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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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エピソードZERO 7.夜の取調室

 「勇者(まこと)!聖女アマリリー!何か忘れてはいないか?!」


 水晶の宮の大広間に轟く声に人々はざわめく。

"水晶の宮"は先の王が建造したというこの国の一二を争うほどの邸宅だ。

そんな大邸宅で開かれた式典はそれこそ類を見ないほどの規模と豪華さを誇る綺羅びやかなものだった。

暫く続いていた混沌とした時代の終わりを祝うのには相応しいものだった。そんな式典が終わり歓談を楽しむ笑い声が響く中。人々の波をかき分けるようにヒッソリと立ち去ろうとしていた二人がいた。

その二人組はクスクス笑っていた。

それはまるでいたずらがバレた子供のような笑い方だった。


 一つため息を吐き笑いながら男は振りかえった。

勇者と呼ばれた男は一見すると普通の男だ。

癖毛の強い黒髪を無理やり後ろになでつけて額当てをしている。柔和な色白の小さな顔は中性的。背が高くなければ女と間違われる顔立ちだ。

勇者と呼ばれるには何とも覇気のない男だ。

装備も草臥れていてボロボロだ。

大広間で祝賀で賑わうお偉方や貴婦人達の中で浮いている。


 それでもそんな男を見る皆の目は尊敬に輝いていた。

誰も男を侮るものなどいない。人々は自然とその男を中心に人垣を開けた。

 

 彼は歴史的偉業を成し遂げたのだから当然だ。


 普段なら侮られがちな優男。

でもその瞳の奥の煌めきだけは歴戦の死闘を勝ち抜いた英傑のそれだった。しかしそれは今は鳴りを潜めている。

人好きする柔和な笑顔で男は隣の女のおでこにキスをしながら肩をすくめた。

 輝く絹糸のような金髪の女は贈られたキスに頬を赤らめた。目元はべールに覆われていて容姿は伺えない。ただ慎ましい立ち姿はありふれていて貧相な白い法衣も神々しく見えるほど美しかった。


「人前なのに………もう!」


 悪い人ねとつぶやきながら男の頬をつつく女の声は鈴を転がしたような可憐な声だ。その声色に広間の人々は色めき立つ。

聖女アマリリーは決して素顔を晒さないことで有名だった。聖女の魔術は治癒に特化したもので治癒を受けたものは天にも昇る心地よい歌声を聴くのみだった。

どんなに乞い願っても素顔を見ることは叶わない。そんな神秘さとミステリアスさが彼女の魅力をさらに底上げしていた。

男はカラカラ笑いながら女の腰を抱く。


「大仕事を終えたんだ。浮かれてしまうのは仕方ないじゃないか」


 轟く声の主は豪華な式典服をはためかせて男に追いついた。その後ろからは無骨な騎士達が連なる。その後ろは長いローブを着た魔術師達。

大所帯が一斉に押しかけてきた。


 息を切らしながらまず勇者の男の前に来たのは、黒真珠の肌色に濃紺の瞳の美男子だ。

銀色の長い髪は汗で頬に張り付いたのを払うだけで周りの乙女が悲鳴を上げるほどの美貌だ。その頭上には幾千もの宝玉を散りばめた王冠が煌めいていた。


「ひどいぞ。いきなり断りもなく発つなどと!」


美男子は怒鳴りつけながら勇者を睨み上げた。

勇者誠はそのヒョロリとした体躯に似合わない大剣を背中から外した。


「悪い悪い。忘れてたよ。これ国宝だったよね」

「ああ?悪いな………。って。違う!!」

「忘れ物これだろ?あ。これか」


勇者誠は今度は懐から輝く丸い鏡を取り出す。


「そうそう。それそれ………って。違う!」

「あれ?あ!これか!」


勇者誠は今度は隣の女のきっちり着込まれた法衣の首元をはだけさせた。そして胸元を弄りだした。

聖女アマリリーはくすぐったがりクスクス笑うが、それを間近で見ていた美男子は顔を真っ赤にした。


「貴様!リリーに何を!!」

「これ?」

 

勇者誠が掲げたのはひび割れた宝玉だった。

その宝玉の変わり果てた様子に来賓の人々がどよめく。


「なんと!」

「やはり魔王はそれほど………」

「それなのに勇者様方が無事だとは………。さすが英雄だ!」


そのざわめきの中でも美男子の顔はますます紅くなる。その額の血管ははち切れそうなほど痙攣している。


「そんな玉も剣も鏡もどうでもいいんだ!

