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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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最初の授業 《魔術学》2.エクスカリバー

 岸は唸っていた。

りんも悩む。


お互いなんかかっこよく言えないかな?って考えていたのだ。

考えることが子供っぽいなとは思ったけれど。

いつもならツンと硬派ぶっている岸のテンションが何故かおかしい。


ーーーあ。岸って。

ファンタジーとか。冒険譚もの小説大好き少年だった。


 おしゃれ番長している今も、腰にはなにに使うか分からない鎖がジャラジャラついている。

小さい剣や髑髏のシルバーアクセサリーを好んでいる。


ーーーもしかしてだけど。

岸にとってもこの幽玄異郷は夢の世界なのかな。


ワクワクしている岸を感慨深く見つめた。

そのうち岸は目を瞑ると腕を高く突き上げた。

セリフを決めたらしい。


「光れ!俺のエクスカリバー!」


途端。金色の光の柱が岸の腕に落ちた。

生えたと言うより上から落ちた印象だった。

皆が悲鳴をあげる。

真横にいたりんも思わず「ひゃ」と叫んだ。


岸は。

目が開けられないのかプルプルしている。

光がステンドグラスのドームを貫いている。

でもハーラ教諭は慌てていない。


「光は物理攻撃じゃないもの〜。建物壊さないのよ〜」


視覚的には心臓に悪いけど成功みたいだ。

だってハーラ教諭のテンションが爆上がりだから。


「まあ?!さすがは現し世人類!

かの伝説のエクスカリバーを呼ぶなんて!あれ架空よ?

天を貫く勢いの剣のイメージ?

なかなかしないわあ〜。

凄いを通り越して厨二病!!素質あるわ!」


「褒められてる………のか?」


岸は苦笑いだ。


「褒めてる褒めてる!魔術は妄想力だもの!

魔術学は病的に狂う覚悟で頭を溶かす学問よ?才能あるのよ!」


「岸すげ〜」

「岸勇者候補筆頭じゃね?光の剣?(笑)強そ」

「きゃ〜岸様!優良物件更新!」

「勇者の嫁にして〜!」

「勇者の子供ほしい〜♥」


 その喧騒の中。

りんは呟いていた。

岸を見た後だとかっこいいことは浮かばなかったから。

りんは思い浮かんだものを口にした。


「ピカピカちゃん?おいで」


ぷす。


「ピカちゃん?遊ぼ」


ぷすぷす。


「ピッカピカちゃん?顔出して?」


ぷっすぷす。


指先から飛び出すのはかわいいふわふわな光の玉。

赤青黄色。緑に金色。紺色に錆色。思いつく限りの色の毛玉のようなふわふわが点滅して現れた。

 

ーーーイメージはふわふわちゃんと金平糖!


それらの可愛い子ちゃん達は跳ねて跳んで。りんの周りをまとわりつくように自由奔放に動き回る。


面白くて何回も呟いたら、光のふわふわは皆部屋中に散ってしまった。


「可愛いらしいのを作りましたね?りん様。

創造力がずば抜けていらっしゃる!」

「ちょっと元気じゃないかな?」


主人に似て皆が方向音痴みたいだ。

ハーラ教諭もクスクス笑う。


「自由ね〜。やっぱりトリックスターですのね。

それにしても凄い数………」

「あ。楽しくて………ごめんなさい」


ハーラ教諭は首を振る。


「楽しむの凄く大事なのよ〜。もっと楽しんで〜。

魔術は爆発なのよ〜」


「なんか聞いたことあるセリフだな」

「しッ」


楽しく平和な授業はあっと言う間に時間が過ぎ去った。


チャイムが鳴る。

授業は無事危険もトラブルもなく終わった。


「光は人を害する魔術じゃないから、一番安全な初心者向けなのよ〜。

次回は色んな属性の魔術の座学をしましょうね〜」


皆が光を消す中りんの光のふわふわだけがまだ彷徨っている。逃げる逃げる。

まるで生きもののようだ。


「ど………どうしよ」

「ふふ!先生消しとくから次の授業行きなさい〜」

「ハーラ先生〜ありがとうございます!」


「またね〜」


にこやかに手を振るハーラ教諭に見送られ、りん達はやっと城を後にした。


 生徒の皆は興奮して廊下を歩く。

りんと岸も初めての魔術に浮かれていた。

でも魔術に慣れているはずの皆が喜んでいる。

聞くと魔術を使うのは学園に入学しないと一生使えないままなのだとか。


「ここの子供は生まれた時に、「魔術封じ」されてるんだ。

魔素測定テストで、外されるんだよ?」


アンテが解説してくれる。

澪が電子教材を魔導端末で検索している内に。

澪の鋭い視線がアンテに刺さった。


「ほえ〜」

「魔法の国も自由じゃないんだな」


しばらく歩くと岸がすすす………とりんに近づいてきた。


「りん。ラテン語いつ習ったんだ?」


岸がりんにこそりと囁いた。


「え?習ってないよ?」

「ん?」


「………昔本で見たとか?親に教わったとか?

発音完璧だったよ。悔しいけど」


琥珀もりんにこそりと呟いた。

大きな声で言うと澪が興奮するから。らしい。


「ありがと。ん?………。なんでだろ」


りんは振り向いた。

まだ毒キノコの屋根の城では、ステンドグラス越しに逃げるように浮いている光が見える。

りんの《ピカピカちゃん》はまだ逃げ回っているみたいだ。


「………Fiat Luxフィアット・ルクス


口触りがよい気がして呟いた。

なぜかその響きが、心の奥にストンと落ちた気がした。

意味も知って成り立ちも知った後の言葉は重かった。


直後―ーー。


ドカーーン。


「え」


背後で爆音がしたから皆が驚愕している。

振り返ると。


毒キノコの屋根がなかった。

目を瞑らないと叫びたくなるほどの光源が、屋根を突き破り吹き出したのだ。

そこから漏れ出たのはふわふわした光の玉が花火のように爆ぜて。消えた。


騒然となった。


「え?ハーラ先生?!ど………どうしよ?!」


ーーーまさか。今の私の呟きがこんな遠くから発動………。するわけないよね?


りんは爆風の驚きと違う疑惑に心臓が飛び出そうだった。


「やべ………。他の教諭呼んでくるわ」

「私も行く!」

「あ!りん様は危ないです!小間使いの仕事は私が!」


生徒達も右往左往の大騒ぎだった。


その後。

幸いな事にハーラ教諭は無事だった。

城は学園長がその日の内に直してくれて。

次の日の朝には元の毒キノコタージマハルはピンクに光り輝いていた。エノキのような煙突が三つに増えていた。


ーーーリリスお母様かっこいい!


「修復しているかっこいいリリスお母様を見たかったな」とおうちで話したら。

リビングは鼻血の海になった。


ハーラ先生の様子を見に行ったらピンピンしていたし、なんなら興奮してりんの個人授業を打診されてしまった。

それはなんだか立ち消えになった。

しばらく真神教諭が渋い顔でこちらを見ていた気がする。

気がするだけだ。

「魔術教室キノコの頭が吹っ飛び事故」はこうして幕を閉じた。

新入生のフレッシュさに当てられて極大魔術を試しにぶっ放したらしい。

この学園ではよくあることだと先輩方が笑う。


「先生もぶっ飛んでんな………」

「妄想力は大人でも爆発するんだね………」


改めて坩堝学園の教諭を尊敬したのだった。


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