星見祭 12.鬼はこちら
「鬼さんこちら♪鈴鳴るほうへ♪」
りんは跳ねながら、鈴を鳴らす。
「「「鬼さんこちら♪鈴鳴るほうへ」」」
背後で低いどすの効いた声がそこに追随した。
「鬼さんこちら♪手の鳴る方へ」
りんがよく通るアルトで声掛けすると、野太い声が復唱する。
岸と、猿田、星は悪人顔で手拍子している。
子供に対してやったらただの虐めだ。
「「「鬼さんこちら♪俺等のほうへ」」」
りんは手をパンパパン、パンパパンと大ぶりに鳴らした。
それに合わせて歌をうたう。
これは《煽る》歌だ。
現し世でもこの歌で鬼役の子供の心を砕く行為だ。
大きいお兄さんが幼子にしたらゲンコツ物である。
「ほう。音による《撹乱》か」
「ふん。小賢しい」
腕を組み余裕の笑みを口に称えていたレジオン団長スルトは長めの黒い鉢巻を自らに縛る。
ステッキを回し呟いたセルクル団長イーテディは変身をするように純白の鉢巻きを花に添えるラッピングの様に己の目を塞ぐ。
「さあ。両者準備はよろしいでしょうか。
カウントダウンを開始します。
制限時間は一時間です。両者健闘を祈ります」
実況の空隙教諭のアナウンスと共にモニターにはカウントダウンが表示された。
観客も叫んだ。
「「5」」
「「4」」
「「3」」
「「2」」
「「「「「「1」」」」」」
「「「「「「ぜ………ろ………」」」」」」
「「エトワール・サシュ」」
轟音と共にそれは光った。
白い光の閃光が光り焦げ臭い匂いが頬をかすった。
その瞬間に見えたのは金色の瞳孔ガンギマリの瞳。
鼻先に迫った拳。
りんの喉から「ひゅッ」と息が漏れ出した。
チリン。
足元の鈴が鳴った。
ズドーーーーーーーーーーン。
「ぐッッ………」
猿田が腕を交差して踏ん張り、岸がその背後を背中合わせで受け止めていた。
猿田と岸の足元にはあまりの衝撃にクレーターが出来ていた。
瓦礫と砂埃で一瞬なにが起こったか分からなかったからほぼ反射だった。
りんは間一髪飛び退いた先の星の手を掴み上空にいた。
ぶら下がりながらも頬からは汗が滴った。
轟音と共に衝撃波が空間に爆ぜた。
まるで爆発のようだった。
「む。止めたか。音速は超えたはずだったんだがな」
「光のほうが早いに決まってますわ」
スレア団長が感心したように呟きイーテディ団長は毒づいた。
星の右腕は光の光線に撃ち抜かれ。
猿田の両腕の風船は二つ弾け跳んでいた。
岸の両脚の風船は踏ん張った衝撃で割れていた。
「みんな!!大丈夫?!」
「ぐッ………止めたぞ!!」
「やべぇな………衝撃だけでこれか………」
「掠っちゃったな………ごめん」
猿田と岸は笑いながらも唸る。
星は悔しげに苦笑いした。
大きな怪我はしてないけど一撃でこれだ。
アイリス側の観客からはブーイングが起こる。
ナタージャと澪が叫び咲が花を投げている。
非難轟々だ。
フライングだと。
そこへモニターが巨大化した。
カウントダウンのストップウォッチの表示はコンマ二桁まで0だった。
「囀るな。反則ではない。
目に入った情報と音。光で貴様らの《情報処理能力》が低下しただけだ。
団長達の掛け声と動作はコンマ3桁まで正確だ。
続行だ。
猿田2、岸2、星1。風船消失だ。以上」
冷やかながら厳格な声がした。
実況には真神教諭がいる。金縁の眼鏡を抑え鋭い視線で見下ろしている。
背景は真っ白でそこに空隙教諭も手を振って映っていた。
「担任なら味方しなさいよ!!くそ眼鏡教諭!!!」
ナタージャの叫びが木霊した。
それを一瞥して真神教諭は再びマイクを傾けた。
「続行!!」
「「エトワール・サシュ!!」」
「「エトワール・サシュ!!」」
真神教諭の掛け声が死神の招き声に聞こえた。
団長二人の掛け声の音を置き去りに打撃は走り、光線が降り注ぐ。
ヒヤリとした寒気と共に甘美な殺気をはらむ闘志が香る。
