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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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雷クラスへの挑戦 5.金剛の宮ダイヤモンドパレス

 「「「「「「城だあ………!」」」」」」


 皆が目をキラキラさせて大騒ぎだ。

空飛ぶふわふわin小屋がふわりと着地した先。

ふわふわ達は縮み元の小ささにもどった。

するとミチミチだった小屋のドアはやっと開く。

我先にと外に飛び出したら、ふわふわの紫紺の雲の上にいたのだ。

 あの憎いくらいにそびえ立っていた蔦の絡まった木は、雲を貫いてまだ上に生えていた。

りんは憎き豆ちゃんの木を《天空の豆ちゃんの木》に改名しようと思い直した。

よく見ると美しい蔦だ。


「宮殿だね」

「宮殿だな」

「神殿と言ってもよいくらいですが、宮殿ですね」

「あ!神殿。確かに柱の多さがパルテノン神殿みたいかも」

「柱の中央が丸みが厚いあのやつか?」

「そ!………よく知ってるね?岸」


今回珍しく岸が食い付いてきた。

慣れない反応に首を傾げると、

「俺も勉強するさ」と照れくさそうに頭をかいた。


「現世にも神殿があるのですね?

やっぱり神と会うのに試練が?」


澪は興味津々のようだ。

りん達と行動を共にしてから現し世にも興味が湧いたらしい。


「観光地」

「聖域に………観光?」


澪が面食らう。


「皆が神殿に土足でズカズカと………。

大人数ツアー。遺跡に落書き無法地帯さ」

「結構罰当たりだよね。改めて考えると」


岸とりんで説明すると、ますます澪が青ざめた。


「神殿の跡地を観光地化………。

荒らすなどの暴挙………。現し世人、恐るべし………」


城オタクのりんを筆頭に岸、澪、琥珀は冷静に目の前の建物の建築様式をお互いに論じる。


「ドーリム式の柱もある!

太く直線的で力強い柱だよね!装飾が少なくて潔い!」


「イオニア式もあるよ!

高く細い柱!渦巻き模様の飾り柱かな?

庭にも色んな柱がある!」


「こっちは、コリント式 。

アカンサスの葉模様で飾られた華麗な柱頭が豪華で美しいよね!」


「あかんさす……?」

「コリント?」


幽玄異郷にはない言葉なのか、琥珀と澪が同じ顔で首を傾げた。

現世だけの建築様式もあるみたいだ。


「アカンサスはね。古代ギリシア・ローマ由来の植物でね。

建築装飾のモチーフになったの!

「芸術」「技巧」「建築」といった花言葉を持つロマンチックな植物だよ」


「エンタシスはわかるな。柱の形覚えたしな。りんからさんざ聞いたし」


「へ〜。これは家に籠ってたら得られない話だね」


「神の名前ですか!?簡単に名前を呼んでも良いもので?」


ーーーわぁ!語れる仲間が増えて楽しい!


背後では違う話題に移っている。


「これ。ほんとに『雷クラス』の教室なの?部屋の規模じゃないよね?」

「すご!綺麗!豪華!」

「こりゃ試練くらい設けたくなるわ」


皆が感嘆としている中、澪だけがそわそわ、キョロキョロしていた。


「金の卵………ガチョウ………生首をりん様に………」


 岸が残念な子供をみる目つきで見ているけど、澪がたのしそうなのでりんはほっとく事にした。


子供が集中してる時はそっとしとくものだ。


 紫紺色の雷雲はふわふわの集合体だったらしい。

りんは日頃ふわふわ達と生活しているのに気づかなかった。触りさえすれば、その特徴的なもふもふの中のプニプニ感で分かったかもしれない。


今なら嘆いてもしょうがない。

りんには蔦のてっぺんまで登ることも、飛ぶことも出来なかったのだから。


改めて目の前を見上げる。


 雲の上の宮殿。

階層は決して高くはない。

学園の果実のように生えている城のほうが何倍も高いだろう。

けれど。

ここの宮殿は全て透明なガラスのような石材で出来ていた。

下界の奇天烈な城群とは一線を画す直線的な宮殿だった。

その透明感は不思議なプリズムを生み出していた。

太陽光が反射して紫紺の雲の絨毯に映るさまは幻想的だった。


構造解読(スキャン)


