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ぼっちと力の因果律


 ────孤独とは自由!友人!?ありません!教室の隅!?指定席!恋人!?ライトノベル!ぼっち最高!


 新木琉矢、明城高校のバオバブとは僕のこと。高校デビューする為にわざわざ上の下、入れば一目置かれるぐらいの明城高校に頑張って入った。目的は、ぼっちになる為。今のところ作戦は大成功、孤独を謳歌する僕は、教室の隅でラノベを広げる。今日は待ちに待った『フィーバーズ』の新刊だ。どうでもいい授業は寝て過ごす。成績?日本文学の勉強してるからいいよね。

 運動部の一軍連中が鼻で笑ってくる。ふん、モテるために運動してるゴミ共になんと言われようとも、僕はこっちで生きるぞ。迷いなんてない、そう決めたんだ。

 今までの人生でこんなにも自由な時間があったか?いやない。このざわめきでさえ、今は愛おしい。前巻ではヒロインの非実在性が、主人公の実在性に侵食される……仮想青春が軋み、終わる世界。引きは最高だった。絶対に超えてくるだろう信頼、これは恋かもしれない。この胸の高まりは、あの頃の恋もどきとは格が違う!最高!


 「おい、アレだよ。さっさと出せ」

 「金?ないぞ?」

 「は?ちげーよ、国語の課題」

 「あ~、なるほど」


 暴力委員長、逸野麗依菜に頭をシバかれる。こいつは委員長にして、黒髪ウルフのはねっかえりだ。美人だから許されてるそのスタンスに思うところはあるけど、権力には逆らえない。委員長キャラにしては強すぎる。しかも曲がったことが大嫌いときた、運動部のバカ共をさっそく視線で黙らせてくれた。ありがた~。

 ガサガサと机の中を探る。変な形でしまわれたプリント数枚と、目的の課題が出てきた。ボロボロというにはキレイだが、キレイというにはボロボロ。中途半端ですね、僕の人生を表していると言える。あっ、折れたプリントを見て、マジかこいつ……と言わんばかりの表情だ。すいませんね……。


 「それそれ、言われる前に出せよな」

 「無理だろ。てかなんで?」

 「委員長だから。国語のセンセーが、授業の時に集め忘れたんだと」

 「そっか。じゃあ、よろしく」

 「あいあい」


 委員長にしては真面目に見えなさすぎる……。いや、いい奴ではあるんだよ。こうやって陰キャの僕にわざわざ話しかけてくれるし。でもさ、見ちゃったんだよね。クラスの一軍女子を校舎裏で〆てんの。怖すぎ。

 忘れよ忘れよ。触らぬ神に祟りなし、とにかく新刊を読もう。ほうほう、カラーページから素晴らしいね。銀髪ヒロインというのは、こう……生きてるだけで神秘を抱えている在り様が、まさに聖女そのものだ。だが彼女も、生きているだけで目につくという呪いを抱えているのだ……。何かには代償が伴う、僕の自由だってそうだ。その代償がどうでもいいものってだけ。

 

 「授業始めるぞ~。席につけ~」


 あのやり取りに意外と時間を取られていたのか……カラーページだけで休憩が終わってしまった。しかし、カラーページだけでも非常に面白い。水着回だけど、ゲーム機で水切りやりだすヒロインが他に居ただろうか?

 まぁいいか、寝よう。スッキリしてから読んだ方がよさそうな内容だし……。


 「ではでは、また明日~」


 『フィーバーズ』の余韻に浸っていたら、もう帰宅の時間になっていた。不思議だ……だからラノベは素晴らしい。今日読んだラノベの展開で素晴らしかったのは、主人公がファミレスでポテトを頼んだだけで最愛の人から反転アンチになるヒロインの不安定さが素晴らしかった。

 担任の糸河理智が帰りの挨拶をしていた。先生、でっかい身長でふわっふわだから脳がバグる……。ラノベなら低身長で確定なんだが……多分170後半はあるんだよね。


 「麗依菜、帰ろ~」

 「用事あるから今日は勘弁、また帰ろ!」

 「そっか、りょうか~い」


 珍しい。いっつも真面目系の友人たちに囲まれて帰ってるのに。さながらハーレムと言った様相。しかし、二次元と違うとこが一つだけある。なんか、取り巻きの目が湿ってんだよね。怖い。

