1-1 未来からのコンタクトと亮太の周辺状況
久しぶりに投稿します。
前にいつくか書い「明るい日本の未来」の一つになります。現在社会に近い話で似たようなものが出てきますが、これは作者のが好みなので、”またか”と言わず読んで、応援して頂くと有難いです。
SFっぽいのですが、現在ファンタジーとして投稿します。宜しくお願いします。
周囲からのんびり屋で知られている17歳の仁科亮太は、最近取り留めなく頭に浮かんでくる様々な言葉 (中には知らない言葉もある) 、さらにはSF世界のような映像の数々に悩まされている。最初のうちのそれらはぼんやりしていて曖昧だったが、だんだんクリヤーになってきており、最近2~3日あたりから気になって眠れないほどである。
休みの時は10時間以上眠れるという彼にしてである。そして、殆ど眠れずにうとうとしていた夜明けごろ、『リョウタ、リョウタ、亮太。起きろ、起きろ!』という明確な呼びかけに、流石に飛び起きた。
「だ、誰だ?」ベッドで半身を起こした亮太は、頭の中への呼びかけに声を殺して応じた。
声で呼びかけられたのではないことは、はっきり解り、かつ隣の姉を起こさないためである。
『おお、繋がったな、なかなか苦労したが、ようやくだの。私はケルナ・ナカゾノ、君の生きている時から345年後の、身分はそうだな、研究者というところだ』
「その研究者が、何の用だよ?」
遙かな未来からの呼びかけというトンでもなさに混乱しながらも、寝不足の少々ボーとした頭のせいもあって、尚も声を殺して応じる。
『亮太、声に出す必要ないぞ。鮮明に思うだけで意思疎通は可能だ。ああ、君への呼びかけは、現在人類社会が重要な岐路、まあ実際は危機だが、それに差し掛かっており、それを是正する時として絶好の時が迫っているという理由だ。それに、重要なキーテクノロジーが漸く開発されたということもある』
頭の中の思念であるナカゾノが答える。
「ええ、是正!?人類社会の?ひょっとして僕がやるの?」
亮太は相手の話の内容を理解し、驚いて思わず声が大きくなり慌てて口を押える。これらのやり取りでわかるように亮太は聡い。県下トップの進学校である明星高校3年の彼の成績はトップであり、何度かの全国模試において、全国でも10番以内には入っている。それも、“のんびり”という評価を受けながらである。
しかし、ナカゾノは漸く開発できた、時を超えた思考の発信装置を駆使して人工頭脳により、日本中を広くスキャンして亮太を選んだのだ。彼を選んだのは、脳として時を超えての接触に感受性・親和性が高いという点と、知能の高さもある。また、先述の感受性が高いということは、脳の機能が発達しているということでであり、すなわち知能が高いと同義ではある。
そうでないと、今後亮太に期待する役割を理解し、かつ活動を促すことはできないからである。本来であれば、もっと成熟して地位と影響力のある人物に接触したいところではあったが、時を超えての意識の同調は、少年に当たる年代の若い者にしかできないことが分かっているのだ。
一方で、若すぎると脳の発達が十分でなく、今後予定される知識の“インストール”が困難になるということで、数千万の頭脳について人工知能が探査した結果、探し当てたのが亮太である。したがって、ナカゾノにとって亮太は、逃がす訳にはいかない“パートナー”であるのだ。
『ああ、やらないと中々悲惨なことになる。例えば、私もそのニホン人の傍系であるが、君の属する日本国民の10%ほどが、今後の人類の諍いで戦火に焼かれることになる。そして、破壊されたインフラもあってその後に続く苦難により、君らの享受している文明を取り戻すのに100年以上もかかっている』
『うーん、それは困るけど、具体的にはどうするのよ?当然その解答をもって呼びかけているのだろう?』
亮太も、声に出さずに無理なく自分の意思を伝えることができることが分かった。
『ああ、無論君の言う回答は用意している。まず君へ歴史知識といくつかの技術の刷り込みを行う。さらに、その知識を使って、最近日本で開発された初歩的な人工知能を改良してもらう。
その人工知能により、君らからすれば未来のテクノロジーのデータ・知識の受信が可能になる。君の頭脳に全て取り込んでもらえば、早いのだが、実際のところ我々の意図している知識を君の頭脳に全部刷り込むことは容量的に不可能だからね。
