43話 懐かしい料理
一旦ピタヤの家からでた朔達は、エルンテルを観光することにした。
細い路地から入ったはずのピタヤの家は、出てみるとなぜか普通の家の扉から出てくる。
だが、再びその扉を開けてみると、赤土で作られたレンガの壁で埋め尽くされていた。
煤で汚れている地面は歩くと靴底にへばりついて僅かに足跡を残す。
マルティネスやアクアウルプスとは違い、商人の活気のある呼び込みの声など響いているわけもなく、
工場からでる煤を家に入れないためか、ほとんどの窓が隙間無く閉まっていた。
「見て回るって言っても、何もないね」
「だな」
命がみんなの思っていたことを代表して口に出す。
そこに朔が続いて、シャルロッテですらあまり面白くなさそうな顔でうなづいた。
さらに町中から漏れる金属音や加工音が、耳のいいルシアにとってきついのか、可愛らしいふさふさの耳をぺたんと閉じて目を細めていた。
そこまで話すこともなく無言のまま徒然と歩いていると、今までつまらなさそうにしていたルシアが駆け足で走り出した。
「美味しそうな匂いがする!」
その言葉を聞いて煤で汚れる地面から離れるように命も駆け出す。
活気もなく退屈な街を歩いて疲れていた朔とシャルロッテは顔を見合わせて、二人の背中を苦笑交じりに追いかけた。
3分ほど走っていると、ルシアが一軒家の前でピタリと止まる。
急に止まったルシアに対して追いかけていた命は、驚いてそのままルシアに突っ込むが、ルシアは難無く受け止めて、一軒家から漂ういい匂いをうかがっていた。
その一軒家はぱっと見るとただの住まいなのだが、よく見るとドアノブにオープンと書かれている札が薄い存在感を必死に主張してかけられていた。
朔とシャルロッテがつくと、ルシアはドアノブを回して中に入る。
ガチャリという軽快な金属音が響くと共に、蝶番のこすれる音が耳をなぞる。
それと同時に、ふわりとした美味しそうな油の匂いが疲れていた4人の食欲を誘った。
「いらっしゃい、よくここを見つけたな」
「おぉー珍しいな、旅客だぞ」
中では夕間から飲んでいるお客さんが4人卓を囲んでいるだけで、二人掛けのテーブルが一つとカウンターが寂しそうに空いていた。4人で飲んでいた一人が朔たちの存在に気づいて声を上げる、その声を聴いてカウンターの奥からキッチン帽とエプロンを身につけた背の高いオジサンが出てきた。
「ん、旅客が来るのは珍しいな、誰かにきいたのか?」
少し驚いたような反応をするオジサンは、ひとまずカウンターに4人を座らせる。
そしてお通しだと言って、芋を揚げて蜜で絡めたお菓子のようなものが出てきた。
「俺はマルコ、適当に呼んでくれ」
朔たちが美味しそうに芋菓子を食べているとマルコはお酒を飲んでいる4人組に「ほら、メニューを渡してくれ」と、慣れたように声を掛ける。すると、囲んでいる卓の上にメニューが置かれていたのか、初めにいらっしゃいと言ったおっさんが「ほらよ」と言って朔に手渡した。
「ここのはな、何でもうまいからこの町のもんは皆食いに来るんだよ」
「あぁ! 酒によく合うんだよな」
「お前は酒があればどんなゲテモノでもうまいっていうじゃないか!」
酒の入っているおっさんたちが騒ぐと、店の奥から「俺の料理がゲテモノだって??」と大きな声が飛んでくる。その声を肴にしておっさん達は酒を飲む。その様子はエルンテルの暗い雰囲気とは打って変わって明るく感じられた。
朔が受け取ったメニューを見てみると、「クラムボンの肉詰め」やら、「アッチョンプリケの蒸し焼き」などといった名前から想像させる気の無さそうな意味不明の名前が羅列されている。
とりあえず異世界出身であるシャルロッテとルシアに見せるが、二人も想像できないようで眉間にしわを寄せていた。
「マルコさん、これってどんな料理なんですか」
「ん?あぁ、、俺の故郷の言い方で書いてるからなぁ、よっし、おすすめを出してやろう」
マルコは長い袖を腕まくりすると、4人に食べれない物がないかを聞いて出ていった。
料理が出来上がるのを待っていると、新鮮な客を酒の肴にしようとおっさん達が朔達に話しかけてきた。
「なぁ旅人さんよ、あんたらはどうやってここに来たんだい」
「そうだな、俺たちも教えてもらわないと気付かなかったしな」
朔が答えようとすると、横で命とと話していたルシアがぐるっと振り返って「私が見つけだんだ!」と、自分の自慢である鼻を指さして言った。そして席を立つとおっさんたちの輪の中に入っていく、容姿端麗でフランクに接してくれるルシアにおっさんたちはメロメロになっていた。
「あの子すごいな.......」
「一瞬でおじさん達の心を鷲掴みだ、まさにコミュ力お化けだな」
「私はちょっと言葉に詰まるかも」
3人が感心しながら見ていると、料理が完成したのかマルコが二皿を手に持って出てくる。
更にもう二皿持ってくると、カウンター席に座っている4人の前にコトンという音を立たせながら差し出した。
平たいお皿の中はスープで満たされている。
さらにその中心には柔らかい葉っぱの野菜を樽状に丸めた料理があった。
さらにマルコはその樽状の野菜を二つの棒で抑えると、真ん中辺りを包丁で二つに切り分けた。
