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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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4/50

1.王子様は男装の麗人

 これは、りんがまだ孤児院の王子様だった頃の話である。


 昔々あるところに美しい娘がいました。

まだ娘が幼いうちに母が亡くなってしまいます。

母なし子になった娘を哀れに思った父はすぐに後妻を連れてきました。

後妻には二人の娘がいたので娘には義理の姉が二人できました。


その後父も亡くなり娘の生活は一変します。

後妻が豹変するのです。

義理の姉達も輪をかけて娘を虐げます。

後妻と義理の姉達は贅沢三昧。父が遺した財産を食い潰していきます。

勿論娘は家族以下の扱いです。

部屋は取り上げられ母の形見は売り払われ、暖を取るために台所の暖炉の灰に塗れながら眠る日々。

でも美しい娘はくじけません。

持ち前の明るさで小間使い以下の生活の中でも腐らないのです。

ひたむきで健気な娘は魔法使いにお姫様のように美しく変身させてもらうのです。

その後めでたく王子様に見初められて本物のお姫様になります。何時までも幸せに暮らしました。


 小さな女の子は大抵好きな話。

大抵の女の子は生まれながらお姫様じゃないから憧れる。大きなお城。綺麗なドレス。綺羅びやかな舞踏会。運命の王子様。逆境からの玉の輿の話は総じて「シンデレラストーリー」と言われている。

