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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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一人と一匹の冒険 1.迷子

 「あれ………。ここどこだろ」

「きゅきゅ?」


りんがこの幽玄異郷に来るまで知らなかったこと。

それは自分がかなりの方向音痴なことだった。


ーーー半刻前。


「岸はラブバーゲンにご招待。澪ちゃんは用事か………」

「きゅ!」


あの「空飛ぶふわふわ小屋で雲の上のキラキラ宮殿に行くぞツアー」の後。

満を持して初授業は始まらなかった。

またまたレクリエーションの期間に入ったのだ。

噂によると「雷クラス開設、合格者九人」なことは異例で。

カリキュラムに大幅な変更を余儀なくされたらしい。


要するに。

教諭の方々てんてこ舞い。

上に下に大騒ぎ。

廊下ですれ違う教諭方はみな目に隈がある。

りんはなんだか申し訳なくて何回か謝罪したことがある。

ギリギリの合格。

たぶん心配して編入を進めてくれたであろう教諭達(凶暴なふわふわに阻まれて叶わなかった)に。


「僕等が甘んじてたんだよ。君等の可能性を信じなかった」

「教諭冥利につきるよ。立ち会えて嬉しいよ」

「うわ………。掛け金あの人の総取りか………」


そうは優しくは言ってはくれるものの。

忙しすぎて普通の新学期がまだ始められないらしい。

それでも二日ぐらいで立て直せると先輩方が教えてくれた。

情報源は入学式式典を共に乗り越えた面々の先輩方だ。


暇な時間が出来ることは必然で。


「私、いつも誰かがいたから一人って久しぶりかもしれない!」

「きゅ?」

「こうなったら………?」

「きゅ」


ふわふわちゃん101号は本当に懐っこい個体なのか、可愛い泣き声でこちらの言葉を理解しているような相槌をするのだ。



「探検だよね?!だって魔法だよ?異界だよ?不思議いっぱいだよ?!」

「きゅきゅ〜!」


ふわふわちゃん101号をお供に胸に抱えルンルンで歩き出したりん。

片手には魔導端末の学園内地図。

これで迷わないはず。

そう意気込んで始まった一人と一匹の学園内探検。

思えば最初の曲がり角からおかしかった。


端末には右に図書館。

岸達と行ったことのある場所。

なのに。


「あれ?右にあるのは………魔植物学の教室だ」

「きゅ?」


 温室風の硝子張りが特徴の《魔植物学》の教室では、蠢く巨大な花が先輩達を飲み込んでは吐き飲み込んでは吐きを繰り返していた。

泣いて逃げ惑う先輩方の悲鳴が何故か聞こえない。

助けを呼ぼうかとハラハラした。

けれど目が合ったゴーグルを付けた教諭がニコニコでグッドサインをしていた。むしろ「混ざらないかい?」と手招きする始末。

あんなに危険そうなのに教諭がにこやか。

たぶん大丈夫なのだろう。

りんは静かに合掌して立ち去った。


端末には正面に噴水。


「噴水………?噴き出してないだけ?ただの花壇だよね?」

「うきゅ?」


噴水には見えない巨大な花壇の周りをぐるぐるしてみたりした。

そしたらどこから来たかわからなくなった。


なんだかおかしなことばかり起こるのだ。

さっき通ったはずの廊下なのに絵画が違う。

触って確認しながらキョロキョロしただけなのに、触っていた鎧の騎士を模した石像が踊り子像になっていたり。

地図にない道があったり。


端末には左に職員室。


「あれれ?左は………。用具入れだよ?」


一応扉を開いてみたものの、そこにはモップやバケツではなく、星々が瞬く底知れぬ深淵が広がっていて。

何かが蠢いてーーー。


ーーーあ。これダメなやつだ。


りんは(見なかったことにして)そっと扉を閉じた。

閉じた瞬間用具入れは足が生えて逃げていった。


ーーー調度品を目印にしちゃ駄目みたい。


 魔導端末を信じて歩いた。信じようと必死に画面を指でなぞった。

けれど、自分の現在地を示す光の粒は、まるで逃げるように地図の上をくるくると回り続ける。

点滅したり、飛び跳ねたり。

同じふうにしなきゃかなと跳んで跳ねてみたりした。

余計方向がわからなくなった。

自分の感覚も信じられなくなった。


 それでも端末を信じて歩いた。

途中誰かに会って目的地に連れて行ってもらっても。

また新しい目的地へ歩くと自分の位置を見失う。

知り合いに声を掛けようとしたら姿が消えていたり。

