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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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エピソードZERO 上空の取調室

 《渡る世間に鬼はなし》


これは現し世にある(ことわざ)だ。

《鬼》とは冷酷で人情のない人を指す。

世の中悪い人ばかりではない。

外には優しい人がいっぱいいるよ。


そんな諺だ。


現し世人類の中で本当に《鬼》がいると思って使っている人はあまりいないだろう。

鬼嫁や、鬼上司、鬼ばあば。

人は自分の気分を害してくる存在に簡単に《鬼》を使う。

《鬼》とは人の潜在的な《悪》を定義したものだから。


これに怒り狂ったのは《鬼族》である。

確かに彼等が祖はかつて現し世にいた。


《桃太郎》しかり《酒呑童子》しかり。

日本の童話、神話には鬼退治が数多く存在する。


するとどうだろうか。

現し世での鬼は絶滅したのである。

鬼にとって。

《渡る世間に鬼はなし》は民族的虐殺の歴史を表すものなのだ。


彼等は語る。

確かに人類を食べたり侵し、甚振り(いたぶり)

暴虐の限りを尽くした。


しかし。なら人類はどうだろうか。

鬼は同族殺しは死罪である。

人類は同じ民族同士でも殺し合いをする。

他民族ならもっと残虐だ。


日本では先の大戦で400万近く亡くなった。

そんな大戦を行った国同士と同盟関係にある。


人類は人類には優しいのに。

異形のものは皆殺しにかかる。


本当の鬼は人類なのである。と。 

鬼族は語った。それはそれは幽玄異郷の民の憐憫を誘った。


ではそれでは困った。

幽玄異郷でこの諺は使えない。


ならどうするか。

《鬼》を《悪》と書き換えたのだ。


これに《悪魔族》が反発するかと思われた。

だが彼等は沈黙を守った。

彼等は語る。


《悪魔》は人類を《悪》に誘うもの。

諺になるのは寧ろ誉れである。と。


ただ。

《悪》と《悪魔族》は分けるようになった。

そこの語源は大事だ。


《悪》とは《誰から見て》なのかで変わるからだ。


神から見たら悪魔族は人類を堕落させた《悪》であるし、

人類からすると神の呪縛から解き放たれ知恵も授け、対価はあるものの《望み》も叶える悪魔族は寧ろ《天使》とも《神》とも呼ばれることもあるのだから。


《渡る世間は悪ばかり》の諺の語源である。


これが。


 渡る世間は悪ばかり。その悪を執官する。

渡悪執官所(わからせや)の命名起源である。


「わからない所はありますか〜」


 ホワイトボードに図解付きで授業をしていたオレンジの虎獣人執事白哉は、目の前の子供達を見渡した。


「わからない所がわかりません〜」

「素直でよろしい」


発言した幼子の頭を撫で回してクッキーを渡す。


「まとめると。渡悪執官の《おまわりさん》が来たら、

「私達は誘拐されていません。

いつも健やかに幸せに暮らしています」と言いましょう!

さんはい」


「「しあわせで〜す」」


「よろしい」


真顔でパチパチと拍手しながら白哉は子供達にお菓子を配る。

「わいろ?」

「ご褒美と言いなさい」

「わいろなくても、しあわせだよ?」

「ご褒美だから安心して食べちゃいなさい」

「しょうこいんめつ〜」

「ささ、お腹に隠しちゃいましょうね」

「いんぺい、いんとく〜」

「その言葉のセンス。りん様の教育の賜物ですね………」


白哉はため息交じりに窓の外の空を見上げた。

紫色の空は抜けるように美しい。

主はこの空の遙か彼方にいるのだ。


白哉はピクリと動くオレンジの耳を子供達に撫でられながら、尻尾でも子供達をお手玉のように飛ばして相手をする。


「リリス様。二日酔いになっていないと良いのですが………」


白哉の心配は見事的中していたことを彼女は知らない。



 一方その頃。

白哉が見上げていた空の遙か上空の雲の上のさらに上。

そこに浮かんでいる建造物。

その内部では慌ただしく職員が行き来する廊下に緊張が走っていた。

彼等の上官が訪れたからだ。


「アスモ官長お疲れ様であります!」


廊下に整列する職員に「ご苦労」と声を掛けながらネクタイを締め直しながら忙しなくも闊歩する男がいた。


「あの方は」


「絶賛取り調べ中であります」


「まだ自供はしないか………」


受け渡された資料を一瞥しながら溢れた言葉は重々しい空気を震わせた。

決して荒々しい物言いではなかった。

けれど低く静かに染み入るような声色は自然と耳を傾けたくなる力があった。


沈黙が流れた。

アスモはおしゃべりな質ではない。

部下もそれは心得ている。

ここで場を和まそうとおちゃらける部下は誰もいなかった。


でもその静けさがいつもと違うのは感じていた。


「あの方のことだ。一筋縄ではいかないだろう。

なんせ。三尊(さんそん)なのだから………」


アスモが呟くと背後に控えた20を超える部下が一斉にピリついた。角や尾が期待に打ち震え、一斉に空気が凍りついた。


《三尊》。

この幽玄異郷において魔王、勇者、王がいない今。

もっとも《王》に近いのが《三尊》である。

三人からなる偉大なるものがこの幽玄異郷を支えている。

弱肉強食のヒエラルキーのトップクラスの強者の側にいるのが《三尊》である。


だからこそ。

 