 何が良くないって、委員長も姉御肌で優しいのが見え見えだから、つっぱねられないんだと思う。誰かの面倒見てるとこに違和感なさすぎて凄い。でもなんか、無理してる気もするんだよね。分かんないけどさ。

 今日も本を買うために、裏町商店街の方に遠回りをしてしまう。穴場の書店で新刊をまた、買ってしまった。積むことは絶対にないが、結果的に僕のお財布は『ナイヤアンダ棒』さえ買えない有様、財政破綻待ったなし!甘党の僕からすると、非常に憂慮すべき事態だ。


 「麗依菜!なんで裏切ったんだよ!」

 「それは……なぁ、アタシはもうダメなんだ」

 「何が!?」

 「……あーしたちのこと、嫌なの?」

 「違う!」

 「じゃあ何で!」

 「ふん!どうせ一人で抜け駆けしようってだけだろ、アタシたちなんて最初からどうでもよかったんだ」

 「一緒にいたいよ!でも!」

 「いいって、嘘つくな」

 「ほんとなんだ……」

 「明高なんて行きやがって!お前、なんなんだよ!!」


 ふと路地裏を見ると、委員長と知らないヤンキー女子が言い合っていた。ヤンキー達は明らかに明高生じゃない。委員長はヤンキー三人に囲まれる形で、壁に押し付けられている。可哀想ではあるが、どうしようもないぞ。

 彼女を助けて英雄に?こんな時、ラノベ主人公なら……いや、彼らは覚悟を決めた上で負ける!学園モノの彼らは貧弱だ!

 というか、ん?裏切ったってなんだ?あっ……委員長ってそうなのか。だからあんなに暴力的なのね。言われてみれば……口調含め全部そうと言えばそうなのかもしれない。


 「アタシはなぁ!自由になりてぇ!人ボコるのも、もの壊すのも嫌なんだ!」

 「はぁ!?」

 「嘘つかないでよ!」

 「そっか……」

 「嘘じゃねぇ!ずっと嫌だった!勉強と本読むのが、なによりも楽しかった!」

 「死ぬ気で頑張って入った、信じらんねぇほど頭のいい学校!世間じゃ普通だった!アタシは、マトモになりてぇ!」

 「ふざけんなよ!ぶっ殺してやる!」


 やばい!のんびり考えてる暇なんてないぞ!流石の僕でも分かった。このままだと、取り返しがつかなくなる。だけど、どう踏み出したらいい?主人公たちは教えてくれない。

 でも、委員長の叫びが、僕の心の深いところを揺らしてしまった。そうだ、自由にやりたいよな。委員長は変わりたいんだ、自由な方へ。つまり、僕と一緒だ。なら、助けないといけない。路地に一歩、踏み出す覚悟はもう決まっていた。


 「……おい!」

 「は……?」

 「んだよ!邪魔だ……うぉ……」

 「取り込み中だ。失せ……ろ……?」

 

 イキっといてなんだけどさ!めっちゃ怖い!圧強すぎ!でもなんかビビってくれてる!無駄にデカくて助かるなぁ!全く要らない高身長が役に立った!後やっぱオールバックが効いてるわ、間違いない。でも僕これ二度とやらないって決めてたんだけどぉ……。

 虚勢もどうにか効いたみたいで、三人はじりじりと後ろに下がっていく。委員長のポカーンとした表情が、こっちを見ていた。知り合いみたいな顔しててくれないか?


 「なぁ、勘弁してやってくれねぇ?」

 「は……はぁ?」

 「アンタ、なんで……?」

 「関係ねぇだろテメェには!」

 「わりぃ、あるんだわ。な?いいだろ?」

 「ふん。麗依菜、好きにやってるみたいじゃないか」

 「ちが……」

 「……もういい。覚えとけよ!絶対に許さねぇからな!」

 「ホントのこと、また聞きに来るから……!」

 「残念だ。本当に」


 バタバタと奥の方へと消えていく三人、僕と委員長はポツンと残された。二人とも、肩で息をしているありさまだ。もう二度と勘弁、絶対にやらない!折角手に入れた自由が遠ざかる。ぼっちでいさせろ!