可哀想な女の子が幸せになる話。

頑張って挫けなければ救われる話。

現代版では若干マイルドになっているけど、原作では残酷なざまあ展開がある。

意地悪な継母や義理の姉達は不幸な最期を遂げる。

可哀想な女の子は一切手を汚さない。王子様(権力者)が退治してくれるのだから。


美しくて可哀想な女の子を救ってくれる物語。

王子様がお姫様を幸せにする物語。


日本では有名な童話だ。



「なんで女の子達はこんなシンデレラ・ストーリーが好きなのかなあ?」


「………。お前がそれ言うか?」


「難易度高すぎると思わない?目指す身になって欲しいよ」


「………だから。それをお前が言うか?」


 菓子パンを頬張っていた男が呆れ気味に言葉を発する。するとお前と呼ばれた当人 りんは首を傾げた。

男と一緒の菓子パンを買ったのに手つかずなまま。

何故なら菓子パンよりも優先して食べなければならないものがあるからだ。


「よく食えるな」

「食べ物と愛は無下にしちゃいけないよ」

「手作りだぞ?怖くね?」

「だからこそだよ!!」


そう言いながらりんは次々と弁当箱を空にしていく。

それらはまるで魔法のようにりんの腹に収まっていく。

彼等の傍らにはかなりの数の弁当箱が積まれている。その隣に積み上がっていた綺麗にラッピングされたクッキー類もすでに空だ。

それらを毎日のようにせっせと貢いだのは先程まで群がっていた女生徒。彼女らは広い学園の中庭に徒党を組むように居座っている。

つかず離れずといった具合だ。

それはもはやお忍びのアイドルを見守る一般人の距離である。

貢物の量に驚愕する。それよりもそれを全て当人達の目の前で平らげる様は定番と化していた。一種の学園名物だ。

二人がいるベンチは学園中の注目の的である。


「あの食べっぷり!惚れ惚れするわ………」

「なんて美味しそうに食べるの………」

「上品に平らげながらも感想や賛辞を惜しまないのよ!作りがいがあるよね」


 黄色い声が(かしま)しい中、りんの唇からはため息がこぼれた。

その唇に米粒が付いているのに美しい。その憂いを帯びた瞳は薄い色素のまつ毛に陰っていた。

昼の麗らかな日差しに反射して煌めく蜂蜜色の髪がハラリと頬にかかる。

ふとりんの視線が手の中の童話から正面のベンチに向く。

ただ正面のベンチから視線を感じたから見ただけ。

そして目線が合ったから微笑んで手を振った。

それらはなんてことのない挨拶。

同じ学び舎に通う同士に向けた社交辞令だ。

ただそんなただの挨拶は破壊的だった。


 りんはただ佇んでいるだけで所作も見目も凛々しい貴公子だった。


 そこに更に表情が綺羅びやかな花のようにくるくる変える。

りんが動くたびに爽やかな風がふわりと薫るようである。

詰め襟の制服を改造もせず正しく着こなしているのに、違う制服を着ているように洗礼されていた。

モデルのように長い手足は座っていても組み替えるだけでも一枚の絵画のようなのだ。

そのなんてこともない仕草に四方からピンク色のため息が聞こえた。


 特に色素の薄い大きな瞳の眼差しの殺傷力は凄まじいのだ。

日本人離れした色彩の瞳だ。

ヘーゼルアイと呼ばれる 茶色と緑色が混ざったような色合い。光の当たり方によって色が変わって見えることがある。ただでさえ存在するだけで麗しい(かんばせ)が虹色の花がほころぶようなのだ。

それは幸か不幸か。そんな視線をモロに浴びてしまった正面のベンチにいた女子生徒達は息も絶え絶えだった。


「目がッ………目がッ………」

「はうッ………」

「耐えるのよッ………。この席を確保するのにどれだけの血を見たと思っているの!」

「保健委員!保健委員!養護の先生!!」

「うぅッ………」


ピンク色の悲鳴が阿鼻叫喚に変わる。

その様はさながら地獄絵図だ。


「おい米粒なんかつけとくなよ………お前は王子様だろが」


男がりんの頬を親指でこすった。

するとキョトンとしたりんは一瞬その米粒を見つめながら思案顔になった。

その後ほとんど表情を変えない男は面食らった。

さっきよりも大きな悲鳴が裏庭に響き渡る。


りんが親指にかぶりついたのだ。

パクっと効果音が鳴るほどの勢いに男は硬直した。


「おい………」

「今米粒弾き飛ばそうとしたでしょ?もったいないじゃん」

「………。そこじゃないだろ。気にするところは」

「お行儀は語らないでよ〜」

「そこじゃないだろ………」


食べ物は粗末にしちゃいけないんだよ!と人差し指を立てるりんを一瞥すると呆れを含んだため息を男はついた。その背中は心なしか悲哀を帯びていた。


「ひっ………」

「岸×りんよ!」

「違うわ!りん×岸よ!」

「見て!岸くんの耳が赤い!」

「ちがうわよ!王子に付き従う騎士の忠誠心よ!邪な目で見ないで!」



 周囲の姦しさにこめかみがひくついた男はピンクに染まった短めの髪をぐしゃりと崩す。


りんが花のような貴公子なら岸 護(きし まもる)は鋭い剣を携えた騎士のような美丈夫だ。

凛々しい眉毛は太く意思の強さをそのまま表したようだ。

ツーブロックに刈り込まれたピンクの髪から覗く形の良い耳にはたくさんのシルバーのピアスが輝いている。

りんが隣に並んでも見劣りしないのはこの学園では岸くらいなものだった。


「手作りは持ち帰れないからね」  


お弁当を食べ終わったりんは積み上げられた菓子パンや既製品の包んでいく。


「帰る頃には駄目になるもの、よこすなよ………」


「愛と食事はあるだけありがたいものだよ」


りんは苦笑いする。


「知らない子は知らないしね」


 

