表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/89

身体検査 5.りんのフワピィ


 「失礼しま〜す。御嶽先輩………。あ。同じになっちゃう。四郎先輩はいらっしゃいますか〜。

佐藤 りんです〜」


 コンココ、コンコンと、扉を叩いてから入室する。

真神教諭の忠告通りに。

返事がなくても入っていい。

部屋の主でもないのにそう言い放ったのだから、真神教諭は四郎先輩の先輩なのだろうか。

何故、御嶽 四郎という学生だと教えてくれなかったのか。

この部屋の主としか言わなかったのは何故なのか。


ーーーあ。でも。


りんは思い返してみた。


ーーーこの部屋は誰の部屋ですか?なんて。

聞かなかったのは私だったかも。


あの日はあのかわいそうな紫色のふわふわを救うことに興奮して、ろくに話を聞かなかった気がする。


ーーー結局ポイッて部屋の外出されたもんね。


 この部屋の管理上の教諭は真神教諭なのかもしれない。

本当に用事があるなら施錠され入れないらしいから大丈夫なのだろう。


 一週間に一度という言葉に遠慮はしたのだけど。

サチ婆からも促されたならしかたない。

仕方ないはず。

………本当に仕方なく訪れたのだ。


襟を触りネクタイを手鏡でチェックした。

岸も澪にも理由をつけて同行してもらわなかった。

ノブを握る手が汗ばむから何回もハンカチを出したり閉まったりした。


ーーーごめんなさい。ウキウキしてます。図々しい自覚あります。申し訳ありませんッ!


 頬の火照りを手で押さえながらもりんは入室した。

久しぶりの《魔獣研究予備室》は変わらず部屋の主の個性溢れる空間だった。

だけど。


ーーーあれ。なんだろ。

無臭………?違うな。森の空気に生活臭が吸われたような感じかな?


前回香っていたこの部屋特有の香りが薄くなってしまったような気がした。



本棚の古い紙の匂い。

インクの匂い。

保存液の匂い。

飾られている観葉植物の匂い。

森の中の瑞々しい葉の香り。

土にまみれたような獣の匂い。


 その全てを合わせたようなあの人の匂いが薄れている。

それに少し寂しく、がっかりしてしまった自分にツッコミながらりんは部屋を見渡す。

静かだ。

まるで静寂の森の中に迷い込んだみたいだ。

多分生き物の気配がしないからかもしれない。


「あれ?ふわふわちゃんBIGもいない?」


あんなに大きな紫色のかわいい毛の生き物を探すけどいない。それにもがっかりしてしまう。


「四郎さん。留守………なのかな?サチ婆は必ずいるって言ってたのにな」


 壁紙の蔦が淡く翡翠色に光っている。

りんの部屋にある壁紙とそっくりの壁紙だ。 

あの凹凸も艶も本物のような蔦の壁紙だ。

触るとじんわりと温かい温もりのある、りんが大好きな壁紙。


その壁紙の蔦が少し動いた気がした。

撫でるとかすみ草の模様が浮き出した。

青い小さな花の模様が浮き出たのだ。


「綺麗………」


優しくそっと撫でると花の絵が踊った気がした。

普通の壁紙じゃないと思っていたけどやっぱり魔法の壁紙だったらしい。


「四郎先輩。かすみ草が好きなのかな」


 奥のパーテーションの奥を覗いてみる。

今回はローテーブルにはお茶も何もない。

変わらずあるのは応接セットの背面の本。色んな大きさ形状のガラス瓶が少し配置換えされていた。


半透明な黄緑の液体の中には花や植物の標本が増えていた。脈打つ紅い宝石のようなもの。牙や角らしき尖ったものはビロードの布に並べられているのは変わらない。


本棚も変わらず鬱蒼とした知識の森のような佇まいだった。


その一角の本も変わらず綺麗にイニシャル順に並べられていた。


「やっぱり。これ御嶽さんが書いたのかな」


見上げた先の本の背表紙をそっと撫でた。


『君の友達が魔獣なら?』 

『人工魔素生物には自我があるのか』

『不思議な魔植物』

『魔獣の巡る人生と罪、贖罪と食材としての人生』

『魔獣をペットにすることの残虐性とは』

『魔獣を美味しく無駄なく食べよう』


 それらは全て『S.M著』と記されている。

魔獣や魔植物についての本。

りんはあれから全てを取り寄せ読みふけった。

分かりづらい解釈などは書き記した。

それらの本が今は三冊目になる。


「留守なら………。これもお渡しできないかな」


 りんは白哉と作ったクッキーと手紙を見てため息をついた。

クッキーは四郎への賄賂で手紙は御嶽へのものだ。

ラッピングも手伝ってもらった。

キラキラのお星様を集めたような油紙をリボンで括ったものだ。


「あまり仰々しいと愚かなものは勘違いしますからね。

このくらいが程よいでしょう。青二才には」


と白哉呟いていたから良い出来なんだろう。

孤児院のチビ達からの手紙に紛らせてりんからの手紙も入っている。

その内容を思い出して今更ながら恥ずかしくなった。


「慎一郎さんになんて手紙を書いたらいいのか?ですか」


白哉は珍しく驚いた素振りをした。

りんやチビ達が悪さをしても微笑を浮かべ目は決して笑わない白哉だが、りんが学校の話をするとこんな顔をすることがある。

凄く可愛らしい便箋も、キラキラ光るインクも用意してくれたのに内容まで相談するのは忍びなかったけど。

それでもその時のりんには彼の助けが必要だったのだ。


「お礼………を伝えたいのですよね?

