長
初めて小説を書くので至らない部分が多いかと…
生暖かく見守っていただけると幸いです。
5月下旬の日曜日、未明
天尊村にある陸上自衛隊演習場にて。
とある隊員が呟く…
(どうなってる…想定敵の確認と無力化の訓練のハズなんだが…この感覚はなんだ?)
(ここにいると…この山にいると危険だと本能が感じている…)
呟くような会話を遮るように
曇天の空から、あたりの空気を、木々を、地面を揺らすほどの雷が鳴りが山頂に落ちる。
二人は想定敵ではなくただの雷かと一瞬の安堵の息を吐く。
「ぐはっ!」
短いうめき声がどこかで聞こえた。
身を低くし悲鳴が聞こえた方角を警戒する2人。
(実弾を使用しての演習…これはホントに訓練なのか…?そもそも俺達は一体何と闘っているんだ...。)
ざわりと背後から纏わりつくような強い殺気を感じる2人。振り向きざまに腰溜めで構える。二人は闇夜の中目を凝らす。薄っすらと揺らめく黒い影?黒い塊?熊?いやそれは…認識した時には遅かった。草を掻き分けるながら突進してくる。堪らず発砲。がしかしその塊は被弾されながらも弾丸が跳ねる金属音を鳴らしながら猪のように真っ直ぐ隊員目掛けて向かってくる。
(ちっ!早いっ!)
隊員はドーンと強烈なタックルを受け吹き飛ばされ背後の木に衝突してしまう。
(ありえ…ない…)
意識が薄れ視界がゆっくりと狭まる。
雲の切れ目から月明かりが差し込む。先程まで行動を共にしていた隊員の逆さ吊りのような影が月明かりの中聳え立っている。両脚が天を刺すように伸びている。隊員が叫ぶ。
「なっ!何なんだよ!っざけるな畜生!ふざけんじゃねー!」
ズンッ!!
鈍い音が聴こえると同時に二人の意識は途絶えた。
山の木々が風を纏い周囲の音を消し去り、闇と静寂がまた山を包み込んでいく。
これは、
とある村の
ちょっと風変わりな人々?の
勝手気ままな、日常の物語である。
天尊村役場から西に車で30分程、
国道の左側には長い川、
右側は一面の青々と茂る初夏の田園風景。
直線の国道が山頂を目指し緩やかにカーブする。
そのカーブ横に大きなロッジが1棟。
一階がベーカリー兼カフェになっている。
石窯焼きのパンが好評で遠方からも焼き立てパンとカフェオレを求めて今とところは客が絶えない人気店である。
四駆の野太いエンジン音とバイクのエンジン音が静寂をかき分け、店の駐車場にやってくる。
カランコロンとドアベルが柔らかい金属音を立てて来店を告げる。二人の男が手慣れた手付きでカウンターの椅子を引き、席に腰をおろす。
「おはよ〜。少し早かったか?」
「まだ店は開けとらんが、まぁいい。コーヒーでいいな?」
マスターが返事を待たずにマグを3つ並べ、
淹れたてのコーヒーを注ぐ。
「小休止か?」
「そんなところだ。お前さんは仕事帰りか?」
「そんなところだ。副業の方だけどな。」
にんまりと笑みを浮かべ答えるところを見ると余程割のいい仕事なのだろう。
一人は薄汚れたジーンズに黒いTシャツ姿。
長身で筋肉質。強面だが陽気な雰囲気。もう一人は同じくジーンズ姿に深い緑色Tシャツを着ていて、腕も脚も野太く身の丈は低いが体が全体的に厚みがある。まるで岩の様な男だ。
「今回は鉄さんも一緒か。」
マスターがコーヒーを差し出しながら質問すると岩の様な男は小さく頷く。
「マスター、何か腹に溜まる物をいただけないだろうか…?」
岩の様な男が申し訳なさそうに言う。マスターはコーヒーを一口飲み、やれやれと言わんばかりの呆れ顔から笑みを見せ「いい加減に慣れて欲しいもんだ、」と意味深げに注意する。
「簡単に慣れる事では御座いません…」
と、岩の様な男、斧田鉄男はコーヒーカップにたっぷりのミルクを注ぎ混ざりゆく様を眺めながら呟いた。
「久保さんところは今日休みか?」
鉄男は村唯一の整備工場 久保モータースに勤めている。久保モータースでは車バイク以外にもトラクターやチェーンソー等幅広く修理整備を行っている。
