星見祭 11.鬼さんこちら
かつて幽霊族は人類と共に寄り添うように生きる種族であった。
今でこそ《妖怪族》の仲間と知られている彼等だが人類は《幽霊》と《幽霊族》の違いが分からなかったのだ。
見た目は似ているからだ。
透けている。そこだけ。
確かに亡霊は悪霊化したり人類に害を成した。
ただ幽霊族は人類には害はなかった。
似ていた。
ただそれだけのこと。
稀に幽霊族を視認できる人類がいるとその幽霊族を滅ぼそうとしたり除霊したりしようとする。
ある日幽霊族は人類と恋に落ちた。
人類は幽霊族と共にいたかった。
幽霊族も人類といたかっただけだ。
ただ幽霊族は人類の死んだ恋人に似すぎていた。
人類の周囲は疑い出した。
かつて死んだ恋人が人類に取り憑き殺そうとしていると。
人類はある日除霊師に唆されて幽霊族の心臓を一突きした。
それが本物の心臓(命)だとは知らず、偽物の執着を断ち切る儀式だと思い込んでいたのだ。
幽霊族の心臓は風船のように胸の位置に透けて見えるものだった。
幽霊族は死んだ。
幽霊族はただ生まれつき透明だっただけだ。
実体のある命だった。
その透明な心臓は悲しい悲鳴と共に透明の血を流した。
人類は未だその間違えに気づいていない。
勿論。
人類を罰する法はなかった。
幽霊族の家族は嘆き悲しんだ。
この悲劇が二度とないように神に祈った。
神は言ったのだ。
「この出来事を童子の遊びにして後世まで語り継がせよう」と。
そして産まれたのが。
《風船割れたら負け★どきどき鬼ごっこ》である。
「いやいやいや。不謹慎にも程があるだろうよ………」
「人類って怖いね………。同じ人類として居た堪れないよ」
岸とりんがどん引いているけど猿田や星は特に気にしていないみたいだ。
「俺等はお馴染みな話だもんな」
「小さい子も真似してるもんね」
巨大なシアターのようにモニターに流れた絵物語。
音声は空隙教諭だった。
スレア団長とイーテディ団長は先程の会場の混乱を制してマイクを握っていた。
団員達も動揺を収めたみたいだ。
「これで団長が勝てば………」
「俺等の団長は最強なんだ。多少の不自由がなんだ」
「団長………。あの野蛮の民を懲らしめてくださいませ」
「私達の団長の存在を否定されてなるものですか!」
口々にお互いを鼓舞している。
「そうだよな。いくら凄いこと言ってもさ………」
「あぁ。結局」
「無理ゲーなのはかわらないんだよな」
「りん様………お労しいわ………」
「いや。面白いよ。俺あいつら応援したい!!」
「でも」
「「あの二人超えないとなんだよな」」
観客も固唾を呑んでいる。
先程混乱もあったが結局のところ。
《渇望》を叶えるのは勝者のみなのだ。
「レジオン、レジオン、レジオン!」
「セルクル!セルクル!セルクル!」
「アイリス!アイリス!アイリス!」
会場は二分されていた空気が一変した。
歓声と声援は三つ巴となった。
「アイリス!アイリス!アイリス!」
ナタージャがいつの間にか観客達の前で踊っていた。応援を鼓舞する踊りだ。
咲ちゃんが魔術で作った色とりどりの花を配っている。
そこは虹色の花畑みたいになっていた。
澪は観客席から視線と覇気だけメンチをきっている。
周囲のレジオンやセルクル派による野次を瞬殺している。
岸、猿田、星も威圧を魔素に乗せるように佇んでいた。
その熱気がりんの背中を温めてくれていた。
優しい熱に背中を押された気がした。
ーーーあぁ。やっぱり。私一人だったら。
絶対この舞台に立てなかった。
りんは一人ではないのだ。
我等、雷クラスも一致団結していた。それとガンザ先輩も。
そのりん達を二人の団長は真剣に見つめていた。
その瞳には嘲りも驕りもなかった。
「この幽玄異郷では一番過酷な鬼ごっことされている」
「風船は《乙女の心》を現してますの」
ルール説明がモニターに表示された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
風船割れたら負け★どきどき鬼ごっこのルール。
選手は身体に五ヶ所風船を付ける。
