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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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坩堝学園 5.秤にかからぬ魂と精神

 そして、いつの間にか誰も呼ばれなくなった。


真神教諭がこちらを見つめている。


「佐藤 りん。……いないのか」

「います! すぐ出ます!」


 どっと周囲に笑いが起きる中、りんが登壇した。いよいよ、りんの番である。


「王子は何色かな」

「金色とか?」

「リリス様の子供だろ? 紫色とか?」

「ポンポン持ちちゃんファイト〜」


「りん様!リラックスリラックス!」

「がんば〜」


背後から聞こえる声援や野次に苦笑いしながら。

りんはふわふわと対峙した。


「ふわふわちゃん、おうち以来だね。お疲れ様」


小声で語りかけると、ふわふわはまん丸な目をキラキラさせながら跳ねた。キュルキュル甘えた声を出す。

愛くるしい生き物である。


クスクス笑うりんを、真神が訝しんでいる。

気を取り直して、そっと会釈する。

力を抜いて目をつむる。

恐る恐る、柔らかく温もりのある生き物へ手を伸ばした。


「?」


待つ。


「………。?」


何も光らない。

ふわふわと目が合うけど、お互いにキョトンとしてしまう。


周りがしんと静まり返っている。

りんは首を傾げた。


「これは……」


真横から覗き込んだ真神が、眉間を顰めながらさらに難しい顔をする。

ふわふわが目を白黒させ出した。

何やら様子がおかしい。


「え? っ……ごめんなさい!

ふわふわちゃん体調わるい――」

「アホ! 急に手を離すな!!」


りんがふわふわから手を離した瞬間、虹色の光に目を射抜かれた。

途端、真神教諭のローブがひらめいてりんを包んだ。


背後で岸と澪の叫び声がした。

その光はホール中を照らす。

あちこちから悲鳴が聞こえる。

りんも目を瞑り耐えた。


しばらくして静けさが戻ってきた。

辺りは騒然としている。


光は止んだようだ。

真神教諭がふわふわを見上げ眉間を深めた。


「これは……《ひ……》」


 真神教諭が宣言しかけた、その瞬間。

ふわふわが震えだした。

唖然として見上げる皆の頭上に浮かび上がると、内側から激しい稲妻のような紺青が噴き出す。銀色とも濃紺(のうこん)とも紫紺(しこん)とも表せない色が輝いた。


「わ………お月様みたい」


りんの呟きは掻き消えた。


また皆が悲鳴をあげて逃げ惑う。


ふわふわが苦しげに叫ぶ。

りんにはそれがたすけ(・・・)を求めているように聞こえた。


「ふわふわちゃん!!」

「こら! 暴れるな!」


真神教諭がりんを制する。

これ以上動けなかったりんがそれでも手を伸ばそうとする。


「いや!ふわふわちゃん!」


ふわふわは目を瞑り、ゆっくりと虹色の火花を散らしながら落下した。


「あっぶね……」


そこに滑り込んだのは。

岸だった。

岸の腕の中にはまだピクピク痙攣しているふわふわがいた。


「岸ッありがとう!」


りんはぐったりしたふわふわをそっと抱きしめた。また虹色の火花が弾けた。


「《(はかり)にかからぬ》か………」


真神教諭が呟いた言葉の意味はりんには分からなかった。



 結局、りんの測定結果は《測定不能》と判断された。急遽他の教諭も集まり会議が始まったが、りんだけはその場に残された。


真神が静かに語る。

目を瞑り首を振りながら、心底「面倒だ」という顔を隠しもせずに。


「驚くことはない。この世界での肉体は精神により変容する。俺がこの姿なのは、早い段階で精神が完成されたからだ」


りんは少し首を傾げた。目の前の真神と、説明の意図が繋がらない。


「真神教諭はまだギリギリ十代なんだよ。

本来の身体年齢はね」


すると背後から音もなく現れた明るい教諭がりんの肩を突いた。金色のおかっぱ髪の男性教諭だ。

笑い顔で瞳が糸目のように弧を描いている。

緊迫した空気なのにニコニコしている。

その教諭の姿を認めると真神教諭の眉間が深まった。


「え?えぇ!!」

「囂しい……」


「ね?ね?

見た目年齢いくつに見える?」


りんは改めて真神教諭を見上げた。よくよく見るとナイスガイだ。怖くて威圧的だから目を逸らしがちだったが、彼は美丈夫だ。だけど。


「……(精神年齢は)二十……後半……?」


りんが恐る恐る、かなり気を遣って「若め」に数字を出す。


「わ……いい子。どう見てもアラフォーだヨね?……」


隣で糸目の教諭が口を抑えて呟いた。

りんは首を傾げる。


ーーーアラフォーに見えなくもないような………。


りんは真神教諭チラリと見上げた。彼の目元の皺を確認しようとしたけど眼鏡が邪魔だ。

そもそも眉間の皺は生まれつきのような深さだ。


とにかく威厳があって年齢不詳なのは確かだ。


「佐藤 りん」

「あ。流した」


糸目の教諭の軽口を聞かないふりをしたらしい。

それでも彼を睨みながら、真神教諭は淡々と話を続けた。


「お前の色が揺らぐのは、お前の中に『別の完成された精神』が同居しているからだ。それが病気にしても能力にしてもだ。精神が大きく作用するらしい。……精神が変異すれば、制御できないと思え」