「三尊すら取り調べるアスモ官長かっこいいな………」

「権力に屈しない。さすがは我等の官長だな………」

「くうッ………。痺れるなぁ。アスモ官長。

あの方はいつ見ても完璧だ………」


アスモは腰まで長い青い髪を一括りにした美丈夫だ。

190センチの身長はこの幽玄異郷では普通の部類だが、彼の立ち姿と肩書が彼の存在を大きく見せていた。


 渡悪執官所は幽玄異郷の上空にある。

地上よりも宇宙のほうが近いのではないかと思う程の上空だ。


普通の幽玄異郷住民にとっては立地だけでも恐怖の対象だ。

移送される時は特別な空飛ぶ馬車が必要であるし、生身で逃亡出来るものがどれ程いるだろうか。


その数少ない生身でも逃亡出来る者が大人しくここに一週間も留まっているのだ。


「マジックミラールームにあの方が先にいらっしゃいます」

「聞いている」


 重厚な扉を開いた先。

音が遮断された一室を映し出された広い窓。

そこに映し出された取り調べ室は。


 《酒盛り場》だった。


正確に言うとそこは《オカマバー》の様相だった。

音声をオフにしていてもわかる取調官を巻き込んだダル絡み酒。

転げ落ちているのは高級品の酒ならまだ納得出来る。

だがそこに転がるのは支給品の水だ。

机にあるのは豪華なフルーツ盛り。

勿論取り調べ室に出前機能はない。 

持ち込みか差し入れだろう。


何故かあるスポットライトを浴びながら羽扇を振り回す美女。

三尊、リリス・ヴェルミナは頬を赤らめ妖艶なまでの色香を放ちながら踊り狂っていた。


取り調べ官達は酩酊していない。


どんな強面の鬼族や悪魔族ですら締め上げ自供を促す手練ればかりを配属した。


いないはずなのに。

まるでマタタビを鼻先でぶら下げられた猫のようだった。

牙が鋭く笑っているのに強面に見えると定評の彼はリリスの足場になっているし、無表情で有名な彼は大笑いで水をがぶ飲みしてぶったおれている。

話術に優れている彼は………。


「音声をオンにしろ」

「ッ…はい」


そこから聞こえたのは。


「ソラソドソラソ♫調べはアマリリス」

「君は俺のエンジェル。それで君は天然♫」

「そ〜それそれ言っちゃって〜」

「君のハートに」


「「「「アマリリス〜」」」」


奇っ怪な調べの合いの手付きコールを叫んでいる。

正気の沙汰ではない。


「この部屋の反魔術回路を切られたのか」

「正常であります」

「素のカリスマだけでこれなのか………」


それはまさしく《強者》の独壇場だった。


部下の手前表情をかえることの出来ないアスモは内心叫びたいのをぐっと我慢した。

部下に人払いをさせる。

部下は「とうとう本格的な尋問を開始するんですね?!」と期待の眼差しでアスモを見上げ退室した。

そして。

マジックミラールームの暗がりで佇んでいる男にアスモは目も向けないで話を投げた。


「貴方のタレコミですよ。

協力者の証言に間違えはありませんか。デウス公」


 暗がりの男はニヒルに笑いながらマジックミラー越しのリリスをニヤニヤ眺めていた。

リリスが一瞬こちらに目線を走らせた。

その一瞬だけ。

リリスとその男と視線が絡んだ気がするのは気の所為ではないだろう。


デウス公とアスモが呼んだ男はイザミ・デウス。

88柱の一人《深淵の堕天使》と名高い男だ。

金髪に墨を被ったかのような独特の髪色をしている。

瞳は宇宙のような濃い濃紺。

ニヒルに笑う口元には牙が光る。

大変整った鼻筋が横顔をさらに精悍にさせる。

最高級の黒ドラゴンの皮を鞣した革ジャンを着た不遜な態度の男。

その黒い瞳はずっと取り調べ室を捕らえている。

アスモの弟である。


「俺の甥っ子だぜ?

