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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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星見祭 14.闘いの終わり


 「記憶が………ない………」


りんは血塗られたブーツと返り血を浴びた制服を見おろして悲鳴を上げそうになった。


この既視感。

あの子(・・・)が出てきたのだ。

血の気が引いた。


今回は誰も庇っていない。

りんが害されたわけではない。

りんが気絶した訳でもなかった。

りんが助けを求めたわけでもない。


ーーー幽玄異郷に来てからはあまり出てこなかったのにな。


飛行訓練の時だってそうだ。

助言はしてくれたし、たぶん助けてくれた。

その時りんは意識がなかったから。


だけど。

りんの意思を急に乗っ取るように出てきたのは久しぶりだった。

前は歌舞伎町で早朝バイトをしてた時だったろうか。

帰ったら服が臭くてゲンナリしたのは覚えている。

繁華街に行くと時折する《ドブ臭い》匂いが苦手だった。

どんなに綺麗そうな場所でもする時はするのだ。


イマイチあの子の出てくるトリガーが予測出来ない。

最後に見たのは。


無惨にも手折られた靴とイーテディ団長の涙。

そこから目の前が黒く昏く(くらく)塗りつぶされた。


ーーーらん。女の子がひどい目にあったと思ったのかな。


確かに酷いとは思った。

彼女はあのリボンを巻いたような純白の靴を日頃から大切そうに履いていたから。

歩いても良いところでも飛んでいるのを見たことがあった。

靴が傷つくのが余程嫌だったのだろう。


「よ。アイリス団長、佐藤 りん様」

「ひッ………」


背後から突然話しかけられてりんは飛び上がった。


「お!戻る時も気絶しないの初めてじゃないか?」

「よ。主役」

「りんさん。身体痛いところないかい?サチ婆が心配してたよ」


岸を筆頭に元気な猿田と星がいた。

お互いに労いあったり小突いたりしている。


「岸!!みんな!私………誰か殺してないよね?!

大丈夫だよね?!」


血溜まりはない。

不思議な事に闘技場のような会場はあっという間に美しいダンスホールのような床の輝きをしていた。

瓦礫もない。


ーーー証拠隠滅………じゃないよね?


さっきまでの激しい闘いの跡がないことが少し薄ら寒かった。

疑似だとしても心臓をかけた闘いをしたにしては和やか過ぎた。

りんの服や靴はバイオレンスなのに会場の空気はお祭り騒ぎだ。


人死があったらこうはならないと思いたい。

思いたいけど。

幽玄異郷の異質さにその可能性も排除出来なくてりんは青ざめた。


それを見て(せい)が気遣わしげに微笑んだ。


「勿論。命は助かったし無事だよ。

彼、獣人の中でも《熊族》だからね。身体の丈夫さは定評がある種族だし。

さっき自分で歩いて救護室行ってたし。

ただ………。

男としての、

機能は………検査しないとかもだけど」


「二回くらいへんな音したもんな………」

「ボコボコの割に元気そうだったが。

去勢された猫のような顔をしていたな………」


 そう話しながら星が制服の上着をりんの肩に被せてくれた。瓦礫や衝撃波で切れてボロボロの部分を隠すように。

返り血も隠せた。

「あ………汚れちゃう」

と、りんは遠慮はした。

だけど。


「ん………。僕二度同じ服は着ないから。気にしないで」


と。嘘かほんとか分からないスマートな返答に黙り込んだ。

確かに育ちの良さそうなお坊ちゃんぽさはある。

りんは信じることにした。


「ほら、拭け………。お。意外と顔に血が跳ねてないな」


と岸に温かい濡れタオルで顔を擦られた。ちょっと雑だ。

猿田はりんのブーツを脱がして新しいブーツに履き替えさせてくれた。予備は白哉から貰ったらしい。

甲斐甲斐しい。


「わ………。皆、ありがと」


「「「いいもの見させて頂きました」」」


「何見たの?!え?なんか怯えてない?

私なにしたの?!」


しみじみと合掌して目を瞑られると謎は深まるばかりだ。

私の中のちがう《わたし》が何をしたのか。

りんが呆けている間に観客向けのほとんどモザイクで処理されたダイジェスト映画上映があったらしい。

 

岸に見ないことをお勧めされた。


合流したナタージャや、澪、咲が艶々した顔で絶賛してくれた傍らで男子達の顔色が悪い。


「あの足捌き!!最高だったよ!