 琥珀の右目の瞳が淡い蜂蜜のような光を放った。

宮殿の柱や床、壁の部分を見て回っている。

物珍しくて彼の後を追う。

高い所を見たい時にはアンテが持ち上げていた。


りんがしたかったのに盗られてしまった。無念である。

隣で猿田も手を所在なげにしていた。

彼も力自慢だ。抱っこしたかったらしい。


「これ。すべてダイアモンドだ」


「わかるの?」


「成分解析の能力はあるんだ。うちのギフト」


琥珀の家庭は代々薬を作る家系らしく。

産まれた時に氏神様と契約するらしいのだ。


「このダイヤモンド《魔石》だ」


「魔石?」


「《魔素を込められる宝石》のことですよ。りん様」


澪が魔導端末をポチりと押す。


《魔石》


ダンジョンや魔獣の体内から稀にドロップする宝石。

価値はその魔素を含むことの出来る空間の量。宝石自体の大きさと多方面の観点から鑑定される。

魔獣最高種『ドラゴン種』からはダイアモンドが摘出出来る。


「これ………。全てドラゴンの………?」

「リリス学園長ぱねぇ………」

「……嘘だろ、これ、全部ドラゴンの心臓(魔石)?一つで国が買える……。少し削ってもいいかな」


アンテの瞳が妖しくゆらりと揺れたのを琥珀がチョップして止めていた。


改めて見ると涼やかな透明感とは裏腹に、禍々しく思えてきて背筋がぞっとした。


「このダイアモンド。全部『避雷針』の役割をしてる。

さっきの雲の雷を、この宮殿が全部吸収してエネルギーに変えてるんだ」


「ほへ〜」

「さすが天才博士」

「だからここ、ピリピリしないんだね」


宮殿の入り口までたどり着いた一行は扉を見上げた。


「巨人族も入れそうな扉だね」


ダイアモンドの二枚扉。

観音開きの扉には様々な花が彫刻されている。

そこだけは平面的で厳かな神殿風の宮殿にミスマッチな、華美な彫刻だった。


その中央には。

一対の男女。


「神様………かな」


「おいおい。ありゃ。

『勇者(まこと)と聖女アマリリー』じゃん!

一世代前の勇者一行の二人だ」


猿田が目をキラキラして説明してくれる。

ここの住民にとっては、勇者一行の話は童話にも英雄譚になるほど常識らしい。


「勇者様と………聖女様?」


二人は向き合い瞳を閉じている。

手を握りあい額をくっつけていて。

まるで。


「この二人。愛し合ってるんだね」


「世紀のカップルだぜ?当然だろ。平和の象徴だぞ」

「象徴………」


りんは見上げた。

あまりに二人の造形は生き生きとしていた。

今にも二人の笑い声が聞こえそうなくらい。

彫刻とは思えないくらいの温かさとを感じる。


「少なくとも。超絶技巧なのと同時に。

この彫刻の作者は二人を知っている人だろうね」


解析が終わったのか琥珀がりんの背後にいた。

彼も彫刻を見上げている。


「あと。二人を愛している人だね」


二人は。

幸せの絶頂を切り抜いたように息づいていたから。

髪の毛の先からまつげの先まで繊細だ。

彼等の幸せを全て閉じ込めたかのように。


「いや………。嫉妬もあるぞ」

「妬みもありそうだぞ」

「憎しみもあるかもな」

「ん!」


またりんの背後に来て扉を見上げたナタージャやアンテ。澪と咲ですら頷いている。  


「え?なんで?」


「だってさ」


四人はうなずき合った。


「扉は開くんだよ?」

「向かい合わせの二人は引き離される(・・・・・・)じゃん!」


「あ………」


一気に空気が変わった。

そんな事を言われてしまうと。

誰も扉を開けることが出来なくなってしまった。


「入室しないと退学だよ」

「早く開けないと」

「え?いやだなあ。最初はいやだ」

「お前が先行けよ〜」

「え〜」


お互いが誰が扉を開けるか、押し付け合っている。

誰も世紀のカップルを引き離す役目は嫌らしい。


「栄誉あるクラスの入室拒否………」

「やっと入れるのに喜びが半減ですね」

「自動ドアとかじゃないのかな?」

 