「休みです。何か自分に用事でも?」
「薪を少し貰いたい。しっかり乾燥してるのがいい。頼めるかな?」
「あります。昼に軽トラで積んできます。」
「ありがとう。助かる。」
「臣さんは?仕事明けなのに腹を空かせてないのか?」
「昨日、絹さんと役場前のバス停んとこで会ってね、羊羹を流したから食べにおいでと。」
「ん?ん〜…で?」
「うまい羊羹を食べたいから腹を空かせ…」
「は??本気か?」
「なにがおかしい。」
「いんや〜、世の中平和だなと。」
マスターはコーヒーを飲み干す。
ドアベルがまた店内に響き渡り女性が2人入ってくる。
「おはようございます!」
「おはようございます。今日もよろしく。」
「あら、臣人さんとてっちゃん、来てたのね。」
「おはよ〜。」
「おはよ。あ〜そうそう、去年つけた梅酒が飲み頃だけどいる?この前の山菜とキノコのお返し♪」
「おはよう。佳奈さんちの梅酒かぁ。遠慮なく。」
「オッケーここに持ってくるね。」
「ありがと。」
二人はバックヤードへ着替えに向かう。
マスターはその間カゴからパンを取り出し手際よくナイフでパンに切れ込みを入れる。
「余り物しかないぞ。」と冷蔵庫からサラダとハムを取り出しそれらをパンに挟み鉄男し差し出す。雨上がりの空から雲が流れ柔らかい朝日が差し込む。山頂から降りてくる風が木々の葉を揺らし鳥の鳴き声が今日も何気ない朝を告げる。
「さてと、ぼちぼち開店するか。」
マスターは手早くマグを洗い手をタオルで拭く。
「まだ帰らないのか?」
「年上は敬えよ。まだいてもいいだろ?
コーヒーもう一杯。」
「へいへい。」
外から乾いた原付きバイクの排気音。
間もなくしてドアが勢い良く開き、一人の少女が入ってくる。彼女の名は陽原 麻耶 。
この村から隣町の高校に通うKAWAIIをこよなく愛する17才である。
「マスター、食パン一斤包んで〜。」
「はいよ。ちょっと待ってね。」
「いい年してこんな朝早くにそんななりで店にくるなよ。目がチカチカする…」臣人が目を細め不機嫌そうに言う。
「ジジィにはこの良さはわからないかぁ〜」
「ジジィ呼ばわりはやめろ。」
「はいはい。」
マスターが紙に包んだ食パンを麻耶に渡す。
「ありがと〜。」
麻耶はそう言うと手早く会計を済ませると表情をハッとしたかと思うとニヤニヤしながら、
「あ、そーいえば、遥斗さんとここ来る前に会ってさ、いつもの2人が来てるからマスターに伝えてって。もしかしたら昼過ぎくらいにここくるんじゃないかな?」
と二人の表情の変化を楽しみながら言う。
須坂野 臣人と佐井座 道司は横目で視線を合わせしばらく頭を抱え黙っていた。
「コーヒーは…もういいや…ウイスキーある?」
「そんなんあるかよ…。」
二人は同時に深くため息をついた。
「今日は一仕事終えたからゆっくりしたいのにこれだ…。道司、さっさと済ませようぜ。」
「そうするとしよう。佳奈さんと理恵さんに店番を頼んでくる。」
「わかった。乗ってくか?」
「いや、自分で行く。先に行っててくれ。」
「オーケー。」
臣人は不機嫌顔でガラ悪い歩き方で店を出て車に乗り込み遥斗宅へ向かった。
村役場の裏手に久賀姓の家が2軒並んでいる。
左の一際大きな蔵がある家が遥斗の家。久賀家はこの村を治めてきた一族で遥斗は分家の当主。久賀分家は蔵を譲り受け代々蔵の守り人の役を担っている。遥斗は奥さんの清美、息子の飛鳥馬と柴犬♂龍の4人?で暮らしている。久賀分家は蔵の守り人の役目はあるが本業は農業で山で椎茸栽培と畑作をしていた。今はその農地を臣人に貸し出している。分家とはいえ家の間取りは3人で住むには無駄に広いので遥斗は田舎暮らしが体験出来る民宿を営んでいる。右の高い塀で囲まれた家が久賀本家。久賀本家は代々村を治めこの土地を守ってきた。本家現当主は久賀 大樹で天尊村の現村長として村の発展に日々励んでいる。ちなみに、久賀家の前の道を小高い山に向かって少し登ると道半ばに麻耶の家がある。麻耶は外出時久賀宅の前の道を通るので久賀家の誰かしらと顔を合わせる事が良くあるのだ。
