坩堝学園〜るつぼアカデミー〜 城
「わぁ………。城だぁ」
「あぁ。これぞ、城だな」
りんと岸は目の前のそびえ立つものを見上げた。
そこは坩堝学園。
今日からりん達が通う学校である。
切り立つ山々の中の盆地に城はある。
城の周囲は崖で覗き込むと底が見えなかった。
「お母様がおうちを《城》じゃないって否定したのわかる気がするかも」
「いや。あそこも大概城だぞ」
確かに。
大きさや塔があること。
豪華さを見ると大きな屋敷は《城》といっていいと思っていた。
いたのだけど。
「私、城についての本読み漁ってみたの」
「わ………。でた。調べ物オタク、りん」
「え。なにそれ。面白いあだ名!」
「皮肉だぞ………喜ぶなよ」
りんは首を傾げた。
岸が固まった。
りんはしばらく岸を見つめた。
じっと見た。
岸がたじろいだ。
目を逸らす。
りんは自分の意見を通したい時よくこうする。
目をそらしたほうが負けなのだ。
今回はりんが勝った。
ちなみにりんと岸ではりんが全勝である。
岸はにらめっこ激弱なのだ。
「好きなことやり通す《オタク》って褒め言葉じゃん」
「悪い。確かに褒め言葉だ」
「でしょ?」
二人は鳴り響く音声ガイダンスに従いながら式典会場の《リリスホール》を目指す。
「あ。まずね。《城》って《防衛を見せる》建物なんだって」
「見せる?」
荘厳な壮大な城は切り立った崖の上にそびえ立つ。
それを更に囲む高い塀を指さした。
「まず立地。周りの地形を利用して造られているの。
山々に囲まれていたり、溪谷や崖があったりするほうが敵が攻め込みづらいの」
「へ〜」
入学ガイダンスパンフレットを観ながらも岸はりんの話に付き合ってくれている。
そこに気を良くしてりんは真下を指さした。
「ほら。この下の崖見て」
りんは今通っている最中の跳ね上げ橋の下を覗き込む。
横幅は生徒が三十人横並びでも落下しなそうなほど広い。その端に寄り、その下をよく見る。
そこに薄っすら白い雲のようなものが敷き詰められているようにも見えた。
「あれ、《ふわふわちゃん》なの」
「あぁ。子供達が遊んでた綿毛が魔素含んでるやつ」
岸も一緒に覗き込んだ。
「あれなら子供は落下しても安心だな」
「子供はね」
りんは視線を門番のおじさんに送った。
門番のおじさんは背中に羽根が生えた獣人らしい。
「大人が落ちると、ふわふわちゃん貫通して毒が噴き出す槍だらけの谷に真っ逆さま」
「え?」
「あの門番の人、羽根がある種族なの納得だよね」
「こわッ」
「つぎ、あそこ見て?」
青ざめる岸を引っ張りながらりんは上を見上げた。
「城を囲む高い塀なんだけど。立派な塔がいくつもあるでしょ?」
「あぁ。一個や二個じゃないな」
「あそこから外敵に上から攻撃を浴びせるの」
「攻めの護りか」
「城壁塔には、番人。守り人が定住してるとか」
「過酷だな」
「だから。ここはすごくすごく。子供を護る造りに特化しているの!すごいよね!」
りんはこの城を模した学園をリリスが造ったことが誇らしくなった。
「でもさ」
「うん」
「この世界は。特に魔素は。子供を慈しんでるんだよな?」
「ふわふわちゃんみたいにね」
「ならさ」
「なにから俺等を護ってるんだ?」
「ん?なんだろね。戦争………してなさそうだし」
休暇中に見て回った市場や農村地帯を見る限り近々ここが戦場になる雰囲気はなかった。
新聞には確か………。
「ケバケバ森からの魔獣脱走の記事はあったかな」
「ケバケバ………?魔獣か。確かに危険そうだな」
りんは一番高い塔の窓を見つめた。
「リリスお母様も、建造物オタクかもね?」
「過剰なほどの過保護仕様か。確かにリリス様らしいかもな」
ただ。
またもやりんと岸はそれを仰ぎ見た。
それだけでやっぱり普通の城ではないなあとわかるものだったから。
「なあ」
「うん」
「あっちにはドイツぽい無骨な城。
あっちは………。ベルサイユ宮殿ぽい城。
これはタージマハルみたいな玉ねぎ屋根みたいな城。
真ん中の大きなのなんか。
日本のお城の天守閣みたいなのだよな?」
「うん。何式か国は今はよくわからないけど………。そんな感じ」
「斜めにニョキニョキと。
木の幹みたいに色んな城ぶっささってねぇか?」
「う………ん。まさに建築様式まで《坩堝》なんだね」
坩堝学園。
その学園は城のように広大な要塞のような造りをしている。
だが大部分は大きなそびえ立つ大木だ。
その幹に果実のように四方八方色んな城が生っている。
そんなりんの建築様式オタクなど役に立たないような城構だった。
「やっぱ、ぱねぇ」
「うん。常識は通用しなさそうだね」
人間。現実が想像をはるかに超えると言葉が出ないものである。
岸とりんはまた入学式ガイダンスに耳を傾けた。
意識はこれから始まる式典。入学式だ。
二人が踵を返した瞬間、塔から翡翠色の瞳が覗いていたことを彼等は知らない。