光線はさながら甘い匂いの中に香ばしい熱源だった。
りんの制服の端が焦げた。
りんは跳ねて跳んで、仰け反った。
チリン♪チリン♪と鈴が鳴るたびに相手の攻撃も軌道修正される。
なるべく体力を使わないように広範囲に逃げないようにした。
その合間を縫うように猿田が拳を奮い、岸が鉢巻きを狙う。
上空から星は手拍子をしながら時折りんを拾う。
拳で風船を攻撃するスレア団長、遠距離攻撃するイーテディ団長。
避けるりん、スレア団長を止める岸と猿田。
上空でフォローする星。
そのフォーメーションが固定されつつあった。
「すげ………」
「もう三十分は経ったぞ」
「もしかするともしかするのか………?」
その拮抗が崩れたのは残り20分程だった。
「きゃッ………」
「ぐッ………?!イーテディ?!」
「くッ………あ………翅が………」
「イーテディ!どうした」
スレア団長が振り向くとそこには。
翅がボロボロになり上空にいられなくなったイーテディの姿だった。
彼女はふらふらと地面に降りた。
彼女の履くピンヒールが虚しくコツン………と鳴った。
それは一人の団長の陥落のはじまりの音だった。
スレア団長が振り向く隙をついて岸が飛びついた。
スレスレの所で団長の鉢巻は取れなかったがスレア団長の気はそぞろだ。
「イーテディ!!無理をするな!!」
「うるさい!!私は飛ばなくても攻撃出来るわ!!」
団長二人が叫び合う。
観客は気づかないほどの綻び。
土煙に隠された策略。
「よし!!嵌った!!」
ガンザが一人指を鳴らす。
上空の薄く張った膜を外から見上げた。
ガンザは中には入れない。
遮断された闘技場には戦士のみ。
指示を出すための魔道具は通じない。
なんとか星とりんに伝えられるだけは伝えた。
あのチー厶のあたまさはあの二人だ。
そこは信頼した。
ーーー信頼?僕もなかなかだな。裏の参謀は駒使いだ。権力者も駒。情は無用と思ってたのにな。
闘技場の舞台には薄く膜が張ってある。
教諭がかけた《絶対防御》の魔術のバリアだ。
観客に被害が出ないようにと、逃亡防止。
この競技に場外もない。降参もない。
それと。
《飛行を得意とする者》の推進力を削ぐものだ。
天高く雲までの上空まで逃げたらそれは反則級だ。
そこから降り注ぐ魔術も。
それらを削ぐためのもの。
それは逃げる側のりん達にも不利だ。
飛ぶ種族の星がいるし、飛び跳ね避けた先にバリアがあると背後が壁になる。
袋小路になるのだ。
そこを。
ガンザは逆手にとった。
会場は瓦礫だらけだった。
血気盛んなスレア団長が破壊したからだ。
猿田と岸が破壊した分もある。
もう観客から見たら立ち込める砂埃と瓦礫が火花を飛ばすようにバリアに当たるのが視認できるほどに。
内部にいる監視カメラの人造魔獣も衝撃波や瓦礫で何台か昏倒している。
そのくらいの破壊の凄まじさだ。スレア団長は強い。
そこは揺らがない。
剣も使わずあの威力なのだ。
それでも彼は本気ではない。
その力にも《制約》がある。
そうでもしなければ新入生などミンチだ。
そういうバリアが張ってある。
その衝撃波の火花は勿論バリアが吸収しない。
バリア内で反射するのだ。
現にイーテディの光の魔術の攻撃もその反射を最大限に利用していた。
角度を調整し目隠しされた中全方向から光線が降り注ぐようにしていた。
その《跳弾》とも取れるバリアの機能をこちらも利用しただけのこと。
「妖精族の翅には《痛覚》はないんだ。
何故ならあの種族の翅は《生え替わる》のが前提。
動く神経と痛みの神経が別なんだ。
魔素を込めた瓦礫が翅に当たり続けたらどうなると思う。
当たり続けるように《上空からフォロー》したとしたら」
「《アナだらけになるまで気付かない》」
ガンザが一人ニヤケていることを知っているのはモニターで見ていた教諭くらいなものだった。




