表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/101

身体検査 3.あの人と同じ匂いの四郎さん

 りんは面白い夢を見た。



 黒髪と金髪のお姫様がいた。

その二人をドラゴンが襲うのだ。

殺さずじわじわと。ながくながく。

時には檻に入れて。

時にはいたぶる。

血をすすり笑う。


二人のお姫様はお互い庇い合う。

一人が無事でも心が涙を流し。

一人が傷つけば同じだけ痛かった。


二人はそれでも離れなかった。

二人のお姫様にはお互いしかいなかったから。


そこに現れたのは白馬と黒馬の二人の。

紫色のモジャモジャと狼男。

魔法使いのお姉さんが連れてきた。


二人はドラゴンを退治してくれる。

犬も妖精も猿も蝙蝠も兎も白鳥も巨人も花も。

皆が助けて協力して。


姫を救ったのは王子様じゃなかった。

勇者は紫色のモジャモジャと狼男。

かすみ草と薔薇の花畑で四人は幸せに暮らす。


賑やかな楽しい夢。


「ゆめ………?」


目を開けるとそこは白い天井だった。

なにやらパーテーションの向こうが騒がしい。


「んぐ………ぐ………」


甲高い少年の声がする。

嗚咽と水ですすぐ音。

バシバシ叩く音。

喉にでも物を詰まらせた患者さんだろうか。

途切れとぎれ話す声は籠っているのか聞こえづらい。


「あんたが泣いてどうするんさ!男の子やろ!しっかりせい!!」


「あの子の………治し………氏神様か………聖女………」


「あのね。長い年月かけて塗り込められた傷は生半可の神力じゃ………リリス様も無理だよ。わかるだろ」


「僕。魔獣が嫌いになってきたかも。あんな傷。万死に値す

………。なぜ………。僕は………かったんだ

日本………カルテ………虚偽なんて………。もっと早くわかっていたなら………くそ」


「あそこのお役所は嫌な『忖度』をするのさ。

浅はかにも傷を記載しないほうがあの子の将来に響かないと考えたのだろ。本当に。浅はかな善意だね………」


「っ………………おろか………………嫌いになりそ」


「良かった!やっと継ぐ気になったかい?!」


「ッ………。こっちの人はもっと嫌だ。《診る》の辛い。

人の感情と欲望の渦が………常に………。気持ち悪い………」


「なに思春期みたいなこと言ってんだい………シー坊」

「婆ちゃん。シー坊は………やめて」

「なんだいなんだい。お前はいつまでも坊やだよ。お偉い書籍書いて魔獣研究する『御嶽 しーーー』」


濃く香った香りにりんはいてもたっていられなかった。


「御嶽さんをやっぱりご存じですか?!」


りんが叫んだのと二人が振り向いたのは同時だった。

岸はいなかった。

いたのはサチ婆と。

背の高い白衣を着た青年。


長い白銀の髪を結いて後ろに垂らしている猫背の。

眼鏡のマスク姿の人。

匂いは同じ人。

だけど。


「はじめまして」


そう青年は首を傾げながら言った。

呟くような囁くような声で。

聞いたことのない声。


「あ………。ごめんなさい。叫んじゃった。

えっと………はじめまして?おはようございます」


りんは慌ててお辞儀をした。

既視感がある青年だ。

似ているのだ。彼に。

じっと見つめるりんの視線が煩いのだろう。

彼は顔を背けどんどん縮こまった。


「気づいたかい。体調は?」

「スッキリして………ます?」

「良かったよかった。孫もやっと役に立った」


サチ婆はニッコリと笑った。

りんの肩を擦りながら「良い夢だったかい?」と呟きながら飴をくれた。


「恥ずかしながら………心地よく………」


りんはよだれがついてないか頬を触る。


「御嶽か。どの御嶽だろうか?

