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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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星見祭 1.祭典前昼


  「佐藤 りん君!君は《レジオン》こそ相応しい!」

「いいえ。りん様。貴女は《セルクル》こそ相応しいわ!」


「おや、君もか」

「まあ………貴方もですの」


 ほぼ同時に左右から発せられた言葉を二つとも溢さず拾えたことにりんは自分が一番ビックリした。

クラスで皆が皆四方八方から話す毎日聖徳太子状態だからかもしれない。


ーーーあ。孤児院のチビ達もお話大好きだから聞くのは慣れてるからかな。


 二十四人のチビ達は皆頭がよく回転が速い。マシンガンのように話す。

今朝も登校前に色んな話を聞いてきたばかりだ。

そう、りんがチビ達とクラスの仲間達に思いを馳せている間に、目の前の男女の集団は盛り上がっている。


 むさ苦しくも目だけは無垢にきらきら輝いている集団と、長めのスカートをドレスのように翻して扇をパチンと鳴らす集団はお互いを上から下まで睨めつけながら火花を散らしている。


「おや。これはこれは。お上品な《セルクル》女子達。

僕等のための己の花を日々磨いてくれているのかい?

いつも麗しさを添えてくれてありがとう。

そんな華奢な脚じゃここまで大変だったろう」


「あら………。《レジオン》の殿方こそ。

日々肉壁になるべく鍛錬を?ご苦労様。

スカート追いかけて鼻を伸ばすのでしたら………スカートお好き?

貴方方にも履かせて淑女教育してあげてもよろしくてよ?」


ピキリと空気が凍った。

両陣営はお互いに笑顔を絶やさない。

だけど男子生徒の腕は筋張り、女生徒は一斉に扇を開き顔半分を隠す。漏れ出る呪詛が隠しきれていない。


「なに。淑女は下がっていなさい。ほら。厳か淑やかが常だろう。危険は我等が引き受けるのだから」

「なによ?後ろから闇討ちされなさいな。向こう見ずの戦闘狂。背後の焦土と化す花畑など気にしたこともないくせに」


「なに?」

「なによ?」


 目の前で筋骨隆々とした集団が威圧的にポーズを決め、扇を開いたり閉じたりする集団が扇から出してはいけない音をギチギチさせて睨み合っている。

内容はりんに関する事なのにもう代理戦争の当てにされている状況だ。

右からは筋肉の熱気が。

左からは香水と冷やかな冷気がりん達を板ばさみにしていた。


正直ーーー。

ーーー少し。いや、かなり居心地が悪い。


「え………と?」


「また変なの引き当てたな」

「りん様の価値に気付くのは致し方ないかと。

いつか来るとは思っておりました」


彼等のネクタイの色やリボンの色はりん達と違う。

りん達一年生はノーブルブルーなのに対し彼等の色は様々だ。


「え………と。あの人達は………上級生の方々だよね」

「リボンの色が俺等と違うもんな」

「トップの二人は二年生ですね」


よく見ると先頭にたって火花を飛ばし合う二人のネクタイは水色だ。

りん達のノーブルブルー(岸は濃い青と呼ぶ)とは違う光沢を放っている。

背後の集団も水色、緑、黄色といった色彩のネクタイをしている。


この前澪が教えてくれたことを思い出した。


「確か………」


澪の魔導端末をりんと岸は覗き込んだ。

ーーーーーーーーーーーーー

1年生 ノーブルブルー(青)

2年生 スカイブルー(水色)

3年生 リーフグリーン(緑)

4年生 サンシャインイエロー(黄)

5年生 ピュアオレンジ(橙)

6年生 ガーネットレッド(赤)


永続資格者。教員 (紫)

