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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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アマリリスの館への殴り込み sideヴォルグ

 赤い百合の花の蕾を逆さにしたような屋根が花束のように群れを成す。


《アマリリスの館》の主は今不在だ。


 悪趣味な紅い血のような流線を現す屋根に降り立ち真神は空を見上げた。

月が禍々しく弧を描き嘲笑っている。

下を見おろした。

広大な庭園を望む絶景すら今は禍々しい。

この屋敷はこの幽玄異郷で勇者や聖女、魔王がいない今《最も偉大》な賢者が住まうに相応しい屋敷だ。


よく皆が言う。「こんなに偉大な賢者が何故城を構えないのか」と。


それらをリリスはよく鼻で笑う。


「城なんかじゃ私の美を表現しきれないのよ。

格式、様式。だいっきらいなのよ。

細かいこと。き〜に〜し〜な〜い〜♥」と甘ったるく煙に巻くからお馴染みの口上だ。


何度も目の前で見てきた。 

茶番を。


ーーーこれだから。無知は愚かなのだ。


《城》は見せる防衛の要だ。

敵に権威と富を見せつけ戦意を削がせるためのもの。

高い塀は翼ないものの心を折り。

毒の沼や谷は翼あるものの墜落を想像させ絶望させる。


城の外郭に点在する高い塔は強い番人の存在を示し咎人を閉じ込めるためのものだ。



リリスの屋敷にはそれらがない。

それは。


必要ないからである。


「ちッ………。相変わらず堅牢な結界だな」


 リリスの屋敷の上空地下半径1キロに渡り施されている何重もの結界。

それらを真神は、鋼の如き爪で、殴りつけるようにして粉砕していく。

執拗に繰り返された破壊の衝撃音は、夜の静寂を無残に引き裂いた。

それは無謀ではなく手段だ。

この館を守る(番人)を引き摺り出すための。

謂わば。挨拶(殴り込み)なのだから。


「りん様が起きます。正門から入りなさい」


蒼い執事服のオレンジの虎獣人がバルコニーに現れた。

夜風に尻尾を靡かせながら無表情で紅い瞳を輝かせながら佇んでいた。


「殴り込みだ。暗殺者が堂々と扉から入るものか」


屋根の庇からぶら下がりながら真神は虎を睨みつけた。


五月蝿い(だまれ)。お前は暗殺者に向きません。

足音も声もうるさい。使えない警察と群れている(いぬ)め」


「はっ………。主人がいなくて寂しがって後輩を罠に嵌める性悪な(ねこ)に言われたくないですね。先輩」


 真神はバルコニーに降り立った。

即座に指に魔素を纏わせ閃光を飛ばした。

それを片目で一瞥しながらもピクリとも姿勢を崩さない虎に苛立つ。


「五月蝿い。お師匠様とお呼びなさい!!」


 直立不動。

執事の鏡のような出で立ちで腕にエプロンを掛けたままの姿。

臨戦態勢にも値しないといった態度が益々真神を苛立たせた。


真神はさっきよりも激しく揺れる縞々の尻尾が目に入り舌打ちする。


「その無表情で目をキラキラさせながら尻尾ふるの辞めてください。気味悪いです」


「冷静なときは繊細な魔術の網を解くように爪できり裂くのに。今回の結界突破は荒いですね。

激昂するとすぐ殴る癖。おやめなさい。愚弟」


「とっくの昔に破門したろうが。白哉先輩」

「貴方が勝手に出てったのでしょう。老け顔」

「ちッ」

「口で勝てないからと舌打するのも辞めなさい」

「あ!の!で!す!ね?

