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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第三節 機械都市エルンテル

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37話 機械都市エルンテル

  


 赤い地面が広がり、その上に草の絨毯が広がる大地を山の上から4人の人物が眺めていた。

一人は身長が低く、深いローブをかぶっておりちらりと見える顔は男か女か分からない。

その横で相棒というかのように立っている人物は、全身を包帯で覆い隠しており腰に付けた鞄からゴソゴソと試験管を取り出しては確認して、準備をしている。


 そして、その二人がたっている場所には一本の巨木があった。

巨木の太い枝には、一冊の本を片手に持つ金髪の男と、目の下から首まで一筋の傷が入った美しい女が、腰を掛けて足を遊ばせていた。



「 長い道のりでしたね、南雲さん 」

「 そうだね、やっとここまで来たよ 」

「 だから、俺が何度も金翼を顕現させるって行ったじゃないスか 」

「 やっぱ、あんた馬鹿じゃないの? 金翼だしたら魔力ダダ漏れでばれるし、飛んだら飛んだで警備隊に見つかるじゃない! 」



 金髪の男、ケフィは軽い身のこなしで木から降り立つと、フードの男、浅久良の横に降り立った。

浅久良は頭二つ分高いケフィの顔を見ると、小さくため息をついて、「君ならエルメスを殺せるかなぁ」とぼやいた。


 そんなケフィは、笑って「無理っス」と言う。

あまりにも当然のことのように言うケフィの言葉を聞いて、がっくりとうなだれる浅久良を全身包帯は頭を撫でてよしよしと慰める。そして茶番劇のような光景に傷が入ってる女性のミーニスが、やれやれとため息をついていた。


 今浅久良たちが立っている場所は目的の場所であるエルンテルから150キロメートル離れた場所だった。なんと、浅久良たちは550キロを進むのに数か月かかっていたのである。


 朔たちが冬を超えて学園入学のために特訓をしている間、浅久良たちはひたすら山を越えて谷をおりのサバイバルでエルンテルに向かっていた。その間、浅久良たちは途中の村などでお金を使い果たして、わざわざ稼いでたり、野宿のために魔獣狩りをしていてかなり進路が遅れていた。



「 で、こっからどーするのよ、潜伏できるような山もないし、人ひとり歩いていないじゃない 」



 ミーニスは山の上から見える、赤土の広大な大地を見ながら吐き捨てる。

平坦な台地は視界を遮るものがほとんどなく、森や林があるわけでもないため、今までのように潜みながら進むことは不可能である。


 ミーニスはそのことを言っているのだが、浅久良は「考えてある」と言って一枚の地図を取り出した。



「 みてみなよ、エルンテルにはずれてて普通では通らない進路だけど、この山は山脈って状態でエルンテルまで僅か5キロまでつながっているんだ、だから、また遠回りにはなるけど、エルンテルのエルメス部隊に気づかれることなく一気に接近できるんだよ 」



 浅久良が地図を指さしながら説明すると、全身包帯とケフィは感心したような顔をするが、まだミーニスは思うところがあるようで不満げな顔をする。気づいた浅久良がどうしたのかと聞くと、再びミーニスが口を開いた。



「 そうは言っても、そんな弱点の山脈は警戒して警備してるでしょ 」

「 っは! この数か月僕がただびながら、ここまでやってきてたのかと思うのか? 」

「 そうは、言ってないけど」

「 事前に調べてきたよ、この山脈は高ランク冒険者でも命を落とすような、魔境認定されてる。 だからだろうけど、エルメス主体の警備隊も外からの警備してるだけで中までは見ないんだよ 」



 浅久良がそう言うと、ミーニスはうんざりした顔で大きなため息をついた。

その時、ずっと本を読んでいたケフィが顔を上げる。



「ん?そう言ってる内に来たみたいっスね」



 顔を上げたケフィが背後の山をみると、土砂崩れのように山肌が降りてきており、その中心で真っ黒い影がうごめいていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 浅久良達が魔境で的に襲われてる時、エルンテルでは初めての異国でテンションが上がっている朔達の一行がいた。


「 ふへへ、すごいね! ワクワクしちゃう 」

「 すご、私達がいた世界より発展してない? 」

「 どうだろうな、動力源は蒸気や魔力だし機械部分を見ると、産業革命ぐらいな気がする 」


 朔が冷静に分析する中、ルシアと命は周りの建造物に気を取られている。

そんな後ろ姿をシャルロッテは見守りながら、ほほえましそうに顔がほころんでいた。



(おっと、3人の姿を眺めてほっこりしている場合じゃなかったね。確かアルデリウス学園長が言ってたのは、口出しはほとんどせずに誘導だけしてあげなさいって、まぁ、この子たちなら大丈夫そうだなぁ)



「 さっ! 今日は遅いから、まずは泊れる場所でも探すよ 」

「「「 はーい 」」」



 エルンテルの住人は、あまり明るい様子ではなく、少しピリピリとしていた。

道行く人たちで声を出して笑いながら歩いている人などほとんどおらず、暗い表情をしている。

マルティネスのように、道行く旅人や住民に声をかけてモノを売るような商人はおらず、閉じられた扉の向こう側から作業音が聞こえる。新しい街に慣れてきた朔達もその様子に気づいたようで、少しだけ表情が暗くなっていた。


 その時、朔たちが歩いている僅か前方でざわざわと人が騒ぐ声がした。

そしてダボダボの服装で瘦せた男が人混みから飛び出してきて、朔の横を風を起こしながら通り過ぎて行った。男は厚手の茶色い皮の鞄を大事そうに抱えており、何かから必死に逃げているようだった。



