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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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雷クラスへの挑戦 6.夜の密猟 side猿田


 「けッ。天下の坩堝学園もこんなもんか」


宵も深まる丑三つ時。

薄曇りの夜の帳が深まる頃。


福耳に長い尻尾をたなびかせて男子生徒は城壁を侵入した。

猿田 一彦である。


猿田がこうして夜の学園に侵入するのもこれで三日目だ。

長い回廊を抜け、居眠りする守衛の背後を通り。

比較的人が通らないルートの木々を伝って音もなく進む。

猿田は裏庭に位置する草原に降り立った。


そびえ立つ太い蔓状の大樹がど真ん中にある草原。

大樹の脇には、馬鹿にしているとしか思えない木の看板がある。


《雷クラス》


矢印は何度見ても上を向いている。


「夜だからって矢印は変わらないんだよな」


 頭のよい奴らは、そもそもこの看板にギミックやミスリードがあると論じているものもいた。

それらも力尽き、結局来なくなった。

看板はどんなに蹴っても傾けようとしても、絶対微動だにしなかった。

相当な保護魔術がかかっているようだ。


ただの看板ですら強力な魔術付き。

なら。

そびえ立つこの大樹にはなにが仕掛けてあるのか。

頭が良いものこそどんどんリタイアしていった。


 今この雷クラスへ挑戦しているのは自分を含めた九名のみだ。

その中でも一番の力自慢と身軽さと俊敏さを誇る猿田は試したい事があったのだ。

それは昼間には出来ないことだった。


「《学業時間内》とは書いてなかったんだよな〜」


この幽玄異郷では昼と夜で天候も生態系も変わることは多々ある。

様相を変えるほどの変化をするダンジョンもある。

昼攻略不可能でも夜なら難なく通れる謎解きもある。

逆も然りだ。


今回は。


そびえ立つ太い大樹の周りを旋回する魔鳥が、何羽も旋回している。

見るからに昼間よりも物騒な様相をしている。

昼間に跳んでいる魔鳥は、道具さえあれば仕留められるレベルの低知能、低能力の雛鳥だ。


今居るのは親鳥だろう。


昼間よりも難易度が上がるこの状況を見て、尻尾を巻いて帰るようならそもそも挑戦しないだろう。

猿田は目を凝らした。

その魔鳥の間を飛び跳ねるように動く黒い影。

それを認めると猿田はニヤリと笑った。


「すげ。もうあの高度か」


猿田も合流するために蔓を駆け上り始めた。


「りんさん〜。謝るからさ。機嫌直して?

