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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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飛行訓練 1.飛行訓練と言う名の地獄


 「飛べ」


「「「「「「「「「え」」」」」」」」」


「正確に言うと《飛び降りろ》。

いつまでも魔素に愛されていると思うな。

大人は、魔素を屈服させ従順にさせねば扱えん。

いつまでも子供でいる気か?

それも良かろう。自由は尊ぶ」



「だがな」



「ぬるま湯でこの《金剛の宮》の使用権利が永遠と思うなよ?烏滸がましいにも程がある。

貴様らは《運良く》ここにたどり着いたにすぎん。

最近浮かれて浮足立っている貴様らに似合いの魔術だ。

《飛べ》。

相応しくないとこちらが判断したら退去だ」


つい昨日まで優しく温かな授業を受けていたのに。

金色の瞳と金縁の眼鏡の悪魔が本性を現すなんて思いもしなかったりん達は、悲鳴すら出せないまま紫紺の雲から突き落とされた。


振り返ると足蹴にした真神教諭とその背後で黒い翼を広げて苦笑いする星が見えた。


紫紺の雲に隠されていた下界は下の色が分からないほど遠い。

まるでぽっかりと口を開けた悪魔の口の中へのダイブだ。


「浮遊魔術の呪文は〜?!」

「え?聞いてない?!説明は?!」


叫びながら落ちる面々がさらに叫ぶ中。

真神教諭が呟いた。


「教えん。自分で編み出せ」


「「「「「「「「「鬼教師〜〜」」」」」」」」」


 頬が抉れるような風圧を感じながら降下していく。

腹の辺りを温かいものが冷たい絶望に塗り替えられていく。

さっきまであんなに皆で楽しく笑い合っていたのに。

金剛の宮へ入室したことへの喜びを噛み締めていたのだ。


確かに。

浮かれていたのかもしれない。


 ーーー三十分前。



「きゃあ!岸くん〜♥」

「勇者筆頭!婿殿筆頭〜♥」

「あ!猿田くんこっち見て〜!逞しい〜!」

「澪様〜りん様ともっとくっついて〜♥りん様は?

りん様はどこなの?!」

「あ〜ん♥琥珀くん可愛い〜」

「ナタージャ様〜美しい〜♥」

「あれ。あの水色髪の子。かわいくね?」

「アンテ〜今度実験棟来いよな〜サボるなよ〜♥」

「ミステリアス星様〜!ライバル滅ぼして〜♥」



「ど。どしたの。みんな」


学園に馬車で到着すると。

本館前広場は騒然としていた。

人、人、角、尻尾。人、人。人型じゃないものまで。

有象無象の人垣?(人以外の群衆はどう言うのだろうか)に囲まれた一段がいた。


猿田はどこかのボディービルダーのようなポーズをキメている。

琥珀と咲は恥じらい耳を真っ赤にして下を向き。

アンテは微弱な風魔術で前髪をかきあげさせドヤ顔だ。

ナタージャはストリップのオネェさん風に魅惑のダンスを披露。いい匂いがした。

星くんの残像が高速空高く飛び上がり。逃げたみたいだ。

澪はりんを見つけるとこちらに駆けつけようとして、群がる乙女達に囲まれワタワタしているし。


岸は。


「げ。り………りん?!ちがっ………ちげぇんだよ!」


「ん?どうぞ?かっこいいかっこいい。続けて」


りんはニッコリ笑うけど岸はどんどん色を失う。

岸は。

皆の中心で腕を天高く掲げ。

まるでアーサー王がエクスカリバーを抜き取った時の円卓の騎士風に光の柱を天高く出現させている。


ノリノリだ。


現し世ではりんのトラブルに巻き込まれてりんしか友達がいなかった岸だ。

皆と打ち解けて悪ふざけが出来ている現状にホッコリしながら、りんは見学した。


「やめろ!エロ本見つけた母ちゃんみたいな目をするな!!」


「きにしないで〜つづけて〜」


「岸エロ本あるんだ?」

「岸むっつり〜」

「岸最低〜」

「いや〜ん♥えっち♥」


「おめぇら、煽りに煽っといて裏切るのか!?」


岸が顔を真っ赤にして怒っている。

猿田もナタージャもアンテも琥珀も。

口に手をやりニヤニヤしながら軽蔑の目をする。

ノリがいい。

仲良しである。


「岸よ。りん様のお目を汚す存在と認識した。

貴様のエクスカリバーをもがせてもらうぞ!」


澪が岸のエクスカリバー(光の剣)を手刀で斬った。

厳密に言うと岸の手首に物理的に手刀を叩き込んだから光の剣は消失した。


さすが、有言実行の女、澪である。

ノリがいい。


「やめなさい!女の子が「もぐ」はだめだろ!」

「貴様!女と愚弄するか?!」

「話が通じねぇヒステリーかお前は?!」


 今日も平和だ。

皆が笑顔だし元気だ。


 たくさんの異形の波、坩堝の狂乱、種族のサラダボウルの中を掻い潜りながら元ボロボロの小屋エレベーターに乗り込んだ。

今や小屋はすっかりリフォーム済だ。

石膏やペンキを持ち寄り、学園長がそれらを紫紺の雲防雷仕様に魔術を込めた。(本当にリリスお母様はかっこいい)