それに人工知能に取り込んだデータは出力が容易だ。君の知識は当面、文章や図の形で打ち出す必要がある。もっとも、改良する人工頭脳は人の脳の内容を読み取るように出来るので、出力は簡単になる』
『ふーん、まあ詳しくは教えてくれるのだろうけど、僕自身が大変なことになるのは容易に想像できるね。それで、僕に得になるようなことはあるのかな?』
『大変なことは確かだな。まず、知識の刷り込み、つまり覚え込むことに、1日8時間を要して多分10回の処置をすることになる。ただ、これは睡眠中にやるので、苦痛はないはずだけど、いわゆる知的な意味で疲れるはずだ。だから、頻度は3日に1回程度になるな。つまり1か月を要することになる。
ちなみに、刷り込みの内容は、今後の300年余りの歴史と通信情報技術だ。歴史はそれほど細かいものではないので、情報量は知れている。また、通信情報技術は現在の原始的なものとは全く一線を画したものだ。君も刷り込みが終わったら、現在の技術が原始的と感じるようになるよ。
だから、メリットの第一は飛びぬけて存在の通信情報技術者になることだ。それと、刷り込みの過程で脳の機能が上がるというか、上がらざるを得なくなるので、知能が5割ほどは高くなる。その他に、脳と身体機能の繋がりが改改善されるので、多分疲れにくくなるとか、運動機能も少し上がるだろう』
『うーん、確かに最近の世界情勢はきな臭いから、戦争が起きるまたは巻き込まれることもあり得ると思っていた。だから、人口の1割、つまり1千万もの人が戦争で死ぬということも絵空事とは思えない。そうなると、僕が協力というか、主体的に係ることを断るわけにはいかないな。
それに、さっき言われた技術を身に付けることは、僕個人にとって十分なメリットだと思う。判った、ではどうすればいいのかな?』
亮太は、そのように応じ、ナカゾノという存在を受け入れて、その指示のままに行動することを決断したが、騙されているとかの考えは浮かばなかった。これは、言葉のやりとりとは違って、意識として繋がっていることからその感情まで伝わるので、その意向を疑う余地はないのだ。
『まずは、今日の夜からだな。300年の社会・経済的な歴史と技術史についての刷り込みは1日で終わるだろう。ただ、現状では寝不足で脳の機能も落ちている。それは2時間ほどは深く眠れば、回復するだろう』
『ああ、まだ朝の5時か。うん2時間は眠れるな』
『では、アイエボ(人工頭脳)に2時間後に起こすように命じておく。ゆっくり寝なさい』
頭に伝わるナカゾノの言葉に、亮太はあっという間に寝てしまった。
翌朝、『起きろ!起きろ!』頭の中で叫ぶ目覚ましに起こされた。その時はイラっとしたが、頭が驚くほどすっきりしたのに気が付いた。
『ほれ、我が促した超深睡眠の効果は覿面であろう?』
『誰だ、お前?』
『アイエボである。今後はナカゾノ様に代わって我が貴殿の面倒を見ることになった』
『ああ、人工頭脳、つまりAIのアイエボか?』
亮太が眠る前に、ナカゾノが、『アイエボが起こす』と伝えたが、アイエボ=人工頭脳というイメージも伝わってきたのだ。
『いやいや、我は亮太が認識している原始的なAIつまり artificial intelligence (人工知能)などではない。いわば super-brain 超頭脳だが、そう言うと人が拗ねるので、まあ平凡に artificial brain 人工頭脳と言っている存在である。まあ、よろしく世話をしてあげるので安心してほしい』
なかなか、濃い奴がつけられたなと亮太は半ばうんざりしたが、当面は様子見だと割り切って、とりあえず声にも出して礼を言う。
隣室の姉はいつものようにすでに起きだし、気配もないので声を出したのだ。
「有難う、今後よろしく頼むよ」
亮太はいつも通りに洗面台で歯を磨き、鏡を見ながら短い髪をざっと梳く。その後、いつもの朝7:30に朝食のためにダイニングキッチンに入る。そこには、いつも通り父克己が新聞を読み、姉みどりは自分の席でスマホを覗いている。
すでにテーブルにはご飯と魚を焼いたおかずが置かれ、母佐知が、みそ汁のお椀を並べているところだ。みそ汁のいい匂いを感じながら、「おはよう」と声をかけた亮太に、父は新聞から目を離して息子を見て「ああ、おはよう」と答え、姉も「おはよう」と言って、亮太に顔を向ける。
母も「おはよう、亮太」そう言って彼の顔をしげしげと見て言う。
「あら、今日は眠そうな顔をしていないのね」
「あ、ああ。昨日は少し眠れなくてね、今日はぐっすりだったよ」