素直なお気持ちをしたためるのが一番でございますよ」


「素直な気持ち………」


その時囁かれた《例》を書き綴じた。

それが今更になって恥ずかしいのだ。


「『会えなくて寂しいです。慎一郎さんに逢いたいです』なんて。チビ達も書いてるような………。

子供っぽいよね。ううん。子供なんだけど。

大人なダンディな慎一郎さんに呆れられちゃうかも………」


そう思い始めたらもうダメだった。

せっかく綴じた手紙を開けて1枚の便箋を引っ張り出した。


『会えなくて寂しいです。慎一郎さんに逢いたいです』


やっぱり子供っぽい。

捨ててしまおうか。

書いた文面を指でなぞる。


「会いたい………。慎一郎さん。ふわふわちゃんBIGにも」


「《Te tenere volo.(テ・テネーレ・ウォロー)》」


「え」


文面を目で辿っただけなのに口から零れ落ちたのは言ったことのない言語のはず。 

でも。

意味はわかった。

望む。強く。繋ぎ止めたい。離したくない。恋しい。



カッーーー!


りんの頭上が虹色に輝いた。

まるで文字の羅列のように編み込まれた紋様がぐるぐる回りながら光を強める。

眩しくて目を開けていられない。


ーーーボふん。


光から煙が立ち込めて何かが落下した。

それをりんは受け止めた。


「ピヨ。ピィ」


そこには。

翡翠色の瞳が三つある不思議な白銀の雛だった。

飾り羽が紫色で目がまん丸のかわい子ちゃんだった。


「うわあ………!かわいい!

なんて美しい子なの!?」


雛は困惑しているのか驚いているのか小さい羽をパタパタさせている。

つぶらな翡翠色の瞳が潤んでりんを見上げる。

その子を掲げながらりんは歓声を上げた。

何故かそうしなければと心がさけんだ。

だから。


「あなたは《フワピィ》ちゃん!決めた!」


「やめろ!《名付け》をするな!!」


奥の扉から真神教諭が飛び出したのと雛がまた光ったのは同時だった。

今度は翡翠色の光。

りんと雛の間を包むように包んだ光はコンマ何秒で消えた。

胸の奥底で何かが結びついたような感覚がした。


「あ。また光った」


りんが呟くと真神教諭がズカズカと走ってきた。

りんの腕にいる雛を認めるとどんどん顔色が悪くなる。


「これだからッ………!現し世人類は規格外なんだ!

くそッ………!」


「真神教諭。授業ぶり………ですね?」

「それを寄越せ」


真神教諭が横暴にも程がある手つきで雛を取り上げた。

次の瞬間。

バチバチッ。

激しい閃光が真神教諭を包み焦がした。


「ひゃ」


りんが思わず叫ぶほどの閃光だった。翡翠色の閃光だ。

真神教諭の顔はピクリとも動かない。

りんがおろおろする間に雛が真神教諭に掴まれた先でぶら下がりながらも暴れている。

まるで弱いもの虐めだ。

雛が真神教諭の手を突いている。

真神教諭の眉間とこめかみがひくついている。


「このッ………?!解呪してやろうと?!お前本能で喜んどるな?!」


「ぴギー!!」


雛が鳴きわめく。


「あ!真神教諭!乱暴は辞めてください!」


りんが抱き上げると雛は心地良いのかウットリと目を閉じた。


「この!くそ梟!」

「辞めてください〜雛なんですよ〜」


 真神教諭は必死の形相で雛を掴んだり持ち上げようとする。時には指先に蒼い閃光を纏わせながら捕獲にかかる。

でも小さい体のどこからそんな力があるのか。

雛はぴょんぴょん飛躍し(ぷりぷりのおしりがかわいい)ビリビリと閃光を放つ。


そんな攻防が三十分程続いたあたりで真神教諭が懐中時計を取り出した。

長い長いため息が口から漏れ出した。

りんには魂が抜け落ちる音が見えた気がした。


雛は誇らしげにりんの所へ舞い戻った。

褒めてあげなくてはいけないらしく。

りんが頭を撫でるとキュルキュル鳴く。


「………こいつは。お前のものだ。大事にしろ」

「え?!」

「契約は成された。

生き物は寂しいと死ぬのだろう。

死ぬまで責任を取れよ。ちなみにそれは慎一郎の………。

実験対象だった個体だ。敬うように」



「し。慎一郎さんの?え。私の………?」


 りんは震え上がった。

このかわいい子とりんは何やら契約をしたらしい。

ウットリと見上げる雛はか弱くなんとも愛らしい。

野生種のふわふわやリリスのペットのふわふわちゃん101号にはない絆と愛着を感じた。


「一生!!離しません!!」


「………言ったな。言挙げは命がけだぞ」


「女に二言はありません!!いっぱい愛して愛でて慈しみ敬います!!」


「ぴ………ぴい!」


「………熱烈だ」


心なしか草臥れた感がある真神教諭に追い払われて。

りんは新しい家族フワピィを抱えて帰路についた。



真神教諭が鳥に懐かれない質だという事を初めて知ったりんなのであった。


帰宅したらフワピィを見て。

腹を抱えて笑う白哉を初めて見た特別な日となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