もう少し高く蹴ってくれないかな?もう少し。も〜少しだけ。振り上げる脚は最初はゆっくりーーー」


「戯言言わないで下さる?耳障りよ」


「《夜の》りんさん。怖い〜」


猿田が合流すると煩い男の声と冷ややかな女の声がした。

そのうち男の声がべそをかきだす。


「また泣いてるのか。アンテ。某も混ぜろ」


「猿田!りんさん止めてよ!女の子が闘うの見たくない〜」

「嘘つきめ。

瞳孔ガンぎまりでりんを観察してるくせに」


「ご………誤解だよ?」

「記録魔の貴様には、某とりんの戦闘力のデータが欲しいのだろうな」


そう言い捨てながらも猿田は魔鳥を殴るのは忘れない。

そのたびにアンテが悲鳴をあげる。



猿田がそこに到着すると、アンテ・クオニはひぐひぐ泣いていた。

軟弱そうな優男。顔はいい。

だが戦場で泣いているから残念な男である。


だがアンテは泣き言を言いながらも手が止まらない。

そこには分厚いメモ帳とペン。

目にも留まらぬ速さで書いては悲鳴をあげている。

器用な男である。


 彼に突っ込む魔鳥を女は蹴り飛ばしていた。

蝶のように舞い、蜂のように刺すとはこの事を言うのか思う程幻想的な動きだ。

彼女が蹴り上げると空気が歪み、目視が追いつかない光の軌道を描く。その後衝撃音が遅れてくるのだ。

魔鳥は蹴られる度にぶっ飛び、ボロボロになりながらもフラフラしながらも空中に居続ける。

彼女の蹴りも凄いがそれでも死なない魔鳥も脅威だ。


アンテのメモ帳には

「魔鳥《姑獲鳥(うぶめ)》は凶暴で執拗に獲物を狙う飛行型魔獣。特に夜に活動。子供が大好物である。特に泣き叫ぶとよく遭遇する。

ここの個体は野生種と違い統率が取れている。

誰かのペットの可能性。

これでたぶん、手加減されているとか無理。夜。無理」


薄曇りの中から月明かりが差し込むたびに、女の黒い瞳は妖しく揺れる。

女は跳んだ反動で蔓の出っ張りに捕まりながら着地する。

翼のないものにとって落下は命取りだ。

アンテも翼のない種族みたいだ。

長いロープでぐるぐる幹に身体を括り付けている。


この三日間。

そんな危なっかしい場面に遭遇したことはない。

何故ならここにいるメンバーは、互いに個を重視してそうで支え合っているからだ。


猿田もまた突っ込んできた魔鳥を素手で殴った。

その魔鳥に飛び乗り首元を締め上げながらのタコ殴りだ。


「魔鳥全部倒したらとか。そんな隠しコマンドありそうか」


「《観察眼(スケスケ)》」


アンテはボソリと呟いた。

彼の左目が数式のような紋様を編み込みながら形を帯びる。


「う………。この魔鳥。攻撃力ないのに体力が半端ない。

初日よりも体力増えてる………。

りんさんと猿田で一晩中殴って蹴っても死なないな」


アンテ・クオニは左目に片眼鏡を当てながら魔鳥を観察していた。

その片眼鏡はアンテの緑色の髪の色と同じ色で揺らめきながら光っていた。


「お前のギフトでも昨日と変わらん結果か」

「むしろ一晩経ってダメージ回復済です」

「持久戦も絶望的か………」


ゴギッ………!

硬いものが砕ける音が上空で響いた。

女が魔鳥にかかと落としを食らわしたのだ。

魔鳥が真っ逆さまに落ちていく。


ズドーーーンと地面が揺れた。


「おお!今のは骨が砕ける音がしたぞ」

「りんさん、カッコいい〜」


女は一回転してアンテの際に着地した。

アンテから差し出された水筒を飲むとため息をつく。

まるで狩りをする女豹のようなたおやかさと鋭さがある。

夜風にセミロングの直毛の茶髪が絹糸のようにそよぐ。


 最初は面食らったものだ。

昼間のポヤポヤした男装の麗人として女子共に人気の女。

高い容姿と学園長の娘というスペック。

栄誉が欲しそうな貪欲さもなかった。

ただ。

生存本能がだれよりも高い女。


 その女が。

夜の学園で一人で魔鳥を蹴り上げる所を見て。

猿田は内臓が熱くなる感覚に陥った。

それは渇望だった。

食欲とは違う。それは。


ーーー闘う姿が絵になる、いい女だな。


わからない感覚は今は闘争心に変えればよい。


「よ。今日も頑張ってんな」


猿田が女の肩に手を置くと振り払われた。

昼間の人懐っこい女とは真逆な、寒々しい視線が逆にゾクゾクした。


「………気安くしないで」

「おいおい。鍋囲った仲だろ?」

「それは可憐なりんのほうではなくて?私は違うわ」

「じゃ。同じ水筒使った仲な」


女はその瞬間ギロリとアンテを睨みつけた。


「ひ?無罪無罪!」

「ちょっと?身体はりんなのだから。

雑に扱わないで下さる?変なもの与えないで」

「お前、違う人格か憑依型なのに。宿主大事なんだな〜」


「当たり前でしょ」


「おもしれやつ」と猿田が呟くと上から降ってきた黒い物体に手を出した。

女も同時だった。

落下速度を相殺するために二人の握力が唸る。

ギチギチ男子生徒の翼の付け根と脚の付け根を掴んだ二人の腕が軋んだ。

二人を支えていた蔓の幹が大きく軋んだ。


 煙を上げて全身黒焦げなのは翼を生やした男子生徒だった。

不思議なのはこれだけのダメージなのに人体に焦げがないのだ。

表の表皮と脳にダイレクトに駆け抜ける電撃。

アンテの見立てでは。


ただ気絶するだけのダメージだとしても痛いものは痛い。


「ぐッ………。ごめん。せっかく魔鳥引き受けてくれたのに………」


頭から水をかけられて目を覚ましたのは(せい)だった。黒焦げなのに水で落ちる。

不可思議な焦げ具合だ。


「昼間と比べてどう?」

「昼と夜の差は感じなかった。寧ろ………」

「「雷は威力が日に日に上がる………」」


猿田と女の声は重なった。

ニヤリと笑った猿田と眉を上げるだけの女。

それに苦笑いするアンテに星は星は筆記を頼む。

ペラペラ捲った先に《気絶までの時間》と記されていた。


「気絶するまでの時間が昨日より速いんだ。

日々慣れたらとか。日々の鍛錬で………とか。その域は超えてきていると思う。

確実に出力は上がってる」

「えげつな………」

 