お前の甥っ子でもある。

俺や兄さんが信じなかったら誰が信じるんだ。兄さん」


「ここでは兄と呼ぶな。

お前は《深淵の堕天使》として告発したんだぞ。

私の《弟》としての告発ではない」


「はいはい。お硬いお兄様に従いますよ」


「しかし。未成年の目撃情報では………」


「これを見ろ」


そこには現し世での組織《警察》からの内部文書だった。


その内容に驚愕する。


「現し世人類の《拉致監禁》を目的にした孤児院運営の実態………?」


そこには養子に迎えた被害少女への長年に渡る身体的虐待跡の確認とある。

入学時の診断書がないことがさらに嫌疑を深めている。


ーーーあの方が?あのリリス・ヴェルミナだぞ?


アスモがどうも気乗りしないのはそこだ。

告発があった以上動かねばならなかった。

子供への虐待はこの幽玄異郷では《死刑》なのだから。

リリスが数々の前科がある破天荒な偉人だったとしても見逃せない。


「あの方《勇者一行の生き残り》の三尊の一人だ。

現し世や教育に多大な功績を残し続けている方だ。

おいそれと拷問にかけるわけにはいかない」


「お?末娘が坩堝学園にいるからと。お父ちゃんは学園長に肩入れか?」


「ッ………。だからこそ。私直々には取り調べは無理なんだ。

無駄に時間ばかりが………そもそも」


この取り調べになんの意味があるのだろうか。 

虐待事案だとするならば。

優先事項は。


「まずその少女を保護することが一番の優先事項じゃないのか」


リリス・ヴェルミナが一ヶ月前に迎え入れた養女。

そのあまりに迅速な囲い込みとも言えた手続きの早さに渡航管理局(わたらせや)でも語り草だった。

奔放で自由人の彼女には珍しい書類の不備のなさ。

議論の余地のないほどの《勇者候補受け入れ》という特例中の特例による養子縁組。

幽玄異郷の柱衆のトップの中では密かに噂になっていたのだ。

《リリスがついに勇者捜索を諦めたらしい》と。


あのリリス・ヴェルミナが新たな勇者を育てることは、この幽玄異郷では天地がひっくり返る衝撃だったのだから。


その重要人物である慈しむべき少女への虐待。

その少女が一番の証人であり、証拠でもある。


ーーーうちの職員は家宅捜索もしたはずだ。

何故保護しなかった?


資料にはどこにもその記載がない。

書類の不備を部下に確認しようかと踵をかえした。

背後から呆れたような笑う不遜な溜息がアスモ官長の脚を止めた。


「なにがおかしい」


「兄さん。ほんと。世間の行事に興味ないんだな?」


イザミが懐からだした幽玄異郷新聞。

その一面に大々的に飾られた式典の様子の写真をのぞき見て首を傾げた。


「新入生歓迎祭り………。それがどうした」


「おいおい。

あそこは今外部との連絡が遮断される《不可侵》期間だぜ?事前申請が通った来賓やOB、父兄しか入場出来ない。

魔術誓約で事実上期間中は《軟禁》されるんだ。

外部との行き来は勿論連絡は遮断。三尊すら入れねぇし出られねぇ。勇者も無理じゃないのか?

狂った祭りなんだ。

ただの祭りじゃねえのさ。

伝統という名の《狂乱の宴》の時期だ」


そこで思い出した。

末娘が他校に通う兄達に啖呵を切っていたことを。


坩堝学園の誉れ高き《魔導騎士団》の入部によって試合で合間見るであろう輝かしい未来の話を。

兄に似ず父に気質が似てしまった末娘がそれでも成し遂げようとしている《渇望》を。

その先にある見据えた《主》への忠誠の日々を。

行事参観の紙をビリビリに目の前で破られた悲しみを。

もしかしたら。

今その《星見祭》に行って娘と楽しんでいたかもしれない、もしもの自分の姿を。


ーーー主は確か大変なカリスマを誇る貴公子だったな。


「坩堝学園の《星見祭》のことか。

ただのサークル勧誘祭りだろう」


「お前はOBじゃないから知らないか。俺にとっても100年前の古巣だ。懐かしい」


イザミは煙草を取り出した。

許可もなく勝手にくゆりだした。

その紫紺の煙の匂いを嗅ぎながらアスモは窓の中の光景を見た。


「私のりんちゃんの《晴れ舞台》見れないならやってらんない〜!!やけ酒よ〜」


「「「「はい。リリス様」」」」


相変わらず支給品の水を浴びるように飲み尽くして踊り狂っているリリスは今度は職員に化粧をし始めた。


彼等の性別が変わり嫁が涙する前に交代させないといけないかもしれない。


「はは!相変わらず、おもれぇばあさんだな」


これで何回目の職員の交代になるのだろうか。

アスモ官長は痛む頭を抑えられない苦悩に襲われながら佇むしかなかった。


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