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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第三節 機械都市エルンテル

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39話 観測者の仕事

 お礼ついでについてこいと言ったピタヤは、迷路のような作りの町をくねくねと歩いて行く。

その後ろを歩いていくのは、荷物を抱えた細身の男と、追試験の朔たちであった。



「区長様から、守っていただきありがとうございました」

 


 細身の男が朔に話しかける。

先ほどの緊迫で取り乱した表情とは違って、今は落ち着いた物腰の良い表情をしている。

その男、ルフートは、ピタヤがどんな人物なのかを教えてくれた。



「ピタヤ様は、過去や今起こっている事、更には未来までを観測している観測者と呼ばれる人物です」

「観測者?」

「えぇ、ごくまれに、生まれ持って術式を持つ人が存在するのは知っていますか?」

「え、うん、リヌ様さまとか........」

「そうです、ピタヤ様も同じで生まれた時から『万象』という術式をもって産まれました」



 ルフートは、さらに言葉をつづけた。

ピタヤの『万象』は世界のあらゆる事象を知ることができたそうだ。

そんな力を持っていたピタヤは、人々のことを助けようと力を大いに奮っていた。

その話は一躍有名となり、ピタヤの存在を巡って対立が起き始めた。


 当時若かったピタヤは、生まれ故郷であるエルンテルを支配していたエルメスに保護され、その力を諜報員として使ってきたらしい。そして、先の戦争でも力を使って落ち着いた今では、誰にも見つからないような場所で過ごしているとのことだった。



「あんた、何を勝手に昔話をしてるんかい」

「あ、すみません」

「別に構わんが、まずは自分の話でもすればいいのにね」



 ピタヤは後ろを見ることなくルフートに言い放つ。

そういわれたルフートは「あはは......」とバツが悪そうに苦笑いした。



「その男はね、私が諜報員だった頃の一番下っ端でね、スキルも術式も体力もないが、商才だけはあって私の下に置いてやってるんだよ」

「その節は、本当にありがとうございました」

「フフフッ」



 ピタヤとルフートの掛け合いが面白かったのか命が思わず笑う。

そして、その様子がさらにおかしくなって、皆笑っていた。


 そんなこんなで30分ほど話しながら歩いていると、いつの間にか薄暗い路地の行き止まりへとたどり着いた。


 朔達が行き止まりでためらっていると、ピタヤは辺りを見回してから手に持っていた杖で一番奥の部分をグッと押し込んだ。すると、壁の一部が数センチ奥のに沈んで音を立てた。

さらに壁を触って何かを確かめると、端っこから数センチ離れた目線よりも高い一角を指で押した。


 刹那、凹んでいた壁は仕法センチ程度のブロックとなって奥の空間へと散らばる。

さらにそのブロックは、等間隔に通路に並んだかと思うと明るく点灯した。



「すご! めっちゃハイテクなほら穴だ」



 現れた洞窟のような作りに、ルシアは興奮が止まらないようで足に括りつけられたしっぽが音がなるほどブンブンと振り回されている。命早く行ってみたいのか、ルシアの横で前のめりで眺めていた。



「ここを降りれば、私の家だよ」



 そういったピタヤが先導するようように通路の奥と歩いて行く。

通路に入ると少しひんやりしていて、まだ冬の冷たさが残っていた。

通路に6人分の足音が響く。

奥へと続いていた通路は途中から段差の低い階段と変化する。

段差の足元にも淡く光るブロックが配置してあって、段差がよく見えるようになっていた。


 全部の段差を降りるとそこは人が数人は過ごせるような部屋になっており、床には絨毯が敷き詰められて観葉植物などが置かれている。そしてその真ん中には両開きの綺麗なドアがたたずんでいた。


 ピタヤが扉を杖でたたくと、両開きの扉は錆が引っかかるような音を立てながら動いた。

暗い廊下とは違がって中は明るく、その光で目がくらむ。

朔が初めに感じたのは、柔らかく乾いた匂いだった。


 皆の目が段々と慣れてきて中の様子が見えるようになると、「おぉ」という声が聞こえた。

まず、目につくのは最奥にある大きな壁掛けの地図で、かなり迫力がある。

さらに、魔獣の骨や様々な金属の工具、広い空間を囲む背の高い本棚と、異様な雰囲気を出す金属片があった。


 朔たちがピタヤに言われるまま中央にある円卓に座ると、机からコーヒーカップが浮き上がって生み出される。しかも、オレンジ色の濃い液体がカップの奥底から出てきてそのカップを満たした。



