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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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幸福の家2 白い梟

 「ふくろうさん〜ふくろうさん〜」


 りんはやまびこを楽しむ子供のように声を張り上げながら裏山を歩き続けた。

そこは寂れた孤児院の所有する土地としては、破格の広さを誇る私有地だ。


驚くべきことに幸福の家は広大な裏山つきの土地持ちの施設なのだ。


都会から離れた郊外だとしても広大な土地持ち施設は珍しい。

「地価が安い時に遺産相続した」

呑んだくれた施設長が上機嫌で話していたのをりんは聞いたことがあった。

幾度となくこの裏山を売るか運用すれば施設経営が楽になる。

子供のりんですらそう思うのだ。

だけど。


あのケチな施設長が売らないのだ。


ーーー売れない理由(・・・・・・)


そんなことを考えてからりんは首を振った。

考えるだけ無駄だ。

 ただ売れた所であの施設長がその資金を施設経営のために活用するかは疑問だ。

だから売れなくて良かったのかもしれない。

それをりんは最大限利用しているのだから。


しばらく歩くと鬱蒼としていた藪から開けた場所に出た。


 そこはりんが秘かに世話をする家庭菜園だ。


 じゃがいもからさつま芋などの腹持ちするものが葉に隠れて肥沃な土の中にある。

茹でるか蒸さないと固く食べられないのは残念だ。

食べ盛りの子供達が調理時間中我慢させるのはいつも忍びないからだ。

だから生で食せる葉物野菜は外せない。

レタスや青菜の若菜、瑞々しいトマトにナスは食べ頃だ。

その隣には農家さんから厚意で頂いたスイカやメロンがある。

害獣よけの電気柵などは高価で買えないけれど奇跡的に被害はない。


一通りの収穫を終え、手入れや水遣りを済ませる。

それらが済んでから、りんは更に奥地へ足を進めた。

その一角の太い切り株の上にその生き物はいた。


「ふくろうさん!!」


「くふ〜」


りんはニマニマする気持ちを抑えきれず頬が緩んでしまう。


 その梟はそれは美しい毛並みの立派な体躯をしていた。

思わず抱きしめたくなるほどの可愛らしさと神秘性を宿している。

銀色と見間違うばかりに輝く羽毛。

理知に富んだ眉毛の位置にある飾り羽。

ふわふわの胸は素晴らしい厚みがあり、その模様は複雑な幾何学模様を思わせる。


そしてまん丸のつぶらな瞳は翡翠色なのだ。



 梟はりんを認めるとひょこひょこ跳ねながら近づいてきた。

羽をばたつかせているが飛ぶことはない。

広げれば二メートルを軽く超える立派な翼には今包帯がまかれているからだ。

りんの元へ急ぐ様は飼い犬のようだ。


「あ!だめだよ。ふくろうさん!安静、安静だよ?」


「クルックー」


「ゆっくりね?わかる」


「く?くふ?」


「ふふっ。わかるの?

鳴き声だけ聞くと私の話が分かるみたい!」


「ほ?ほほ〜」


この梟は賢いのだ。

野生動物の猛禽類型の鳥にしては人懐っこく。

なにより、りんの独り言や愚痴に忍耐強く付き合ってくれる。


 この梟は出会いからして不思議だった。


りんは岸を追い出してからもしばらく病院でお世話になった。頭部への外傷は思ったよりも深かった。

大部屋への移動は進まなかった。

その病室の窓からりんの懐に飛び込んできたのがこの梟だった。

翼に怪我をした憐れな梟をりんはほっとけなかった。

つぶらな瞳で見上げる生き物にりんはめっぽう弱かった。


追い出すには忍びなくて自己流の手当てをした。

その後いつの間にか姿を消していて。


回復したことへの安堵と一抹の寂しさを抱えて孤児院に帰ってきた。


 孤児院でシスターはりんを優しく出迎えてくれた。

事件の事、学園を追い出された事は何も問いただされなかった。

学園へ行かなくなった事以外はりんの日常は変わらなかった。

そこに。

梟は現れたのだ。


今ではすっかりこの裏庭が逢瀬の場所になっている。


 りんは懐から袋に入ったものを広げた。

生け捕りにした鼠だ。

りんが早朝に急いだのはこのためだ。


子供達に気付かれたら玩具になる運命の鼠だ。

糧になったほうが命に対する敬意だろう。


「足りないかな?おやつにはなるといいな」


 梟はピシリと動きを止めた。

まん丸の瞳でしばらく逃げ回る鼠を一瞥した後、

一瞬で喰らいつき呑み込んだ。

鮮やかな狩りにりんは拍手を送る。

梟は誇らしげに胸をはった。

その様子にりんは笑いが止まらなかった。


しばらく腹を抱えて。

そして口から息がこぼれた。


「ふくろうさん。また夢を見たの」


梟は首を傾げて目を細める。

まるで思案しているような間をもたせた後、またひょこひょこ、りんに近づいた。

りんの腕にぴったりと寄り添う。


「また聴いてくれるの?」


「ほ〜」


「ありがとう」


りんは梟のふわふわの翼の内側をさわさわ触りながら、目を閉じ語った。


退学したこと。

友達を無理やり遠ざけたこと。

明日もわからぬ不安。

そして。夢の中のお姫様の話を。


「いつもね。その人は泣いてるの。

この1年毎晩同じ夢を見るの」


りんは夢の中のお姫様を記憶の中で思い起こす。

ただの夢には思えないのだ。

甘い匂い。声。

何かを思い出しそうなのに、思い出したら壊れてしまうような切迫感に切なさ。


「彼女を抱きしめたこともあったの。

指先に残っているの。震える温もりが」


「おかしいよね」

りんは苦笑いする。

それでも梟はじっとしている。

時折首を傾げたり隣のりんを見上げたりする。


「朝起きると服の端に血がついていたりね」


「我に返ると目の前に人が倒れていたりするの」


「病気なんだ。仕方がないって………皆が言うよ」



シスターにも医師にも。

ましてや岸にすら話せなかったことをりんは話していた。


ただの梟にこぼしてしまいたくなるほど。

りんは限界だった。


「誰も傷つけたくなかった」


頬を伝ったものを梟の羽先が掠めた。


「慰めてくれるの?」


りんが頬を寄せると梟もその丸い額を寄せる。


「どこか。誰も私が傷つけないで済む世界に行きたいな」


ーーー無理だけどね。


苦笑いすると梟は大きな瞳をゆっくり閉じた。


森のざわめきをしばらく聞いていた。

風の音以外なにもない。

梟は鳴いた。

今まで聞いたことのない声色だった。

一拍置いて大きな翼を広げた。


りんのひざに血の跡もない綺麗な状態の包帯がひらひらと落ちてきた。



「あ!」


見上げようとしたけどあまりの朝日の眩しさに目を細めた。


その間に梟は音もなく飛び立ってしまったーーー。


 しばらくりんは動けないでいた。

あまりにも突然の別れに呆然とする。


でもすぐに我に返った。


もともと梟は野生動物だ。

人懐っこくて賢くて。

りんを見つめる瞳が真摯だろうが。


あの子はりんよりも遥かに自由な生き物なのだ。


それでも。

まだしばらくは側にいてくれる。


そう期待してしまった自分に苦笑いした。


木々の枝がわずかに揺れ、葉と葉が触れ合う。

大きな翼が飛びさった音はもうない。

風のざわめきはすぐに溶けて消えた。


梟との別れも突然だったけど、

その人の訪問も唐突だった。



「君に養子縁組の打診に来たんだ」


その人は、答えを待つかのように一拍置き、

首をわずかに傾けてからそう告げた。


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