7話 クロエのドラゴン退治
「「魔フォン?」」
どこか聞きなれた響きの単語に朔と命が反応する。
朔は知らなくても当然だが、命も知らない様子を示した。
朔が思え返せば、命は幼いことから読書やスポーツなどに興味を示していて、スマホを与えられてからも全くと言っていいほどSNSに関心を持っておらず、それは異世界で生活していても同じだった。
「魔フォンってのは、魔素通信が使えない人でも遠くの人と連絡が取れるように魔法を道具にしたものだよ。昨日の......あ、今日か、朝に馬車で揺られながら寝てたら、これでクロエに呼び出されてさ全力で走ってきたよ笑。」
ルシアは少し笑いながら顔をしかめた。
そして使い方を教えてくれる。
ルシアが指輪を撫でると立体映像が浮かび上がり、短い文字が箇条書きに連なった。
その文字列に触れる動作をするとクロエの胸ポケットから僅かに音が漏れ出てきた。
「俺に電話がかかってきましたね。」と言ってクロエは短い動作をすると『ピコン』と音を立てて立体映像が崩れ落ちた。
「2人とも持ってないなら、今から買いに行こうよ!!」
そのルシアのひと声により朔たちの一日の予定が決定したのだった。
朔達は昼食を済ませて街の中心にある銅像で待ち合わせをすることとなった。
朔はまだ街の構造はよく知らなかったが、クロエのおかげで銅像くらいは知っていた。
朔が待ち合わせ場所に向かうと、ルシアと命が何やらお菓子を食べていた。
「フェルクッドと言って、イネの植物から採れる種の中身を粉にして、ある魔植物の消化液を煮詰めたもので固めてから火を通した伝統菓子で、すっごく甘いのに重くなくておいしいんだよねー。」
ルシアが朔の口にフェルクッドをねじ込みながら説明した。
「本当だ、触感はようかんに近いな、メープルシロップをようかんっぽくした感じだ。うまい。」
もごもごしていた朔は飲み込んでからそういった、「ようかん?」と聞くルシアに命が「私たちが昔住んでた国の伝統菓子だよ、今度材料があったら作ってあげる」っと言った。
急なおやつを済ませて、ルシアについていくと多少装飾の付いたお店に連れていかれた。
中に入ると、小さな羽を腕と横腹の間に持ったモモンガのような獣人がいた。
「いらっしゃい!!魔フォンを持つのは初めてかな?種類もいろいろあるから見ていってね!!」
店員の獣人は元気な声で挨拶をした、店内を見渡すと指輪やネックレス、懐中時計、ブレスレットの形をした魔フォンがあった。
ルシアやクロエは指輪型を使っていた、値段もすべて似たり寄ったりだった。
だが指輪とブレスレットではなぜか値段の違いがある。
命が店員聞くと店員は「自動サイズ調節機能付きです。おすすめですよ。」と言った。
因みに最後のおすすめという一言は営業である。
2人はルシアに相談しながら吟味した結果、結果朔はブレスレッド型を、命は懐中時計型を買った。
そのあと3人は少し暗くなった市場に行って、遊んでいるとルシアにクロエから「ご飯がもうそろそろできるから帰ってきなさい」と連絡があって、まだ遊び足りないと思いながらも家に帰宅した。
「んじゃ、いってきます。」
「はい、いってらっしゃい」
命、ルシア、朔の順にマルティネス邸を後にした3人を見送ったクロエは、掃除道具を手に取って、
「仲良くなってくれるといいですが、、、」と呟いた。
クロエは手早い動きで玄関の掃除を終えたあと、メイドたちにほかの場所の清掃の指示を出してクロエは冒険者ギルドへ向かう準備をした。
クロエの一日は多忙である、特Sランク兼領主として国中を飛び回ってるリヌイに変わって書類業務や達成した依頼の報告などなど、様々な仕事をこなしていく。そのうえ朔や命の特訓や座学などに時間を割かないといけなかった。
クロエが冒険者ギルドの扉を開いて受付に向かうと、担当のラスネルがすぐに出てきた。
「あ、クロエさん、今日も討伐書類の報告ですか?」
「いえ、今日は俺が依頼を受けようかと思いまして。」
ラスネルがいつも通り、書類を受け取ろうとして準備をしながら聞くとクロエの意外な反応に驚きを隠せなかった。
「あら、珍しいですね。いつもは時間がないからと言ってほとんど受けないのに。」
そういってラスネルはランクに合った討伐依頼の書類をすばやくクロエの前に並べていった。
クロエはその中からAランク上位の依頼を選んで受け取った。
クロエの目的は言ってしまえば鬱憤晴らしである。
毎日多忙な仕事に追われているとたまには全力で動き回りたくなるものであった。
クロエは中からいくつか高ランクの討伐依頼の書類をもらい受け、ギルドを出た。
