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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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幸福の家3 門が揺らぐ音


「昔むかしある所に美しい女の子がいました。

ーー彼女は麗しい金髪のーー」


 寝かし付けの時間は幼い子供達にとってりんを独占出来る貴重な時間だった。


学園から寄付された《灰かぶり姫》の絵本に子供達は忽ち夢中になった。

物語を静かに聴き終え感想を思い思いに話しながら、微睡みの時間を過ごしていた。


「お父さんそこそこの富豪なんだよね?

まず相続問題しっかり代理人に任せようよ」


「商売するひと?だよね。このおとうさん。

人を見る目があるはずだよね?

ままはは?をえらんだのをそもそもまちがえてるよね」


「お役所も仕事しようよ。

正当な直系の相続人が困窮しているなんて街の人ですら知っていたはずだ。

それなら、なんかしらの税金を取り立てる時に異常性はわかるはずなんだ。

なんせ国中の年頃の娘へ招待状を出せる程なんだから」


「おやくしょ?」


「うちの孤児院にはなかなか来ない税金泥棒だよ」


「どろぼう! しってる!」


「上手上手!」


幼子に年上の子供達がわからない単語を教えてくれている。

弱きを尊ぶ素晴らしい子供たちだ。


りんは微笑ましくてクスクス笑う。



「でも一番解せないのは王子なんだよ」


「おうじさま?」


「こういう男を選んじゃいけないよ」


「いけないの?」


「おひめさま、おうじさま、さがしましょうね〜パカラパカラ」


年上の子供たちも巻き込んでの討論は白熱していた。


「なんで己で探さないのかな?!」

「運命の出会いをしたんだよね?」


「うんめいのであい?」


「顔見たらかわいかったからドキドキしたって話だよ」


つぶらな瞳の幼子はあきて人形で遊びだした。

さらに討論は熱を帯びる。

熱くなったのかパジャマを脱ぎ出した男の子を宥めながら、りんは布団を整えていく。


「顔見て声聞いたら一発でわかるのは王子しかいないのに?

シンデレラが逃げた瞬間から追いかけられない貧弱な王子ってどうなの?」


「その時ドラゴンに城を攻められてたわけじゃないよね?

国中の娘は城にいる状況だよ?

その子達を城に留めておけば………。

家で籠城してるシンデレラが探しやすいよね?」


「あ〜。ドラゴンがおひめさまたべちゃったあ〜」


「城で悠長に待ってなんかいるからシンデレラは更に継母達から虐待されてる。

遅いんだよ。

お姫様が救われるのが遅いんだよ」


「あ〜。おひめさまのくび、とれたあ!」


「虐げられていた女の子が救われるのが大人になってからって遅すぎるんだよ」


「彼女は寝る所もキッチンの暖炉の前だ。

暖房費をケチるからそこしか暖をとれなかったんだ」


「灰かぶりのエラ《シンダーのエラ》のシンデレラなんて言われる生活だよ。


僕らですら仲間と肩身寄せ合って暖をとるのに。

名家のお嬢さんが屋敷の外に放り出されたりなんかしたらさ。野垂れ死に以上のひどい目に合う。

逃げ場のない牢獄で過ごした期間、誰も彼女を救えなかったの?」


頷き合う子供達の瞳は輝いている。


「りんお姉さんのほうが、よっぽど王子様だよね?」

「わかる」

「同意」

「りんおねえちゃんおうじさまより、おうじさま!」


童話は素晴らしい教材だ。

りんは洗濯物を畳みながら子供達のおしゃべりを見守っていた。

白熱しすぎると掴み合いになることもあるから要注意だ。


「ふふ。私を褒めてもお城はだせないぞ〜」


「待って。なんの討論をしてるの」


廊下を通っていたシスターの顔はドン引きだ。


「シスターまりな!お疲れ様です」


りんが振り返るとシスターまりなは困惑を隠せない様子で入室した。

黒く質素な法衣の前にエプロンを腰にまきながら、彼女はあきれ顔で立っていた。 

まだ若々しい見目の笑顔は慈愛のマリアさまの微笑みだと評判のシスターである。


「盛り上がっていると思ったら………」


「はい!みんな新しい絵本を喜んでくれて!」


「喜ぶ………?」


「正しい解釈だと思いますよ?視点が面白い」


「童話に………解釈………?」


シスターまりなは幼子を抱き上げながら辺りを見渡した。

子供達の討論は次の段階にうつっていた。


「そもそも。俺等みたいな子供たちにさ。

「待ってたら魔法使いが〜」って話どうよ?」


「待つな。自分で幸せは掴み取れって童話ないかな?」


「わらしべ長者?」


「いやいやいや。あいつゴザひいて寝てただけじゃん!」


「長ぐつをはいた猫?」


「惜しいなあ………。あれは家臣が優秀って話だから。他力本願の代表だぞ?」


「あかずきんちゃん!」


「食われておわるぞ!」


「むずかしいね〜」

「ね〜?」


シスターまりなはため息をついた。


「その討論。他所ではしないようにね」


年長な子供達の頭を優しくポンポンしながらシスターまりなは諭す。


「正論は正しいからこそ、人を傷つけるものなのよ」


「ただしいのに、だめ?」


「うふふ。

大人の前では子供らしさを演じるのもだいじなのよ?」


「「「「「は〜い」」」」」



「あ〜あ。おひめさまはねんねの時間だあ」


「おねむになる物語がよかったわね〜」

「頂き物だからと失念してました」

「頂き物は無下に出来ないものね〜」


放り投げられたぬいぐるみを拾い上げてベッドに並べる。

シスターと協力して寝支度を調えていると、何やら表が騒がしくなった。


「あら?お客様かしら」


「こんな夜更けにですか?」


「予定はなかったのだけど………」


りんは焦るシスターまりなの後を急いで追いかけた。 

表の門あたりから何やら金属音が響いている。

闇の静けさをきり裂く激しさだ。


「ねえ?おうじさまをたすけるおはなしは?」


まだ興奮冷めやらない幼子を宥める声が背後に聞こえた。

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