武蔵嘘向和歌集2
武蔵嘘向和歌集2
患ひし床にて詠める
201.病床は夜ぞ悲しさまさりける咳の音のみ響くが故に 雑
雲に思ひを込めて詠める
202.細蟹の愛しき思ひぞ雲となりて今日の風にて運びてしがな 恋
返歌
203.空見れば風にたなびく糸雲の誰が思ひとぞ胸に結びし 恋
奈良の都跡にて鹿の音を聞きて詠める
204.青丹よし奈良の都は過去になれど春日の鹿は今も鳴きけり 羇旅
神在月を詠める
205.八雲立つ出雲に行かばやちはやふる神在月の季となりぬれば 神祇
夜の虫の音を詠める
206.うばたまの夜の更けゆけば虫の音の盛りとなりて寝こそ寝られね 雑
夢にて逢ひし人のことを詠める
207.むばたまの夢見しことこそあはれなれ覚むれば袖を濡らすばかりに 恋
返歌
208.あはれなる夢にて逢ふより願はくはうつつの世にて逢はむとぞ思ふ 恋
武蔵野の夏を詠める
209.風吹けば若葉の匂ふ武蔵野の夏の季節ぞひとしほになる 夏
向日葵と恋を詠める
210.ひまわりの陽に向くごとく我が心の迷ひを持たで人に向けたし 恋
返歌
211.沈みては萎るる花のさまに似て君が心もかくやなるらむ 恋
夢に見し男を詠める
212.夢にだに人をば見つる我が身なりこの思ひこそ絶えて忘れね 恋
返歌
213.ありしだに身にぞ誓えど忘れぬる我が見し夢を覚えむやはある 恋
鄙びし町にてつばくらめを詠める
214.つばくらめ鳴く音を聞けばいと悲し鄙びし町の春の夕暮 春
霞む三日月に思ひを重ねて詠める
215.今はただ絶えむばかりの三日月かあらぬ風にも消えぬべきかな 恋
返歌
216.いとどしき風のまにまに消えぬとも我は止めじな人の契りを 恋
身分差の恋を詠める
217.下と上を隔つ籬の厚ければ声は届かず我もえ行かず 恋
返歌
218.鳥ならば越えて逢はむと思へども羽なき我には道こそあらね 恋
盛夏を詠める
219.敷島の山と里とを行き来して汗ぞ染みたる盛夏なりける 夏
板橋の花火を詠める
220.夕月夜轟く音に顧みれば空に咲きたる花火ありけり 夏
朝霞の花火を詠める
221.夏花火の美しき色のまされるは暗き夜空のあるが故なり 夏
明日を詠める
222.この世にて明日をも知らぬ命ならば身を憂へても甲斐こそなけれ 雑
道端にて蝉の亡骸を見て詠める
223.道端に儚くなりし夏蝉に無情な日矢と心なき風 夏
夜空を行く飛行機の光の早きを詠める
224.夜になりて飛行機星の早ければ明けの近しと思ひまどへり 雑
悩みを詠める
225.悩みつつ花火を見れどいつしかぞ空を染めるは黒きのみなる 夏
夏恋を詠める
226.夏花火の熱くも儚きごときなる我と君との契りなりけり 恋
返歌
227.音も光も消えぬる後も猶胸に残る火の粉は熱を忘れず 恋
藤原摂関家を詠める
228.望月は一夜限りのものなれば世を我が物と思ふぞ危ふき 雑
長岡の花火を詠める
229.一時に命をかける火の花の夜空の闇を染めて散りゆく 夏
茨城県にて海を見て詠める
230.夏風のほのかに吹けば漣の寄る音しかと聞こえけるかな 夏
巨峰を詠める
231.紙の上に置ける巨峰の皮見れば染み出づる色ぞいと美しき 雑
夏の日に鍬形虫を飼ひしことを詠める
232.夏の夜に飛びくる虫も契りかな命尽きるまで飼はむとぞ思ふ 夏
箱根の鹿を詠める
233.玉くしげ箱根の山に鹿鳴けば秋の深きを我知られけり 秋
今まで儚くなりし生き物を詠める
234.我が身よりありたる時の短きを知りても飼ふは愛あるが故 哀傷
床汚れを詠める
235.擦りてもまた擦りても床汚れの落ちぬことをば我が心と見ゆ 雑
赤月を見て詠める
236.思ひきや赤き月さへ責むとは我を恨める人のばかりに 恋
