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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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星見祭 8.ふん!の威力

 風を裂く音と共に濃厚な闘気の薫りがしてりんは上空を見上げた。

坩堝学園の大きな広場。

そこにそびえるビックベンとサグラダファミリアを融合させたような立派な時計台。

その文字盤から降りたった二つの光り輝く二人は音もなく着地した。

にこやかだ。

表情だけは。

だけど視線は《捕食者》のそれだった。


 二人は拍手しながら会場の中央に歩み寄ってくる。

特設会場の中央は石畳のフィールドだった。


 このイベントのために特別に作られたらしいこの特設会場は《コロシアム》のような形状をしていた。

《闘技場》と呼んだほうが正確かもしれない。

ここでこれから行うことは《演劇》や《サーカス》ではないとわかる。

さっきまでなんでもありとは言え、鬼ごっこをしていたのに。ここは空気が違う。

観客はりん達を囲むようにぐるりと包囲している。


たぶん。

孤立無援だったら萎縮するレベルの熱気だ。


「レジオン!レジオン!レジオン!」


脚を踏み鳴らすようなリズムで声援を送るのは男の生徒の集団。


「セルクル!セルクル!セルクル!」


黄色い声援と花吹雪で応援しているのは女子の集団だ。

会場は二分していた。


二つの声援と歓声が合わさり心臓に響くような重々しさだ。

ズシリとくるものにりんは唇を強く引き結ぶ。


「レジオン団長、スレア・スルトだ」

「セルクル団長、イーテディ・エールです」


二人は綺羅びやかな式典服で横並びに佇んでいた。

マイクを握っている。

背後に黒衣のようにすすす………と団員が下がっていった。


「坩堝学園の皆!!来賓の方々!!

今宵の《星見祭》。たのしんでいただけたか!!」


わッと湧き上がる歓声。


「今までのは《デモンストレーション》。

ここからが本番になります。

さあ!!

若き《超新星》に盛大なる拍手を送ってください!!」


熱気はそのままにそれは確かに賞賛と祝福だった。


「すごいぞ!新入生!」

「よ!超新星!」

「今年も歴史を塗り替えてくれよ!」


沸き立つ会場。

浴びるような熱視線。

罵詈雑言や下品な野次はない。

そこは坩堝学園の学生の《民度》が高いことがわかる。


「お………」

「すごいな」

「入学式よりも盛り上がってない?」


岸や猿田、星は頬を高揚させて周りを見渡す。

りんも見渡す。

大勢に見られている。

確かにその高揚感は入学式の式典演劇に似ていた。

スポットライト。

敵意のない視線。

だけど今のりんには同じようなワクワクとした高揚感はなかった。

あるのは。



会場には見知った顔があった。

ナタージャや咲。その二人に挟まれた澪の姿も。

澪は泣き腫らした瞳をこちらに向けていた。

その瞳は虚ろなのにしっかりとりんを見ていた。


そこに背中を向けた。

腕を高く上げて。

風でたなびく総長服の文字が澪に見えただろうか。

見えなかったかもしれない。

でも。

見て欲しかったのだ。彼女に。

これからする《悪い事》を。


「来たか。昼間と違い随分勇ましいな!

生徒会運営の不備。ルール改正の指摘!実に勇ましかった!

血気盛んなのは若者の特権だ!!実にいい!!」


ニカリと笑ったスルト団長は賞賛を込めた瞳でりん達の肩を叩く。

叩くと言うより置いたのだけど。

その大きな手のひらと重み熱さに震える。


「淑女サークルの方々が泣いておりますわ………。

嘆かわしい。貴女方。本当にあの真神教諭の教え子ですの?

勇ましさは野蛮とは違いましてよ?

まあ………。ここまで生き残ったことには敬意を」


イーテディ団長も握手を求めてくる。

レースの手袋越しの華奢な手のひらは冷たかった。

思わず握り返して温めてあげたくなるほどに。


その可憐で庇護欲を抱かせる容姿とは裏腹に瞳だけは冷ややかだ。

口元はにこやかなのに。


「澪・モルガンさんの棄権。残念だわ。

彼女ならしつけ次第で立派なプリンセスにしてあげましたものを………」


りんはピクリと身じろいだ。


「プリンセスになりたいかどうかは。

澪ちゃんが決めることです。貴女ではないですよ?」


首を傾げながら問うとイーテディ団長は目を見開いた。


「まあ………。ここに来れなかったのだから。

彼女には気骨が足りなかったのでしょう」


「気骨………?」


イーテディは驚いたように目を見開いた後、扇子で口元を隠すようにして、くすりと冷たく笑った。


「泣いて泣いて。打ち砕かれ引っ込んでしまうプライドは。

端から持ち合わさなければよろしいのよ。


悲しみをぐっと堪えて打ち勝つ。

勝利でしか周りは変わらないのだから。

だから女は………と馬鹿にされるのだわ」


扇をパタンと閉じて頬に手を置いて首を傾げる。


「団長素敵………」

「気高いわ………」

「これぞ《毒花のイーテディ》様。

あの冷ややかさが痺れるわぁ………」


背後に控える団員が色めき立っ。

りんはまた首を傾げた。



「え。頑張って頑張って。流した涙は美しいんですよ?

