星見祭 3.最大級の超新星
二人は昼間と違い綺羅びやかな光沢の衣装を身に纏っていた。
レギオン団長スレアは機動力のある軽装備の鎧のような物を纏っている。マントを肩に掲げ戦場の黒騎士のようだ。
方やセルクル団長イーテディは綺羅びやかなのは変わらないが、全身をレースで覆ったような可憐で美しいドレスを纏っていた。
まるで妖精の王女様のような出で立ちだ。
二人は昼間での争いをどこに置いてきたのか、お互いに、にこやかな笑顔でふわふわ浮いている。
「わ………。舞台俳優みたいだな」
「りん様には敵いませんよ」
岸も澪も面食らっている。
りんも目が離せない。
そのくらい二人はカリスマで輝いていた。
………さっきからりんと二人が目が合っているのは気のせいだろうか。
なんだか笑っているのに目だけがガンギマリしている。
血走っているような………。
二人はマイクを手に取った。
「星見祭。《フェスティバル・ド・ラ・ラジア》の始まりになります」
「各サークルの非戦闘要員はすみやかに避難してください」
盛大な拍手と共に、周りからガヤガヤ立ち去る音が聞こえた。
二人が上空に手を掲げると黒と白い光がとぐろを巻き、学園敷地内全体を包み込んだ。
「「結界展開完了」」
「確認しました。どうぞ。
これから学園外に逃亡は不可能です。
新入生の皆さ〜ん。親御さんに電話しても視認しても助けはありません。そこは諦めてください」
二人の声に空隙教諭が返事をする。指で丸を作り可愛らしい。
隣にいた男子生徒が魔導端末を弄りだした。
ダメだったらしく項垂れている。
スルト団長がマントをバサッと翻しながら勿体ぶってマイクを傾けた。
「星見祭。当初は星降る夜に人類をたらふく食べさせ嬲り殺して貪っていた神の祭典でした。
フェスティバル・ド・ラ・ラジア。別名《乱獲の祭典》と呼ばれました。
逃げ惑う人類をんんん………ながら。んんん………して。
んんん………したのが起源になります」
何やら伏せ字が具現化した気がした。
りんと岸は固まることしかできない。
周りの視線が憐憫を帯びだした。
「我等は文明も知恵も得ました。
神の傲慢さも悪魔の貪欲さも今はありません。んん。表向きは。んん。
安心なさって?わたくしたち。新入生は食べませんわ?可愛がるだけです」
イーテディ団長がさもお茶会の時のおしゃべりのようにクスクス笑いながら語る。
内容が強烈でなかなか頭に入らない。
岸がりんと澪を引きずり逃げ腰になった。
澪も今回は少しりんに寄り添おうとする。
背後にはもうすでに数多くの気配がする。
猿田は首を鳴らしてニヤリと笑い、アンテはぴょんぴょん跳ね出した。
「上級生の皆さん。捕縛する際には闇討ちはいけません。
元から暗いですし可哀想ですわ。
サークル名と《エトワール・サリュ します》と高らかに宣言して攻撃。んんん………。捕縛してください。
星への挨拶は《エトワール・サリュ》ですよ?
さあ、ご一緒に〜」
「「「「エトワール・サリュします!!」」」」
「もっと〜」
「「「「「エトワール・サリュします!!!」」」」」
「ひッ」
あまりの大音量と熱気にりんは思わずビクついた。
暗闇の中ガチガチとか、ギンギンとか。ギジョンギジョンとかヌメヌメとか。
生身から決して出さないような音がするのに視認できないことがより怖い。
「捕縛完了後。この《堕ち星の花冠》を首に装着してください。
装着していないとポイントにはなりません」
スレア団長が掲げる花冠がドアップに映し出される。
それは白と黒の二種類あった。
星のような可愛らしい花がたくさんついた花冠だ。
気になるのはその花冠の蔦がうごうご動いていることと、棘があること。
持つだけでも、痛そうだ。
「あれ………首に………?奴隷契約?」
岸の唇など真っ青だ。
「ここで!!
今年のトリックスター!
有望新入生候補のポイント得点を開示するよ〜」
空隙教諭の明るい声と共に、
映像にはドン、ドン、と効果音付きで顔写真が表示された。
琥珀・ピアス 30点。
アンテ・クオニ 50点。
猿田 一彦 100点。
星 100点。
岸 護 200点。
澪・モルガン 100点。
ーーーあれ。そういえば。せい君いない?
名前を見てから思い出したことに申し訳なく思ったが最近星はりんを避けるのだ。
もしかしたら上空にいるのかもしれない。
上を見上げたらニヤリと笑ったどこかの先輩と目が合った。
「わあ………雷クラス勢揃いだあ。岸凄い得点!