返歌
237.つれなきを見抜く月こそ怒りけれ故になりたる夜の日の丸 恋
人生論を詠める
238.飛ぶ鳥の明日かも分かぬ命故に悔いを残さで生かむとぞ思ふ 雑
可惜夜を詠める
239.くまのなき月をぞ見れば風吹きてあはれ音多き秋の可惜夜 秋
玉の緒を詠める
240.思ひなき日を長々と過ぐすならば我が玉の緒を絶やすべきなり 雑
ある人の子の早死を詠める
241.契りせし世のなかりせばかくほどの憂かりし事を見で良からまし 哀傷
返歌
242.なべて世の契りしことぞ残るべき後の世までもかくこそあるらめ 哀傷
散りゆく志賀の桜を詠める
243.さざなみや志賀に吹きたる風強み盛りの花ぞあだに散りける 春
天皇安泰を願ひし冬詣を詠める
244.君がため冬の社に詣をす我が頭にはみ雪降りつつ 神祇
夏の夜明けの経過を詠める
245.夜の色の薄まりてゆき青見えて赤もまがひし夏の曙 夏
青空に溶ける雲を詠める
246.不可思議や広き青空にちと浮かぶ薄雲溶けてまがひけるかな 雑
道に降り敷く青葉を詠める
247.知らぬ間に嵐の来ぬや古里の道に降り敷く木々の青葉よ 雑
夜風の音を聞きて詠める
248.ささ竹の夜風の音もいと悲し独り寝過ぐすある日なりけり 雑
遠き友から届きし歌に対しての感想を詠める
249.方糸の逢ふすべをなみかくやうに三十一文字に込めにけるかな 離別
儚くなりし者の声を思ひて詠める
250.あの声も絶えて久しくなりぬれば恋しと思ふ我が身なりけり 哀傷
長良川の辺りにて朝鳴く鳥を詠める
251.夏の夜は短き逢瀬ながら川ほとりに鳴ける鳥の音ぞ憂き 恋
返歌
252.鳴く鳥の音は別れを惜しまむやかく思はずは生く意気ぞなき 恋
桜と恋人を詠める
253.盛りなる桜花にも劣らぬは愛しき君の笑顔なりけり 恋
返歌
254.み桜も春の暮には散りゆかむ君の心の変はらぬものかは 恋
運命を嘆くものを詠める
255.術のなき事を嘆くは愚かかな運命と思ひ生きるのみなり 雑
里宿を詠める
256.里宿は夏ぞ心の休まらぬ四方に鳴きたる蝉の声にて 夏
裏切りを詠める
257.頼めれば裏切らるるは世の常で憂きを逃らば頼みになせそ 雑
海原を詠める
258.わたの原間なく揺らめく波面に煌めくものは魚か光か 雑
夏の朝空を詠める
259.夏空は宵の刻より色を青み昼とも見ゆる暁なれや 夏
夏の夜の暑きを詠める
260.夏の夜は湿度の高く気を暑み目をぞ閉じれば昼とも見ゆる 夏
犬の吠え声を詠める
261.おのが音に睡眠不足のありとだに思ひも知らで犬ぞ吠えたる 雑
武蔵松山城を詠める
262.住吉の松山城ぞ素晴らしき今も残れる北条の名残 羇旅
曇り夜の月を詠める
263.薄雲の簾より透きて見ゆる月の光の漏れて覆ひけるかな 雑
曽祖母の墓参りにて、次の墓参りまで祖父母の命の煙を持たせよと思ひて詠める
264.魂に心のあらばひとたびの参りあるまで煙絶やすな 雑
弔ひの煙の立ちし時に降れる雨を詠める
265.人偲ぶ煙の立てる鳥辺山雲もすすけて降る涙雨 哀傷
祖父の九十路になりし時に詠める
266.九十路珍しからぬものなれど身内にあれば誇らしきかな 賀
武田氏にて滅亡せし長野氏の居城なる箕輪城にて生ふる若葉を詠める
267.春風に名のみ残りし箕輪城の五百年経ても若葉生えたり 羇旅
明石の浦にて、月の明かりで夜でも波が寄る様子が見えたるを詠める
268.藤波のよると言へども望月ぞあかしの浦にしかと見えける 羇旅
冬の季に遠き任地に居る男を思ひて詠める
269.ながむれば降る時雨だに我が息吹のなりし雲より漏る涙と見ゆ 恋
返歌
270.願はくは涙雨よりささがにの愛しき君を覆はましものを 恋