記録するアンテが一番その絶望感がわかるのだろう。


「貴方たち。一年の中では猛者のほうよね?」


女は呟いた。


「まあ。力は分からんが、腕力と木登りは負けねぇな」


「一応………。実技は三位」

「お。やるじゃないか!某は四位だ」


猿田が答えると、星も追随して頷いた。



「僕は逃げるので精一杯だな」

「嘘つき。貴方蔦に伝った電撃避けたでしょ。並の動体視力じゃないわよ」

「へへへ………」


「次点の澪も斬撃入れながら登るので手一杯だったようだし………」

「お。女騎士もやるな」

「万事休すかも………」


「あの過保護が………ここまで………?」


そう呟く女が猿田達に背を向けた。

女が下をじっと見ていることに猿田は気づいた。

そこにはさっき落下させた魔鳥が地面にめり込んでいた。

それは昼間の猿田達が鍋を囲み休憩する、ボロボロの小屋の近くだった。

一歩間違えたら小屋に直撃していた位置だ。


「狙ったのに………なぜ?」


そう呟きながら、顎に指を添えながら考え込む女はハッとした。

その後猿田を見た。


「貴方。試したいことがあるんじゃなかった?」

「あ!忘れてた忘れてた」

「それやりきったら。昼間のりんに付き合ってよね」

「まかせろ。あんな美味い鍋作る女は害さねぇよ」


「幽玄異郷の男は胃袋掴まれると従順なんだぜ?」


猿田が腕まくりして皆を集め計画を話す。

アンテと星は青ざめ、女は笑った。


「やべ」

「うわ………。発想の暴力」

「うふふ。試してみる価値はあるわね」



その後。

皆で大樹自体に最大限の攻撃を繰り出し。

軋み砕ける木に手応えを感じる度に修復する様を見て。

猿田はやっと諦めた。

《上に行けないなら雲ごと落としてしまえ作戦》は呆気なく一時間程で幕を閉じた。


「この試練。

単純な《猛者》頼みの試練じゃないな」


「陸、空、知、合わせて二進も三進もいかないもんね」


男三人が肩を落とす。

その様を少し離れて眺めていた女が鼻で笑った。


「良かった。これで貴方たち。もう夜はこなそうね」


女が呟いた瞬間、男達は一斉に振り向いた。

昼間のりんと似た柔らかい笑顔の女がいた。


「りんがね。心配してたのよ。

『あの三人。夜の草原の香りがする。絶対夜、無茶してる』って。

あの子。鼻が利くのよ」


猿田は改めて衝撃を受けた。

目の前の女は《守護者》だと。

さっきまで《狩人》の顔をしていたのに。


ここの男共は皆曲者揃いだ。

昼間のりんが止めた所でやめるだろうか?

攻撃の最中に飛びつかれでもしない限りはやめないだろう。

それを見越して夜にここにいる。

闘争心の強いものに縋るのは悪手だ。

疲れている時。腹が空いた時。


ーーー気が済んだ………時か。止め時は。


思い返したら女の攻撃はいつも庇う動きだった。

衝撃音はいつも背後からした。

女の動きを目で追えない理由。 

いつも猿田の死角にいたからだ。

猿田がくるまでは悪態をつきながらアンテから離れなかった。

いつも上の星を目で追っていた。


ただの戦闘狂に見せかけて。

捌く位置どり落下場所。

全て《守るもの》の陣形だったことに気づいたのだ。



同時にゾッとした。


この女には私利私欲がないのだ。

ただ宿主の憂いを払うだけの存在だ。と。

りんが望まなかったら(・・・・・・・・・・)姿を現さない女。


ーーーもう、こいつに会えないのでは?


本能が今すぐ捕まえなければと叫ぶ。


瞳孔が開いている自覚があった。

こめかみがビクつく。

月明かりに霞んで朧気な女に手を伸ばしかけてやめた。


背後から射るような視線を感じたから。

振り向くと、暗闇にいるはずのない金色の瞳と目が合った気がした。多分。金縁だ。

空気が冷えてピリつくのを感じる。

牽制。そんな圧を感じた。

その圧をアンテも星も感じたらしい。

皆が一斉にため息をついた。


「ち。しっかり監視付きか」

「さすがに坩堝学園。セキュリティもわざとザルにしてるね」

「やってらんね………。昼間頑張りますか」

「ん。気を付けて帰るのよ」


手を振る女はだだっ子を見守る母のような顔をした。

その後。


ガクンーーー。


「「「わ?!」」」


女が崩れ落ちるのと皆が支えたのは同時だった。

腕のなかではあどけない顔で眠る佐藤 りんがいた。


「昼も夜も。この子心配ばかりしてない?」

「昼間のりんが心配しなかったら。某達は打ち捨てられてたらしいぞ」

「女の子に心配されて守られて。情けないな………」


三人の男はその後。

オレンジの怒れる執事にしこたま怒られることをまだ知らない。




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