さすが有望株勇者候補!!」
「ちッ。岸に負けたか」
「え?俺捕食対象?!あ。りんいない。良かったな」
りんが喜び澪が悔しがる中、岸はパニックになっている。
遠くから何故か岸ファンクラブの女の子の歓声があがっている。
女の子は大半いないらしいから空耳だろう。
「観覧席あるんだよ。中継で映像見てるよ。リリスホールで」
「え。そっち行きたかったかも」
「それな」
琥珀とりんでガッカリと肩を落とす。
岸がもう脚がガクガクしだした。
「待て待て。これなんのイベント?なぶり殺しイベント?」
日頃強面の岸もさすがに人外だらけの先輩方に嬲り殺しはビビるだろう。
りんもビビっている。
もう一度言いたい。ビビっている。
「りん様。ずっとにこやかですね。余裕ですね!さすがです!」
怖いと笑う癖があるらしい。
表情が機能しない程りんもビビっているのに、周りに伝わらないのは悲しい。
「鬼ごっこだよ。ただの。
でも捕獲されたサークルに強制入部させられるから。
希望しないなら逃げな。
自首する子もいるよ」
琥珀は魔導端末よりも分かりやすく解説してくれる。
寧ろほとんど新入生に説明しない学園側もえげつない。
「ケイドロかよ………」
「鬼ごっこ?なら私得意かも!」
岸の顔色が少し戻ってきた。
殺されるより確かに遙かに優しいイベントだ。
「呑気だなあ………。お前が一番の《一番星》みたいだぞ。
あいつも………。焦って出てこねぇ〜かな」
と、猿田に囁かれた。
なんかいい声だった。
「え?」
聞き返そうと猿田を見あげたらその黒い瞳がりんの瞳の奥を覗き込んでいた。
まるでなにかを探すように。
「猿田くん?」
「ん?どした」
「猿田くんの瞳きれいだね」
「ぐふッ………。お前もな。綺麗なナッツ色だな。色んな色が輝いている」
「あ〜猿田がりん口説いてる」
「「なに?!」」
岸と澪が猿田を殴るけどびくともしない。
猿田は保育士さんなんかすると似合う気がした。
諌め方が大きいお兄さんのそれだ。
「さあ………。今年の最大級の超新星!!
それは〜〜〜〜」
だららららら………と、どこからかドラムの音がする。
………………………。
ガヤガヤと周りが騒ぎ出した。
………。
隣の男子生徒が鏡を取り出した。
………………………………。
長い。
ためが長かった。
その間に猿田は鼻で笑って闇夜に消えた。
暗闇に彼のカチューシャが光っている。
ダン!と鳴ったのと、りんにスポットライトが当たったのは同時だった。絶妙なタイミングだった。
音響と照明係さんはいい仕事をしている。
当事者じゃなかったら拍手していただろう。
「リリス学園長の愛娘!!佐藤 りんさん!
雷クラスを統率するリーダーであり、性別はなんと《無》!!
未だかつてない《レギオン、セルクル》両方からの指名がありました!
皆さん!生徒会もライバルですよ〜頑張ってください!!
得点は………なんと………」
《佐藤 りん 500点》
「へ?」
「りん様!流石でございます!ものすごい栄誉ある得点ですよ!!」
「やめろ。獲物の得点に喜ぶな!!」
岸と澪が取っ組み合いをしだした。
岸が元気になったみたいでりんは少し安心した。
「おいおい。普通の生徒確か10点だよね?」
「あの子一人で50人分かあ………。ありだな」
「男の俺等も捕縛していいとかマジ?触っちゃうよ?」
「きゃあ!りん様捕縛♥愛の巣へ誘うわよ〜」
「麗しの貴公子触れるとかこのイベント最高〜」
りんの後ろでは泣き出す新入生の男の子がいた。
りんと同じくらいの体格だけど眼鏡をかけていて気の毒だ。
「新入生の皆さ〜ん!
先輩方は優しいですよ〜。
実力的には君達を簡単に屠っんんん。
………から捕縛が効率いいのにそれはしませんからね〜。
ただ。
抵抗したら「ぷち」とか「ボキ」とかはあるかも。
でも大丈夫!!
我等が養護室のマドンナ。ダイナマイトボディー。
サチ嬢が手当てしますからね〜」
少し新入生の男子が色めき立った。
会ったことある岸だけニヤリと笑った。
上級生でも笑っている人がいる。
りんは見た。
空隙教諭の後ろでお茶を飲んで脚を組み替えるサチ婆のすがたを。
確かに遠目だとダイナマイトボディーかもしれない。
「さあ!
制限時間は三時間!!
逃げ切れるとその子の得点は倍増しますよ!!
得点が大きいサークルは予算倍増。
ラング試験優先権。
生徒会長選挙出馬権。
食堂スペシャルメニュー券。
その他もろもろ景品がありますよ〜!
それはそれで後日口説き落とせれば《ステラ・ランキング》に有利になります!!
それも作戦かあ〜?!」
「ではレッツ〜」
「「「「「ハンティング〜!!」」」」」
歓声と悲鳴の坩堝が始まったのだ。