慎一郎はどこですか?!それだけ分かれば帰りますよ!」

「いつでも帰れるはずなのに帰らなくて困っているのはこちらです。

説得してくれませんかね」


「はあ?!」

「五月蝿い。こちらです」


真神はバルコニーから室内に招かれやっと《アマリリスの館》に入館したのだった。



「ぴッぴぴぴ………ぴぅ………」


応接間の玉台の上にふかふかのクッションの上にそれはいた。

萎びて打ちひしがれたように涙を流す雛が。

大人の手の平サイズの梟の雛だ。

白銀の丸いフォルムに変化してしまった己を憂いでいるのか。

ままならない現実に悲壮感がぷっくりした背中と尻尾に現れているように見える。

真神は同情した。


「慎一郎………」


駆け寄ろうとした。

それを制止された。促したり止めたり一貫性がない行動にイライラした。


「最初は愉快だったんですがね。

りん様がお風呂に入れようとしたり餌付けしようとしたり、一緒にベットに入れようとしたのを必死で逃げ回り………」


「なるほど。こいつなりに守りたい一線はあったか」


召喚解呪の手伝いを拒否され雷に打たれた時には焼き鳥にしてやろうと思った。

その時の怒りはすでにない。

あの時は慎一郎も混乱していたのだろうと。


「番の誘いを断ったのです。

何故拒否したのかと今更打ちひしがれて泣いてます」


「帰ります」

「待ちなさい」


 馬鹿らしくなってバルコニーに向かったのに、ガシリと掴まれた肩が痛い。

ギシリと食い込む爪がどんどん真神の詰襟の肩にめり込んでいる。


「このッ………離せ」

「私としては。貴方が契約してくれないかと踏んだのですが。

あてが外れましたが慎一郎君でも十分でしょう。

少しかわいいフォルムに威厳はありませんが」


「やはり貴女ですね!?召喚紙に契約インクで呪文を書かせたのは!!」


「はい」


「その「それがなにか?」の顔辞めてください。殴りたくなります」

「当たりませんからどうぞ」


踵を返し簡単に背中を見せる虎にまた舌打ちしながら真神は雛に向き合った。


「慎一郎………。お前。ペットに成り下がるのか」


クッションの上の雛がピクリと身動ぎした。


「番の側にいて護りたいのはわかるがな。

あいつ自身を鍛えんとお前はずっとそのまま(・・・・)だぞ。

召喚されているこの状態のほうが真には守れん」


雛はそのつぶらな緑の三個の瞳を潤ませながら睨む。

全くもって怖くない。

抗議するように鳴いた。


「ぴッ………。ぴぅ………」

「あ?!

求婚に、求愛に、同衾の誘いをされた?

ああ………。

召喚は《求婚》だな。《求愛》は………。餌付けか?

《同衾》は。お前。あいつがそこまで考えてないのくらい分かってて嬉しいのか?

だから断ったんだろ?理解しとるのに悔しいのか。

俺なら?そんなことされる前に俺の屋敷に連れ帰るわ」


「ぴッ………」

「引くな。俺も自分に呆れる」


ひぐひぐ鳴くのが落ち着いたのかふんぞり返る雛に呆れながらも真神はそれを突付いた。

プルプル震える腹が滑稽だ。


「召喚は《同意》がないと成立せん。

あいつには炉度(ランク)不足だと説明する。

お前も適度に拒否しろ。

数回に一回は召喚拒否が丁度良いだろう。

……その姿では牙の研ぎ方も教えられん。青年(もとのすがた)に戻れ」」


「ぴぅ………ぴぴぴ」

「あ?

一回味わってしまった無償の温もりには抗えない?

知るか。苦しめ若人」


「ぴ!ぴう!!」

「は。俺とは同い年だな。分かっとるわ」


真神は顎をかいた。

手触りは中年のそれだ。

そのざらつきが今は慰めになる。


目の前の青年と同じになりたくない。と。


ーーー恋には狂うものではないな。


誰よりも冷静で誰よりも博学な友人が堕落していく様は情けなくも喜ばしい。


ーーー締める役目は俺だからな。


「帰るぞ」

「ぴ」


ボふんーーー。


 目の前の雛が紫の煙に巻かれ消えるのを見届けてから、真神は応接間を後にした。


「お邪魔しました」


キッチンでグラスを拭く執事に不本意ながら声をかける。

振り向きもしないし返事もしないものを待つ義理はない。

真神は一礼してから踵を返した。


「鈴蘭の君のほうがあの呪文を唱えたら。

誰が召喚されたんでしょうね」


呟くように溢れた言葉に脚は止まる。


「私なら神獣化するほど激昂しません」

「貴方とは言ってはいませんが」


舌打ちしながらも無視できない己が腹立たしい。


「あのカルテを見ても冷徹ですか。君は」


冷徹。そう言われて不快になったのは初めてかもしれない。


「あれへの怒りは彼女の物だ。俺ではない」

「………。見込み違いでした」


置かれたワイングラスがカタリとなった。


「リリス様の不在は心配ですか。先輩」

「私は《屋敷を守る者》。城の中までは無理ですので」

「我等がいます」

確実(・・)にしたかったんですよ」

「………慎一郎には必要ありませんでした。あんな契約」

「えぇ。でしょうね。

素直になれない狼(・・・・・・・・)を狙ったのに見込み違いでしたよ。


君なら。

君なら彼女を守ってくれると踏んだんです。

慎一郎君のほうが熱烈だったんですね………意外です」


「………失礼します」


真神は闇夜に紛れて消えた。

月夜の光に目を背ける。

嘲笑うように見えた月が微笑んでいるように思えるから重症だ。

背けた所で脳裏から彼女は離れない。


ーーーあいつが唱えたなら。俺は。


子犬なんてものではない。

狂犬になったかもしれない。


真神は顎を触りながら目を瞑り考える事を辞めた。



ーーー数日経ち。



「ぴよ。ピピッぴぴぴう!」


「「「かわいい〜」」」

 

ただでさえ囂しい(かしましい)クラスに雛鳥の声が加わった。


「フワピィ君。今日も会いに来てくれたの?」


「ぴよ!」


「うふふ!うれしい!」


「あれ。りん様にしか触らせませんね?」

「《獣魔》は主人にしか懐かないよ」

「すげ。こいつ一丁前に男威嚇するぞ」

「いたッ。いたいな。なんでこいつ突付くんだ?」


「フワピィ君。怖いのかな?大丈夫?」

「ぴッぴぴぅ………」


「「「「かわいい〜」」」」


「なんか、あざといな」

「あれは雄の目つきだぞ」

「気難しいペットだなぁ………」


そんな会話が教室の日常になりつつあった。

そのことにゲンナリしながら真神は怒鳴った。


「佐藤 りん!!」


「はい!!」


「それを仕舞え!!」


「はい!!」


少女は抗議するように鳴く《フワピィ》などとふざけた名の雛を苦笑いしながらもテキパキ強制的に魔方陣に押し込む。

その技だけは上達した少女を睨む。


「ペット扱いするなら教室に持ち込むな。

ちッ。獣魔特別授業が必要みたいだな」


真神の特別業務は増えるのだった。

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