ーーーーーーーーーーーーー


「そういえば。入学式の式典で舞台から見たら《虹》みたいだった!カラフルで綺麗なネクタイとリボンの色だよね」

「俺はその景色を楽しむ余裕もなかった」

「ははは。ごめんね。心配かけて」


りんが手を叩いて思い出しているといつの間にか争いは終わったのかトップの二人がにじり寄ってきた。

少し息切れしているが大丈夫だろうか。


「失礼。挨拶がまだだったな。

私は二年。スレア・スルトだ。レジオン団長をしている。

よろしく頼む」


 ズイズイと前にでて拳を胸に打ち付けたレジオン団長スレアは逞しい体躯の美丈夫だ。

短く刈り込んだ黒髪に金色のメッシュが輝いている。

胸当てと肩に鎧がついた漆黒の詰襟制服を着込んでいた。

何故か右手だけ破れている。筋骨隆々の腕を見せびらかすためだろうか。

靴は軍靴のようなブーツだ。


確かに女生徒の熱視線は彼等の集団の肉体美を鑑賞していた。

瞳は無垢にきらきら輝く金色だ。

派手な不良騎士という出で立ちだ。

集団はさながら「漆黒の騎士団」のような統率制と威圧があった。

角や尻尾や翼の強そうな種族が入り乱れた武道派な雰囲気だ。

スレア団長も強そうでおっきい。

黒い丸い耳がある。


「熊さんかな」

「熊さん獣人ですかね」


「格好は確かにかっこいいな」


厨二病ぎみな岸の琴線にも触れたらしい。



「わたくしは、二年。イーテディ・エールでございます。

セルクル団長を務めています。お見知りおきを」


優雅に裾を摘みながらお辞儀したのはセルクル団長、イーテディ。

緩やかな波打つ金髪の儚げ美人だ。

風に揺れる金髪の隙間からジンジャー色の束が編み込まれて後ろへシニョン風(白哉さんに教わった編み込みながらアップヘア)に纏められている。

片側におくれ毛があり大変品がありながら色っぽい。

瞳は涼やかな水色だ。


純白の隙のないピッチリとしたワンピース風ロングスカートの制服だ。

要所要所にフリルやリボンや刺繍が個々の個性を出している。

足元はリボン結びのピンヒール。それも汚れのない純白さだ。

彼女達は「純白の花の園の妖精達」といった出で立ちだ。

実際妖精族もいた。

団長のイーテディがそうだ。妖精の羽が背中にある。


「かわいい制服………」

「オシャレですよね。靴も」


りんと澪が思わずつぶやくたおやかさだ。


だけどレジオン側もセルクル側も手には剣やこん棒。鉄扇とハンマーを持っている。


武器だけ見ると暴走族の集会のように殺気を放っていた。


「レジオン………とセルクル団?なんの新興宗教ですか?