夏の天候不安定の様を詠める
271.茜さす暑き日差しを浴びぬれどいつしか降れる夕立なれや 夏
夏の空景色を詠める
272.降る雨も晴れしみ空も虹橋も一目に見ゆる夏空景色 夏
ある人、命の煙を絶やすなと祈りしものの、その甲斐なく、儚くなりし友の葬式を見て詠める
273.絶やすなと祈りしものの大空に絶えず立ちゆく煙かなしも 哀傷
黄昏時、時鳥を見て詠める
274.呉竹の夜に音すべき時鳥月の見えずは聞くものぞなき 夏
焚火を詠める
275.高砂の松の落ち枝で焚火してのぼる煙ぞ悲しかりける 雑
糸を使ひて恋歌を詠めと言われて詠める
276.青柳のいとしき思ひぞ乱れけるよるくる人の影の見えねば 恋
返歌
277.僅かにも思ひのあらば青柳の糸をば結べ綻ばぬうちに 恋
親の死を嘆きて詠める
278.散り果つる花も紅葉も知りながら時こそ来れば悲しかりけれ 哀傷
憂きことありしときに詠める
279.この度は憂しと言へどもちはやふる神代よりしに適ふものかは 雑
明け方、米露会談の内容を聞きて詠める
280.朝ぼらけ老いて肥えたる米虫の露に流されうくをぞ見ぬる 雑
米国の没落を詠める
281.かつて見しくまなき望は名のみして今は儚き三日月ぞある 雑
石破政権における参院選後の自民党の様子を詠める
282.石橋は世の降る雨に崩れゆき残るは浅茅と茂るおろし風 雑
参院選での参政党の躍進を詠める
283.新しく音荒き風の強く吹き古き林ぞ数多枯れぬる 雑
ある議員の心変わりの様子を詠める
284.高らかに契りすれども幾千度裏切る人を誰や信ずる 雑
ある呟き系機能の名前と印が変わりしことを嘆きて詠める
285.澄む水の白きみ鳥は消え果てて黒く濁りて枯枝のみぞある 雑
海を眺めし時、入り日の黄金なる光が縦に伸びている景を詠める
286.わたの原遠つ入り日を眺むれば海を渡れる稲妻ぞある 雑
米国大統領がかつての米国大統領の真似をせしことを詠める
287.凡君が君子の真似をしたれども人の心に絶えて響かず 雑
また、米国大統領について詠める
288.口のみは回ると言へど力無み羊頭狗肉と思ひけるかな 雑
米国に頼りきる日本を詠める
289.虎は老いて狐ぞ熊に食はれけるむべおのが身はおのれで守らむ 雑
石川啄木について詠める
290.働けど金を使へば無くなるを知らずに手をば見るぞあはれなる 雑
雨と火を使ひて恋歌を詠める
291.心内に轟に響く涙雨の降れども消えぬ思ひの火かな 恋
返歌
292.残り火に猶ぞ思ひは恋焦がれ涙の色ぞ赤くなりける 恋
木枯らしと恋を詠める
293.冬されば野山に吹ける木枯らしのつめたき人の声に見えたり 恋
返歌
294.君が我に向くる思ひの薄衣纏ひし故に寒しとぞ思ふ 恋
高尾山の紅葉を詠める
295.菰枕高尾の山の紅葉葉を散らすな人の喧しき声 秋
色恋を詠める
296.八代の海に生ずる赤潮の涙と唾の果てとぞ思ふ 恋
返歌
297.海鳥や血になく声は人なみのよる音のほかに聞くものぞなき 恋
海恋を詠める
298.沖に出づる岩の影をぞかくほどと思へる人は知らぬ内かな 恋
返歌
299.沖の岩は波の動きに見えしかど心の内は絶えて見えざりぬ 恋
老夫婦の看取りを詠める
300.たまきはるいのちの旅の果てにしぞ手を取る人のあるは嬉しき 雑
波恋を詠める
301.わたの原波の動きにちと見ゆる岩の心を愛しとぞ思ふ 恋
返歌
302. 波下の人目に見えぬ大岩の心は人に見せられぬ思ひ 恋
来ぬ人に対して詠める
303.来ぬ人をとまれかうまれ恨まじと思へど顔の色に出でにけり 恋
返歌
304.恨むなよ人の心は月なれば雲隠れてぞ見えぬ日もある 恋
