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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第二節 学院入学試験

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32話 異世界人への強襲

 一人の人間が潜んでいた。

ひびの入った狐の面をつけて、深くローブのフードを下ろしている。

奴は受験者ではなかった。


 第二試験の山の頂上で、受験者の動向を眺めている。

そのお面の奥の目は何かを探すように島中を見渡していた。


 ほぼ何も語られることなく始まったこのサバイバル。

その本質は受験者を一定人数までそぎ落とすことと、自身より強い敵と遭遇した時どう行動するかを図るものであった。


 島は各エリアに細かく分けられており、エリアごとにBランク上位の魔獣が配置されていた。

警戒心もなく、無計画で森に飛び込んだ受験者達は、縄張りを犯した侵入者として魔獣に一網打尽にされた。だが、朔たちのように慎重に後から入っていった者は、何とか生き残る事が出来ていた。


 だからだろうか、中心の山の頂上で受験者を品定めしながら狙い撃ちしていた狐面には誰も気付かなかった。


 狐面は山頂の木に登り、グルーっと何かを探すように頭を動かす。

そして、トルネードエイプのエリアを通り過ぎた時、何かを見つけたかのようにピタっと顔を止めた。



「見つけた。」



 狐面は顔を止めた方向に木を蹴って飛び込んだ。

空気が湾曲して、狐面は加速する。


 その面の先にはショートカットの日本人が居た。

横には大太刀を持った男が少し守るように歩いている。

狐面がさらに加速しようと魔力を込めた瞬間、大太刀を持った男が狐面の方を振り返った。





◇◇◇◇◇◇◇◇




 狐面が山の頂上に上る直前の事。

メーアは違和感を感じていた。

それはあまりにも受験者が減るのが早かったためである。


 だが、試験官とはいえメーアもただの一生徒。

メーアはそんなこともあるだろうと思い試験を続行していた。


 プラプラと海辺を歩いていると、メーアの前に一人の男が立ちふさがった。

狐のお面をしてローブを深くかぶってる。



「受験者、じゃないよね。この海辺であたしに勝てると思ってるの?」

「当たり前だ。」



 2人が短い言葉を掛け合うと、一匹の魚が水面で跳ねた。

狐面は一瞬その魚に思考を奪われる。

メーアはその瞬間を逃さなかった。


 僅かな間に狐面の周りを黒い水で覆いつくした。

ドーム状に狐面を囲む黒水の中では何が起こっているのかは分からない。

メーアは勝ちを確信していた。


だが、狐面を取り囲んでいた黒い水は内側からの衝撃によって四方に飛び散った。

メーアの魔力を失い黒い水は無色透明となる。

力の差は歴然だった。


 メーアがどれだけ物量で攻撃しても狐面は一切歩みを止めることをしない。

それもそのはず、狐面にはメーアの攻撃は届いていなかった。

狐面の僅か数ミリ手前で黒い水は霧散していく。


 狐面は腰を落とし構えをとると、掌底を真っ直ぐ突き出した。

空気が押し固められて衝撃が走る。

メーアの水の壁は散らされ、衝撃がメーアを襲った。


 メーアは目の前が真っ黒になり、膝から崩れ落ちる。

そして倒れたまま動かなくなった。


 狐面はそれを確認すると、追跡カメラを操作する魔導書をメーアの洋服から見つけ出し、その場を離れた。



 一方、異変を感じている者は観客側にもいた。

それはリヌイの友人であるドメストだった。

ドメストは映し出される映像を見ながらある違和感を覚えていた。


(映像は島に対して死角がないように見えているはずだ。だが山頂や所々見えない部分がある。何かがおかしい。)


 それは、テオス・アナテマ学園の教師だからこそ分かった違和感であった。



「さて、酒も飲んだし、もうそろそろ仕事をしねぇとな!!」

「ん? ドメストはここでさぼってたんじゃないの?」

「はっはっは! ちょっとは仕事をしねぇといけないからな!! じゃ、またな。」



 ドメストはリヌイとクロエに声を掛けて、島の様子を確認しに行くことにした。

人込みをかき分けながらなんとか外に出る。

島を見るとすぐに違和感を感じ取った。


 あまりにも島が静かだったのだ。

ドメストが海辺を歩いていると、意識を失って倒れているメーアを発見した。


「おい、メーア。だめだ。こりゃあ完全に失神してやがる。この調子だとほかの教師陣も伸びてるだろうな。」


 ドメストの予想は正しかった。

実際に狐面によりメーアを含めた教師陣は完全に無力化されていた。



「これは、、、どうなってんだか? 何が起こってんだ。」



 その時島の反対側から、白く輝く光が打ちあがった。

ドメストはその光を見ると口の端を大きく吊り上げた。




◇◇◇◇◇◇◇◇





 トルネードエイプとの戦いが終わって、スライム狩りに専念していた朔は、大技を連発して疲弊している命を庇いながら森を探索していた。島は思った以上に広いのか誰かと出会う様子もない。

