幸福の家9 安全な移送、そのままが一番です。
最初に感じた違和感。
「子供達皆で同じ日にお引っ越しだよ」
日常に慣れた頃、定時連絡のように御嶽は言った。
「荷物の整理はいらないよ?そのまま持っていくから」
「そのままが一番安心だろ?」
本当に破格な対応だ。
孤児院育ちは手持ちの物を殆ど所有出来なかった。
それなのに今や子供達の部屋は物で溢れていた。
それらは全て御嶽が用意したものだ。
当然のように共有物だと思った。
手放す心積もりは子供達も慣れていた。
それを当然のように、新居に持って行けるのだ。
喜ぶ子供達の笑顔にりんも浮足立っていたんだと思う。
「金持ちのスケールすげえわ」
「岸が言うと説得力ないね」
これが本当に孤児院も子供達も、プレゼントも。
そのまま送られると誰が思うだろうか。
ーーー御嶽さんがよく外で掃き掃除をしているな。
施設長が率先して施設の雑用をする。
以前の施設では見なかったことだ。
手伝いを申し出ても「君にはまだ早いかなあ」と困った顔をされる。
この施設の大人は皆困った顔をする。
ーーーまた子供扱いされちゃったな。
そうこそばゆくなって室内に入るのだ。
あれらがナニかなんて。
わかるわけがない。
「りんさんと、護くんは別々の親元に移送になります。
大丈夫。
屋敷も近いし親戚だから学園も同じ。
いつでも会えるからね」
孤児院の屋敷の外に散歩に誘われて聞かされたのは、これからの予定だ。
相変わらず、かの国はどこかとか。
孤児院は燃えたけど職員の人たちは死んでしまったのか?
とか。
それらは蚊帳の外のまま平和な日々を送っていた。
ただ子供が大人の世界を垣間見ていたあの施設での日々が異常だったのだ。
だから。
御嶽からの子供扱いは嫌ではなかった。
「子供達はまだ年齢を満たしていないから。これからも施設で過ごすことはかわらない。
りんさんの里親の敷地だから毎日会えるよ」
「ほえ………。」
心配しないでね?と言われて驚きの声しか出ない。
りんの里親は相当なお金持ちらしい。
「じゃ、行きますか」
と話を聞いていたりんの目の前で。
孤児院は屋敷ごと光って消えた。
「え?」
御嶽は指を鳴らす。
隣の岸も驚きの顔のまま光って消えた。
今度は翡翠色に光ったのは見えた。
見えただけ。
理解は出来ない。
「え?ちょ?」
御嶽は手を軽く叩いていた。
大仕事やり遂げましたみたいな顔をしてにこにこだ。
いや。
わからない。
「さあ!
行くよ!
勇者候補よ!
君は期待の大型新人だ!
幽玄異郷へ!」
「ゆ………?勇者候補?」
手を引っ張られて足元が翡翠色に光る。
御嶽の背中から銀色の翼が開いた。
目が眩むほどの光。
足元に微かに幾何学模様が浮かんだ。
廻る。
景色が
色が
音が。
光がなだれ込んできた。
翡翠色の光。
ーーー御嶽さんの瞳の色だ。
思考はここで霞みだす。
光の中、御嶽の声が聞こえた気がした。
「………夢のお姫様を救うのはきっと勇者だよ」
ーーーと。
それを最後に意識はプツリと途切れた。