うちの孫はみんな御嶽だから、どの孫かね?」

「お。お孫さん?!」


サチ婆が眼鏡をクイッとしながら青年を見上げている。

青年は目を合わせないように空を見上げている。時折咳をしながら。


「一番上は現し世かぶれの魔獣オタクで。

なかなかこちらの修行をしないのがいるんだがね。

何を思ったらこちらに定住する気にはなったやつもいるし。ドラゴン追いかけるやつもいるし。

役人してるのもいるし。

まだ思春期もいる。赤ん坊もね。曲者だらけさ。

りん嬢の言う《御嶽》はどの変人かね?」


りんは深呼吸して使命感を持ち説明した。


「白い紳士の大人な御嶽さんです!!白銀の艷やかな短髪がダンディでして!オシャレな白いスーツを着こなす方です。

えっと。年齢は存じ上げないのですけど。三十代………くらいの。渋い大人で品があって………。優しくて………子供思いで。勇者信望者で!

言葉も柔らかくてテノールの声が素敵で。お話が上手だし聞き上手だし!

あ。いつもマスクしていて………。あとは。すごい速さで筆記します。笑顔が可愛らしい方で。

魔術もピカイチの。

えっと………。いい匂いのする御嶽さんです!!」


「ぶッ………ゴホゴホごほ」

「汚いよ。シー坊。喜んでるね?あんた」



りんはこちらの幽玄異郷に養子縁組で引っ越した経緯を軽く話した。

《御嶽 慎一郎》はりんと孤児院の子供達の恩人なこと。

引っ越しの転移以来はお会いできていないこと。

ここに《彼》の匂いがしたから知り合いじゃないかと。


興奮しすぎて頬が熱くなってしまった。


「りん嬢は《花火師(はなのかおりみるもの)》だね」

「はな?」

 

渡された花茶の甘い香りが強く、鼻が馬鹿になったような感覚になり鼻をさする。


「《花火師》ハナビシだよ。鼻が特別効いてる子のことさ。

遠くの花が咲き誇り爆ぜり散る香りまで嗅ぎ当てる。

まるで香りを見たかのように感じるもののことさ。」


「慎一郎の友達が確か《花火師》だったね?」

「そ………そうだったかな?」


青年はゴホゴホ咳をしている。


「わあ………!!」


りんは歓声を上げた。 

手を叩いて跳ねたくなった。


「慎一郎さんには大変お世話になっています。

本人にも大してお礼も言えていないのに。

先にご家族に会えるなんて!!