「 おい!誰かそいつを捕まえろ!!捕まえた奴には金をやる!! 」



 人混みがぱっくりと割れたかと思うと、中から出てきたのはかなり太った男で、片手でお金を見せびらかしながら丸いおなかを揺らして偉そうに歩いてきた。


「 ルシア! 」


 朔が大きくはなくともはっきりとした声でルシアの名前をいうと、ルシアはその場から居なくなる。

そのことを確認した朔は、太った男に歩み寄った。シャルロッテは少し離れて観察しており、そのことに気づいた命がシャルロッテの横まで行って、朔から離れていた。



「 なんだね、君は 」

「 マルティネスから来た、フィリム・エヴァーローズです 」


 丸い男は朔が目の前に立つと、モノを見るような目で朔を見下ろした。

そして、目を合わせることなく冷酷にものを言う。


「 私は急いでるのだ、そこをどきたまえ 」

「 あの男ですか 」

「 そうだ、あの男は宝を持っているのだ、そして私の時間も宝だ、これ以上奪うというのならば貴様も打ち首となるぞ 」


 男はそういうと、興味無さそうに歩み始めた。

朔との距離が段々と近づいていくが、朔がどかないことで僅か人3人分程の間を開けて止まった。


「 道を開けぬか、あの男の仲間なのか 」

「 俺をよけていけばいい話ですよ、そして、あの男は俺の友人が捉えている頃でしょう 」

「 ならば、今すぐ連れてこい 」

「 もう、きてるよ 」


 急いでる男がイライラした様子で朔に命令するが、朔は物怖じすることなく言い返す。

そして、その時には朔の横にルシアが立っていた。


 ルシアは男を片手で抱き抱えており、手足が地面に付かない男は抵抗することもできず、必死に足をバタバタとするだけだった。それでも、茶色い鞄はしっかりと抱えており、落とす様子が見れなかった。


 丸い男はそんな瘦せた男をしかめっ面で見下ろすと、丸く出た腹を揺らしてため息をつく。

そうして、指をさしながら朔たちに命令した。



「 はぁ、もういい、先の無礼は許してやろう、その代わり今すぐその男の持っている鞄をわたせ 」



 すると、今までは黙ってもがいていただけの男が、必死に叫びだした。



「 嫌だ!! こ、これは、これは、ピタヤ様に必要なものなんだ!! 」



 ルシアにつかまれたままの男は鞄を握りしめて必死に叫ぶ。

その顔は必死で、絶対に守り抜くという決意がにじみ出ていた。


 朔と丸い男が対峙して話していたこととルシアにつかまれている男が大声を出し始めたことで、いつの間にか辺りにはギャラリーができている。そのことに気づいた丸い男は、チラチラとあたりを見回して更に朔をせかし始めた。



「 そ、その男は盗人だ! 貴様は犯罪者の戯言を信じるというのか! 金なら渡す、今すぐそいつの持っている鞄を我に渡すのだ! 」


「 この人は大切なものって、言ってるけど? 」



 朔の代わりにルシアが答えると男は丸い顔を真っ赤にして、「渡せ」と叫んだ。

丸い男はお金を見せびらかして周囲の協力を仰ごうとするが、周囲の人は何が正しいか分からず動くことができなかった。



 その時、再びギャラリーが騒がしくなって丸い男が出てきたときのように、観衆に人が通るだけの道ができた。朔がちらりと丸い男を見ると、激昂していた先ほどとは打って変わり、道の先にいる人物を恨めしそうに睨んでいた。



「 その男が持っている物は、私のだよ、それに文句があるのかい 」



 ギャラリーの道を開けてそのど真ん中を歩いてきたのは、一人の老婆だった。

腰が曲がって杖を突いているが、その眼は鋭く只者でない雰囲気がその場に広がった。




「 ピタヤ.....いや、ピタヤ様......これは何のご勝手ですか 」

「 ふん、たかが区長ごときが、関与できる事じゃないよ、引っ込んでな 」



 ピタヤという老婆は丸い男を一蹴すると、瘦せた男から鞄を受け取った。



「 やれやれ、心配だったから用事を終わらせて見に来てみたら、区長ごときに絡まれて旅人に助けてもらってるとはね、運がいいのか悪いのか、まったく 」



 ぞんざいに扱われ一蹴された男は顔をゆでだこのように真っ赤にして、ドスドスと足を踏み鳴らして帰っていった。最後に「ピタヤめ、後悔することになるぞ」と、ぼそりと言っていたが、観衆のざわめきに溶けてしまい、聞き取れた者は誰も居なかった。


 鞄の中身を確認したピタヤは、先程まで男と対峙していた朔を見ると口を開いた。



「 あんたら、私に用事があるんだろ、お礼もかねるから私についてくるんじゃな 」



 そういって、杖を突く足とは思えないくらいの速さで歩き始める。

朔は拍子をつかれてルシアと顔を見合わせると、離れてことの顛末を見ていたシャルロッテと命を手招きして、ピタヤの後を駆け足で追った。




シャルロッテ・フェリア


テオス・アナテマ学園の教員でフランクな態度や話の面白さに定評があり、狐人の美しい見た目と相まって生徒から絶大な人気を誇る。そんな彼女の担当は防衛術と魔獣知識であり、学園の教師としても強い実力があるため学長であるアルデリウスからの信頼も厚い。


今回、朔達の引率を引き受けたのは、クロエと同じ家に住んでいる子供たちがどんななのか気になっていたためである。

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