雷クラスへの挑戦 1.挑むものよ集え
「ね………?ほんとにここ?」
「えっと………?《雷クラス》とありますし」
「まじか?ちょっと………これは………」
いつも饒舌なりんも。
そんなりんに賛辞を惜しまない太鼓持ち状態のお友達の澪。
そんな二人の保護者枠兼つっこみ担当の岸も。
その光景に唖然としてしまい言葉を失う。
新入生の掲示板に正式通知があったのだ。
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勇むものよ集え。
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新設学科《雷クラス》の開講である。
この科は来るもの拒まずである。
この科は根性のあるものを好む。
クラスに入室した瞬間から君達は他の科が享受することのない栄誉を得るだろう。
挑め、集え、考えろ。
何もない草原で途方に暮れるがいい。
それが試練である。
リリス学園長のお言葉を賜った。
「この学園の皆がいい子だから皆に資格はあるわ。
他学年の挑戦も可よ。
ただし。期間内に入室出来ないと《退学》よ〜」
以上である。
なお。
期間は10日とする。日没までである。
編入申請は何時何時も受付可である。
向かないものは早めの手続きを勧める。
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普通のクラス替えや希望制を取らないあたりがこの学園故なのだろうか。
郷に入りたくても入らせてもらえない場合どうすれば良いのか。
入れないクラスがあるなんてりんには想像もつかなかった。
魔導端末の案内通り歩いていくとそこは、大きな天守閣の裏手にある広めの原っぱだった。
そこに。
「ジャックと豆の木………かな?」
「え?この上巨人いるのか?」
「金の卵を産むガチョウでしたら、私めが!
りん様のために一刀両断にしてみせましょう」
「そこは生け捕りだろうがよ」
「?魔獣は殺すのがここの理ですが?」
「金の卵を産むのも魔獣か………。夢ねぇな………」
そこには木の板があった。
木の杭に打ち付けられた板。
そこに適当に描かれたかのような乱雑な字で《雷クラス》と書かれた看板。
それと。
その脇に生える太い蔦が螺旋のように渦巻き天を貫いている。
ほんとに紫色の空にある紺色の雲を貫いているのだ。
看板には矢印。
それは上を示している。
「これ………。教室までどう行くの?」
「澪、お前翼あるか?」
「くッ………。岸に弱みを見せるようで癪なのだが。
残念だがないな。
鍛錬の先に翼を宿したような脚を手に入れるとは、言われておりますが………。
今はまだ未熟で申し訳ありませんッ………。りん様」
「澪ちゃん………。私なんかなんにもないよ?」
「りん様ッ………。ご謙遜を!貴女様には気高き慈愛の心と麗しくも端正な立ち姿に。無限のいぶくろーーー」
「なんか。聞いて悪かったな」
三人が途方に暮れる間どんどん黒い影が上に行く。
ある者は蔦をつかみ自力で登りだし、
ある者は翼でひとっ飛びしている。
だが。
「あれ?皆無理なのかな?」
「諦めて降りてくるな」
「なんか。焦げているのもいますね」
まだ誰一人上まで到達出来るものはいなかった。
雲の隙間から紫色の火花がスパークするたび、落下していく猛者達。
それらを見上げるだけでも首は痛くなるし、眩しくて凝視が出来なかった。
「これ新入生への試練としては過酷じゃないかな………?」
りんが思わず呟いたのを誰も否定できなかった。
ーーーーそれから。
一週間が経とうとしていた。
「残ったの俺等だけか」
「諦めて編入申請出した方々もいますしね」
「最初五十人くらいいたよね?」
りんがあまりの理不尽に《憎き豆ちゃんの木》と名付けた蔦絡まる木の裏。
その裏にひっそりとあった掘っ立て小屋のようなボロボロの建物にいた。
そこは外観はボロボロなのだけど。
内装はしっかりした造りの小屋だった。
一室しかないがたくさんのソファーや椅子がある。
休憩所と言った所だ。
そこは当初殺風景な小屋だった。
今では様変わりしている。
クッションは持ち込まれ、新しい絨毯の上で寝そべるもの。踊るもの。
食べ散らかしたスナック。増える私物。
置物までなぜかある。
床には難解な数式を記した紙が散乱し、
水浴び用の簡易シャワールームを誰かが勝手に設置した。
「この部屋快適にしてる場合じゃねぇぞ………」
岸だけは危機感をもっているみたいだ。
すっかり懐いてしまった《ふわふわちゃん101号》を頭に乗せながら「あ〜」とか「う〜」とか唸っている。
岸は時折とても心配性で繊細なようで、よく難しい顔をしている。
ーーーやっぱり精をつけるのが一番だよね!
りんはというと。
外の草原で鍋を炊いていた。
皆が本気であの《憎き豆ちゃんの木》攻略法を考えていると、ランチの時間を忘れてしまうのだ。
あの優雅で魅惑的な食堂に行く暇もない。
ここは孤児院の子供達の《総司令官》だったりんの出番だった。
使命感を持って。
りんは今日も炊き出しをしている。
「岸!鍋出来たよ〜」
「鍋うめぇ」
「絶品です。りん様!
貴女様は何処でこんなスキルを!?