 「新木……だったか?なんでここにいる……」

 「……偶然。本買うときは……この辺通るんだ……」

 「まぁでも……助かった」

 「いいさ……でも、疲れた……」


 心臓が飛び出すかと思った。実際に襲われていたら、一たまりもなかっただろう。学園モノ主人公よろしく、戦うのは苦手なんだ……。チャラ男の名演技で騙せた感あるな。伊達に何年もやってませんよ、もうやめたけど。

 余りに疲れすぎて肩で息どころか、二人で座り込んでしまった。ため息が止まらない。というか委員長、あぐらかくのが堂に入りすぎてないか……?


 「この後、暇か?」

 「そうだけど……」

 「じゃあ、礼させてくれ」

 「いいよ、別に。やりたくてやったことだし」

 「それじゃあ、アタシの気が収まらねぇ。頼む」

 「分かった、分かったよ。頭下げないで。じゃあ、どうするの?」

 「着いてきてくれ」


 荷物のほこりを払いながら、委員長は歩き始めた。路地裏から、裏町商店街の方へ。肩をすくめて着いていく、このまま終わるにはお互いに見せすぎてる。ともあれ、今日はまだまだ長くなりそうだ……。


 「らっしゃい!おう、麗依菜じゃねぇか!」

 「お久、おっちゃん」

 「なんか……まじめになったなあ」

 「でしょ、委員長やってんだ」

 「嬢ちゃんが委員長ねぇ……信じらんねぇ」

 「やっぱ変か?」

 「いいや、似合ってるぞ。まぁ座れ、食ってくんだろ?」

 「あぁ、勿論」

 「お連れもどうぞ!」

 

 連れてこられたのはラーメン屋だった。正面の暖簾には『だるま少将』と分厚い文字で書いてあった。余りにも勢いだ……。熊みたいな店主と話す委員長は、懐かしそうで。

 というか、会話の内容的に、もう隠す気ないんだ……。やっぱり元ヤンじゃないか!でも、恐ろしいと思うには、あまりにもあの叫びが頭に残ってて、なんか、そういう感じで見れないというか……。

 なんか、ヤンキー系の漫画でもあるよね、真面目なヒロインを助ける元ヤンキー。助けたはずなのに、逆なんだよな……。


 「ま、座ってくれ。アタシがよく来てたとこだ、自由にしてくれていいぞ」

 「じゃあ遠慮なく……」


 流れるように水を二人分注いで、片方を渡してくる。やっぱ優しさのベクトルが姉御なんだよな……。かぁー!と豪快に飲んで、また水を注いでる委員長を尻目に、ちびちびと水を飲む。やっぱ姉御っぽい。というか、ここまでくるとなんでもそう見えてくる。

 

 「何喰う?奢るからなんでもいいぜ」

 「どれがおススメ?」

 「初心者なら准将かな」

 「おっけ。おっちゃん!准将一つと中将一つ!」

 「あいよ!」


 静かになる店内。気まずい訳じゃないけど、何を話せばいいんだ?ラノベ主人公なら「さっきは危なかったね」とか言うんだろうけど、僕は何もしてないからなぁ……。

 委員長は短めの髪を手でわしゃわしゃとほぐした。犬みたい。それでこっちを向いてきた。凛々しっ、眼光含めてこれは元ヤンの風格!

 

 「ありがとな」

 「え?」

 「たぶん、聞いてたと思うけどさ。アタシ、元ヤンキーなんだ」

 「まぁ、そうだよね……」

 「親父と母ちゃんも不良だったから憧れてたけど、肌に合わなくてさ。こっそり勉強して、ここに入ったんだ」

 「よく入れたね……。中の上とはいえ、ヤンキーには難しいんじゃないの?」

 「ま、頭はよかったし。勉強もむしろ好きだったから」

 「普通に凄いな」

 「これだけやって、ようやく普通なんだよ」

 

 二人してまた水を飲む。普通って地雷だったかこれ……!?のどが乾いた、お代わりをしよとピッチャーを取った手がプルプルする。

 委員長はそんな僕を見て、また呆れたような、しょうがないな、というような顔をした。ダメな奴扱いされてるな……完全に。課題の件も含めて、まぁ否定できないけど……。

 

