなんです。
なら!!モテモテですよ!!気づいてないだけで!!
だってこんなに大きくて傷がかっこいい!!強そう!!
男の中の男!素敵ダンディです!!」
フルカスはキョトンとした。
少し耳が紅い。
ニメートルを超える鋼の巨漢が、初な少年のように真っ赤になって、大きな手で後頭部を掻いた。
岸が目を見開いてた。
でも岸も満更でもない顔をして後頭部をかいた。
仕草までソックリだ。
岸はこのお父さんが大好きみたいだ。
「ぶッ………そ?!へぇ。護とそっくりか。
いや。これ………。この感じ。
お前、似てんなあ………。現し世人類ってみんなこうか?」
「現し世人類代表にすると少し悪い子なんですが………」
「いや。お前は現し世では大分《いい子》の部類だよ」
「え………?でも退学、補導は数しれず………」
「あいつの偉業だ。お前のせいじゃない」
岸とこそこそ話しているとフルカスはガハガハと豪快にわらった。
りんと岸の掛け合いが面白いらしい。
「悪い子?!《革命児》は時代が違えば犯罪者だかんなあ。
ちげぇねぇ〜。
おめでとさん。これからも護と仲良くしてやってくれ。
今度うちにも遊び来いや」
「ありがとうございます。是非」
りんは周りを見渡した。
意外と親が来ている子は少ない。
澪も「破り捨てましたよ。参観希望の紙」と言っていたし、アンテと琥珀も「うちの親は遠くにいるからなあ〜」と話していた。
兄が来たらしいナタージャはこそこそテントを抜け出していたし咲は寝ていた。
猿田は執事らしき人と猿田そっくりの小さな男の子を抱えていた。弟だろうか。
りんはオレンジの耳がピクピクしているのを見つけて駆け出した。
「白哉さん!!お母様は?!」
「りん様。ご立派でしたね」
「りんおねぇちゃん〜」
「わ………チビ達連れてきてくれたんですね。ありがとうございます」
白哉は24人のちびっ子達を引き連れて佇んでいた。
ちびっ子達のマシンガンのような賞賛と感動を聞きながら白哉の瞳を見た。
そして耳の傾きを。
彼女も寂しいし心配しているのだ。リリスの不在を。
そのうちチビ達は岸を見付けりんは置いてきぼりになった。
服が血みどろだから抱っこ出来なかったらこれだ。
子供は本当に抱っこしてくれる人が大好きだ。
星がテーブルでお茶を飲んでいた。
「あ。|せい君。一人?
せい君も親御さん待ちかな?」
「ん。僕は便りを出してないから知らないかな」
「そっか。隣にいい?喉渇いちゃったよ〜」
「ん。どうぞ」
お茶を飲みながら隣に座った。
皆が元気に騒いでいる光景をぼうっと見ていたら星が覗き込んできた。
その瞳がすこし期待したキラキラした色をしていた。
まるで。
褒めてほしいような。
「りんは今幸せ?」
りんは小首を傾げた。
考えるまでもなかったのだけど。
「私はずっと幸せだよ?」
「そ。………リリス様元気?」
漆黒の瞳が細まった。
式典に居ないから心配しているのだろうか。
こちらを気遣っているのか少し気遣わしげだ。
「ん………。元気だとは思う。今出張中なんだ。
遠くみたいでもう一週間帰ってないの。寂しいなあ………」
「………寂しい?酷い親でも?」
星が心底信じられないって顔をした。
星の顔に疑念と期待と………困惑の匂いがした。
「ん?酷いかはまだ分からないかな。過保護だし、凄い優しい人だよ。
チビ達のお家用意してくれたし。私も拾ってくれたし。
まだ私。リリスお母様に会って一ヶ月くらいだもん。
現し世いた時期のほうが………」
ガタリ。
星が座っていた椅子が傾いて倒れた。
「あ。せい君。疲れてる?顔色悪いーー」
「君はッ。リリス学園長の養子になってまだ一ヶ月なのか?!」
言っていなかっただろうか。
確かに《養子になるました》なんてわざわざ宣伝して回るものではない。
星は初耳だったみたいだ。
「うん。岸と来たの。一ヶ月前だね」
「以前現し世で………リリス学園長と会って………酷い………目にあったんじゃ………」
星の表情が険しい。
気分が悪いみたいな
「ん?リリスお母様とは一ヶ月前に初めて会ったの。
気づいたら天蓋ベットでねーーー」
「あの………傷は………相当………古い………そんな?」
「せい君?どしたの?傷があるの?養護の先生呼ぼうか?」
星の手が震えだした。
その唇は真っ青だ。
冷や汗がダラダラと垂れている。
これは大丈夫じゃない。
「サチ婆ちゃん!!養護の先生!!先生!!」
「待って。大丈夫。大丈夫だから。僕がどうにかするから」
「大丈夫じゃないのは、せい君だよ?
休も?やっぱり無理させちゃったーーー」
「やめて………。優しくしないで」
「せい君?!」
駆け出していってしまった星を見送っていると、岸と猿田が訳あり顔だ。
「りん。男にはな。
察してほしくない生理的現象があるんだ。薫り。嗅ぐなよ?」
ふッ………と空を見る岸と猿田。呆れ顔のアンテと琥珀。
さらに男達を軽蔑な眼差しをむけるナタージャや咲、澪を見渡した。
「トイレのこと?その分別はあるよ?私でも。
皆のお尻を嗅ぐわけじゃないんだし」
「あんまり朝の男子を嗅ぐなよ?」
「私、なんでも匂い嗅ぐ変質者だと思われてるの?
誤解だよ。
あっちが勝手に私の鼻にくるの。私探してない。ワンちゃんじゃあるまいし」
「がッ………禁欲の生活が始まるのか?!」
「岸。身体を動かすのが一番だぞ。某と狩りをしないか?」
「猿田の《密猟》は朝なのか?!」
「何言う。《密猟》とは夜中だ。朝は朝帰りだ」
「嬉しくない朝帰り………」
「汗臭いのは仕方が無いと思うよ?あと。人間、朝は臭いものだよ。歯磨きしてないとか………朝食の納豆の匂いとか………」
「俺。毎日納豆食う」
「健康にいいね?」
「その優しさが辛いんだよ………」
「優しいのが辛いの?頑張って罵倒………しようか?
ふん!!ふん!めッ………!!」
「それはそれでいいや。かわいいし」
「かわいい」
「あほかわいいな」
「もう、りん様の《ふん》は家宝にしたいです」
「りんッち、ウケるかも。悪口練習させよ♪」
「りん………ちゃん………あんま、怒らないもんね」
思い思いに話す子供達はゲラゲラと笑う。
それを見守る保護者達の視線は生暖かった。
「このクラス。なかなかヤバイな」
「君等勇者パーティーも大差なかったよ」
フルカスとサチ婆が呟いているのをりんは知らなかった。