その全てが鬼に割られたらゲームオーバー。
心臓の部分は一発ゲームオーバーである。
鬼は目隠しをする。
一番得点が高い選手は《鈴》が付けられる。
なお。
選手が鬼の鉢巻きを奪えば、即試合終了である。
逃げるか挑むかは選手次第である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ま。幽霊族は心臓が5個あるから死ななかったらしい。
因みに。幽霊族の生徒や一族がスポンサーだから侮辱ではないのさ。このイベントを行うことこそ追悼になる」
「えぇ。死んだのは彼女の恋心ですのよ。命を落とさずとも。痛ましい歴史だわ」
団長二人が現し世人類のりんや岸のために補足してくれた。
会場の皆は知っているお伽噺なんだそうだ。
いや。ノンフィクションだと言う。
話の逸話にあがった幽霊族は命こそ助かったことに安堵した。
それでも彼女の子孫はそれ以降後遺症を抱えたみたいだ。
心を殺されたことは子々孫々まで受け継がれてしまったのだ。
ーーー好きな人に殺される。
それが悪い事かも相手はわからない。寧ろ彼女の魂を救ったとも思っているかも。
虚しい話だね。
りんがつい思いを馳せてしまっているどんどん準備は進んでいた。
りん達を改めて飾り立てるのは淑女サークルのお姉様方だ。
淑女サークルのお姉様に先程の(せっかく飾ってくれた装飾品外して式典服を特攻服に改造したことの)無礼を謝りながらまた飾り付けられている。
外した花飾りやリボンはポッケに入れて大切にしようとしたのを見つけ出されてしまった。
意外そうにされた。
捨てたと思われていたらしい。
「記念に押し花にするつもりです。皆様からの贈り物ですもの。大切にします」と言ったら何故か泣き出してしまう。
「うわ。無自覚人たらしめ」
岸も胸ポケットに花を飾られながらゲンナリしていた。
岸達男子は虹色の長いリボンを鉢巻き風にして飾られていた。
「弱肉強食」「悪食」「暗殺者」「喧嘩上等」鉢巻はというと。
燃やされてしまった。
花を倍増されてしまった。もうりんの髪の毛は花の妖精のようだった。
色とりどりで贅沢な仕上がりだ。
特攻服はそのままに。
なにやら「オシャレ総長改★虹色の花の王子様」コーデだと命名されて彼女達は満足げに観客席に帰っていった。
「だから風船五個なんだね」
りんは自分の体を見下ろす。
風船と呼ぶには生々しい《心臓》の形をしたものが両肘、両膝、胸に張り付いている。
触るとぷにぷにしているし脈動していた。どんな魔術なんだろうか。
凄くリアルで不気味な仕上がりになっている。
遠目で見ればハートの風船に見えなくもない。
脈動しているけど。
りんは黒と白のツートン。
岸、猿田、星は黒色一色だった。
「そして………鈴は」
「私だね」
りんの脚には鈴のアンクレットが巻かれている。
両足にである。
少し身じろぐだけでそれは「チリン♪」と軽やかな音色をはなっている。
今はそれが死神を呼び込む音色に聞こえる。
「心臓の色には意味があります。
レジオンに狙われるのは黒。
セルクルに狙われるのは白になります。
仲間と協力して攻略することをオススメしますわ」
団長二人もそれぞれ身支度を整えたらしい。
式典服を軽装備に変えていた。
レジオン団長スレアは大きなマントを放おった。
それを団員が嬉しそうに回収する。
イーテディ団長は妖精の杖を思わせるステッキを団員から渡されていた。
その団員の肩に手を置いている。
その団員は震えて泣いていた。言葉から察するにあまりの名誉による嬉し泣きらしい。
「お。俺と猿田と星はレジオン団長と、さしか」
「りんはセルクルを倒すことに集中。これは確かに勝ち筋あるかもしれんな。どっちか生き残れば勝ちだろ?」
岸と猿田が盛り上がる中。
星とりんは黙り込んでしまった。
「違う………」
「そうだね。そんな楽なわけない」
星の深刻そうな声色に笑っていた岸と猿田が止まった。
りんも顎に手をやり首を傾げた。
「りんさんは団長二人を相手しなきゃなんだ。