りんが食べっぷりが良いのは元々だが、

皆が貢ぐのには理由がある。


「あ〜ぁ。さすが孤児院育ちは卑しいなぁ」


過去にそんなことを零した男子生徒は裏庭から姿を消した。

女子生徒を敵に回したらしい。


りんのあまりの人気にやっかみはあった。

それでもこの学園は品行方正な生徒が大多数の治安のよい所だ。

トラブルらしいものに巻き込まれたことはなかった。


りんが読み込んでいた童話も孤児院の子供達へのプレゼントだ。

王子様なりんが読み聞かせたらさぞ麗しいだろうと期待の眼差しで頂いたものだ。


「お金もお城も権力もないのに。王子様かあ………」


「やめるか?」


「まさか!」


りんはニコリと笑った。


「麗しの女の子達の期待には応えないとね?」


バチンと片目をつぶった。

裏庭の興奮は最高潮になった。



「お前。学園を焦土にする気か」



それがこの学園の日常だった。



 そんな中また一人の女子生徒が彼等の側に近づいた。



「岸くんッ」

「あ?」


岸はうっとおしそうにその女子生徒を見あげた。その様に音が止んだ。


「岸くんにッ………あのッ………」


恥じらいながらも勇気を振り絞ったであろう女子生徒は震える手を突き出した。

その手には可愛らしいさくらんぼ柄のランチボックスが握られている。


「いつもッ………菓子パンばかりだしッ………。

あのッ………。からッ………だからッだからッ………」


岸は一瞬だけそれを見る。

そして、困ったように眉をひそめた。


「あー……」


岸はそれを受け取った。

それに周りはざわめく。

隣のりんも目を輝かせた。

差し出した女の子など顔がりんごのようだ。


岸はため息をつきながら受け取った弁当を、くるりとりんの方へ向ける。


「これ、お前に」


一瞬、空気が止まった。凍てついたと言ってもよい。

女の子の目が見開かれ、唇が震える。首まで赤くなっていた肌は途端に青白くなる。


何も言わないまま、彼女は踵を返した。


「……っ」


走り去る背中。頬を美しく流れる一筋の涙の軌跡をりんは見逃さなかった。


「岸の……っ、にぶちん!!」


りんは叫ぶと同時に、少女の後を追った。

裏庭のタイルに響く二人分の足音が遠ざかる。

取り残された岸は、しばらくその場に立ち尽くし――


「…………お前が言うか?」


そう呟いて、ようやく事態の深刻さに気づいた。



 りんは、校門の外まで走って、女の子を見つけた。


「待って!」


肩で息をしながら、前に回り込む。


女の子は俯いたまま、涙を落とした。震える小さな肩をりんは擦る。


「……恥ずかしかった」


りんは一瞬だけ言葉を探して、それから首を振った。


「恥ずかしくないよ」


そう言って、目線を合わせるために少し膝を折る。


「だって、好きな人のために時間使って、考えて、一生懸命作ったんでしょ」


女の子が顔を上げる。


りんは弁当箱を胸に抱いた。


「これは、すごく大事なものだよ」


ぎゅっと、壊れない程度に。りんの宝物を思い浮かべながら。


「岸は気づかなかっただけ。

でも、気づけなかったからって失敗だけで、

岸の価値も君の気持ちの価値も下がるわけじゃない」


女の子の呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


りんは、柔らかく笑った。


「ね。もしよかったら」


弁当箱を、そっと差しだす。


「今日は一緒に食べよ。

作った人の前で開けた方が、お弁当も嬉しいと思う」


女の子は、瞬きを二回してから、こくりと頷いた。

そしてりんが手渡したハンカチを目に当てながらまたしゃくり上げた。


「待ってくださいッ………涙とまらな………ぶさいくで恥ずかしーー」


「なんで?」


女の子の頬が柔らかいもので包まれた。

目の前にはキラキラ輝いたへーゼルナッツの深い森林のような瞳。


「勇気を出して。

努力して。

それで流したこの涙は美しいよ」


りんの親指は涙の粒を掬いながら首を傾げた。

女の子の頭上には天啓の鐘の音が鳴り響いた。


「ひあ」


「ね?」


「ひぁい王子様」


女の子の頬は、さっきよりずっと赤かった。



 遠くでその光景を見ていた岸は、ようやく、自分が最初から勝負に立っていなかったことを悟った。


ーーほかの女のことなんかわかるかよ。


岸にとって、りんは

いつの間にか「基準」になっていたのだから。


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