朝帰りの様を詠める
305.暁の西の空をば眺むればただ有明の月ぞ残れる 雑
海にて憂きを詠める
306.波荒み映れる影も砕けゆく行方も暗きあかし潟かな 雑
出世の遅さを松尾芭蕉風に詠める
307.最上川降る雨多みはやけれど身は大岩の裏にとどまる 雑
「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の柿を太陽と思ひし昔の己を詠める
308.大柿を空の食ひつつ鐘鳴ると昔は思へる法隆寺かな 雑
嘆を詠める
309.屋久杉は変はらずながら我は老いぬ哀れ儚き身を嘆くかな 雑
独楽吟にて詠める
310.たのしみは人なき道を歩きつつ明けゆくまでの空を見るとき 雑
寺の池を眺めし時に詠める
311.玉藻かる池に映れる景色をばあはれ砕くは安からぬ風 雑
春の畦道にて詠める
312.畦道に風はなけれど草なびき飛びこしかはずぬかるみに消ゆ 春
年老いて見る桜を詠める
313.よしさらば我と争はむ山桜共に散りゆく時近ければ 春
山の霞を詠める
314.雲かぞとまがふばかりの霞かな比良の嶺にぞ立ち込むるなる 春
五月雨を詠める
315.五月雨の降れる音のみうち響き空と山にぞ雲立ち込むる 夏
同居を始めしばかりの人を詠める
316.歯刷子の一本ばかりが今日よりぞ二本となれる名残愛しも 恋
返歌
317.雫つく歯刷子二本見て我は共に歩まむ心をぞ持つ 恋
初めて土の堀のある城を見し時を述懐して詠める
318.いにしへの土より成れる戦ひの為の館も城と言ふなり 雑
名の立ちぬる恋を詠める
319.みちのくのいはでしのぶと決めし恋も由えぞ知らで今日も名に立つ 恋
返歌
320.名に立つは思ひの深き故なりといはでぞ我に響きけるかな 恋
秋雁を見て詠める
321.墨染の夕べの色は深まりて連なる雁の影ぞおぼろなる 秋
大きなる滝を詠める
322.滝の音は轟に面を揺らしつつ我より高き霧ぞ立ちける 雑
土器の如き恋として詠める
323.ひとたびに割れなばつかぬ土器の世を見ることぞいとど悲しき 恋
返歌
324.砕けぬる欠片を全て集むれど眺むる他に能ふことなし 恋
松屋にて御夕飯を召しぬといふ話を聞きし折、身分不相応ながら近しと思ひし悠仁親王の成年式を賀して詠める
325.おほけなく近しと思へどこの度は愚かさを知る君が姿に 賀
河越館跡にて詠める
326.赤染の戦の跡は見えずしてほのかに薫る夏の若草 夏
月無き旅を詠める
327.月見えぬ旅路は方も見えざりぬ何をしるべとせば宜しきか 羇旅
藤原公任について詠める
328.位山親の影をも踏めねども才名煙は今も上がれり 雑
阪神優勝で道頓堀に沈みし人を詠める
329.虎勝ちて浮かるる人は大阪のへどろに沈む三日月となる 雑
山口素堂の「目に青葉山ほととぎす初鰹」を夏の海の五感として詠める
330.波の音に人波寄せて砂は暑し磯香りつつ西瓜をぞ食ふ 夏
尾崎放哉の「咳をしても一人」より連想して詠める
331.咳しても血を流しても熱ありても今際の際も独りなりけり 雑
小林一茶の「雪とけて村いっぱいの子どもかな」を過疎の進みし現代風に詠める
332.雪溶くれど村には若き人見えぬ故に子どもも僅かなりけり 冬
種田山頭火の「音はしぐれか」より連想して詠める
333.聞こえける音は時雨に思へども袖にぞ溜まる涙池かな 冬
高浜虚子の「波音の由比ヶ濱より初電車」より連想して詠める
334.江ノ電の中より見ゆる由比ヶ浜なみ音は窓の柵に消ゆ 雑
木下利玄の「街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る」を夏休みとして詠める