お仕事は?ご趣味は?」

「見合いか」

「話を聞こうとする姿勢がすでに強者です。りん様」


岸がツッコミ澪が絶賛する正面で、団長二人は声高らかに宣言した。


「「「学校行事の運営」「学校生活の改善」「外部・生徒との架け橋」をして(る)(ます)!」」


声が揃った。


「実は仲良しなんじゃね?」

「しッ。今りん様の覇道の一歩の瞬間ですよ。

黙って、刮目せい!」


背後の岸と澪がコソコソ話している内容のほうが気になるけど、ズイズイと迫ってくる方へ顔を向けた。

勢いに身体はやや仰け反ってしまう。


「多岐にわたる仕事を任されているな。教諭からの信頼厚い。

予算と物品の管理、サークル活動の予算の査定、領収書の整理などだな」


胸を張るレジオン団長スレアは鉄と汗の香りを纏わせながらりんに詰め寄った。

ふわりと香ったそれらとは違う微かな匂いにりんは首を傾げる。


「 行事で購入した備品の領収書を1枚ずつ貼り、帳簿を合わせます。1円でも合わないと放課後が潰れることもございます」


そこに割り込むようにりんに握手を求めた。レースの手袋をした華奢な手だった。

セルクル団長イーテディは甘い花の香水をむせるほど香らせて隣を睨む。

りんは彼女の手のひらの手触りにまた首を傾げた。それは手袋ごしにもハッキリ分かったから。


「備品の貸出管理、 資料作成、議事録作成も行うぞ」

「 毎日のミーティングで「誰が何を言ったか」「何が決まったか」を記録し、先生や全校生徒に共有できる形にしてますわ。それは緻密に。抜かりなく。ミスなく。

学園内の治安維持にも努めておりますわ」


「は………。花がお茶会開きながらの治安維持か?」

「剣と魔術ぶっぱなして「俺等つえ〜」って結束深めるのが治安維持ですの?!」


りんを挟みながらの攻防の最中。

りんは何個かのモヤモヤに襲われていたが、一つだけ晴れた。


「あれ。それって………」


りんは岸と頷きあった。


「生徒会活動じゃん」

「だね」


澪の目がキラキラしている。

澪は現し世の話が大好きなのだ。


「おや。現し世もありましたか。

生徒による生徒のためのーーー」


「自主自立だよね?」

「共創とか、スローガンあったな」

「優等生ばかりだったよね………」


りんは岸と懐かしむ。

日本にもあった規律と模範の集団を。

りんと岸は問題児だったけど彼等は優しかった。

真面目から不良から。

全ての生徒をまとめ上げる超人の集まりし集団。

確かに学校の顔になる組織だ。


「いかに、教諭とルールを逆手に取り子供と言う大義名分を掲げ好き勝手にお祭り騒ぎ出来るかを日々模索する組織ですよ」


一瞬澪が話す言葉の羅列が分からなかった。

岸も同じ顔をしている。

日本の生徒会活動では聞かない概念がそこにあった。


「楽しいことは破壊も伴う!どうせやるなら目立て!!楽しければ多少の悪さは拳が解決するのだ」

「楽しさは時に毒です。如何に背後で悟らせずやり切るかですわ!!多少の悪さは覆い隠せます!」


「え?悪の組織の勧誘だったの?」

「建前と本音が混ざり合うと生徒会活動って秘密結社じみるんだな」


さっきとは違う狂気を孕みだした集団に腰が引けてきた。



「佐藤君!君は《レジオン》こそ相応しい!

その卓越したカリスマ。甘いマスク。

王子としての矜持、誇り。女を懐柔し侍らせる能力!!

学園長の子供というスペックを大いに発揮できるのはここ《レジオン》さ!

出世間違いなし。エリート街道まっしぐらを約束しよう!

力こそ権力。力こそ全てさ!

学園長の子供!!存在だけで暴力的な威光だ!!」


「いいえ。りん様。貴女は《セルクル》こそ相応しいわ!

貴女のたおやかな美しさ。男顔負けの紳士力。

是非ともわたくしたちの花園のプリンスとして君臨してくださいまし。

その気があるのでしたら。 

プリンセスにも磨き上げて差し上げますわ!

社交こそ力。話術こそ富!学園長の娘の顔は説得力も物理的にも強い!!」

 

「来たるべく《ステラ・ランキング》のために!」

「貴女のカリスマが必要なの!!《ステラ・ランキング》のために!!」


高らかに宣誓するような二人の演説に思わず拍手してしまう。


「あ。客寄せパンダ的な」

「願望ダダ漏れ………。少しは取り繕え」

「ある意味誠実なのでは?嘘偽りはありませんよ」


学園長の子供。

長らく聞かなかった気がするのはなんでだろうか。


ーーークラスの皆が《学園長の子供》の私を欲してないからかな。


あの雷クラスを攻略する時もそうだ。

学園長の子供だ。いの一番に聞いてきた生徒もいた。

出来レースだ。ヒントをもらったろ。と。

まあ。気にしたことはなかった。


なぜか。


一番近くにいる大事な人達がりんの不正を一切疑わなかったからだ。


「ふふ。学園長の子供ね。しばらく忘れてたよ」


クスクス笑うりんを取り囲んで岸と澪も微笑む。


「は?あんな大きな屋敷で生活してて忘れるもんか?」

「りん様はりん様なのです。

付属でリリス学園長の子供の肩書が付いているだけですもの!」

「ちげぇねぇ」


しばらく三人で笑った後りんは先輩方へ振り向いた。


「先輩方!お誘いありがとうございます!」


ニッコリ王子様スマイルで。

姿勢を正し胸に手を置きお辞儀しながらキュロットの端を摘んだ。

白哉考案のりん独自のお辞儀だ。

周りの空気が一瞬で変わったのを感じた。


「凛々しい………」

「いえ。美しいわ………」


「騎士の出で立ちとオーラだ。彼は男側だ」

「どちらでもいいわ………尊い」


少しのざわめきの後、集団が静かになった所で首を傾げる。

りんが首を傾げると皆が見る。

声を張り上げなくて良くて便利な仕草だ。


「私達、今夜の《星見祭》を楽しみにしているんです。サークル勧誘祭りですよね?その行事を愉しみたいんです!!新入生サークル歓迎祭り!!


本日は主催側の方々にお会いできて光栄でした!

私達のためにありがとうございます。


ですが、新入生は初めての行事は楽しむもので。

主催にまわるのは時期尚早かと。力不足です。


今は生徒会活動に興味ありませんので御前失礼致します」


ペコリとお辞儀して岸と澪の腕に捕まり走り出した。


「え?それこそ君がいれば」

「まあ?尚更興味があるなら!」


未だ、食い付こうとする目をランランとさせた先輩方を振り切り。

それでは〜とにこやかに手を振りながら。


りん達は逃走に成功したのだった。


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