2話 異世界と神代命
「そっか、そんなことがあったんだね。」
多少朔よりも落ち着いている命が、朔の話を聞いてなんだか納得したような顔をする。
朔はこんな異世界でも、元気で様子の変わらない命を見て、22年も抑えていた息を吐くことができたかのように感じていた。
「朔君は今からどうするの? 行く当てはある?」
「うーん。正直分からない。俺は命が生きてたならそれでいいんだ。」
「あはは、なにそれ(笑)だったらしたいことが出来るまで私たちの所においでよ。」
命は行くあての無い朔を、ひとまず自身がお世話になっている所に連れていくことにした。
少し鼻歌まじりに森の中を2人で進んでいく。
「ぶろぉふぉ!!」
すこし歩いていると鋭い角を持った牛のような見た目の猛獣が出てきた。
それを見た命が朔に倒してみろという。
朔は急なチュートリアル的展開に驚きつつも命から受け取ったナイフを構える。
「ランクFのライトホーンだね、ある程度修練を積んだ成人男性くらいなら武器があれば勝てるよ、この牛の角は昼間日光を吸収して夜は明るく光るんだよ、だからよく装飾品とか家の灯なんかに使われるんだよね。さらに肉も美味しい。まぁ危なかったら助けるから〜。」
朔が突っ込んでくる牛にこれぞと応戦してる中、命が気楽に説明する。
朔は早く助けろと心の中で思いながらふとシズテムの存在と自分の中にスキルが存在することを思い出した。
「シズテム。こっちの世界に来た時俺が落ちた時にダメージがなかったのはなんでだ?
あと、エネルギーの定義ってなんだ?」
「(””。。)えーはい。ダメージがなかったのはスキル「エネルギア」の効果で、主人が地面に衝突する際のエネルギーを0にしました。また、エネルギーとは自分自身を含めたほかの物体に影響を与えれる力を指します。」
「なんだそういう事か」朔はそう呟いて命からもらったナイフを右手に握り直し、牛に相対して投げる構えを取る。興奮した牛は朔に突っ込んでいく。
そして、朔はそのままナイフを投擲した。ただのナイフはの手から離れた瞬間、不可解に加速する。
加速したナイフは空中で微動だにせず一瞬の間に牛の脳天に突き刺ささり、勢いで牛はすこし後ろに横になって倒れた。
「ナイフの加速エネルギーを大きくしてみたけど、うまくいったな。」
「うそでしょ........」
命は思わず言葉が漏れる、だがすぐに牛に駆け寄りナイフを抜いた、牛の額からは血が滴り落ちる。命は腰に掛けていた小さいポーチからポーチに入るとは思えない大きな袋を取り出した。
そして牛を持ちげて、さっと袋の中に詰め込んでしまった。その袋の口を閉じると牛が入ったはずの袋は手に収まるサイズまでみるみるうちに小さくなっていった。
朔はその様子を見ながら、初めて見る現象に気をひかれつつも、スキルを使うという違和感と本当にこれは現実で、前の世界の常識が通用しない他の世界なんだということを実感していた。
朔は命に連れられながら魔境と呼ばれる森を抜けていく。すると、二人が再開した時に命が倒していた巨大なサソリが再び道を遮った。
「せっかくだしちょっと本気を見せたげる。」
そういった命は殴りの構えを取る。
巨大サソリのハサミと尾節を掠るぎりぎりで避けると、一瞬のうちにサソリの顔面に小さな拳を叩き込んだ。その小さな拳に反してサソリの顔面の外殻はクレーターのように大きくめり込む。そしてサソリの体は後ろへと大きく後退し木へとぶつかった。よく見てみるとサソリの体の外殻は大きくひび割れている。
「本当だったら外殻は固いから、あとから素材として加工するために柔らかい節を狙って攻撃するのがセオリーなんだけどね笑まぁ何かの材料にはなるかな....」
そういってまたポーチから袋を取り出し、サソリを回収した。
朔はその光景を見て唖然とした、サソリの外殻どう見てもハンマーで砕こうとも砕けなさそうな厚さであり、その外殻に命は手袋を付けただけの拳でクレーターをあけた挙句ほかの部分まで破壊したのだ。
「どういうことだよ、何を食ったらそこまでの力が出せるんだよ?」