335.通勤の電車の中に学生の見えざりにけり夏休みぞ来る 夏
寺山修司の「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり」より連想して詠める
336.世を知らぬ子どもの前で手を広げ言はむとすれど我も知らざりぬ 雑
斎藤茂吉の「死に近き母に添寢のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる」より連想して詠める
337.死出の山行ける愛犬の役に立たでただ添寝のみする我が身かな 雑
若山牧水の「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」より連想して詠める
338.三日月は美しきかな夜の色にか弱きながら千歳も勝てり 雑
忍恋を詠める
339.今はただ恋死なむとぞ思ふなる我が身の限り忍びし故に 恋
返歌
340.よしさらば我は昔に死ににけり魂の限りに忍びし故に 恋
遥かに山桜を望むといふ題にて詠める
341.鳥ならばなにはさておき見にゆかむ盛りの折のみよし野の山 春
昔を詠める
342.学生の安き払ひかけ勝負する姿を見れば昔を覚ゆ 雑
与謝蕪村の「雲を呑んで花を吐くなるよしの山」より詠める
343.山桜盛りとなりて旅をする雲をも染むるみよし野の山 春
与謝野晶子の 「都にて見たりし夢の続きをば見し哀れなる朝ぼらけかな」より詠める
344.都にて見しあの夢の続きをば見て涙する旅の曙 羇旅
冬の言葉遊びについて詠める
345.冬となり草葉も花も散り果てて木と山のみを杣と言ふかな 冬
逢瀬について詠める
346.肌重ねその温もりも指絡めも全て愛おしき逢瀬の後や 恋
返歌
347.温もりにな吹きそ冬の木枯らしや思ひの熱を夜まで持たばや 恋
草恋を詠める
348.浅茅生の小野篠原忍べども虫え忍ばず我や忍ばむ 恋
返歌
349.思ひあらば今来よあきの深くなる前に時まつ虫え忍ばず 恋
巫女の舞ひたるを詠める
350.白妙の雪かとまがふ衣着て舞ひたる巫女の姿麗し 神祇
荒波の無き灘を見て詠める
351.いさなとり灘の荒波は今日はなく世もかくあれと思ひけるかな 雑
首相辞任を受けて詠める
352.もののふのいさましさとも見えぬかなかく有様を見るぞあさましき 雑
冬の川と雪景色を詠める
353.槙の戸を開くれば見ゆる雪つ世の中裂く川は絶えてこほらず 冬
凍川恋を詠める
354.凍りぬる川の流れは見えねども内には今も流れぞありける 恋
返歌
355.内側に流れはあれど川面の冷たきことに我耐えむやは 恋
山々に囲まれし湖の上を渡る雲を見て詠める
356.山々の中にこそある湖の見えぬ浮橋を渡る雲かな 雑
春の晴れの日、沈む心を詠める
357.はる風に見ればあかしの空ながら曇りて暗き心の内なり 春
月影を頼めて詠める
358.街明かりの無き世の月のたのみをば我より他に知る人ぞなき 雑
新月恋を詠める
359.街明かりも月影もなき夜の中を独りで過ぐす心こそ憂けれ 恋
返歌
360.光なき夜となりぬれば顔の色も見えぬが故に逢ふ意こそなけれ 恋
鳥託待恋を詠める
361.夏の日のたたく水鶏ぞ安からぬ尋ぬる人の来ぬと思へば 恋
返歌
362.夏の日の逢瀬の折に水鶏あらば我より外の訪れに見ゆ 恋
雲居恋を詠める
363.出でてすぐ雲居に消ゆる望月の影に乱るる我が心かな 恋
返歌
364.曇る日の月の姿はいと悲し晴るる日にこそ逢はむとぞ思へ 恋
なべて人の契りについて詠める
365.夏衣別るる紐のめぐり逢ひて結ぶは人の契りにも見ゆ 雑
真野の入江にて詠める
