56 粗末な小屋(マックスSide)
それから二日の間。
マックスは、食事を運んでくるメイドに引き続きライズに会いたい旨を伝えながら、移動を許されている範囲内を護衛騎士と共に歩き回った。ついでに見張りの多い場所や、交代のタイミングなども観察しておく。
与えられた客室に戻ったマックスは、ソファーに身を沈めた。
(これだけ歩き回っても、ライズ卿の姿を見ないし居場所も分からない。ここまでくると、まるで故意に私から逃げているみたいだ。当主同士で話があると言っていたのに、いったい何がしたいんだ?)
そんなことを考えていたマックスのもとに、伝令役をしている護衛騎士が報告にきた。
その報告内容をマックスが確認するように繰り返す。
「赤髪の男が、小屋に入っていった?」
護衛騎士は頷く。
「はい」
マックスは、腕を組んだ。
(赤髪といえば、神聖ラキメト国の王族に多い髪色だな。かといって、王族以外に赤髪がいないわけではないが)
国の名前に【神聖】とつくだけあり、国家全体の信仰心が高い。王族は神官でもあり、女神の信徒でもある。
その立場は中立で、さまざまな国に支部となる神殿を作り、女神への信仰を説きながら奉仕活動に従事している。
幽霊に憑りつかれやすい弟のレイにネックレスを授けて助けてくれたのも、ザナトリア王国内にあるラキメト神殿だった。
(いろんな情報が点在していてまとまらない。こちらから動くしかないか)
マックスが、「今夜、見張りが交代するときに小屋に侵入しよう」と伝えると、伝令役の護衛騎士は静かに頭を下げた。
深夜になり、護衛騎士が先行する中、マックスは客室を出た。マックスの不在がばれないように、いつも通り扉の前に護衛を二人残しておく。
(もし、誰かが部屋を訪ねてきたても、あの二人が誤魔化してくれるだろう)
伝令役の護衛騎士の案内のおかげで、見張りに見つからず、うまく小屋まで近づくことができた。そこで見張りをしていた護衛騎士二人と合流する。
「様子は?」
マックスの問いに、護衛は「変わりありません」と小声で返す。
そのまま、しばらく茂みに身を潜めていると、交代の見張りがやってきた。マックスが護衛騎士達に頷いて合図を送ると、騎士達はすぐに見張りを気を失わせて拘束する。
その後、小屋の中で身ぐるみを剥ぎ、それらを身につけた護衛騎士二人は、見張りの振りをして小屋の前に立った。
(これで、中を探れるな)
マックスは、残った伝令役の護衛と共に、小屋の中へと入っていく。
小屋の中は殺風景で、木造の小さな机と椅子くらいしかない。
(机にも椅子にも、うっすらとホコリがかぶっている。長年、誰も使っていない)
しかし、机の上に置かれたランプには、ホコリがかかっていなかった。
「ランプだけは使われている?」
そう呟いたマックスに、護衛騎士が床を指さす。
「マックス様。ここに扉が」
「開けてみろ」
床にある扉を引き上げると、ギギッと鈍い音がする。扉の先には、石畳の階段が続いていた。
「地下室か」
明かりをつけた護衛騎士が、先行して地下室へと降りていく。そのあとをマックスも続いた。辿り着いた先は古めかしい地下牢だった。
「使われている形跡はないな」
どの牢屋もからっぽで、人の気配はない。
(ここに何かあると思ったんだが)
そのとき、マックスの足元でネズミが、チヂッと大きく鳴いた。
驚いて振り返ったマックスの視界に、護衛騎士が自分に向かって腕を振り上げている姿が映る。
「なっ!?」
身をかわしてなんとか一撃をよけたものの、すぐに次が繰り出されて、護衛騎士の拳がマックスの腹にめり込んだ。
「ど、して……?」
しぼりだしたマックスの声にこたえることなく、今度は顔面を横殴りにされて、マックスは倒れ込んだ。
ぼやけていく意識の中で「バカ、やりすぎるな!」と止める声が聞こえる。
「殺したら元も子もねぇからな!」
そう叫ぶ真っ赤な髪の男に、護衛騎士がうやうやしく跪いた。
(くそっ! 裏切られた、の……か)
激痛と共に、マックスは気を失った。
――ックス!
――マックス!
遠くでマックスを呼び声が聞こえる。
その声の懐かしさに、マックスは口元を緩めた。
(父さんと母さんの声だ)
もう何年も聞いていなかったが、マックスは不思議と確信が持てた。ゆっくりと目を開けてもそこに両親の姿はない。
代わりに白く丸い物体が二つ、宙に浮いている。
『夢か……』
マックスの呟きを『夢じゃないぞ』と否定したのは、白く丸い物体だった。その丸には、つぶらな瞳と、立派な口髭がついている。
『しゃべった! なんだ、これ? 生き物なのか?』
後退るマックスに、なぞの生き物達が近づいてくる。
『ああ、マックス! しばらく見ないうちに立派になって』
そう涙を流している生き物は、金色のロケットペンダントを身に着けている。それは、母が大切にしていたものと同じで……。
『も、もしかして、父さんと母さん?』
『そうだ!』
『そうよ!』
と言いながら、丸い生き物達はマックスに抱きついた。信じがたいが、声はたしかに両親のものだ。
『な、なんです? その珍妙な姿は!?』