ギルドを出て少し街の中を歩いていると、楽しそうに魔フォンショップに向かっている朔たち3人を見つけて、少しりりしくも優しい顔がもっとほころんだ。
ただその表情を見せたのは一瞬で、クロエは再び歩き出しデルデアの鍛冶場へと向かった。
巨人用の大きな扉を開けると、いつも通り大きな手で細かい作業をしている亜巨人の大男がいた。
「デルデアさん、俺が頼んでいたものはできたでしょうか?」
「ん?あぁクロエ様か、できてるぞ。持ってくるからちょっと待ってな。」
デルデアは店の奥から手に平サイズの小包を取り出してクロエに渡す。
クロエはそれを受け取り店を後にした。
マルティネス領の町を出て30分ほど馬車を走らせた先には、穏やかな高原が広がっている。
だが最近Aランクのドラゴンが住み着き、高原に生息していた生物を食べてしまう事で生態系を荒らしていた。そこで、生態系保護のためにギルドがAランクドラゴン討伐任務を出していた。
「さて、やっちゃいましょうか。」
そう言ったクロエは高原全てを自身の結界で囲んで、空中に足場として結界を生み出しその上に乗ることで宙に浮いた。
クロエはAランクの冒険者である。
だが、その実力はAランクを優に超えていた。
ドラゴンから放たれる電気と炎と高密度の魔力によるブレスを、たった一枚の結界を生み出すことによって防いでいた。
個体にもよるが、ドラゴンは初撃で30秒ほどの間、強力なブレスを発生させる。
Aランクの個体ともなればその威力は山を一つ吹き飛ばすこともあった。
だが、クロエの結界はその威力をたった一枚で肩代わりした。
「先日の悪魔といい、なぜここ最近になってから、高ランクの個体が頻出してくるようになったんですかね、、、、、」
クロエは放たれ尽くしたブレスの残り火を結界を押し付けることによる圧力で消火する。
ブレスに意味がないことに気づいたドラゴンが接近戦を試みて、近づいてきるがこれもクロエの結界の阻まれた。
ドラゴンは大きなかぎ爪で無理やり結界を破り、押し通った。
遠くにいたドラゴンが猛スピードで迫ってきているのにもかかわらず、クロエは自分の懐に手を入れてデルデアから受け取った小包を取り出し開封した。
中には革でできた手袋が入っていた。
手袋をはめようとすると、寸前まで迫ってきていたドラゴンがクロエを大きなかぎ爪で引き裂こうと手を振り下ろした。
クロエは再び結界を生み出すのではなく、軽やかな動きでかぎ爪をよけた。
手袋を付けるためだ。
避けて手袋をはめることで一瞬無防備となったクロエに、ドラゴンは空中に生み出したエネルギーの一斉を照射した。
「…装衣結界」
エネルギーがクロエを焼き尽くそうとした瞬間、クロエは魔術を発動させた。
発動させたにもかかわらずクロエに高密度エネルギーが逃げる隙間なく照射された。
「よかった、ちゃんと作動してくれました。」
魔術の発動が間に合わず焼失したかのように思えたクロエは、無傷で姿を現した。
元は執事服に身を包んでいたがダイビングスーツような者の上からコートを羽織るという装いに代わっていた。そしたクロエは話の通じないドラゴンに自慢するように話しかける。
「装衣結界。通常円形か平面図でしか構築することのできない結界を俺の体のラインに合わせて着るように結界を構築することができるように改良したものです。
元々術を発動させるのに時間がかかっていましたが、魔術と親和性の高い布に術式として刻むことで手袋を付け名前を唱えるだけで、発動できるようにしました。」
「ちなみに、致命傷となる攻撃でもこの結界が肩代わりして攻撃を受けた部分だけがはじけ飛ぶようになっている上に修復可能です。なので俺の魔力が尽きるまで俺は傷を受けることがありません。」
再びドラゴンがブレスをクロエに向けて発するが、クロエは近距離で受けたブレスに対して片腕を突き出すだけでそれを受け止めた。
一度手のひら部分の装衣結界がはじけ飛ぶがクロエが魔力を流すことではじけた結界が元に戻った。
クロエは巨大な結界を生み出し限界まで薄くする。2次元の平面として生み出された巨大な結界は、度重なるブレスやエネルギーの照射による魔力切れを起こしたドラゴンを容易く引き裂いた。
クロエが結界を解くと、結界の中だけが灰となっておりその外側は何事もなかったように草が生い茂っていた。
「さて、ドラゴンを部位ごとに解体しなければ。今日はドラゴンのステーキですね。」
クロエはそう言って、血が地面にしみこまないように結界を地面に広げその上にドラゴンを乗せた。
Aランク冒険者
クロエ・フローレス
結界術を得意とする防御特化の術師
結界は球形と平面で作ることが可能である。
その圧倒的な防御力から特Sランクのリヌイの攻撃ですら防ぐ。
そのため、そばに居続けれるのだ。