誰が馬鹿にするんですか?

馬鹿にするほうが間違ってませんか?」


「な………?!」


イーテディ団長の眉がヒクリと動く。


「涙が………美しいわけ………情けな………」

「?団長さんは、情けないと言われたことがあるんですか?それは相手が悪いんですよ」


イーテディ団長の頬がひくついた。


「何もしないで流した涙は確かに自己憐憫でしょう。

自分かわいそう………て涙。幼児のだだの涙。

見られるのは恥ずかしい。

それはありますよね。


でも。

澪ちゃんのそれは違います。

侮辱しないでください。


彼女の誇りは打ち砕かれるほど、この!《坩堝学園》に希望を抱いて努力した証しです。

涙は弱さじゃありません!!


それに。乙女の涙は宝石なんです!!

すくって美しさを褒め称えこそすれ。

馬鹿にする奴なんてッ………。

ッッッん。ん!ん~~。


ふんッ!!ですよ!!」


りんの「ふんッ!!」が音の波を起こした。

会場は一瞬静まり返った。


「え………あの子かっこいいこと言ったのに。なんだろ………」

「あれ………。なんだろこの気持ち」

「ふんッ………?え」



「「「「あほ、かわいいな」」」」


また会場の心は一つになった。



「あ。こいつ。人を罵倒したことないな」

「罵倒のボキャブラリー不足………」

「これは後々教えてやらんとな」

「いや。健やかにあのままでいて欲しい気もする」

「「わかる………」」


岸達が呟いていることはしっかりりんに届いた。

恥ずかしさで耳が熱い。


「ちょっと!!恥ずかしいから援護射撃してよ!?」


「ぷッ………くくく」

 

真っ赤になってむんと口元を真一文字にするりんが叫ぶが岸と猿田、星はりんの肩をそっと叩いた。

そして。

岸が指さしたのは観客席だ。


 振り返るとそこには。

目は泣き腫らしたままなのに肩を震わせる澪を支えながら大口開けて笑うナタージャと咲がいた。

澪が震えながら笑っていた。

その姿に。

りんは奮い立たされた。


「威圧は俺等に任せろ総長」

「りんは口元真一文字にして胸張ってろ」

「背後から圧飛ばしますから。適材適所ですよ」


「分かった!!頑張る!!」


 ギンギンと目を見開いてメンチきる男三人を従えて振り返るりんは後光が輝いていた。

三人の猛者を従え、自信満々に胸を張る彼女の背後には、威厳というよりは。

どこか春の陽だまりのような、妙に暖かな後光が差していた。


「猛犬使いじみてるな………面白い」

「んんッ………人たらしの才は本物ですのね」


イーテディ団長の握り締めた扇がギチリとしなる。

その扇をチラりと見たスレア団長はため息交じりに呟いた。


「どした。今日のお花の女王様は機嫌悪いな」

「ッ………。貴方には関係ないことよ」


 ぷいっとそっぽを向くイーテディ団長にスレア団長が屈んで覗き込む。

ふと陰る圧にイーテディは怪訝そうに見上げた。


「俺に任せて温かい部屋でケーキ食べてていいんだぜ」

「………ひっこんでろと?」

「なんでそう捻くれるかなあ………。そのままなのに」


頭をくしゃりとかいた後スレア団長はイーテディ団長の肩にそっと手を置いた。

それすら振り払われたが。


「俺は………お前の無理した顔を見たくない」

「無理ッ………?無理ですって?!

わたくしの努力も知らないくせにッ………」

「いたッ」


イーテディ団長はスレア団長の軍靴をピンヒールで踏みつけた。

踏んだと周囲に分からせないその所作はまるで水の下で足蹴にしている美しい白鳥のようだ。


「ほら。口上」

「はいはい。女王様」


また踏んづけられたのを噛み締めて我慢しながらスレアはマイクを取った。

背後にすすす………と団員が静かにはけていった。


「さあ!!超新星!!


今宵我等の与えた《試練》を打ち負かすと得られる栄誉。

君達の《渇望(リビドー)》はなんだ?!」


「新サークルの立ち上げは出来ますか」


りんは渡されたマイクに向かって呟いた。




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