星見祭 5.悪い子同盟
「佐藤 りん、岸 護。澪・モルガン、猿田 一彦、星。
五名への攻撃は終了とする。
繰り返す。
佐藤 りん、岸 護。澪・モルガン、猿田 一彦、星。
五名への攻撃は只今をもって終了とする。
五名は特設ステージに来るべし。
来ない場合。棄権と見做しポイントは据え置きとして終了となる。
繰り返す………」
学園中全てのスピーカーから轟く音に上級生からため息と共に武器を捨てた。
そして拍手が沸く。
拍手の花道が続く中、りんは何が何やらわからないまま魔導端末に示された誘導アプリに従い進む。
「すげぇな!!ここまでの人数残ったの何年ぶりだ?」
「去年ですら二人だもんな?」
「やべぇな!生徒会入らなかったらまた勧誘に行くからな?」
「頑張れよ〜。下剋上のチャンスだぞ〜」
喝采や励まし、毒はないと苦笑いされながらの食べ物の差し入れやジュース。
軽い洗浄魔術や治療魔術などを全身に浴びながらりんは進む。
さっきまで毒紅茶を浴びせようとしてきたお姉様方などは、
りんのまわりを飛び回りながら(ほんとに飛んで)髪や制服を整えてくれた。
溶けたキュロットや焦げた髪の毛は整えられる。
なんならリボンが増えたり花が増えたり化粧されたりで。
泥に塗れた姿が始まりよりも綺麗になっている。
何か貰う度にペコペコするりんはさながらお辞儀人形と化していた。
「あ!澪ちゃん!良かったあ………会えた!」
りんは遠くに見えた澪に向かって手を振る。
でも様子がおかしい。
澪は教諭に連れられどんどん会場から離れていく。
「澪ちゃん?!どしたの!?怪我したの?!」
澪に付き添う女教諭が気遣っているのか首を振るけれどもそれ以上は語らない。
呆然としていた澪がりんに気づいたらしい。
その綺麗な水色の瞳から次から次へと大粒の雫が零れ落ちた。
「澪ちゃん?!どこが痛いの?!澪ちゃん?」
りんは無我夢中で澪を抱きしめた。
彼女の口からはりんを労う言葉と謝罪のみ。
それらは主に己の不甲斐なさを嘆いたりするもの。
情報不足だったとか。
仕方がなかったとか。
それでもりんは聞き出した。
あまりの澪の絶望を目の当たりにしてりんは何も言葉にならなかった。
澪の心は砕けたのだ。
「りん様………辛い………たすけて」
りんは弱かった。乙女の涙と助けを求める声が。
そして。
大切な人の涙を見てこんなに憤ったのは初めてだった。
澪を見送った後。
先輩方にペコリとお辞儀をしながらもりんは止まらなかった。
歩みは止めない。
りんは歩き続けなければならなかった。
「りん!無事だったか!」
「あ。岸。良かった。無事………だよね?」
「服も身体も治してはもらったけど………。気力と体力がな」
「うん」
「りん?」
「うん」
「りん………。どした」
岸にも気づかれてしまった。
りんはたぶん今ピクリとも笑えていないからだろう。
「それがだな………」
「澪さんがですね………」
先に合流していた猿田や星もりんをちらりと見て気不味そうだ。
そこへ響いたのは無情なアナウンスだった。
「速報です。
澪 モルガン。棄権です。
繰り返します。
澪 モルガンは棄権となります。
彼女のポイント510ポイントは据え置きにーーー」
アナウンスの内容は周りも衝撃だったのだろう。
周囲もガヤガヤと騒ぎ出した。
最後まで残ったのに棄権。
それも前代未聞だった。
岸が愕然としている。
「怪我か?あいつ強いけど女の子だろ?体調悪かったか?
