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06 どうしてこうなった!?(ジークSide)

 次の日の朝。


 一人で困っているであろうロアンナを嘲笑うために、ジークとエリーはバラ園に向かった。


「なんだ?」


 なぜか王太子宮の使用人や騎士達が、バラ園に集まっている。その中心にいるのは、ロアンナだ。

エリーが「何かあったのでしょうか?」と不安そうな顔をしている。


 人だかりの中には、『ロアンナの指示を聞くな』と命令していたはずのお飾りメイド達の姿もあった。


 ものものしい空気の中、ロアンナがジークに気がつき片手を挙げる。


「あ、殿下いらっしゃいましたね。では、エリーさんに今から罰を与えます」


 その言葉を合図に、騎士達がエリーを拘束した。


「きゃあ! ジーク様、助けて!」

「なっ!? エリーに何をする!?」


 慌てるジークを見たロアンナは、不思議そうに首をかしげる。


「何って。エリーさんは、俺……じゃなくて! わ、私の指示に従わなかったので、今から罰せられます」


「はぁ!?」と声をあげたジークに、ロアンナは少しだけ戸惑った。


「あれ? 私がエリーさんをバラ園の整備責任者に任命し、次の日の朝までにしおれたバラの剪定をするようにと伝えたとき、殿下もその場にいらっしゃいましたよね?」

「い、いたが、それとこれに一体なんの関係が!?」


「良かった」とロアンナは胸をなで下ろす。


「王太子宮の管理を怠った者への罰は、ムチ打ち十回だそうですよ。国王陛下の許可は得ています。では、始めてください」


 ロアンナの指示を受けた騎士達は、エリーの腕を左右から掴み、身動きが取れないように押さえつけた。その背後から、別の騎士がエリーの背中にムチを振り下ろす。


「一回」


 バシッと痛そうな音がしてエリーの悲鳴が上がった。


「や、やめろ!」


 ジークが制止しても騎士達はやめようとしない。


「二回。三回」


 ムチで叩かれ続けるエリーの服が破れて背中から血が滲む。ジークはエリーを守るために、慌てて彼女の背中に覆いかぶさった。


 それを見たロアンナの瞳は、冷たくもなければ怒ってもいない。ただただ、必要だからそうしているといった雰囲気だ。


「殿下。邪魔です。そこをどいてください」

「な、なんなんだ!? なんなんだよ、お前はっ!?」


 ロアンナはまた首をかしげた。


「この体の方は、クラウチ公爵家のロアンナ様です。あなたの婚約者であり、この王太子宮の管理責任者でもあります」

「だからって、こんなひどいことを!?」


「ひどいって……。バラ園の整備は殿下の指示ですよ?」

「私が命令したのは、お前にだ! ロアンナ!」


 ジークが怒鳴りつけても、ロアンナは淡々としている。


「はい。ですから、その命令を受けて私がエリーさんにそうするように指示を出しました。しかし、彼女は仕事をしなかったため罰を受けることになってしまった。何かおかしいでしょうか?」

「おかしいだろうが!?」


 ロアンナの瞳が、まっすぐジークを見つめている。


「どこがですか? 私は王宮の規則に従っているだけです。先ほども言いましたが陛下の許可は得ています」

「……ぐっ」


 国王の許可を得ていると言われてしまえば、王太子であるジークですら軽率に反論はできない。


(おかしいに決まっているだろうが! それなのに今、エリーは罰せられている。ということは、周囲の使用人達はこの状況が正しいと思っているのか!?)


 フゥとため息をついたロアンナは、控えていた四人のメイド達に視線を向けた。それだけでメイド達はビクッと体を震わせる。


 それもそのはず。ジークの寵愛を得ているエリーが、ロアンナの指示を無視したことで罰せられたのだ。ようするに、これからは、ロアンナの言うことを聞かなければ、自分達もそうなるということ。


 ロアンナは、落ち着いた声で「エリーさんの次に偉いのは誰ですか?」と尋ねた。

 お飾りメイドの一人がガタガタと震えている。


「誰ですか?」


 ロアンナの問いかけで、銀色の髪を肩らへんで切りそろえた美しい少女が、震えながら前に出てきた。


「あなたのお名前は?」

「……ルル、です」


 ルルの顔からは、血の気が引いている。


「では、ルルさん。エリーさんの代わりにあなたをバラ園の整備責任者に任命します。今から、しおれたバラの剪定を始めてください」

「……」


 ルルは縋るようにジークを見た。ジークが何か言う前に、ロアンナが口を挟む。


「ちなみに、できない場合は、ルルさんにも罰を与えます」

「ひぃ」


 小さく悲鳴を上げたルルは、お飾りメイド達にバラを剪定するように指示した。指示を受けたメイド達は青い顔のまま一斉にバラの剪定を始める。しかし、彼女達は庭仕事などしたことがない。バラのトゲに指を刺したのか「痛いっ!」やら、「な、何をどうすればいいの?」やらと戸惑う声が上がっている。


 それを見たロアンナは、ジークを振り返った。長い黒髪が、スカートの動きに合わせてふわりと広がる。


「殿下。ようやくバラ園の整備を始めることができましたが、今日の夕方までに終わらせるのは無理そうです。時間を延長しますか? それとも、時間内に終わらせられなかった場合、ルルを罰しますか?」

「……」


 淡々と恐ろしいことを言うロアンナを、ジークは凝視した。なぜか『異世界から召喚された三英雄の末裔』という言葉が、ジークの頭の中をぐるぐると回っている。


「殿下?」


 ロアンナの声で、ジークはハッと我に返った。


「え、延長だ……。いや、もうバラ園の整備はしなくていい!」

「そうですか? それは良かったです」


 ニコッと微笑みかけられたジークは、背筋が凍るような気がした。

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