音もなく刃が通り、薄緑色の葉っぱが分かれ、中からふんわりと敷き詰められた肉の匂いが広がって朔たちの食欲を誘う。その匂いに誘われて、おっさん達の相手をしていたルシアも戻ってきた。
「これは、、、、、」
「うん、、、これは、、、、」
料理を見た朔と命は、珍妙な物を見たような顔で互いの顔を見合わせる。
そしてもう一度料理を見ると、口をそろえて「ロールキャベツ!」と声を揃えた。
突然、知っていたかのように声を上げる2人に、シャルロッテとマルコが驚いたような顔をする。
一方ルシアは食べ物への感謝を込めて挨拶をしたのち、気にする事もなくかぶりついていた。
「なんだ、嬢ちゃんたちこの料理を知っていたのか?」
美味しそうに食べ始めた朔と命に、マルコは質問する。
故郷でも似たような料理があったのだというと、マルコは出身はどこだと聞いてきた。
そして、命が異世界から来たのだとさらに言うと、マルコは何回か瞬きをして「なんだと!?」と声を上げた。
「この料理はな、俺のじいちゃんがよく作ってくれた料理なんだよ」
マルコはそういうと、一枚の写真を厨房の奥から持ってきた。
そこには白いひげがもくもくと生えて、小さな赤ん坊を嬉しそうに抱えているよく太ったおじいさんが居た。その姿はまさにサンタクロースの休日のようで、朔と命に親近感を覚えさせた。
写真に写っている赤ん坊はマルコとのことで、おじいさんはマルコが小さいときには死んでしまったらしく、この料理の味だけを覚えていたらしい。
マルコからしてもおじいさんはかなり変わった人だったそうで、だれも使わないような食材を使って誰よりも美味しい料理を作っていた。それがマルコは長年の謎だったらしく、やっと謎を解決できたようでスッキリとした表情を浮かべた。
「本当にありがとうな、やっとじいちゃんの事が少しわかったよ、お代は結構だこの街を楽しんでくれ」
マルコは食べ終わった朔達にそう伝える。
流石に申し訳ないシャルロッテが代金を渡そうとするが、マルコは断固として受け取らなかった。
それを見かねた4人組のおっさん達は「無理無理、この店主頭固いから」と、払おうとするシャルロッテに言った。
「あぁ、そうだ、この国ではあんまり異世界人ということは言わない方がいいぞ、なんせ異世界人の浅久良南雲という男のせいで、職人たちが総動員されてるらしいからな、たった一人のせいで悪く見られちまってる」
店を出ようとする朔達にマルコは忠告する。
朔はその忠告を聞いて、アナスタシアから言われたことと、以前見た浅久良の顔を思い出していた。
(浅久良.....南雲.......あいつは世界の破壊者だと自分で言った。そして新しい種族を生み出すのだと、でも聞く噂は何をしているのか分からないものばかり、何をしているんだろうか..........)
朔はそんなことを考えながら、気のいい店主のいる店を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
雪山で雪を踏み固めながら歩いてきたであろう足跡が、3列になって一つの洞窟へを続いている。
薄暗く湿った洞窟は雪山の冷たい風を防いで、僅かに地中の温かみを帯びていた。
さらにその中では一人の男が拾ってきた木を燃やして横たわる人を温めていた。
「ねぇケフィ、アサクラは何で死にかけてんのよ」
「たぶんっスけど、魔力の痕跡を見た感じ固有結界を使ってるっスね」
「え、固有結界?そんなはず……」
「ちゃんと確認したんで間違いはないっス、この人、莫大な魔力を体内に入れて自分の術式をポンプ代わりにして固有結界を使ったんっスよ」
「それで、耐えれなかったってことかしら」
「そういうことっス」
ケフィは腰のバックから一本の試験管のようなものを取り出した。
その中には透き通るようなトパーズ色の液体が揺らめきながら小さい水面を波立たせていた。
ケフィは浅久良の顎を少し上げて口を開ける。
そうすると、試験管のふたを開けて浅久良の口に流し込んだ。
「魔力と体力を回復する回復液っス、自分の為に持ってたんっスけど、気休めにはなるっスね」
「それで、この馬鹿は助かるの?」
「いや無理っス」
ケフィは浅久良を見て断言した。
浅久良の顔色は僅かに良くなってはいるが、弱い脈はなかなか元に戻らない。
いつもは飄々(ひょうひょう)としているケフィの顔にも僅かに焦りが見え始めた。
「あの人早く戻って来ないっスかね.......」
「そういえばあの子がいないわね」
「今、完全回復の回復液を作れるあの包帯が、材料を取りに行ってるっス」
そう言ってケフィは一つの本を取り出した。
そこには数多くの山菜の名前が書いており、調合の方法までもが詳細に書かれていた。
「あいつの術式じゃないと完全回復液は作れないっスからね」
「だからどこにも売ってないのね」
「そうっスね」
パチパチと木の空気がはじける音がして、横たわる浅久良の顔を照らす。
段々と脈拍が小さくなっていく浅久良の胸に手を当てて、ケフィは厳しい顔をしていた。
その時ザクザクと雪を踏む音がする。
ケフィが振り向くと、大量の素材を抱えた全身包帯が、そこに立っていた。
「今からポーション、作りますね」