違うんだよ!この王冠(・・)だよ!!

なんで『勇者御一行』の下っ端だった僕が魔皇帝(・・・)なんだよ!!

王様になんかなりたくないよ!!

僕は《研究》したいし冒険したい!!」


 広間のざわめきが静かになった。

皆が耳をすませている。

走って傾いた王冠を自身の頭から毟り取るとそれをふりまわしながら美男子は駄々をこねる。

背後では重厚な法衣を着た老人が青ざめながらハラハラしている。


「国宝の王冠が………」

「王冠拒否………」

「あれ確か神器だよね………?」

「規格外な方々だ………」


広間のあちこちから戸惑いの声が囁かれる中で勇者誠と聖女アマリリーは顔を見合わせニコリと笑い合った。


「「適任だよね」」


勇者誠と聖女アマリリーの声は綺麗にハモったことで大広間は笑いで沸いた。

この一団のじゃれ合いのような騒ぎは日常茶飯事なのだ。



「リリーのために頑張ったんだ!私は!

この王冠のためじゃないんだぞ?!」


子供のように駄々をこねる美男子は頬を膨らませて涙目だ。


「諦めよヴェルミナ。帝王学を学んでいない平民の勇者にはこの世界を統べるのは酷なのはわかるダロ?」


 勇者に投げつける勢いで振りかぶった豪華な王冠を掴む大男が苦笑いを浮かべた。その大男はリリス・ヴェルミナの手からが王冠を取り上げた。筋骨隆々な大男はそれをまたヴェルミナの頭に被せ直す。

フルカスは青みがかった黒髪をオールバックにし後ろに束ねている。筋骨隆々とした身体を白銀の鎧で覆っている。

上背はニメートルは越えそうだ。

端正な風貌に凛々しい眉には引き攣れた傷跡がある。眉間には深く皺が刻まれている。でもその皺が今は目立たない。今は歯を見えるくらい大声で爽やかに笑っていた。背後の騎士達も同調するように笑っている。


「魔王を倒したものが『王』だろ?普通はそうなるんだよ?!それならお前の伴侶のアマリリーは女王になれるのに!!」


「貴方様の目的は|アマリリー様を女王にすること《・・・・・・・・・・・・・》………。ぶれませんね」


今度はため息をつきながら小柄な女がヴェルミナの背後から現れた。そしてヴェルミナの肩を優しく叩きながらも首を横に振っている。

全身をピッタリとしたスーツに身を包んだ眼鏡をかけた女だ。ジウ=フーウェイは白髪をぴっちり結い上げている。洗練された所作で眼鏡をかけ直しながらその表情は鉄仮面のようだ。

言葉はヴェルミナを諌めているのか貶しているのか分かりづらい。


「ヴェルミナ。いつか馬に蹴られて死にますよ。程々になさってください」


「フーウェイ!アマリリーこそ女王に相応しいんだよ!

この勇者は王配で充分だ!惚れた女を最高位に出来ないなんて甲斐性がないとは思わないかい?

寧ろ今から決闘だ!