ご本人が立ち寄る時などあります?もしご迷惑じゃなければ手紙などお渡ししたくて………」


孤児院のチビ達も施設長だった御嶽を恋しがり絵や手紙を日々描いているのだ。

それらを伝えるとサチ婆がチラりと見上げた。

それを受け止めた青年はタジタジだ。


「しんいちろう………ね〜?どう思う?しんいちろうは」


「い。いやだなあ。婆ちゃん。

僕等孫は20人もいるんだよ?間違えないで。

僕は………。四男だよ」


「そうだった。そうだったね。そういう話だったね。

御嶽 四郎(みたけ しろう)》君〜?」


「御嶽………。四郎さんですか?」

「そ。私の孫のシー坊」


「四郎………。です。よろしく」

「よろしくお願いいたします」


りんと四郎はお互いに深々とお辞儀をした。

その後四郎はサチ婆の肩を抱きすすす………と後退する。

音もない。器用な動きだ。


「婆ちゃん!!ほんと頼むよ〜」

「呼び名が、シー坊なのは変わらずだね。それは助かるね。

私も最近ボケてきたからポロりと。ポロりしかねないからね」


サチ婆が胸のあたりを手で丸くしながら笑う。


「それ違うポロりだよ………婆ちゃん………」


四郎は眼鏡とマスクで分かりづらいけどゲンナリしているのはわかる。眉がへの字になっている。

優しくたおやかなおばあちゃんも、孫には豪胆な一面があるらしい。


「サチ婆ちゃんは美人さんで、スタイル抜群ですから!旦那様は気が気じゃないでしょうね?」


「え?」

「わかるかい!?わたしゃあ《ダイナマイトボディーのサチ》とブイブイ言わせたーーー」


二人が振り返るタイミングが同じだった。

さすが血族だ。


「すごく魅惑的なレディが奥様。

さぞ旦那様には溺愛されてますね?素敵です」


りんはサチ婆の前まで行き跪いた。

まっすぐ見上げる。

小首を傾げサチ婆の柔らかい手を両手ですくい上げた。


「働き者の手ですね。お疲れでしょう?

いち早く丁寧にエルコートするべきお方ですね。レディ。


目覚めが遅くなり、失礼しました」


奥で寝ていた無礼を胸を当てて謝罪して赦しを乞う。

立ちっぱなしだったサチ婆をカウチに誘導して膝掛けをかけた。

背後でポカンとした四郎はりんには見えなかった。


「りん嬢………。あんた。そこらの男よりいい子だね。惚れちまうよ。爺様に怒られちまう」

「うふふ。お母様と白哉さんの指導の賜物ですね?」


「こりゃこりゃ。貴公子も隠し持っといたかい!面白い子だね〜。孫が気に入るはずだよ!」


二人でクスりと笑いながら話に花が咲いた。

居心地悪そうにモジモジしている四郎がカルテをサチ婆に渡した。

「お前が話さないのかい」

「ちょっ………と。まだ気分が」

「無理ないか。お前は感じやすい子だからね………」


サチ婆はため息交じりにカルテを開きながら呟いた。

りんはちゃんと姿勢を良くした。


「佐藤 りんさん」


「はい」


「貴女は幼少期から身体的精神的に虐待を受けています。消えた傷も残った傷も。全てが指導ではない《思念》を確認しました。そして。その頃の記憶を欠落している。

リリス様はこのことを………?」


ピリついた空気にりんのくびを傾げる衣音が響く。

しばらく考えてから。

りんは慎重に言葉を選んだ。


「ご存じ………みたいです。

傷は隠せないものですから。

簡単な健康診断は受けましたし。


ただ。

リリスお母様から「忘れさせるから」と言われたきり話題にはのぼりませんね。気不味いので助かります」


りんは肩をそっと抑えた。

あの時のリリスの狼狽ぶりは心が痛んだ。

ここの人達は優しすぎるのだ。


「日本のカルテに記載がありませんでした。その事に身に覚えは?」

「え………と。 

日常生活に支障のないことは記載しないようにと。 

医師にお願いしました」

「………………ほんとに支障ないかい。ひきつれも見られたよ?小さい翼のほうは問題ないがね」


「あれ。あの翼問題ないんですか」

「あぁ。問題ないよ。まるで最初からあったみたいに馴染んでるよ。………不思議だ」


一息ついてお茶を飲む。

一番気にしていたことが大丈夫だったから気は楽になった。


「お前さん。本当にその傷。気にしてないのかい」


念を押す心配性のサチ婆に一瞬クスりと笑う。

りんの反応がお気に召さないのかサチ婆の瞳が怪訝な色を帯びた。


「痛みも記憶もないものです。傷跡は後ろだし見えませんし。現し世では身体で稼ぐ仕事は確かに頼まれづらくて。

ほら。私顔だけは良いと大人には言われました。

女の割には稼げませんがそれはそれで身を守りましたしーーーー」


ガタリ。

彼が座るには小さかったスツールが転がった。

四郎が立ったのだ。

彼の表情は相変わらずわからない。

眼鏡で隠された瞳がゆらゆら左右に揺れている。

苦しげだ。


「待って………まって。

この問答必要?過去は僕が見た。カルテにも書いた。

過不足はないはずだ。


これ以上この子に何を言わせたいの?