りんっち。今度舞踊やろ?舞踊!!」


ナタージャはダンサーだ。

日々夜な夜なダンスの武者修行をしているらしい。 

その動向も打診された。興味はある。


「りん………ちゃん。芸能………活動………興味ない?

歌声………華………素質………ある」


咲ちゃんは言葉少ないながらも興奮しているみたいだ。

目をキラキラさせてりんの手をずっと振っている。


「りん………様」


澪ちゃんが身体を小さく小さくしながら泣いていた。

りんは笑った。澪を抱きしめて。


「へへへ。澪ちゃん。やったよ。 

記憶ないけど。

まだ一歩だけど。

ステラ・ランキングで勝てば規約変えて、澪ちゃんが魔導騎士団に女子でも入れるようにするよ!!

まだ頑張んないとだし。まだだけど………」


「りん………様………りん様。私、情けなく。

敵前で諦めた私を………お赦しください」


りんは吠えた。

それはそれは大声で。

競技中よりも大きな声で。


「澪ちゃん!?情けなくないの!!

辛い時動けなくなるのが普通なの!!

だから元気な人に助けてもらって頼るのは正しいことなの!!自分を責めちゃ、め!!だよ!」


「う………。りん様………。凄く………かっこよかった」


澪の瞳が刮目した。


「あぁ………。 

何故私はあの場に立たなかったのか………。

己の無知と無力さに打ち拉がれる暇があったらあの団長共の首を掻っ切る勢いで挑めば良かったものをッ………。

みすみす。りん様の勇姿をッ………。

あのカリスマに溢れた姿も可愛らしい童歌も。

特等席で眺め、お助けする栄誉をッ………くそッ」


「あ。いつもの澪ちゃん。お帰りなさい」

「おう、澪はこうじゃないとな」


岸が澪の頭をグリグリと撫で回した。

いつもなら澪は怒り狂う。

でも。


「岸………。貴様にも礼を言う」


「はわわわわッ………!!」

「え?!」


りんと岸が顔を真っ赤にして慄いた。

それは歓喜の顔だった。


「澪ちゃん!!やっと岸とも《大好き同盟》してくれるの?」


興奮するりんに澪は手で制した。

それは澪には珍しい《拒否》だった。


「りん様。礼は言いましたが《大好き同盟》の審査は険しいものです。それはりん様のご命令だとしても従えません」

「え………。岸………ごめんね?」

「待て。俺が振られたみたいだろ。やめろ。

まあ………。礼は受け取るよ」

「貸しだ」

「おうよ」


和やかだ。

平和だ。

だけど。


「ね?なんで皆着替えてるのに私だけこのままなのかな?」


周りを見渡したら皆のほうがキョトンとしている。

おかしい事を言っただろうか。 

だって。 

岸も猿田も星も。

さっぱりした顔で制服が新しい。


「あ〜。あのさ。りんが無双状態で血だらけのままスレア団長引き摺りながら時間制限終了と共に拳を上げたんだよ」


「あ〜。あの子しそう」


「勝敗は気にしてないのか?」


「あ………。ごめん。あの子が負けるイメージなくて」

「わかる」


「その血みどろホラーなあの子と、私の今の血みどろ服のままとなんの関係が?」


「それはわたくし達が説明します」

「やあ、待たせたな」


声がしたほうを振り返り皆が口が閉じられないほど驚いている。

スレア団長とイーテディ団長が手を繋ぎながらこちらに歩いてきたから。

スレア団長は裸足で。

イーテディ団長は彼の軍靴を履いている。

そして二人の周りには満開の花畑の妖精も恥じらうほどの甘やかな笑顔だった。


「わあ!!やっと二人は《仲良し》に戻りましたね?!」


「「「「「え」」」」」


りんは大はしゃぎでぴょんぴょん跳ねながら二人を祝福した。

団長二人はまるで新婚が結婚報告をするような初々しさと恥じらいと喜びに頬は赤らみ幸せに満ち満ちていた。


「まあ………。やっぱり気づいてらしたの?」

「君はそういった事に興味のない《性自認無》だと思っていたが?」


「だって!!