「私は果実をすりつぶした飲み物が好きでね、その机はサンセットと呼ばれる果実が取れる木からできていて、魔法をかけているんだよ」

「わ、おいしい、オレンジジュースだ」

「ふぅん、そっちではサンセットはオレンジと言うのかい」

「はい!」



 警戒することもなく飲み物を飲んだ命が素直に美味しいというと、ピタヤは孫を見るような目で笑った。



「そういえば、ルフートさんが持ってた物ってなんなの? ずっと金属音が聞こえているけど」

「あぁ、これはですね.....」



 一息ついたルシアはずっと気になっていたのか、ルフートに質問を投げかける。

その質問を受けて、ルフートは持っていた袋を逆さにしながらその中身を取り出した。


 ガチャガチャという金属音と共に出てきたのは、異様な近寄りがたい魔力を含む7つの金属片だった。

その金属は表面が鏡のように輝いており傷一つない。

そして、先が鋭くとがっているものもや、美しい刻印が入っているものがあった。


 朔と命、ルシアが、何なのか分からずに見入っていると、シャルロッテ一人が驚いたような顔をして一歩後ろに下がった。



「ん? あんたにはこれが何かわかるのかい?」



 ピタヤは、頬を引きつらせるシャルロッテを見て面白そうに片眉を上げる。

聞かれたシャルロッテは「なんとなく」と答えた。



「なんだと思うのかい」

「間違ってたら恥ずかしいですが、、、もしや、神剣の破片では?」

「おぉ、合ってるよ、流石、学園の教師だね」



 ピタヤは満足そうに頷く。

そして、破片を指で掴むとまじまじと見つめた。



「かなり希少ではあるが昔壊された神剣が見つかることがある。それは漁の網に引っかかることもあれば、山で見つかること、強い魔獣が持っていることがある」



 ピタヤは破片をテーブルに置くと床の板を持ち上げて、一振りの壊れた剣を取り出した。

その剣はかなり綺麗な状態で残っているが、一部欠けている部分がある上に、全体がにツギハギのような亀裂が入っている。そんな壊れた剣をテーブルの上に置くと、再び破片を手に取って壊れた部分に重ねた。


 その瞬間、剣の破片部分から亀裂全体に向かって淡い光が走る。

光が通った跡は亀裂など無かったかのように美しく生まれ変わり、傷一つない形へと変化した。


 神の剣


 そう、見たものが感じ取れるほど、治った剣は存在感を放っていた。



「私が今している仕事は神剣の修復だよ、神剣は壊れると莫大な魔力を放出すると共に色んな場所に飛び散ってしまう、だがこの一振りは神剣鍛冶師が一生を欠けたものなんだ、私はそんな物をよみがえらせたいのだよ」


 そう言ったピタヤはその一振りの神剣を手に取ると、本棚に向かい一つの本を手に取った。

その本はテーブルに置かれて、元々本があった部分には一つの鍵穴がぽっかりと開いていた。


「ついてきな」


 やはりどこへ行くのか言わないピタヤが、鍵穴にカギを差し込むと本棚の棚が一気に無くなる。

だが、その本は来るときに見た壁でできた照明のように光りながら道を作った。



「相変わらず凄い魔法ね、」

「ただの道を照らす魔法だよ」



 シャルロッテは2度目の光景に、思わず感嘆の声を漏らす。

だが、ピタヤは苦笑交じりに謙遜すると「これから、もっとすごい物がみれるんだから」と、つぶやいた。


 本で照らされる廊下を抜けると、片手開きのドアが現れる。

ドアを抜けると、そこは一面雪景色だった。



「わぁ、きれーーー! ここは?」

「ふへっ、雪じゃん、掘りたくなっちゃうね」



 命とルシアがノリノリの中、シャルロッテと朔はこの空間が不思議で見回っていた。



「シャルロッテ先生、ここ、どこかわかります?」

「いや、私でも分からないな、どうやってここまで来たんだろう」



 そんな様子を見かねてか、ルフートがここがどんな場所なのか教えてくれた。



「ここは結界の内側です、因みにあの本がいっぱいあった部屋も結界で空間を広げてるんです」

「そんな、ここまでの大自然を結界で表現する事ができるのか.......」

「あはは、僕にはさっぱり........」



 ルフートが笑ってごまかしていると、ピタヤは準備を終えたようで朔たちを手招きした。



「みてな」



 ピタヤは手に持っている透き通るような鏡面仕上げの剣を、雪に突き刺すと片手をかざして呪文を唱え始める。すると、周囲の粉雪が地面からふわりと舞い始めて、ピタヤの周りを旋回し始める。

豪風と共に雪が舞い上がると、ピタヤは一言呟いた。



神雪剣シンセツケン・ハリーザード、」



 刹那、一面快晴の雪景色だった背景が吹雪へと変わる。

朔が風で思わずよろけたのを命が支えた。

そんな吹雪の中、中心にいるピタヤは「だから、結界の中が雪だったのかい」と感想を漏らしていた。


 朔たちは吹雪で霞む視界の中、ピタヤの事を見守るしか無かった。

ピタヤは剣を手に取ると大きく一振りする。

それと同時に、吹雪の方向が大きく変わってピタヤに向かって雪が降り注いだ。

だが、ピタヤはその場から動くことなく真下から一振りで切り上げた。



「粛操の儀と呼ばれる儀式です、神剣は人を選びます、だから選ばれるための儀式が必要なんです」



 ルフートは見慣れているのか、吹雪を片手で防ぎながらわざわざ教えてくれる。

そして、ピタヤは片膝をつきながら、勢い良く地面にまっすぐ神剣を突き刺した。


 その瞬間、儀式が終わったのかピタヤを中心として、一気に吹雪がはじけ飛んでいく。

晴天の空が高く広がって、涼しい顔でピタヤが『神雪剣・ハリーザード』を引き抜いていた。


ピタヤ


術式「万象」

エルンテルの地下に住む、元諜報員の老婆

リヌイと同じように生まれつき術式を保有しており、その力は立ち入った場所のあらゆる情報を観測する事ができる。老婆としてかなり身体能力が高く、儀式を単身で行えるが何故か杖を突いている。

能力の特徴から世間から観測者と呼ばれている。

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