傷えぐるようなことしないで。この子急に思い出したら?

忘れるほど辛かったんだよ?

身体も心もボロボロなのに自覚ないことのほうが恐ろしい。

傷の悲鳴も魂の叫びもこの子にはわからないんだ。

わからない………まま。魂………ぶれて………あぁ………………………ぐッ」


「四郎さん?」


ふらふらと口を押さえながら離れていく四郎の猫背の背中を目で追った。

サチ婆に目線を戻すと首を振っている。


「ほっときな。若くて青いんだ。修行不足は酔うし溺れやすい。

ーーー気にかけた子なら尚更だがね」


「酔う………」

「りん嬢の傷の記憶を見たのはあの子だからね」


《御嶽家》のギフトは魂の感知と《触診(ハウトコンタクト)》らしい。


「それは………?」


「簡単に言うと。傷の記憶とその人の感情に潜り込み追体験するギフトさ。

わたしら《医療家系》には便利なギフトだよ。

気を失った怪我人と問答出来ないだろ?

話せない生き物もいるし。役に立つ。

………望まないと呪いだがね」


ーーー私も忘れてわからない痛みにあの人が苦しんでる?

それってすごく申し訳ないな。


気の毒な仕事をする人だ。

まだりんや岸と変わらなそうな若い青年がだ。


「あらら。りん嬢は自分の痛みより他人の痛みには敏感かい。

こりゃ………。神様に好かれやすい子だね。気の毒だね」


「神様………に好かれるのは良いことでは?」


サチはカルテを書きながらこちらを見る。

手元を見ない筆記の仕方に覚えがあってりんは見つめ返す。

頬が熱い。


サチ婆の瞳に憐憫の色がした。

可哀想な子をみる目だ。


「神隠しを知ってるかい?

あれが子供に多いのは純粋だからだ。疑いを知らぬ魂は美味いのさ」

「神隠し………」


「神に愛されるのは名誉かもしれんが怖いんだよ。

まあ。なにが怖いのかは先生が教えてくれる。

それらを上手く躱す術もこの学園は教えてるよ。力だけチョロまかすやり方とかね。

日本は古代からそういうのがずる賢いのさ。よく学びな」


「はい!学びます!」


りんは手を挙げて宣言した。


「いい子だね」


サチ婆がりんの頭をわさわさ撫でた。

その撫で方も家族だからか御嶽に似ていた。


「だから!僕いい子って…………書いた………んぐ。んえ………」

 

「四郎さん!?」  

「軟弱者め。目障りだよ。もう部屋もどんな」


サチ婆は四郎を睨みつけると手を振って下がらせてしまった。


「大丈夫………でしょうか………」

「あの子。上の階に寝泊まりしてるんだ。気が向くなら覗いてやっとくれ」


「上の階………?」  


心臓が跳ねた。


「《魔獣研究予備室》さ。あの子飛び級で色んな資格を取っててね。

あまり学生してないがここのれっきとした五年生さ。講師もしとる。ここ養護室の助手もね。外部の仕事もあるけどね」


「ここの助手もされて………学業も」


同年代とは思っていたけどやっぱりここの学生で先輩とは。

多才で多忙な先輩みたいだ。


「慎一郎は。あやつは………気まぐれさ。ふらっとここに来るかもしれん。言付けや手紙は四郎に頼みな」


「はい!ありがとうございました!」


りんは記入済みのカルテを受け取りペコリとお辞儀した。


「リリス様が養子に迎える前の傷と書いたからね。明らかに長年の蓄積傷。現し世での事だと。

これ。必ず親に渡すんだよ。リリス様に」


「わかりました」


「これは決まりだよ。ここの法律さ。

リリス様がどんなに英雄でも偉大でも罰は変わらないよ」


「罰………?そんな大げさな」

「だからこその《健康診断》。さ。さ。お行き」

「ありがとうございました!失礼します!」


りんは養護室を後にした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