自分を呼ぶ声がしたはずなのに後ろを向くとだれもいない。


端末内の自分の現在地の点がとうとう動かなくなった。

もう端末の点は困惑しているのか震えだした。

音声ガイダンスですら途切れ途切れになる。

気付くと端末を逆に持っている。

持ち替えたはずなのにまた逆になっている。


そのうち。

右往左往していた教諭の方々とすれ違わなくなる。

騒ぎ声、笑い声。

それらがだんだん遠ざかり。

辺りは不思議なほど音がなくなり。


ーーーーーー誰にも会わなくなってしまったのだ。



「あれ………。ここどこだろ」

「きゅきゅ?」


抱えたふわふわちゃん101号と顔を見合わせる。

一人と一匹はポツンと佇んだ。


 調度品がない回廊を進んでいく。

たぶん何処かと何処かをつなぐ通路なんだろう。

飾り気のない石造りの壁には壁紙はなく蔦が覆っている。

鬱蒼としているのに艷やかな美しい蔦だった。

蔦が脈打って生き生きとしていた。


ーーーあれ。この蔦。なんかあったかい………?それに。


 りんはそっとその蔦を触った。

するとりんの指先を包むように細く絡みつくとキラキラと煌めいた。

綺麗な翡翠色の光の粒。

それらが花開く。

りんの指先に小さな青いーーー。


「かすみ草………?」


 ふわりと香った嗅ぎ覚えのある香りに首を傾げる。

それらが一面に咲き誇り踊るように壁に床に軌跡を描く。

青い花の矢印が奥へ奥へ上へ上へと続いていた。


「凄い?!坩堝学園迷子救済防衛システム《かすみ草》かな?」


「きゅきゅ!」


 青いかすみ草の花道は高い塔の上に続き、渦巻く蛇が天に昇るような長い階段だった。

上は遠すぎて白い点に見える。

最上階には採光用の窓はあるみたいだ。


ーーーここに来てから見上げてばっかりかも。


「行ってみようか。ふわふわちゃん101号」

「きゅ!きゅきゅきゅ!」

「わ!元気、元気だ」


 飛び跳ねてご機嫌なふわふわちゃん101号を抱え直し、りんは一歩一歩を慎重に踏みしめた。

首が痛くなってしまったりんは首をさすりながらも歩く。

登る度に花弁が舞う。

一段、一段。

重くなっていく脚と裏腹に気分はどんどん高揚していく。


「わぁ………。本当に夢の世界に迷い込んだみたい」


りんは自分の心臓が高鳴ってくるのを感じた。


 青い絨毯の甘い香りに包まれながら景色も青く染まる。

螺旋状の階段も元はどんな色だったのかわからないほどに。

青いかすみ草の花畑がりんが進むペースに合わせて広がっていく。

側面の蔦からも花は咲き、りんが通り過ぎると散る。

儚い花の一生を目の当たりにしながらもそこに哀愁はない。

翡翠色に弾ける光の粒はずっと蔦から弾けている。

寄り添うように優しく、まるでりんを祝福するように。


「きゅ!」


「あれ?《養護室》だ。

ここの学園は何室もあるみたいだね」

 

ふわふわちゃん101号が鳴かなかったら、気付かなかったかもしれない。

そこは最上階の手前の階層。

塔の中腹あたりに養護室があった。

澪を連れて行った養護室とは別物なのだけは分かった。

ここの看板の色が黒地に赤い文字だった。

あっちは、緑地に白い文字だった。


ちらりと覗こうか悩んだ。

でもやっぱりりんはやめた。

こんな辺鄙な所にある養護室だ。

ひっそり、静かに療養する人のための養護室なのかもしれない。


花びらが頬をかする。 

まるで急かされているように感じてまた歩みだした。

頭上から白い光が降り注ぎ始めた。

脚が軽くなった錯覚に陥った。

ふわふわ夢見心地のままたどり着いた先。


白い光の筋が降り注ぐ中、かすみ草は一つの扉の周りを美しい花輪のようにアーチを描いていた。

青いかすみ草から始まり、紫色、赤、ピンクに白と様々な色の花がりんの頭上に降り注ぐ。


扉の横から蔦が伸びてきたと思ったら、その蔦は器用にかすみ草の花束を作り上げた。

それをりんに差し出すように突き出した。


「あ………ありがとう?」


困惑しながらも、りんは受け取った。

ふわふわちゃん101号を床に降ろさないと受け取れないほど巨大な花束だった。


「きゅ?きゅきゅきゅ!」


「え?待ってまって!ちょっ………」


ふわふわちゃん101号が興奮して飛び跳ねながら扉を空けてしまった。

小さな生き物が体当たりして開くくらいなら、鍵はなかったらしい。


りんは急いでふわふわを捕まえようと進み。


見た。


紫色の巨大なふわふわを。



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