初めてお会いした時。

お二人からお互いの匂いが濃厚に香ってましたもの!!」


「「え」」


二人は赤面した。

今更だ。

こっちが恥ずかしいのに見せつけてきて恥じらうって。

情緒は大丈夫だろうか。


「私、凄くすごく鼻が利くんです。

口では悪態ついてる不仲な体育教師と保健室のマドンナとか。

クラスでは一切話さない不良と学級委員長とか。

さっき告白成功しましたってラブラブしているカップルとか。

それはもう濃厚で甘いお互いの匂いが合わさった香水みたいな………。あ。たしか麝香(じゃこう)のような薫りが………」


「待て待て待て待て………ストップストップストップ!!」


何故か必死のレッドカードが岸と星から突きつけられた。 

二人は真っ赤だ。

猿田はニヤリと笑う。

ナタージャは咲を抱え込んで耳を塞ぎ。

澪はりんと同じでわからなそうな顔をしてた。


「意味分かってるのか?!」

「濃厚って………君!!経験あるの?!」


「え。だから。《ハグしてキス》するくらい仲良しなんだよね?

友達同士の子には薫らないもん。

友達と恋人の違いは《キス》するかだよね?」


ピシリと空気が固まった。

何やら皆の目が泳いでいる。

それは困惑と迷いの匂いがした。


「まあ………!!なんて初々しい子猫ちゃんなの?!」


イーテディが頬を薔薇色に染めてりんの頬を包み込んだ。

空色の瞳が潤んでいる。


「貴女の純真なその心。精神。

だからこそあの《強者》を憑依させ具現しているのね………。

あぁ♥この可愛らしい貴女をゆっくりゆっくり教え込んで立派なレディーにーーー」

「待て………イーテ。こらこら。よそ見しないでくれないか」

「まあ………。ス〜君。

だめよ。まだ式典を締めないとだもの。

もう…………。そんな子熊さんみたいな瞳しないで?食べちゃいたくなるわ………」

「イーテ………。君にならたべーーー」


「待て待て待て待て待て待て。

ほんとに人格変わるな?!

さっきまでいがみ合ってたんだろ?!

威厳は?誇りは?

100年続いた二つの組織の団長としての見栄は?!」


「そんなもの。愛の前では無力だ」

「えぇ。愛の前では皆が平等よ」


「変わりすぎかよ………」


岸は天を仰いでいる。

イチャイチャするカップルに物申すのは体力を使うらしい。

ゲンナリしている。


「りん様は《花火師(はなのかおりみるもの)》なんですね」

「すご」

「レアな特性だ」

「花火師?」


岸は知らないみたいだ。

そう言えばサチ婆の説明を岸は聞いていなかった。


「花火師》ハナビシね。

鼻が特別効いてる子のことだって。

遠くの花が咲き誇り爆ぜり散る香りまで嗅ぎ当てる。

まるで香りを見たかのように感じるもののことだよ。

だからか………。

りんが見てもいないのに攻撃避ける時あるだろ?

あれ。

たぶん《闘気》の匂いを感じてるんだ。

《魔素》の匂いもわかるんじゃないかな?」


いつの間にか琥珀の声がした。

琥珀とアンテが合流したのだ。

心なしか顔色が悪い。

やっぱり男子には辛いイベントだったみたいだ。


「あ………。《怖い!!》とか《ヒヤリ!》とか《気持ち悪い!》って匂いが危険な薫りかな。

そうかも。薫りがね。頭に情景を映すの。


スレア団長とイーテディ団長の甘い匂いはね。

花畑で熊さんと妖精さんが蜂蜜食べさせッコしてるのが浮かぶの!!」


「本人の想像力に引っ張られるんだな」

「このまま健やかでいてほしい」

「わかる」


「こらこら。主役達よ。

進行が押してるよ。

早く舞台の際に待機して」


「ガンザ先輩!!」


りんが叫んだ瞬間、岸と猿田と星がガンザ先輩を担ぎ上げた。


「参謀万歳!!」

「闇の支配者万歳!!」

「腹黒裏切り者キャラの親切な先輩万歳!!」


「勝てたのはガンザ先輩のお陰だよね!!

ありがとうございます!!ガンザ先輩!!」


「やめろ!!こら。そのまま移動するな!!」



皆が笑った。

式典は終わりを迎えようとしていた。

会場中が穏やかな、でもワクワクするようなスパイシーな薫りに満ちていた。


ーーーこれは「がんばったね」の香りだ。


そう幸せに包まれながら移動する。

そこで。

はたと気づいた。

空気を読んで言葉に出来なかったけど。



ーーーあれ?

その血みどろホラーなあの子と、私の今の血みどろ服のままとなんの関係があるんだっけ?

まあ。いっか。


りんはクスりと笑って皆と移動したのだった。

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