勇者は魔王には最強かもしれんが対人間にはまだ余地がある!頼む!勝ったらアマリリーは私に任せろ!」


「欲望ダダ漏れダゾ〜」

「愛は強さでは手に入らないぞ〜」

「僕、ヴェルミナと戦うのはヤダな〜」

「リリス。誠が負けたら………私………くすん」

「「「「あ。アマリリー泣かせた」」」」

「ごめんよ〜リリー!」


このヴェルミナの勇者誠への決闘宣言も日常茶飯事だった。

勇者誠と聖女アマリリーは相思相愛で。

それに不満なヴェルミナが勇者に勝負を挑む。

それを笑いながらフルカスがからかったり止めたり。

駄々をこねるヴェルミナをフーウェイが止める。


それは日常だった。

いつまでも続くものだと誰もが疑わなかった。


「ちょっと現し世に里帰りだよ」


誠はヘラリと笑った。

あの間の抜けた笑顔で。


「少しは平和な時代の日本を楽しみたいの」


アマリリーがそっと誠に寄り添い首を傾げた。

その仕草が格別に愛らしかった。


「すぐ帰るよ。ここ幽玄異郷がもう僕の故郷さ」


「二度とかえってくんな!!」


私も連れて行って。

置いていかないで。

何故。

そう言って引き止めなかったのか。



「本当に………帰ってこないなんて。

思わないじゃないの。馬鹿勇者」


勇者は帰らなかった。

聖女も連れて。


幽玄異郷の人は最初は気にしていなかった。

だって最強の勇者と聖女だ。

だれが心配なんてするだろうか。


それでも。

10年経ち。

20年経ち。


50年経ったあたりで誰かが気づいた。


「現し世人類ってさ。


現し世にいると寿命は80年くらいだよ?

誠って何歳だったっけ?

たしか………。「30になると睡眠では疲れが取れないんだよ………」って嘆いてなかったっけ?」


幽玄異郷の民は騒然とした。

勇者が現し世で死ぬ?

あの最強の勇者が?

でも聖女はこちらの幽玄異郷の民だ。


彼女の寿命を考えたら彼女のために幽玄異郷に帰るはず。

勇者は聖女にべた惚れだった。


でも。

平和になった世に《勇者》を民は忘れた。

忘れたのではない。

彼は伝説に。神話に。お伽噺となったのだ。


そして。

彼等が消えて100年が経っていた。



「認めないわ………。認めない。

誠はピンピンしてアホみたいに笑ってるし。

リリーは詩を歌って踊っているわ。  


あの子達は楽しいこと大好きだった。

だから作ったのよ………。

楽しいこといっぱい出来る箱庭。

子ども………に………優しい………怖くない………学校。


ここなら子育て楽しいはず………よ。


どこかにいるのよ。

幸せで………私のこと。忘れてるだけなのよ」


そう呟きながらリリスは涙した。

その涙が取り調べ室の小さな窓から差し込んだ月の光に照らされて淡く輝いた。



「まだ酔っているのですか。リリス様」


「うるさいわね。貴方も飲みなさいよ〜」


アスモが新聞を読みながら呟いた。

今は深夜だ。

取り調べ室とは思えない華美なベットに横たわるリリスは頬を赤く染めて項垂れていた。

その色香は取り調べ官達には猛毒だ。

昼間はどうしても外部の目があり付き添えないアスモだが。

こうして夜間は引き受けていた。

一重に職員の安全のためと、《密談のため》だ。


一見したら大人の時間の《事後》だ。

でも彼女の周りに散らばる支給品の水の空容器が異質さを醸し出している。

相変わらず豪華なフルーツ盛りはある。

これだけは絶えずある。

その瑞々しい葡萄をふっくらした唇で弄びながらリリスはだる絡みしていた。


アスモの顔は虚無である。

彼にとって彼女はただの《偉人》で《同僚》で《共犯者》だから。

尊敬も一応しているし呆れるほどの奔放さに頭を抱えても。やらかす罪はいつも微罪だ。

数多くある前科、前歴。

書類の上でも破天荒なこの女の繊細な所は気の毒には思う。

だが、これにクラクラくる気がしれない。

妻に疑われたら心臓抉り出してでも否定したい。

頭痛を抑える薬が切れてきたのか頭が痛かった。


「あ?!酔ってないわよ?!

この水で酔えると思ってるの?!」


 新聞をめくる音が静かに石壁に響いた。



「まだ。《星見祭》は終わらないみたいですね?」



「あ?あぁ。

あの《形骸化》したクソつまんないイベントね。

つまんない割にガッチガチの《魔術制約込みの規則》で成り立ってるから。

あれ作った人、性格悪いわよ〜。

私すらこねくり回せなくて100年苦労してんのよ〜。

《様式美》《伝統》《安定》って平和なこの時代には確かに必要よ?