皆が好き勝手に修繕したからカラフルな虹のような素敵な小屋になったのだ。

誰かが目に優しくない。無秩序だと言ったけれど。


ーーー賑やかな坩堝のような私達らしいと思うんだよね。


りんには最高の小屋だ。


「わ………。綺麗な景色………」

「どんどん学園が見えなくなってくるね?」

「大気圏あるかわからないけど、かなりの高度だよね」


 眼下の景色を窓を明け放ち眺める。

紫色の空は抜けるような透明度だ。

すごい速さで浮上するから景色を楽しむ暇は少ない。

木々が見えなくなり、雲を置いていき、鳥も追い越し、妖精に見送られ。

高度が上がると紫色の空が濃く見える。

まだまだ上はあるみたいだけど見えないから分からない。


今日も楽しい授業が始まるのだ。


「本日は飛行訓練を行う」


「「「「「「「「飛行訓練?!」」」」」」」」


「一斉に囀るな(さえずるな)。そのままの意味だ。移動するぞ」


金剛の宮から出てたどり着いたのは小屋。

の横にある池みたいな所だ。


「あ。《写し鏡の池(そこなしいけ)》だ」


りんが呟くと皆が裸足になってその池にダイブした。

その池は透明な水が張ってある美しい水辺である。

紫紺の雲の上に池があるのも面白いのだけど。

この池が面白いのは他にもある。


「お。岸の嫁候補が泣いとるぞ。

岸がいないのが寂しいらしいな」

「あ。ふわふわちゃん達が遊んでる〜」


その池の底は透明で。

下界の様子がストリートビューのように映し出されるのだ。

底がないように見える透明で綺麗な池だからそこなし池(・・・・・)

面白い池である。


「りん来ねぇの?」


「ん………。私のブーツ脱ぎづらくて。

待ってて………」


りんがモタモタしている間に


「貴様!りん様を急かすな!お手伝いをしろ!」

「ばッ………。女の靴脱がすの手伝ったら変態だぞ?」

「はあ?紳士教育も従者教育も出来てないのか?!貴様は?!」

「え?ここの男はそんなに女の子につくすのか?!

靴の履き脱ぎ世話すんの………?」

「当たり前だろ?!」

「父は母にしてるな」

「姉ちゃんのやらされる」

「え?ここの常識なの?!」


何やら靴のことで盛り上がっているのを片耳にりんは下を向く。

星がチャックの下ろしてくれた。

すごくさり気なく自然に。

まるで白哉のようだった。


「ありがと。星。優しいね」

「う………。いや。普通だよ」

「ジェントルだあ………。私も見習わないと」


星と話していると影が差した。

星の顔が引きつった。


「今朝は随分とお楽しみだったみたいだな」


背後のバリトンボイスに背筋が伸びた。


「貴様らは《運良く》ここに辿り着いたに過ぎんぞ。

浮かれずに真摯にこの栄誉ある《金剛の宮》へ唯一入室したことへの誇りと自覚をーーーー」


「だって俺等《天才》だしな?」

「《希望の有望勇者候補》だし〜?」

「仕方ないよ。可愛い子ちゃんがほっとかないんだ」

「君は男にしか声かけられなかったじゃん」


猿田と、ナタージャが胸を張り。

アンテは琥珀に指摘されたことがショックなのか泣きべそだ。

咲は池の小魚と蓮の花と戯れて。

岸と澪は喧嘩している。


真神教諭のこめかみがピシリとピクついたのが見えた。


「ほ………う?天才か」


地獄の底から絞り出したかのような声にりんは硬直した。

横にいた星も青褪めている。


その他のみんなはまだそれに気付かない。


「なら。飛行訓練などいらんだろう。

実践だな。そうかそうか。そんなに優秀なんだな。貴様らは」


「ま。真神教諭?

落ち着いてください。こめかみの血管がちぎれそ………」


りんが降参の意を込めて両手をあげる。

そんなりんを一瞥して今度は眉間の皺が渓谷並みに深くなった。

口元だけが不気味に歪み笑みの孤を描いた。

目は笑っていないのに。


ーーーひ!藪蛇踏んだ!