奇襲されたとか?食あたりとか?」
「いや。元気だったさ」
「寧ろ怒り狂って襲っても来ない魔導騎士団に奇襲かけてボコボコにしてたよ。
空から見てたけど。
鬼神のようだった。………彼女泣いてーー」
「な………泣いた?澪が?」
「許さない………」
「りん?」
「こんな決まり許さない………」
りんはひたすら魔導端末を操作した。
会場近くになってピラリロリンと鳴った音の所に駆けた。
相手はぎょっとしてたけど、事情を話したら興味を抱いてくれた。
寧ろ目が爛々としてワクワクしているようだった。
「確かに。今までこれを思いつかないなんて。
いや。思いついた所でこの場に立てる資格もないものじゃ無理だ」
「可能にします。
あちらが《規約》をたてにするなら。
こちらも《規約》で打ち崩します」
「わあ………。是非とも協力するよ。面白いこと大好きなんだ」
入学式式典で文官役をしていた三年。ガンザ・グリフォンは眼鏡をくいっとあげてニヤリと笑った。
「でも。意外だな」
ガンザ先輩は立ち去ろうとしたりんにむかって呟きを投げた。
「君は入学式の時は《学園長権限で言われました》と、
権力に身を委ねて、ただ《立つだけだから》と舞台に上がってた。
優しい………。決まりに流される優等生タイプと分析してたんだが。それ。君の今までの《いい子》を覆す革命だよ?」
りんは頬をかいて。
振り向きながらニヤリと笑った。
「友達の笑顔のためなら。
私も《悪い子》なれるみたいですよ」
クスクス笑ってお辞儀した。
「《いい子》だと言ってくれた先輩に《悪い事》誘うのは気が引けますが。
よろしくお願いいたします」
見上げたらガンザ先輩はりんの頭をぽんぽん叩いて大笑いしていた。
「ははは!
僕も優等生に飽きてきていた所だから渡りに船だ。
次は闇の参謀あたりが劇で出来るかもね?」
「でも。やっぱり。君はいい子だよ。頑張れ」
背後に感じた声援に本日初めてりんは素直に喜べた。
りんが走り去った後。
ザンガはため息をつく。
眼鏡を外して磨きながら首を回す。
空を見上げると真っ暗な学園を包むような見事な星空が広がっていた。
「彼女は恒星か………。はたまた。惑星か衛星か」
学園全体を包む歓声と轟音から背を向け一人静かな林に潜る。
魔導端末を操作しながら一人ごちた。
「参謀か………。僕ですら半信半疑だったのに。
先輩はこうなることも見越してたのか………。
やっぱ《永久資格者》は格が違うや。
さて。準備してた資料、会場の放送部に渡すとしますか」
魔導端末には《梟》のメッセージアイコンが光っていた。
りんは会場前で待機していた皆と合流した。
岸や、猿田。星にも事情を話した。
りんの計画だ。
皆を無理に巻き込みたくはなかったけど話した。
反対されても突き進む気だった。
そんな強張った顔を猿田にデコピンされた。
「水くせぇなあ。雷クラス仲間だろ」
と猿田がカラカラ笑うと、岸も星も頷いた。
「乗るぜ。その話。澪が泣くなんて許せねぇ」
「某も強いなら男も女も関係ないとは思うしな」
「確かに。坩堝学園らしくはないとは思ってたんだ。
あのリリス学園長がこれを野放しにしていた理由も気になるし」
「皆ッ………」
りんは喜びに唇を噛み締めた。
まだだ。これはまだ成されていないのだから。
「お前の《渇望》見てみたいしな。その景色」
「雷クラスの時も。
新しい景色を見せてくれたのは君だしね」
「俺はそもそもお前のいない景色なんてありえないしな」
「うん。私もなの」
呟いた。
眉間はぐっと力を込めたけど。
仲間にはやっぱり隠せなかった。へニャリと笑ってしまう。
「ごめん。嘘。強がったんだ。皆を巻き込みたくないなんて。
皆と一緒の景色が見たいんだ。わがままになっちゃった。
私と一緒に悪い事。してくれる?」
皆を誘っちゃうの。私悪い子でしょう?と首を傾げた。
笑い飛ばしてくれると思ったら三人は固まっていた。
男三人は肩をビクつかせている。
なにやらりんに背中を向けてコソコソ話しだした。
「あ………ぶね。ぐっと来た」
「これかあ………。岸君が浴びる無自覚の笑顔の暴力は」
「ぐあ………。お前等と同列は………嬉しいんだけどさ」
男三人作戦会議をしたらしい。
仲良くこちらを振り返るとガバリとりんの肩を抱えてきた。
「「「いいよ(ぜ)」」」
「!………ありがとう!」
画して。《悪い子同盟》はなった。
皆が興奮で頬が赤い。これを高揚と呼ぶのかもしれない。
「うん。友達を泣かせたやつには痛い目見させなきゃね」
魔導端末に導かれるまま。
拍手の花道の中。
りん達はリリスホール前広場に赴いた。