でもね………。《教育機関》としては《改革》目覚ましい切磋琢磨は理想なのよ。


難しいわあ………。私まだ99年しか学園長してないの。

《2000年の歴史》の壁は高いわあ………」



「その壁。崩れましたよ 」


「………ん?」


「貴女のお子さんが崩したようです」


「んんん?!まあ?!りんちゃん?!りんちゃんなの?!」


アスモが読む幽玄異郷新聞の《見出し》


一面特集を組まれたその写真には。


血みどろに塗れながら満面の笑顔で仲間達とピースするりんの姿があった。


そこには


《歴史が動いた!!

100年の歴史を変えたのは現し世人類?!

勇者の再来か?!》


《観客は語る。「殺戮の女神を見た」と。

彼女?彼のカリスマは留まるところを知らない》


「《悪い子同盟》と掲げられた大旗が度肝を抜く名シーン」


《レジオン団長、セルクル団長、廃団を表明。

200代続いた団が陥落した。


だが二人の団長の顔に悲しみはなかった》


《勇者候補、「アイリス団」団長の側近にあの《モルガン》の令嬢が?!》


《もう一人の勇者候補。岸 護のモテモテな日常》



「彼ですか。佐藤 りん。貴女が《虐待》したとされる子供は」


「彼女よ。りんちゃん。

一ヶ月前に養子にしたのよ。

急だったから《健康診断》をあの一族に頼めなかったのよね?

あれお互いに負荷があるじゃない?教え子にその一族いたから頼みづらくてね。

追々と思ってたら………。これよ。

私の落ち度だわ。浮かれたの。すごく凄く可愛らしい子なの。


りんちゃんには確かに《長年の虐待痕》がある。

それは事実よ。

《誰が》とか《いつ》とかは。記憶のないりんちゃんには証言は無理なのよ。


万事休すね………」


「証人喚問拒否ですと。

裁判では即日決裁、即日処刑ですが?」


「うん。りんちゃん。逞しい。

私が城と箱庭と屋敷と財産あげたらなんとかなりそうよ。

お母様、安心しちゃったあ………。」


「リリス様は。ご自身が死刑になるよりも。

彼女への問答で《思い出させる事》を恐れていますか?」


「ね?

虐待されていた子供によ。

「気づかなくてごめん。間に合わなくてごめん」って。

謝って傷は癒えるの?身体の傷は多少癒せても心は?

その心が砕けた後だったら?

いくら加害者は魂の輪廻に乗らないし救済はないのだと知っていても。


救えなかった大人も万死に値するとは思わない?


私。私があの子を見つけらんなかった14年でもう死刑が決まった気がするのよ」


「リリス様………」


「ふふふ。100年………。長かった。少し。疲れたのかも」


リリスはまたベッドに横たわった。

その瞳が虚ろになったのにアスモは狼狽えた。

この強者の弱音を聞いてしまった衝撃にアスモ自身が打ちのめされそうになった。


「貴女を。《無敵》と思ってる信者が泣きます」


「あら。いたの?私の信者。あんま聞かないわ。恥ずかしがり屋さんなのね〜」


「………慎ましいと言ってもらいたい」


リリスが少し笑った。

その笑いが静かな石造りの壁に染み入るようで。

昼間の彼女との落差が極まっている。


「ね。私が死んだら。

貴方が、りんちゃん養子にしてくれないかしら?

他の三尊にも頼んであるんだけどね?癖強いのよ。やつら。

貴方私が知る限りでは一番《常識人》じゃない?

あの子すっごいすっごいいい子なのよ」


「………《悪い子同盟》立ち上げたお子さんですよ?」


チラりと新聞を見る。

血まみれの笑顔の少女を。


「あんなの《悪い》うちに、はいらないじゃない?!結果見て?!結果?!」


「教育者なら《過程》を大事にしましょうよ」


溜息をついた後。新聞を閉じた。

カサリとたった音すら反響して聞こえた。


「お断りですよ。うちの《養女》にしたら。

娘の恋は永遠に叶いませんから」


「いけず………」


空のペットボトルがアスモのつま先にカタリと当たった。

それをゴミ箱に捨てながら。

アスモはリリスに振り向いた。


「私は。貴女を諦めてはいません。貴女はまだまだこの世界に必要な方だ」


「え?私、死に様も選べないの?

三尊なんてするもんじゃないわね〜。

やっぱり。

私も勇者についていって………一緒に消えれば良かったんだわ」


リリスはまた水を煽ったのだ。

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