星見祭 7.カチコミ
「さあ!皆さん讃えましょう!!
このステージまで登りつめた《トリックスター》。
超新星の新入生を!!」
「彼等は《資格》を得ました!
規約内でしたらあらゆる望みが叶うのです!
それに挑む原始星を皆様!!お出迎えしましょう!!」
リリスホール前。
学園内で一番の広大さを誇る広場に高らかに宣言される。
「今年は何かな?」
「昨年は《団長交代一騎打ち》だったな~」
「見ものだった………。レジオン、セルクル。同時だったもんな」
「今年は無理じゃないか?
だってあの二人が君臨してるんだぜ?」
生徒達は時計台を見上げた。
「《剛腕のスレア》に《妖精女王イーテディ》だもんなあ」
「あの二人は………」
「わかんないわよ。今年は五人ヨ?
数で押せば………」
「あれ。四人になったみたい」
「それは無理ゲーだよ〜」
「いや。十人いても無理じゃないかなあ〜」
「お?きたきた!」
「皆あの《雷クラス》だろ?」
「さぞや誇らしげに………」
「ん………?」
喧騒と興奮は最高潮になっていた。
今か今かと本日の主役を観ようと熱気が渦巻いていた。
会場入口には眩しいばかりのスポットライトが多方面から照らされている。
本来ならそこは栄誉に打ち震えた初々しい新入生が緊張の面持ちで入場するのが風物詩だった。
上級生が花吹雪や紙吹雪を投げる準備は整っていた。
けれど。
響いたのは何やら独特な音楽だ。
「ん………?いつもファンファーレは?」
「あれ?音響さ〜ん?ん?奴らなんか新しい機材囲んでホクホクしてるぞ」
「すげ………。これは幻の現し世仕様のスピーカー?」
「魔術なしで響く低音が堪らないらしいんだよ………」
違う興奮が放送部を渦巻いていた。
背後にニヤリと笑う眼鏡姿を見たとかみないとか。
力強いサウンドがドラムがビートが。
爆音で会場を轟かす。
地面がビリビリするような音の洪水が会場を襲った。
腹の中の内臓を直接殴りつけられるような低音が、上級生たちの呆然とした表情を物理的に震わせる。
「おお!なんか応援歌みたいだな」
「俺………無性にタオル回したくなってきた」
「飛び跳ねたくなったかも」
「脚で床を踏みしめたいッ」
そのサウンドが高らかにクライマックスを迎えた後。
現れたのは。
旗だった。
大きな旗が《悪い子同盟》と走り書きのように力強く黒輝りしていた。
入場した四人は白い長い鉢巻きを巻いていた。
制服は着崩し所々破れている。
拍手の花道の道中で飾られていた花やリボンは何処にもない。
白い晒が腕や胸や腹に巻かれている。
髪はかきあげられ前髪が盛り上がっている。
彼等は顎をあげガニ股で進んできた。漆黒のサングラスを皆がかけて。
赤髪の大男がダイナミックに旗を振る。
空中の黒い翼の男は金色の紙吹雪をまいている。
ピンク髪のピアスが多い男は、太鼓を担いで叩いている。
中央にいる少女は何もしていないのに一番目立っていた。
勿論サングラスでは隠しきれない美貌にスタイルの良さは目を引く。
一瞬見えた横顔は息を呑むほど可憐なのに、口からは低いうめき声のような呪詛をつぶやいている。
「顎上げて………のけぞって………メンチ………めんちきる」
観客には内容は聞こえなかったが切迫した表情から不穏な事を言っているのだろう。
それでも長い法被に背中に《総長》と書かれていたことのインパクトは大きかった。
鉢巻きには《喧嘩上等》や《弱肉強食》や《悪食》や《暗殺者》など書いてある。
その顔に誇らしさや戸惑いなどの初々しさはない。
そこにあるのはギラギラの《野望》だった。
「行くよ!!」
「「「押忍!!」」」
高らかに叫び円陣を組む彼等を観て観客の空気は一瞬止まった。
「「「「あ。これカチコミだ」」」」
会場の心の声は一つになった。
その姿を認めた《淑女サークル》のお姉様方が泡吹いて倒れていた。お飾り人形の変貌に耐えられなかったのだろう。
その異常事態にザワメキは一瞬起きるものも会場の熱はさらに上がった。
「やべ!!やっぱ現し世人類ぱね!」
「式典服に制服改造?!
確かに《正装》ってあるけどさwww」
「正装の定義ッ………制服なら確かに改造の有無は規定ないし」
「日頃から服装は自由だもんな〜」
「かっけ〜」
「きゃあ!!りん様〜岸様〜かっこいい!!」
「おしゃれ番長だ」
「おしゃれ総長だよ」
「りんねぇかっこいい」
「し。いい子にするんですよ」
特設ステージの広場にはそこのを一望できる時計台がある。
そこから見下ろすのはレジオン団長、スレア・スルトとセルクル団長、イーテディ・エールだ。
レジオン団長スレアは片方だけ露出させた右腕の上腕二頭筋をピクピクと動かしながら胸の前で組む。
仰け反るように太い胸板を盛り上がらせてニヤリと笑う。
それを横目で一瞥してセルクル団長イーテディはため息を扇に隠した。
視線だけは下の熱狂の渦の中心を冷ややかに見つめている。
いつもの柔和な笑顔はそこにはない。
その喧騒と熱狂を高みから見つめる二人は静かに呟いた。
「来たか。あんなかわいい反骨心は先輩が受け止めないとな」
「少し。お痛が過ぎるようね。
まあ………。しつけるのもわたくし達の務めね」
二人は綺羅びやかな舞台を見下ろしていた。
かつて彼等は挑戦者だった。
去年は純粋に見上げていた頃の自分には戻れない事に一抹の感傷を抱いた。
「あのギラギラした目つき。
目的は、《団長交代要請の一騎打ち》だろうか。
佐藤 りんからの《主催者側の不備要請》はなかなか的を射ていたしな。
昼間は興味なさそうだったが………。
組織運営への才覚と素質はあると見たな。
益々欲しい人材だ」
「可能性は高いわね。
たかだか。
「一年間ランチメニューに幻の食材食べ放題」だとか。
「入るサークルの部費倍増」とか。
「炉度」ラング試験挑戦権だとか。
そもそも。生徒会に入りたいのならわたくし達の誘いを断らないはずですもの。
………それも違うわね。
夏にある《サバト》でも得られるような景品に釣られる星なら。今この場には居ないはずだわ」
「まだ俺も成し遂げてないんだ。邪魔はさせないさ」
「わたくしもよ。わたくしの《野望》にこの席は必要なの」
セルクル団長、イーテディがパシリと扇を閉じたのとレジオン団長、スレアが息を吐いたのは同時だった。
「行くか」
「参りましょう」
彼等は急降下した。
挑戦者を迎え撃つために。
流星群が降り注ぐ空から巨星が二つ降りたった。




