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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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飛行訓練 4.《翼はわれのもの》


 りんは今非常に窮屈な状態だ。

心持ちもそうだけど、物理的に窮屈なのだ。

りんは三人からギュウギュウされていた。

窮屈だけど幸せな窮屈である。


「りん様っ………りん様っ不肖澪。貴女様の勇姿をっ………見損ね………くッ」

「りんちゃん………んん!んん!」

「りんっち。なにそれ、かわわ!」


 澪は泣き通しだ。

彼女は気づいたらスタート地点。一番上の紫紺の雲まで辿り着いていたらしい。

下の騒ぎに急いで駆けつけ。(ほんとに空飛ぶパンプスのまま走ったらしい)

気を失うりんを見た。

その後の嘆きようと岸への当たりがすごかった。


今は何とか落ち着いている。


 咲はすっかりりんに心を許し離れなくなった。

りんは妹が増えたような気がして可愛くて仕方がなかった。

ナタージャが、りんの制服から飛び出るように背中にひょっこり存在するものをつんつんする。


 それは銀色の小さな小さな翼だった。

翼と呼ぶには小さいそれ。

羽根は生えているのだけど小さな雛のような毛並みだ。

触るとプニプニしている………らしい。

りんには触れない位置なのが残念だ。


「こんなちっちゃい翼?が。

火事場の馬鹿力であんな大きくなるなんてね〜」


女の子皆がつつきだした。

りんは笑いを堪えるのに精一杯だ。

くすぐったくてたまらないからだ。


 あの飛行訓練(「恐怖の調教教官のド鬼畜飛行実地実験」と皆が呼ぶ)は午前中のほんの一時間の出来事だ。

授業なのだから誰も怪我しなければ次のコマも続行だ。

午後までの授業もみっちりある。

激動の時間もここでは日常なのだ。


「ね!?間近で見たのは咲っちだけだよ?

詳しく聞かせてよ〜〜」


「眩し………くて。温かく………て。見えな………んん………」


「眩しくて見えなかったのか〜〜どんまいじゃん〜」


ナタージャが咲を揺さぶりながらもこねくり回す間にも、澪の嘆きようが止まらない。


「ぐッ………りん様の………勇姿………さぞ。かっこよく………」

「澪ちゃん。私もよく覚えてないの。ごめんね」

「ご無事でッ………良かった………良かった………」

「ごめんね。心配させて」


泣き出す澪を擦りながら。

りんは空を見上げて思い返した。

さっきまでいた紫色の空。

お腹が空いてしまってあまり頭は働かなかったけど。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「りんさん!りんさん!」


 背後で星の声がした。

申し訳なかったけど、振り返る暇はなかった。

りんは恐慌状態の咲に声をかけ続けた。

落下した咲に追いつくには風船を手放すしかなかった。

今は二人とも急落下中だ。

もう目の前は天守閣の瓦の凹凸がわかるくらいに迫っていた。


「桜は………暑くなると散る。

花は散る………散って………枯れて………塵に………」


 咲がそう呟くたびに彼女の周りに残っていた花弁まで塵になった。

りんは歯噛みした。

魔術は《気持ち》次第なのだ。

妄想力と創造力で無限の可能性があるもの。

逆に。

絶望して諦めてしまうと破綻する。


「咲ちゃん。貴女が願えば枯れない花も咲くよ。

咲ちゃん!咲ちゃん?!私も創造するから!ずっと花が咲く世界を思い浮かべて!!」


「りん………ちゃん………こわいこわいこわいこわい」

「うん。こわいね。私もだよ。一緒だ」


りんは涙に瞳が揺れて焦点が合わない咲をぎゅっと抱きしめた。頭を撫でる。

動転した子供はなかなか落ち着かないものだ。

しかたない。

しかたないのだけど。

もっと早く何かが出来たはずだった。


 元々気弱な咲だ。

時間がない中、劇的な問いかけなど間に合わないし、りんには無理だ。


背後の星が叫びながらも追いついてくれたらしい。

翼が重力に逆らい羽ばたく音がする。

必死な様子に罪悪感が募る。


ーーー裏切り者って思ってゴメん。見守ってくれてたのかな。


 星がりんの制服をつかむけど背中が破けた。

星が一瞬悲鳴をあげ、歯噛みする。

今度はりんの腰に手を回し引き上げようとする。

いつも冷静な星の手つきが荒い。星の汗が散った。

それでも落下速度は変わらなかった。

寧ろ速度は上がる。


ーーーここでは重力の法則も無視ですか?!

ガリレオ泣いちゃうよ?!


ガリレオの落体の法則や、慣性の法則がまるで通じない世界に白目をむきたくなる。


会ったことないおじさんの泣きべそを思い浮かべた後。

りんが思ったのは。


銀色の大きな翼のあの人。

その人はここにいない。

だから。



「たすけて………らん」


呟いた。

意識はある。だけど賭けだった。


ーーー『お断り。最近平和ぼけが過ぎないかしら?』


頭とも胸とも言えない場所から響く声。

時折会話する《もう一人の自分》だ。


ーーー助けたいよ………。力を貸して。

ーーー『貴女自身の危機じゃないのよ。貴女一人なら間に合う』

ーーー見捨てるくらいなら………。

ーーー『………。そうやっていつも。

連日夜働かせておいてまた《私》なの?』


ーーーごめん………。どうしたらいい?

ーーー『りん。貴女は知ってるのよ。覚えていないだけ』



もう天守閣も目の前だ。


ーーー『思い出して。貴女は。《飛べるの》』


《飛ぶ》ではなくて《飛べる》。

らんの言葉がすとんと腹に落ちた気がした。


「Alae mihi sunto.(アーラェ・ミヒ・スントー)!!」


欲求の赴くまま叫んだ。

りんの背中から虹色の光が溢れ出した。

淡い光の中で銀色の羽毛が視界を覆った。


ーーー『まだまだ、だめね………。正しくは

Habeo alas.(ハベオー・アーラース)よ』


ーーー『《翼をください》じゃないの。

《翼はわれのもの》なのよ。貴女のものなの。忘れないで』


その声を最後に。

りんの意識は途切れたのだ。


 

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