たまに、爆発音や戦闘をした形跡が見られるが、朔たちがその場につく頃にはすべてが終わった後だった。


 そんな時だった、魔力感知を張めぐしていたシズテムが、莫大な魔力を感じ取って警告をした。



「(!?。。)島の中心からこちらに向かってSランク相当の物体が急接近しています。今すぐ避難した方がいいかと、。」



 朔が振り返って山を見ると、狐面がバサバサとローブを揺らしながら突っ込んできていた。

そこで朔は一瞬も迷うことなく命を突き飛ばした。


 その判断は最悪と最良を同時に掴む物だった。


 飛んで来た狐面は命がいた場所にローブから生えた手を押し付けるように着地した。

地面が衝撃で捲り上がり、砂ぼこりが舞い上がる。

狐面は自身が気取られたことに驚き朔の方を見るが、すぐに命に視線を移して地面を蹴った。



神霊憑体しんれいひょうたい、ミカエル!!」



 命は朔が作り出したわずかなスキを使って、防御特価のミカエルを憑依させた。

だが狐面の破壊力は朔と命の想像を上回った。


一蹴りで近づいた狐面は命の純白の翼を手のひらで掴むと、そのまま投げ飛ばした。

手の平からの衝撃で、ミカエルの翼は折れ曲がって一瞬で消え去る。

命は突き飛ばされ地面を跳ねて、木にぶつかって止まった。

失神してしまったようで、命は起き上がる気配を見せない。



「なんだ、異世界人もこんなものか。」



 狐面はつまらなさそうにぼそりと呟いた。

朔は足の強化に魔力を全部使うと、狐面の横を通り過ぎて命の下に向かおうとした。

だが、狐面は腕をスッと出して朔にぶつけようとしてくる。


 朔はあからさまな挑発に乗ることなく、冷静に躱して命の下に駆け付けた。


「大丈夫だ。」


 朔は手早い動きで命の腕を、魔力で保護する液体を振りかけて包帯でぐるぐる巻きにする。

狐面は無視されたことと、朔のその行動が気に入らなかった。



「......黒目黒髪、気味の悪い言葉。お前も異世界人だな。」



 朔はグッと狐面の顔を睨みつけると、すぐに逃げる態勢に入った。

そして、命を抱えて逃げようとするが、すぐに狐面が先回りして朔のゆく手を塞ぐ。

更には、朔に狙いをつけたように、一歩一歩、歩みを進めて近づいてきた。



(どうする、俺より強い命が一撃で意識を失った。勝てるわけがない。だからといって逃げれない。)



 朔はどうすることもできず、助けが来るまで話してみることにした。

相手を刺激しないように話題を選ぶ。



「なぜ、俺たちを狙う。」

「お前たちが異世界人だからだ。」

「ただ、俺達は普通に暮らしてるだけだ。」

「知らん、いま必要なのは一人だ。だから、品定めだ。」


 狐面男はグッと朔に近寄ると、母指球を押し当てて朔をぶっ飛ばす。

あからさまに手加減した攻撃に朔は何とか立ち上がる。



「(#。。)エネルギーを下げようとしたところ、抵抗されてほぼ下げれませんでした。格上です。」

「そんなことわかってるよ。」



 朔は一瞬で間合いを詰めてくる狐面に驚きつつも、狐面が攻撃してくる部分だけに魔力を集めることで何とか防いでいた。だが、エネルギアの防御はほぼ機能しておらず、朔は簡単に吹っ飛ばされる。


 だが、朔の目的は狐面の時間稼ぎ、そして狐面を命から引き剝がすことだった。

気づけば広がっている森は全壊しており、辺り一面は倒れた木々と株で埋め尽くされていた。


 朔は地面を転がされて泥だらけになっており、擦り傷だらけになっていた。

一方狐面は余裕そうに歩いており、感情の無い仮面で朔を見下ろしていた。



「なんか、攻撃する時が気持ち悪いな。意図的に力を失っていく感じがする。どっちがいいかな。正体不明の術式と、神の子。」



 狐面はそう言って朔を蹴り上げる。

朔は避ける気力も残っておらず、再び木に打ち付けられた。

打ち付けられた衝撃で木にひびが入り、ミシミシと音が鳴る。


 限界だった。


 そのことが相手にも伝わったのか、狐面は面白くなさそうに朔から目を離した。

そして狐面はヒョイと倒れている木を超えて、命の方へ向かい始めた。


 朔はふらつきながらもなんとか立ち上がる。

そして木を背もたれにして、口元まで手を上げ人差し指で真っ直ぐ空を指差した。


 指先には白い光が集まっていく。

朔が新たに編み出した術だった。


白群びゃくぐん


 朔はそう言うと白い光の玉を上空へと放り投げた。

光は高く打ちあがり空で弾ける。


「シズテム、エネルギア最大出力だ。」

「(✖ 。。)危険です。扱うエネルギーが大きすぎた場合負傷する可能性があります。」

「分かってる。」


 朔は白群が空で弾けたのを確認すると、シズテムにそう命令した。

自分の中でエネルギアが、シズテムの制御下から外れたことが理解できた。


 朔はぐっと拳を握り、腰を落として足に力を入れた。

既に狐面は、命に触れる一歩手前まできている。


「エネルギア、最大出力。」


 朔が地面を蹴ると、あらゆるエネルギーが莫大に膨れ上がった。

空気は膨張し、温度が上がる。

膨れ上がった空気が破裂音を繰り広げ、衝撃波が生まれ地面はめくれ上がった。









狐面の男


狐のお面をつけており、メーアを圧倒的するなど高い戦闘能力を持つ。

無駄に殺す事はしないことやまず手加減して相手の力量を見るなど、少々相手を侮って対応している。

シズテムの測定ではSランク相当の魔力を保持しており、それらを器用に操る技術も持っている。

テオス・アナテマ学園には異世界人として有名な神代命を探しに来ていた。

狐面が異世界人を求める理由はまだわかっていない。

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