流石に母からは、気にかけてもらっていると、ほっこりした亮太であった。
ちなみに、父は53歳で経産省の中部局次長であるから、地方でいるとしてもエリートの方であろう。母は、公認会計士の資格を持っていくつかの会計事務所の仕事を受けて自営で仕事をしている。母に言わせると、会計事務所に勤めると忙しすぎるということで、マイペースでできる自営ということだ。
父は身長が172㎝で体重は80㎏であるが、学生時代に始めた柔道を今でも暇な時に練習をしているので、筋肉質でありがっちりした体格である。顔はいかつい方であるが、まあ美男子とういい難いが、母に言わせると男らしいということらしい。
母は50歳、155㎝で体重は52㎏であり、仕事の傍ら趣味のテニスに励んでいるのでまだ体も顔も締まっていることもあり、まだ10歳以上は若く見られることが多く、美人とみられている。
20歳の姉は、地元のN大学の経済学部の2年生である。母を見習って会計士を目指していて、これまた母の影響でテニス部に属している。学生時代は国体にも出たことのある母の血を継いで、試合ではそれなりの成績を残しているようだ。
みどりの体格は母に似ており、よく日に焼けて、顔立ちは整っているとは言えないが、生き生きした目がチャームポイントで、周囲の男子学生からは人気があるようだが、現状のところステディな関係の者はいないようだ。
ちなみに亮太は身長175㎝、体重は70㎏だからがっちりしている方だ。顔つきは父母ミックスであるがイケメンとは言えない。とは言え、超然とした雰囲気の彼は飛びぬけた成績であることもあって、余り親しい友達はいないが、属しているサッカー部仲間とは普通に付き合っている。
高校自体がコテコテの進学校であることもあって、男女で付き合うという雰囲気でなく、亮太もご多分にもれず親しくしている女性はいない。
朝食の後、最初に家を出る父克己を見送って、亮太は学生服に着替えて家を出て、5分ほどの距離にある地下鉄に乗り登校する。名門ではあるが、古ぼけた明星高校の正門をくぐり、2年3組の教室に着き「ウッス!」と声をかけて、開け放しの入口を通る。
半数ほどが「ウッス」「おお、リョウタちん!」「おはよう」などと応じるなか、自分の席に座り、高校でのいつもの時間が始まる。不動の県下トップとされる明星高校の生徒は、総じて勉学には勤勉である。その代わりにスポーツ活動は低調であるが、亮太はサッカー部に入っており、左のMFがポジションである。
つまり仁科家はスポーツ一家なのである。だが、亮太の属する明星高校のサッカー部は弱い。県の予選で半分位は2回戦まで進む程度で、3回戦まで進んだことは亮太が知る限り1回のみである。だから、とても全国大会などは夢の世界である。
それは、活動時間を全部で1.5時間に限っていることも原因の一つであるが、皆部活は体調保全と趣味の世界であり、楽しくやればいいという者ばかりである。だから、練習は無論ランニングくらいはちゃんとやるが、あまり地味でハードな基礎練習はやらず、殆どの時間を楽しい紅白戦に費やしている。
その進学校で亮太はトップの成績である。彼は、通学に片道40分、学校では授業のほかに部活に1.5時間であるが、家では少なくとも1時間、平均で平日1.5時間ほど勉強する。それでも休日は3~5時間程度は勉強している。
だが、同学年の総数305人中で成績が50番に入るような生徒は、家で平日3~5時間は勉強しているのだ。だから、クラスメートからは、部活をして休み時間ものんびりしているように見える彼は怨嗟の的である。しかし、亮太は授業を完全に理解し、かつ覚えるように極めて真剣に聞いている。
そして、授業の合間の休み時間には、頭の中で授業内容の記憶の整理をしているのだ。家では半分の時間で、授業の記憶を過去に習ったことと照合しての再整理、さらに半分で翌日の授業についての予習に充てている。休みの日には、まだ習っていない部分の教科書の内容をネットの資料を参考にしながら、読み込んでいる。
このため、亮太の授業中の質問・内容への指摘は多い。彼の質問・指摘は内容が高度で誤っていることがないため、教える教師も緊張せざるを得ない。「あいつが居ると疲れるなあ」という言葉が、2年3組を受けもつ教師の共通の思いである。
書き溜めを作る方でないので、3~4話については殆ど出来ていますので連日投稿できますが、後は週に1から2話になると思います。