遥斗が蔵のドアを開け中に入っていく。昔ながらの蔵の扉と違い一般住宅の味のある木製のドアに作り変えられている。中に入ると奥にはオープンキッチンのようなカウンターテーブルと椅子が3脚。カウンター前にはドーンと中央にローテーブル、それを挟むようにソファが2つある。一見すると小さなホテルのロビーのような造り。実際そこは久賀分家の空き部屋を客室とした民泊施設のロビー代わりとなっている。ただちょっと違うところが、カウンター横奥に大きな観音扉のドアがある。その扉はシンプルなデザイン且ついささか無骨というか、厳重な造りになっている。
「お二人とも、今日は珍しく早いですね。」
遥斗はそう言うと大きな木の器に入った茶菓子をローテーブルに置きカウンターに戻ると茶筒をあけ緑茶を作り始める。ソファには大柄な初老の厳つい顔の男と細身のどこか妖し艶のある女が対になって座っている。
「私は個人的な用事があってな。あの方の迎えは急ぎではない。あ、ありがとう。」
遥斗からお茶を受け取る。
「ん?あぁ。師匠と待ち合わせ?」
「左様。遥斗殿…2階の部屋をしばし使わせて頂きたい。」
「良いですよ。昼食食べます?何か作りますよ。」
「御気遣いありがとう。だが集中したいので飲み物だけ貰いたい。」
「冷蔵庫の中の飲み物、好きなの飲んでよいですよ。」
「かたじけない。」
二人が話している間、女は見たこともない茶菓子を見て目をキラキラさせている。何を先に食べようかと指落ち着かずに動いている。
「私も急ぎではない。もう少ししたら矢野屋に行く予定だ…」
矢野屋とは天尊中学校の真向かいにある駄菓子屋で長年村の小中学生のたまり場になっている。女はお菓子に目がないようだ。
「時に…遥斗殿、またお願いしたいのだが…。」
女はそう言うと小さな茶袋を遥斗に渡す。遥斗は中身を確認するといくつか輝く石を取り出し、「でこの3つを。」と女に見せると女はコクリと頷く。遥斗はカウンターの引き出しから茶封筒を取り出し女に渡す。
「こちら前回貰った石の代金です。」
女は封筒を受け取り中を覗く。
「いつもすまない。感謝する。」
そう言って女は指先で湯呑を優しく持ち上げ、上品にお茶を飲み始めた。
遠くから聞き慣れた車のエンジン音が蔵の中まで響く。
「ん?臣人さんの車かな?」
「え…っとっと!」
女は湯呑を落としそうになり手をバタつかせまちつバランスを崩すも湯呑をしっかりホールドする。
「何故?まだ連絡してないはずだが…っつあ〜!」
女は熱さに耐えきれず湯呑を手放すと目の前の男の膝に茶がかかる。
「あっつ!!何をする小娘!」
「小我を娘扱いするな!」
遥斗は二人の様子を見なから笑いを堪えた。
臣人が蔵に入ると女は立ち上がり軽く頭を下げる。
「お迎えに参りました。主よ。」
「楽にしていい。座れ。」
「はっ。」
「何があった?」
臣人はカウンター席に座ると遥斗にコーヒーを勧められるも軽く手で断る。
「それが…ちょっと複雑でして、一度ご覧になってもらうのが一番かと…。」
「わかった。今日ゆったりしたいから早めに事の次第を片付けよう。え〜と今は〜。」
と言いながら壁の時計を確認する。時計の針は8時半過ぎを示していた。臣人は少し考え、
「9時には出るぞ。」
と、女に伝えると女はワタワタし始める。
「あ、いや〜大事ではありますが、急ぎではないような…むしろ少し待ってからが…。」
「矢野屋か?」
臣人がそう言うと女は図星を突かれ驚きざまにスネをローテーブルにぶつける。
「いったー!」
蔑んだ目をしながら男は言う
「つまらん女だ…」
「今なんと申した!」
「聞こえなかった。黙れガキと言ったのだ。」
「さっきと違うじゃない!」
「聞こえてなかっのでは?」
「ぐぬぬぬっ!」
この2人、何故か仲が悪い。
臣人が二人の有り様を冷ややかに眺めつつ、