366.白菅の真野の入江の風をあつみ尾花の露ぞ玉と散りける 秋
青き波があたりて起こる波を詠める
367.苔むしろ青波あたりて聳ゆるは雪より白き海の富士山 雑
独り泣きを詠める
368.葦鶴のね泣きも夜半に音消えて涙の跡に悲しさを覚ゆ 雑
夏の妙音沢にて詠める
369.蝉の鳴く妙音沢のせせらぎに暑さも知らず夏の夕暮 夏
夏の川鳥を詠める
370.水飛沫川の面に立つ見えて目をぞ凝らせば白鷺の来る 夏
小雨降りし時に詠める
371.今我が立てる所に雨降れど遠つ空には青き広ごる 雑
虫喰恋を詠める
372.青虫に喰ひ尽されし山草の恋に乱るる心なりけり 恋
返歌
373.山草は枯れぬれば生ふるもの故に喰はれし跡もやがてぞ消えむ 恋
歌道史を詠める
374.ちはやふる神の御代より生まれして今も続ける敷島の道 雑
帰りを待つ人に向けて詠める
375.わかれてもまたわかれても武隈のまつらむ君に逢はむとぞ思ふ 離別
山おろしに亡き人との一度の逢瀬を望みて詠める
376.山おろしよ我をば運べ一度の逢見て後は命惜しからず 哀傷
正岡子規の歌論についての所感を詠める
377.古は伝ふる手なみ様々に思ひ思ひてぞ敷島の道 雑
誘惑の断りとして詠める
378.繰り返すあきのうらみのあだ波にかひ無く立たむ名こそ惜しけれ 恋
返歌
379.あだ波の立ちたる故は君がため思ひ持ちたるふるまひぞある 恋
結婚観を詠める
380.世の中に好み嫌ひは意味ぞなき上手く運ぶは合ふか合はぬか 恋
返歌
381.世の中を上手く運ぶは歩み寄り話して後は情けの妥協 恋
苔に思ひを込めて詠める
382.岩に生ふる苔の大きさ千代までも広ごり給へ世も覆ひ給へ 賀
子を殺す親に関して詠める
383.山に住むいと荒々しき獣だに母性はあれど人ぞ悲しき 雑
日本人について詠める
384.敷島の大和心を掲げつつ頭の中ぞ海を渡れる 雑
日本国について詠める
385.嘆けどもかくなる故の多ければ気づかぬ内は何か変はらむ 雑
皇族を賀して詠める
386.世々経れど光りの如き龍血の今も憂き世を照らしにけり 賀
昔を懐かしく思ひて詠める
387.昔より探せるものを見つけたる時の喜び言の葉ぞなき 雑
自由を盾にする輩を詠める
388.自由とは自らの由で崩るるを知らぞ人はあはれなりける 雑
また、人間のことを詠める
389.人間は同じ過ちを繰り返し今も昔も変はらざりけり 雑
蘇我氏について詠める
390.真菅よし蘇我の奢りも心なき風に散りゆく花紅葉と見ゆ 雑
荒小田の秋の夕暮を詠める
391.荒小田に烏鳴くなり応ふるは刈萱のみぞ秋の夕暮 秋
己が人生観を詠める
392.永らへどかく憂きことの多ければいと嬉しとも思はざりけり 雑
また、己が人生観を詠める
393.年老いて身の限りをぞ知るよりは盛りの内に我は死なばや 雑
『太平記』の後醍醐天皇御製「うかりける身を秋風にさそはれておもはぬ山の紅葉をぞみる」より本歌取りして詠める
394.心憂き身を蜜蜂に誘はれて見知らぬ里の桜をぞ見る 春
髪を詠める
395.そよ風に乗るは女子の髪の香か疲れの色も少し消えけり 雑
紅葉の散る様を詠める
396.秋の日の山風つよみ里の辺に赤き赤子手積もりけるかな 秋
二匹目の犬の死を詠める
397.はかなきになりにし時に目を離し津波の如き悔ひぞよりける 哀傷
また、二匹目の犬の死を詠める
398.歩くことできずとなれる体見て死ぬるぞ少し嬉しかりぬる 哀傷
猫を救ひし時のことを詠める
399.救ひたる猫も我が手を離れけり僅かなる時ながら悲しも 雑
猫を里親に出して後のこと、新たな犬を飼ひし事を詠める
400.いと悲しと思へる別れも一年を経てぞ新たな出会ひなりける 雑