 背後ではまだ楽しそうな笑い声がする。

咲が蓮の花を増産させ浮かべて笑い、アンテが泣きじゃくり、岸と澪がまだ怒鳴り合う。つかみ合いも始めた。

猿田は半裸になり小魚咥えているし、琥珀はアンテに飽きたのか水草を《構造解読 スキャン》している。

そのカオスな中心で、一人真神教諭だけが冷徹な絶対零度の空気を纏っていた。


「《飛べ》」


猿田が消えた。

正確には足元からザブンと沈んだように見えた。


「え?」


りんが真神教諭と猿田がいたあたりを交互に見て。

真神教諭の口元の笑みとこめかみのピクつく血管の脈動を見て。また猿田な消えた位置を見て。

声を失った。


「《飛べ》」

「《飛べ》」

「《飛べ》」


ナタージャ、アンテ、琥珀も消えた。


「「「え?」」」


やっと周囲の状況に気づいたらしい。

岸と澪を仲良く消えた。


怯える咲も摘んていた蓮の花ごと消えた。


「ちょ?!みんな?!」


りんは駆け出した。

ブーツを気にせずザブンと池に入ると。

底には。


黒い穴が人数分。


「真神せんせ?ど。みんなどこです?!」


真神教諭は口元に手を置きながらもっと凶悪に笑った。

彼は悪魔族なのだろうか。そんな種族があるか知らないけど。

恐怖の大魔王とはこの人だという凶悪な顔をしていた。


「佐藤 りん。貴様はまだ礼儀正しく、聞く耳があるから猶予を与えた。


妄想力と創造力は違う。

形ないものを。光のようなあやふやなものなら容易く具現しうるが。

自身の身体を支えるものを具現化するのは難易度が上がる。

慣れ親しんだものを思い描くんだな。思いの強さは魔術の基本だ」


ーーー全然あたまに入らない!


りんはパニックだ。

さっきから青褪めている星を見ると苦笑いしながら真神教諭の後ろに下がった。

りんの表情がわかったのだろう。

気の毒そうに眉を下げた。


ーーー星くん。翼がある子だ!!


理不尽なのはわかっているけど思わず裏切り者と叫びたくなった。


考えがまとまらないまま、黒い穴を覗いてみた。

そこには皆が青褪めて浮いていた。

ほっとした瞬間、影が落ちた。


音もなく真神教諭がりんの背後を取ったのだ。

喉から息が漏れ出した。


「佐藤 りん。貴様は自分から飛べ」


更なる無茶ぶりをするこの人は本当に教諭だろうか。

もう《ドS界の調教教官》ではないだろうか。


「正確に言うと《飛び降りろ》。

いつまでも魔素に愛されていると思うな。

大人は、魔素を屈服させ従順にさせねば扱えん。

いつまでも子供でいる気か?

それも良かろう。自由は尊ぶ」



「だがな」


人はこれ以上口角が上がるのかと思う程、真神教諭の口は裂けるほどたのしそうに孤を描く。 

なんで楽しそうなんだろうか。


「ぬるま湯でこの《金剛の宮》の使用権利が永遠と思うなよ?烏滸がましいにも程がある。

貴様らは《運良く》ここにたどり着いたにすぎん。

最近浮かれて浮足立っている貴様らに似合いの魔術だ。

《飛べ》。

相応しくないとこちらが判断したら退去だ」


りんの背中を小突いた感覚が走る。


「あ!陰湿眼鏡教諭!りん様を足蹴に!!」


澪の悲鳴でやっとりんは自分も落下したことに気付いた。


つい昨日まで優しく温かな授業を受けていたのに。

金色の瞳と金縁の眼鏡の悪魔が本性を現すなんて思いもしなかったりん達は、悲鳴すら出せないまま紫紺の雲から突き落とされた。


振り返ると足蹴にした真神教諭と、その背後で黒い翼を広げて苦笑いする星が見えた。


紫紺の雲に隠されていた下界は下の色が分からないほど遠い。

まるでぽっかりと口を開けた悪魔の口の中へのダイブだ。


「浮遊魔術の呪文は〜?!」


ナタージャが叫ぶから皆がますます青褪める。


「え?聞いてない?!」


叫びながら落ちる面々がさらに絶叫する中。

真神教諭が呟いた。


「教えん。自分で編み出せ」


「「「「「「「「「鬼教師〜〜」」」」」」」」」


 頬が抉れるような風圧を感じながら降下していく。

腹の辺りを温かいものが冷たい絶望に塗り替えられていく。

さっきまであんなに皆で楽しく笑い合っていたのに。

金剛の宮へ入室したことへの喜びを噛み締めていたのにだ。



りんは気絶しそうな思考をなんとか覚まして。

地獄のような絶望を直視しようと目を見開いた。


下には学園の天守閣が針のさきの点のように見えるだけだった。

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