「遥斗、すまんが矢野さんちに電話掛けてもらっていいかな?番号知らなくて。ちょっと早目に店を開けて欲しいとお願いしてもらえると助かる。」
「いいですよ。ちょっと待ってください。」
遥斗はそう言ってスマホを取り出す。
「ちょっと龍かまってくる。」
そう言うと臣人は玄関へ向かう。
程なくして軽トラックが蔵の前に止まり道司が降りる。
「ありがとう。鉄さんも寄っていくかい?」
「いえ、このまま山小屋に行って薪を店に運んでおきます。」
「そうでしたそうでした。よろしく。」
臣人と道司が玄関先で入れ違いざまに言葉をかわす。
「うちんとこは多分大した事ない。こっち来る言い訳くさい…」
「そんな気はしてたよ。2人同時にとかおかしい。とはいえ、そろそろ顔を出さないとだな。」
「ちげーねー。」
道司は蔵に入る。臣人大きく息を吸い込み、
「りゅーーーーう」
と、遥斗宅の番犬龍を呼ぶ。すると龍はスタスタやってきて、スタッ!と毅然とした立ち姿を見せる。臣人はポケットから何やらナッツ?豆?の様なものを龍の頭上に投げると龍はパクリと咥えガリガリ砕き飲み込む。
「人んちの犬に勝手にエサ与えるなよ〜。」
2階から若者の声。遥斗の息子、飛鳥馬が注意する。
「大丈夫だって。こいつお利口さんだから変なモンくわねーよ。」
「そーゆー問題じゃなくて〜餌付けしないでって話。そんなに犬が好きなら飼ったらいいだろ。」
「世話するの面倒だろ?人んちの犬だから良いんだよ。」
「へぇ〜…って納得するか。ナッツ類は犬には毒だか与えないでくれよ〜。」
「わーっとるって。うるさいなぁ。」
そう言いながら臣人と龍は半ば格闘するかの様にじゃれ合っていた。
そして小一時間後。
臣人と道司は蔵の一階奥の部屋へ向かう。
そこには大きな鏡があった。
黒縁の大樹ような見た目で金の装飾がなされていた。
臣人は奥の部屋にあるクローゼットから黒いマントを取り出し羽織る。
「用事は済んだのか?」
「はい。お時間を頂きありがとうございます。」
道司も着替えを始める。白地に金の刺繍のマントを羽織る。
「さてと、行くと、いや、久々に帰るとするか。」
「はい。」
そういうと四人は順に鏡に掌をあて波打つ鏡面にゆっくりと吸い込まれて行く。
この鏡は異世界とこの世界、久賀家の蔵と繋がるゲートである。
「お帰りなさいませ、我が王よ。」
迎えの女、イングヤードは跪き王の帰還を喜んだ。
「挨拶はいい。状況を教えろ。」
「龍王が面会を希望しております。おそらくこの大樹の鏡に関する事かそれに関する異世界の技術に関する事か、何れにせよ警戒は必要かと。」
「わかった。話を付けよう。使者を送り日時のすり合わせをしておいてくれ。」
「御意。」
道司がヴィルカス・セダリスに問う。
「私を呼んだ理由もそろそろ知りたいな。」
「王子、いや新王がとある領主同士のいざこざに悩まれておられる。元王からお力添え願いたいとの事です。」
「なるほどな。なんとかしよう。」
ゲートを通った臣人の体は筋肉隆々な体型から少し引き締まった体に。が、オーラのような光が体を覆っている。
須佐野 臣人は魔人魔獣の蔓延る北の大地で魔を統べる王であった。
佐井座 道司もまた人の世の一国の王であった。
道司はどこか疲れ切ったくたびれた体だったが覇気に満ち溢れ威風堂々たる姿になっていた。
各々に後継者や息子に王位を譲り気ままに老後?を過ごしているのであった。
この鏡、大樹の鏡は神聖なる泉の辺にある一つの村が管理している。泉は神話の時代から妖精女王とその一族が護っている。
村は魔族の長、妖精の長、人間の長の三国協定によって守られ、村自体の管理は遥斗の父、芳高が村長として管理していた。
久賀家は代々この村と鏡の守り人をしているのだ。
臣人
「さっさと済ませて、帰ってビール飲もう。」
「そうだな。」
そう、これは、
とある村の
ちょっと風変わりな人々?の
勝手気ままな、日常と道楽の物語である。
やっと1話を書き終えました。