皆が争う所をりんはのほほんと眺めていた。

一先ず試練は突破したのだ。

誰も怪我をしなかった。


ーーーすごいな。本当に誰も傷つけない事が可能なんだ。


さっきまでの緊迫とした岸落下の危機も、皆が何事もなかったようにしている。

お礼を言う岸の背中を強めに叩き皆が言うのだ。


「今度はこっちが死にそうな時は助けろよ」と。


たった十日過ごしただけなのにすっかり皆仲良しだ。


ーーーなんて優しい人達だろう。


りんは改めてしんみり皆を見つめた。

時間を忘れて。


背後で悲鳴がした。

振り返ると辺りが暗くなってきている。

群青色が漆黒へ変わろうとしていた。


「日没!日没までに入室!」

「ヤバいヤバいやばい」

「ちょ!いそげ急げ!」


人間焦ると罪悪感が吹っ飛ぶ。

皆で扉を押すようにして雪崩込んだ。

巨大な扉は最初抵抗があったものの、滑らかに滑って開いた。

これでゴゴゴ………とか。ギギギ………とか軋んだら皆更に躊躇したかもしれない。


呆気ないほど静かに開いた扉は、背後でまた静かに閉じられた。


「あれ?もしかして自動ドアかな」

「ビビって損したあ!」


皆がほっと一息ついたタイミングでその人に気づいた。


「遅いわ。バカ者共め」


じっくりゆっくり豪華な内装を見る間もなく。

目の前にいたのは眉間の皺が深い金色眼鏡の教諭だった。


皆ピシッと固まった。


彼は玄関ホールと呼べる広い広間の応接セットで優雅に紅茶を啜っていた。

こちらを一瞥してから舌打ちをする。

懐中時計を懐から出してまた舌打ち。


尊大な歓迎である。


創立以来の偉業を成し遂げたのだ。

拍手喝采も気恥ずかしいけど、まさか入室した瞬間に罵倒されるとは思わなかった。

しかも睨みと舌打ち付きだ。


「真神………教諭?うわ………まじか」

「てか!俺等より先にいるとは反則!」

「一番乗りは先公ってどうなのよ!」

「ん!んんん!」


すっかり野次を飛ばすポジションになったアンテ、琥珀、ナタージャ、咲が地団駄を踏んでいる。


「教諭は。私達よりも遥かに格上ということなのですね」


「あぁ。焦げも塵一つなく単独で。

あの雲突破可能なんだ。

相当な実力だろうな」


「それがし(それがし)も修行不足だな。

木登りすら天下を盗れん猿族などッ………」


「……これが。坩堝学園の守り人の実力か」



澪、岸、一彦、星は真神教諭を横目に悔しそうだ。

そんな皆から一抜けてりんは真神教諭に駆け寄った。

りんの行動に真神教諭の目は見開かれた。

面食らったようだ。


「真神教諭!ありがとうございました!

岸の制服強化!引きちぎれないし、掴んでも滑らないし最高でした!」


りんはすすす………と真神教諭に近づいてコソっとお礼を言った。

指パッチン付きで。

ただしりんの指は光らないけど。


真神教諭の眉がピクリと動いた。

りんは背後の琥珀を指差した。

彼は右目をピースサインで隠してニヤリと笑った。

口パクで「解析済み」と呟いた。


岸は気まずげに会釈し。

それ以外の生徒はニヤニヤした。


「ふん。毛根は強化しとらんぞ」


皆がハッとした。

夢中で岸を掴み上げた人の中には身に覚えのあるものがいたらしい。


「気にすんな。命あっての髪だ」

「あ。ハゲみっけ」


落ち込む岸を囲み皆が大爆笑だ。


「雷クラスより《喧しいクラス》に改名したほうが良さそうだな」


それを一瞥して真神教諭は眼鏡を直しながら首を振った。


ーーーさて。

誰も傷つかない、平和で幸福な空の旅の裏側で。

泥を啜り、血を吐き、絶望の雷に焼かれ続けた者たちがいたことを、昼間の彼らはまだ知らない。




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