男と女分けて時間差競技するつもりなら、心臓を二色にしない。色を付け替えるだろうね。男の部、女の部ってね。
ルールにも《男女別に行う》とはない。
ないってことはそこに《余白》がある。
毎年男女が別れる競技だ。
そもそも本来記載する必要がなかったのを逆手に取られたな………。
だから」
「私………。逃げれば逃げるほど音が鳴るのに。どうしようかな。囮の動作かあ………。
ただ逃げ回るだけじゃダメそうだよね………。皆は強いから庇わなくていいだろうけど。
う………ん。皆の邪魔しないで立ち回れるかーー」
「俺等が守ればいいんだろ?」
「某達が守れば良いのだろ?」
岸と猿田二人の声が重なって空気が止まった。
りんがポカンとしている間に星が吹き出した。
「そうなんだよ。くッ………くふふ。
それを今説明してお願いしようと思ってたのに。
先に言われちゃったな」
星が腹を抱えて笑う所を初めて見たかもしれない。
「うん。僕等で守ろう。あわよくば攻撃で。
りんさんも無理ないように動か回ろう。
疲れて転んでも蹲っても守るよ」
「空にも回避出来るよ。僕ならね」と星はウィンクした。
空からのリンリン攻撃。
確かに攪乱できそうだ。
「それじゃあ〜まだ甘々ですね。IRIS団の諸君」
背後から湧いてでた声に皆が一斉に振り返る。
そこにいたのはガンザ先輩だった。
「あ。裏切り者キャラだ」
「腹黒眼鏡」
「いや。今は眼鏡してないからただの陰湿腹黒だよ」
「ガンザ先輩!!さっきはありがとうございました!
助かりました!やっぱり先輩に頼んで良かったです!」
辛辣な男達を置いてりんはガンザを見上げた。
打ち合わせの時間は短かった。
なのにりんが予想した以上のサポートをしてくれたのだ。
感謝しかない。
「なに。
君とは入学式に《規約談義》した仲だからね。
僕よりも規約を読み込んでいる奇人はなかなかだよ。
りん君と話すと知識と知的は別なのだと思い知った。
君はアホの子だからね。アドバイスするよ」
「わあ………!!ありがとうございます! えへへ。褒めても飴ちゃんしかあげませんよ?」
「褒めてはいないよ」
「え〜?先輩は話をしてくれるだけで「認めてくれた」って感じるんですよね。だから。
話しかけてくれてありがとうございます」
りんがクスクス笑うとガンザ先輩は半笑いだ。
呆れ顔なのに笑っている。
そのほうが彼らしい気がした。
「ふん………。君には負けるよ」
それらを岸達は後ろから眺めていた。
「うわあ………。嫌味が通じない系無双だわ」
「あの先輩。りんさん好きなの?馬鹿にしてるのどっちなの」
「某の勘だと、「好きな子いじめるタイプ」の男だな」
「「「変なのホイホイか」」」
ガンザ先輩はコソコソ話す男達を顎で招集した。
そこは黙って従っていた。
粋がっているようでりん達雷クラスは礼儀正しいのだ。
しっかりお辞儀しながら合流する男達にりんはニコニコだ。
「彼女はセルクル唯一の標的なんです。
そこの《盲点》を上手くつければ必ず綻びが出ます。
レジオンとセルクルでは立ち回りが変わるんですよ。
《二人の団長に狙われる》それはこちらの不利に見えて。
実はセルクルの不利にもなります。
僕の見立てだと。
セルクルが崩れれば。レジオンも崩れます」
「あ!」
「そうか………。なんでわからなかったんだ!」
叫ぶりんと悔しがる星。
それを見て首を傾げる岸と猿田に「これだから脳筋は」とガンザ先輩が吐き捨てるけど。
その後円陣を組むと懇切丁寧に教えてくれた。
優しい先輩である。
「君等が負けると僕の「悪の参謀」の《野望》が潰えます。
期待してますよ」
ニヒルに笑うガンザ先輩の目が金色の猛禽類の鋭さで睨んでいる。
そこに信頼と畏怖を感じながらりんは頷き笑った。
「はい!!わるいこ。遂行してきます!!」
りん達は舞台に上がった。
そこにはスポットライトに照らされた巨星が待ち受けていた。
「やるか。超新星」
「ふ………。野望の前に跪かせてあげますわ」
りんはニヤリと笑った。
「さあ。鬼さんこちら。ですよ」
ビリビリする二人の団長の威圧を受けてもりんは怖さを感じなかった。




