星見祭 9. 渇望
「新サークルの立ち上げは出来ますか」
りんが呟いた言葉。
それはレジオン陣営、セルクル陣営二つを失笑させた。
それらをレジオン団長スレアは手で制して。
マイクを傾けた。
「うん………。それが希望かな。現状は《無理》だ。
規定には新入生が新サークルを立ち上げることを是としていない」
そこにイーテディ団長が魔導端末を操作しながら《条文提示》と指示を出す。
会場のスクリーンには《規定》が映し出された。
「補足します。
こちらをご覧になって。
サークル規定20条、「サークル立ち上げは既存のサークルと重複がないか生徒会が精査し、顧問、部員数の確保には生徒会長の印が必要である。
なお。サークル立ち上げは二年次からとしますの。
どちらにしても申請も二年次からです」
おわかりかしら?とイーテディ団長が結ぶ。
更にスクリーンには《規約内》と書かれた資格例が列挙された。
「一年間ランチメニューに幻の食材食べ放題」
「入るサークルの部費倍増」
「炉度」ラング試験挑戦権。
「生徒会入会希望」
「《団長交代》を賭けた団長と一騎打ち」
「お。なんかりんが好きそうなのがあるぞ。おい!りーー」
猿田が呟いたのを岸と星が小突いて止めた。
「りんさん。規約暗記してるから。知ってるから」
「さっき悶絶してたんだよ。控室で。
コンマ3秒くらいだったから。気づかないフリしてやってくれ」
猿田は気の毒げにりんを見ている。
それを知らないりんは振り返るたびに気遣わしげな視線に何回も頷く。
「大丈夫だよ。頑張るよ」と。
男三人は少し違うエールを送っていたのは後日知ることになるがまだりんは知らなかった。
それら《規約内》の例を一瞥して。
りんはマイクを持ち直す。
「既存サークルは何故「レジオン」と「セルクル」で分かれているんですか?」
そこでも会場は失笑の笑い声が響く。
それをまたレジオン団長スレアは手で制した。
「ん?何故か?100年続く伝統だよ?
歴史を語って聞かせたいが………。
そんなことすると夜が明けてしまうな………」
「まあ………。無駄話も添え物になりますものね。
付き合いますわよ?」
スレア団長が心底不思議そうに腕を組む。
イーテディ団長もりんの問いの意味がわからないらしい。
哀れな子をみる目つきだ。
「レジオン管轄の「魔導騎士団」には女子生徒は入れない。
レジオン管轄の「魔術研究部」には女子生徒は入れない。
セルクル管轄の「社交サークル」には男子生徒は入れない。
セルクル管轄の「園芸サークル」には男子生徒は入れない。
何故ですか?」
まだこれ続けるのか。
そんな空気を会場が包んだ。
でも団長二人は首を振りながらも規約提示を支持する。
もう二人の目は《聞かん坊の後輩》によりそう生温かいそれだ。
「サークル規定第0項。
サークルは団長管轄の元、運営される。
団の直轄に入ることは義務なの。
特例は同好会かしら。部費も施設もなにもないならお好きに。
それらは《男女》出住み分けられているわ。
既存の団の管轄に入ると離脱は廃部となる。
新たなサークル立ち上げは………」
「サークル規定20条参照ですよね。覚えてます」
りんが遮ることが不快なのだろう。
セルクル団長イーテディの空色の瞳が細まった。
「なんですか。そのおかしな《規定》は。
そんなものがあるから無駄な争いと涙が流れるんです!!
女の子が魔導騎士団に入れない?
男の子が料理サークルに官有もされない?
強さや適性試験があるならまだ諦めがつきます。
坩堝の精神は?
校歌にある《混ざり合い研鑽》する精神が全く反映されていない。
この規定もふって湧いたように《100年前》から。
それ以前はレジオン、セルクルは分かたれていなかったのに?」
ざわり。
空気がかわった音がした。
それもスレア団長が手で制する。
少し。ざわめきが静まるのが遅かった。
「規定は《生徒会長》しか変えられないんだ。
100年前の生徒会長が制定してから。
今日まで規定改定はないーーー」
「知ってます。読みましたから」
スレア団長の言葉を被せるようにりんは呟いた。
「読む………?規約をかい。物好きだ」
「貴女。文官向きでしたの。ますます得難い人材ですのね」
二人の団長が初めて驚きの表情を浮かべた。
「はい。私。《書物オタク》なんです。
この学園に入学が決まった時読みました。
過去の《学園規定》《規定改定過去録》を全て」
そこで団長達の顔色は完全に取り繕えなくなったらしい。
驚愕と困惑の匂いが二人を取り巻き出した。
「馬鹿な………。
あれは100巻はあるぞ?!」
「わたくし達ですら………半分も………」
「速読。得意なので」
りんは魔導端末を押し拡大具現化された。
そこには。
抜粋された《過去の規定改定》の年月日何時何分まで細かく記載されていた。
それらを指さしながら。りんは続けた。
「おかしいんですよ。
過去100年前まで頻繁にあった《規定改定》がピタリとない。
停滞してるんです。何故です」
会場の空気は静まり返っていた。
変わったのだ。
風向きが。
「答えられませんか」
りんの問いかける声がどんどん力強くなる。
「それは………生徒会長しか規定を変えることは………」
「その《生徒会長》。
この100年不在ですが。何故ですか」
「ッ………」
二人の団長の瞳に走った動揺。
そこでりんは勝ち筋の匂いを見た。
沈黙が続いた。
さっきまでりんの問いに饒舌だった団長二人の沈黙。
団員が背後で不安げに二人を見上げている。
「そのための《ステラ・ランキング》なのよ!!」
その空気を割いたの冷静だったはずの女王だった。