野の草花と空飛ぶ鳥が、一瞬でこんな素晴らしいお鍋になるなんて!」
「うふふ。
私はなんせ《野生の美食家》だからね〜」
「よ!野生のくいしんぼ!」
「いよ!太っ腹!」
「鍋うめぇ………ほんと」
りん、岸、澪の他にこの小屋で駄弁っているのは六人。
「やはり今回も駄目だったな………」
黒焦げになって戻ってきた男子生徒がボヤいた。
「いつも偵察、ありがとう。猿田くん」
「うむ。同じ鍋をつついた中だ。かしこまるな。
苦しゅうないわ」
ガハガハ笑いながら水浴びをすると煤けた肌は元に戻った。
ニメートルの巨体。角があったら鬼族かと思うくらいの険しい顔つき。
ただ。
彼のお尻からは細く長い尻尾がある。
それと大きめの福耳。
「猿族の猿田くんでもだめかあ」
「あぁ。木登りなら誰にも負けないんだがな」
猿田 一彦はあの三蔵法師が仏様を見つける旅に出た孫悟空の家系なのだそうだ。
「じいさんの如意棒はまだ継承してないからな………。
自力で駆け上がってみたが。あの雷がな………」
猿田はその立派な体躯を駆使し蔦を登り切る所までは成し遂げているのだ。
しかし。
「雷が常に渦巻いている雲の突破。
あれはやっぱり無理そうだな。一発で気絶する」
「ゴムのシートもだめか………」
りんがおたま片手に呻いていると足元から声がした。
「りんの絶縁体という発想は良いのだけど。
雷を通さない素材。
その発想は正しいとは思う。
ただ、絶縁体が保たないと意味がないんだ。ここの雷はたぶん現世の単純な電気のエネルギーのそれじゃない。
今から新素材開発する?出来なくもなさそうだけど。
僕なら。
天才だからね」
小さいながらも胸を張る金髪の子供の瞳は琥珀色だ。
見つめられると可愛らしさにとろける蜂蜜のような気持ちになる。
「………何年かかりそ?」
「二年かな」
「タイムリミットはあと二日だよ………」
「研究にタイムリミットなんてナンセンスだよ」
「ありがとう。すっごく数式計算してくれたでしょ?
食べて食べて」
りんが屈みながらその男子生徒の頭をポンポン擦った。
琥珀 ピアスは一見すると7歳くらいの幼い愛らしい子供のような姿だ。
これでも100歳は超えているらしい。
りんより遥かに年上のはずなのだけど琥珀は甘えたがりだ。
琥珀の数式の説明をふむふむ聞いているだけなのに。
彼は幼子のように頭を差し出すのだ。
なでなでしないと不機嫌になる。
「引きこもって100年。
やっと入学したのに留年か………。それはいやだなあ」
彼は知識オタクのりんなど裸足で逃げたくなる天才だった。
100年の引きこもりも知識欲故らしい。
そんな彼が悔しそうにゴムで作ったマントを握った。
小屋の窓からは紫色の閃光の光が入り込む。
この小屋は防音がしっかりしていてあまり外の音がしないのだ。
考え事をするにはピッタリの小屋だが、気付くと夕方なんてザラである。
「もう………疲れない?新しい音楽かけましょ!」
「そうしましょ!そうしましょ!」
「あ。二人もおいで〜鍋だよ」
「「は〜い」」
金髪の妖艶な女子生徒がイケメンを誘惑している。
波打つ美しい黒髪の妖艶美女がナタージャ・A・メノウス。
彼女にデレデレな男子生徒と踊っている。
「インド系の《手多族》のダンサーは動きが違うね」
「ふふ。まだまだひよっこだから手は二本だけよ?」
彼女ナタージャは考えすぎて停滞する皆のストレッチを指導してくれたりする。
たまに男子生徒達がタジタジしているのは、彼女がセクシーな格好をしているからだろう。
りんですらドキドキしてしまう。
「りんが食べてる姿のほうが、よっぽど手が何本もある動きしてるよね〜。
食べっぷりのいい女の子かわいらしいなあ」
「あれ?私のこと男子生徒だと思って昨日まで塩対応だったアンテ君はどこ行きましたか〜」
彼はふっと笑った。
心なしか緑の髪の毛がたなびいている。
其れだけのための風魔法らしい。
芸が細かい人だ。
「いやだな。りん。
塩対応じゃなくて様子見。
君とのランデブーを測りかねていただけさ………」
「こいつ。切っていいですよね」
「やれ。今回は俺も止めねぇ」
澪と岸から鋭い眼光が走る。
りんからするといつもの二人なのに、彼からすると恐ろしいらしい。
後退り腰を抜かしながらムカデのようにかさかさ逃げ出した。
ムカデ姿のイケメンは少し残念に見える。
残念ムカデイケメンだ。
「ほら!
こんな怖い二人侍らす君を。
まさか女の子だと思うわけないじゃん〜。
助けてっ琥珀〜」
「くっつくな。あ。数式乱れた」
「俺避けれねぇなんて疲れてるんだよ。休も休も〜」
自分より小さな琥珀に泣きつく残念な男子生徒がアンテ・クオニだ。
さっきまでナタージャと踊り狂っていた子だ。
彼は。
ーーーおちゃらけてるけど、空気を明るくする力がある人だよね。
彼が怯えて変な動きをするたびに皆が笑う。
彼が琥珀に抱きつく時は、琥珀が疲れている雰囲気をりんが感じるとだ。
りんが声をかけるよりも早く泣き言をいい休憩を促すのだ。
周りをよく見ている厶ードメイカーだ。
「咲ちゃん。おいし?」
「ん」
「いっぱい食べるんだよ〜」
「ん」
「んふふ。 最初無視だったのにこんなにお話してくれる〜」
「ん!」
「そかそか。おかわりね」
「ん!」
眼鏡で青い髪のサラサラおかっぱの女子生徒は木ノ葉 咲。
恥ずかしがりやで編入の届けにも、先生に相談に行くのも出来ないらしい。
それを聞き出すのに三日かかったけど、今ではすっかり打ち解けている。
「あ!」
音もしない窓からは様子を伺っていたりんは、その人の姿を草原から見つけて小屋の外に飛び出した。