「別に変なものは食べてないよ!! ん-まぁ私の場合はスキルと魔法による肉体強化かな。私のスキルは神を降ろすんだよね、私の家ってさ神社だったじゃん? それでめーちゃ色んな神様とかの名前覚えさせられててさ、その神様たちの力を使いたいなーって思うときに使うことができるんだよ。」
命は朔の質問にぺらぺらと答えていく、そうして朔の練習と命の素材狩りを並行しながら魔境を抜けていった。魔境を抜けると辺りは一面の草原で少し曲がった道が長く続いており一本続いている。
そしてその先には壁が続いており、城塞都市が見えていた。
30分ほど歩いた朔は命に連れ得られて城塞都市の中にある一番近い街へと来ていた。
「ここは、様々な街の中でも冒険者と呼ばれる職業の人たちが多く集まる場所なんだよ。
冒険者ってのは、一般人が狩ることのできない化け物を狩ったり自国の戦争に自ら参加したりって、危険な事が主な仕事の人のことをいうんだよ。あとすることが事だから意外と誰でもなれるし、給料というかお金もそこそこ稼げるからなる人が多いんだよ。まぁ何があっても自己責任だけどね。」
街は朔にとって見慣れないもので溢れていた。
身長が3メートル近くある褐色肌の女性や逆に100センチほどしかないように見える尻尾と耳のついた男子が歩いていたり、街を見回すと外に商品であろう剣や盾が飾られていたり、よくわからない液体が入った瓶や、規格外の大きさの肉が切り分けられていた。
街の中心に行くほど道を歩く人の人数が多くなっていって、朔は横を歩いている命を見失いそうになる。すると突然、命が朔の腕をつかんだ。
「人多いから上から行くよ」
そういった命は、朔の腕を引っ張り上げて飛んだ。
そう、飛んだ。
いつのまにか朔は命にお姫様抱っこされる形で抱えられており、命は屋根を飛び石のように踏んで家の間を飛び越えていく。意外にも下の人は気づいておらず、だれにも気づかれることはなさそうだった。
そうして、1分ほど飛んでいくと目の前に大きな西洋風のお屋敷が見えてきた。
「あそこが私がお世話になっている、マルティネス家だよ。」
そう言った命は大きく跳躍して、近くの家からマルティネス家の門を飛び越えて家の玄関に続く道に着地した。すると玄関から、命が帰ってくるのが分かっていたように執事服を着た高身長イケメンが出てきた。黒髪で猫耳と尻尾が生えている、そして命は朔を残したままイケメンのもとへ駆け寄った。
何か話し合ったらしく、すぐ二人そろって朔の元に戻ってきた。
朔がイケメンに会釈すると、イケメンは無駄のない所作でスッとお辞儀をした。
「はじめまして、クロエ・フローレスと申します。このマルティネス家の専属執事をさせていただいてます。今日から朔様の身の回りも担当させていただくこととなったので、よろしくお願いします。」
朔も同じように挨拶をする、その様子を見届けた命は朔を家の中に連れ込んだ。
家の中は見た目よりも広く感じる作りになっているようで広々としていた、また各部屋につながるであろう広い階段が2階に続いていた。
2年前、命はこの家の庭に転移したそうだ。その時、命は意識がなくボロボロでほぼ瀕死の状態だったらしい。朔は命と同じ時間に戻ろうとしたため肉体の時間が巻き戻ったが、命は戻ることがなかった。
そして、庭に落ちた命を助けたのは今のこの街の領主であり、この家の主であった。
領主はこの家に迎えて、手当してくれただけでなく、衣食やこの世界での生き抜き方も与えてくれたのだった。そして、今、命はこの家の居候になっていた。
その後居候となった命は食材を買ってきたり、適当にのんびりしたりとゆっくりしていた。
「あれーお客さん?? こんにちわー」
部屋を準備するからと待合室に通された朔が命とソファーに座って過ごしていると。
真っ赤な髪の毛をした背の低い少年が扉を開けて入ってきた。
少年はすぐに何かに気づいたようで、目を細くする。
朔が何事かと心配していると、少年は自己紹介をすることもなく、唐突に
「君転移者だよね?」といった。
的を射ている発言に、朔が何といえばいいか分からずに固まっていると、命が口を開いた。
「リヌ様、彼が前話した私の幼馴染だよ。」
リヌ様と呼ばれた少年はある程度二人の関係性を知っていたようで、
「あーそゆことね」と納得しているようだった。