「困ったらいつでも頼りなさい、って言ってるんだよ。

生徒の火種を絶やさない。僕らは坩堝学園が誇る立派な立派な教諭たちなのさ」


りんの前に躍り出て両手を広げて演説する糸目の教諭は、空隙 ヌラ(くうすき ぬら)と名乗り、上機嫌でりんと握手をした。


「いやあ! 今年の新入生はトリックスターが多いですね、真神せんせ!」


「佐藤 りん。話は終わりだ」


「あ! りんさん〜! 測定不能でも、なんもなんも問題ないからね〜。よい学園生活を〜」


「佐藤 りん! 退室しろ」


「もう〜、も少し話したかったな……」


「佐藤 りん!!!」


「あ、ありがとうございます! お邪魔しました! 失礼します!」


どんどん剣呑になる真神教諭と、ウキウキの空隙教諭にタジタジになりながら、りんは退室した。



リリスホールの重厚な扉を抜ける。

そこには案の定、心配で魂が抜けかけた二人の姿があった。

心なしか二人とも瞳の光がなかった。


「りん様ぁぁぁーーー!!」


扉が開いてりんが顔を出した瞬間、弾丸のような勢いで飛びついてきたのは澪だ。

その瞳には大粒の涙が溜まっており、今にも決壊しそうだ。


「ご無事で……ああ、ご無事で!

あの虹色の光に包まれた時は、学園ごと消滅したかと思いました!

すぐにでも斬り込もうとしたのですが、剣はなく冷静をかきまして。

岸に『逆に危ねぇから待て』と羽交い締めにされ……っ!

お側に馳せ参ぜず申し訳ありませんッ」


「……いや、マジで心臓に悪かったぞ」


澪の背後で、岸がぐったりと肩を落として立っていた。

いつもは自信ありげな彼の眉根もハの字に垂れ下がっていた。

その腕の中には、まだ少し微弱な虹色のスパークを散らしている『ふわふわちゃん101号』が収まっている。


「岸、ふわふわちゃんを持っててくれたんだね。ありがと」


「ああ……。なんかこいつ、俺の腕の中で落ち着いちまってさ。お前のこと、じっと見てるぞ」


見れば、ぐったりしていたはずのふわふわが、岸の腕から身を乗り出し、りんの方へ向かって「きゅぅ……」と切なげな声を漏らす。


「りん様、それで……結果は何と? あの陰湿黒髪眼鏡の教諭に、何か不当な扱いを受けてはいませんか!? もしそうなら今すぐ――き」


「あはは、大丈夫だよ澪ちゃん。えっとね……《測定不能》だって」


「「そくていふのう……?」」


二人の声が重なった。

りんは、先ほどホールの舞台裏で言われた「自分の中に別の精神がいる」という奇妙な話。

それと、あの威厳たっぷりな真神教諭が実は自分たちと同じ十代(ほんとかな?)だという衝撃の事実を、かいつまんで話して聞かせた。


「十代……。あの貫禄で……?」


「……精神が完成されすぎているのも、考えものだな」


 岸が自分の顔をさすりながら複雑な表情を浮かべ、澪は


「さすがは学園の教諭、精神の格が違いますね!」


とあらぬ方向へ感銘を受ける。


「でも、測定不能でも問題ないって空隙先生が言ってくれたし。これからよろしくね、二人とも」


りんが努めて明るく笑うと、ようやく二人の表情にもいつもの柔らかさが戻る。

肩から力がやっと抜けたようだ。

二人もずっと気を張っていたのだろう。


ーーー悪い事しちゃったな。


 ホールの中からはまだ残っている他の生徒たちの熱気が聞こえてくる。

りんへの視線も痛い。

そろそろここを離れたほうが良さそうだ。



「あっ、いい匂いがしてきた。

例のランチ、全メニュー制覇に付き合ってくれる?」

「もちろんです! りん様の栄養管理は私の使命ですから!」

「ほどほどにしろよ。

最近ますます食欲増してないか?」

「貴様ッりん様を食い汚いなどとぬかすのか?!」

「いちいち噛みつくな。ぷるんぷるん」

「カチカチ!柔軟性のない思考だな!貴様!」


岸と澪が掴み合う寸前。

空気が緩んだ。


ーーーくーーーう。


りんの腹の虫が鳴いたから。


赤らむりんを見て岸も澪もたじたじだ。

先程の争いは忘れて


「りん様をお待たせした大罪!なんとしても挽回せねば!」

りんを引っ張りながら澪は走り出した。

目指すは学食のあるCAFEフロアだ。


「うん!だって学食無料だよ!無料!」

「そこか。お前の喜びは。まったくりんらしいなぁ」

「流石でございます!

りん様は節約にも長けてらっしゃるのですね?

参考になります!」

「するな、するな」


賑やかに三人は歩き出した。


まだまだ学園での一日は始まったばかりである。


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