 「てかさ、なんで助けてくれたんだ?アイツら、結構怖かったろ」

 「そりょもちろん……実際にバトってたら、確実に負けてた」

 「余計なんでだ?」

 「マジメになりてぇ、変わりてぇって聞いちゃったから」

 「なんか恥ずかしいな……。それが、助けてくれた理由なのか?」

 「僕も、似たようなものだからね」

 「新木……お前もヤンキーだったのか?確かに、割ってきた時の感じは近かった……マジかよ」


 な訳あるか!ヤンキーならノータイムで助けに入ってるわ!マジメな顔でそう語る委員長が面白かった。そして分かった、そうかこの人、とにかく真面目なんだ。


 「ごめんけど、違う……」

 「ちがうのか……」

 「何というかさ、僕も中学まではサッカーやってたんだよね」

 「……やめたのか?」

 「ちょっと人間関係こじらせちゃったのと、そもそも騒ぐのが苦手でさ」

 「そうか……似た者同士ってことか」

 「ま、そういうこと」


 はは、と二人で笑い合った。教室でやってるフフッと笑う感じじゃなくて、ニヤァと笑うその雰囲気が、どうにも似合っててしょうがなかった。僕もこう見えてたのかなぁ。生き方を変えるのは難しい。

 会話が途切れた。すかさず、ラーメン二個お待ち!と運ばれてきた。その濃い醤油の香りが鼻に入って来た瞬間、お腹が鳴った。それは委員長も一緒だったようで、顔を見合わせて笑った。

 

 「「いただきます!」」


 ズルズルと麵をすする、美味しい!中細の麺は、少しだけ伸びていた。それでも、一度も止まることの無いほどのペースで食べ切ってしまった。

 委員長も似たようなペースで食べていたが、量が多い分、まだ残っていた。やることも無くてなんとなくその様子を見ていたら、麺をすする途中にも関わらず、こっちを見てきた。


 「ふぁんふぁよ!」

 「いや、暇だったから」

 「ふぃんな!」


 すいませんでした……と再び前を向いた。綺麗系なのに可愛いからズルいと思うんだよね。僕がこれまでに読んできたラノベにもいなかった気がする、ヤンキー委員長は。それで言ったら僕も大概なんだけど……。ま、いいや。考えても仕方ないし。


 「「ごちそうさまでした!」」

 「ありがとな、よければまた来てくれ。嬢ちゃんも、元気そうでよかったよ」

 「また来る。ありがと」

 「はは、おう」


 外の空気は涼しくなっていた。すっかり暗くなったな……。早く帰ってラノベを読むつもりだったのに……まぁしょうがない、あれを無視するのは僕として無理だったからな。


 「今日はありがとな!出来れば、今日の話は黙っててくれ!」

 「もちろん、まぁ話す相手もいないし」

 「ならよし!あ、後これ!」


 ならよし?無慈悲すぎない?にこやかな笑顔と共に差し出されるメッセージアプリ『リンズ』のQRコード。高校では、あんまり人と関わる気はなかったんだけど……いいか。


 「じゃ、また学校で!」

 「ん、またな。逸野」

 「おう、また明日な。あ・ら・きくん」


 ラーメン屋の前で別方向へ歩き出す。逸野は手をぶんぶん振りながら、遠ざかって行った。う~ん、青春。

 なんとなく、これからも似たような事態が起きるんじゃないかって気がした。

 家に入ろうと門扉に手を掛けた時、ポケットの中で通知が鳴った。確認すると『あらき!』と入力されたカスタムスタンプが送られてきていた。なんか、こう、逸野っぽい感じだな……。『フィーバーズ』でも布教しとくか、水面に跳ねるゲームのスタンプを送り返す。そしたらすぐに『???』と帰ってきた。おもろ。


 「おかえりぃ。何やってたの?連絡は?」

 「あっ……」


 玄関で捕まる。そういえば、何も連絡してなかったや。うちの母はこういうのに厳しい、連絡さえしとけばいいんですけど、しないとこうなる。新木香璃、我が家の主であった。


 「すいませんでした……」


 ……でもまぁ、これも因果かな。自由にやるってのは、こういう事だ。もうどうにでもな~れ。


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