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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第二節 学院入学試験

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28話 集う人々

 テオス・アナテマ学園の入学試験が始まった。

明日から始まる受験に向けて学園のあるアクアウルプスには数多くの船が来航している。

さらに空からの訪問者もおり人々で溢れかえっていた。

アクアウルプスではお祭りのように出店が並び、街全体が普段とは様変わりした様子をみせている。


 テオス・アナテマ学園の入学試験とはそれだけ多くの人が来る一大イベントなのだ。


 溢れている人々を見ると有名な冒険者や歴戦の英雄など名を連ねる者も歩いており、受験者はその姿を見て自身が弟子になるのだと淡い期待を膨らませていた。


 そんな中、著名人ですら霞んでしまうほどの一向がアクアウルプスに足を踏み入れた。

常に周りを警戒しているような強い冒険者はアクアウルプスに踏み入った圧倒的な強者の存在に気づいて冷や汗をかいていた。


  そんなことはつゆ知らず、お祭り騒ぎのアクアウルプスに降り立ったリヌイは外に出ている出店を見てどこから食べようかと考えを巡らせて、その目をキラキラとさせていた。


 リヌイに続いてクロエが船から降りてくる。

クロエも初めてのアクアウルプスの入学試験のお祭りを見てワクワクしているが、リヌイに悟られては面倒なので真顔でリヌイを捕まえていた。だが、隠そうにもクロエの耳はピンっと天に向けられ周りの音をよく聞こうとぴょこぴょこと動いていた。


 そして最後に今回の主役である受験者の朔・命・ルシアの3人が船から降りた。

朔は気分が悪るそうにぐったりしており、命は船酔いした朔を心配そうにさすっている。

それに反してルシアはリヌイと同じように出店をみて楽しそうにキョロキョロと辺りを見回していた。


「この前侵入者騒ぎがあったって聞きましたけど、大丈夫そうですね。」

「ね。てかクロエ早く出店見に行こうよ!!」

「駄目ですりぬ様。今回は3人の受験ですよ、出店は後でです。」

「な、、、?!クロエも食べたいくせに、、、」

「う、痛いとこをつかないでください。でもダメなものはダメです。」

「うーまぁ、仕方ないか。」


クロエとリヌイが楽しそうに話す中、命とルシアは最後の確認とばかりに朔に質問攻めしていた。


「ねー。魔法の発動条件ってなんだっけ。」

「それは、魔力と器って答えとけばいいよ命。」

「あのさ、朔君。スキル現象と魔法現象の違いって結局なにが違うの?!」

「ルシア、、、、それは、スキルで魔力を扱うときは魔法陣とかは必要ないけど魔法だと陣とか杖とかがいるんだよ。」

「へぇ....そうだったんだ」

「基本だよ?!」


 そうやって話しながら歩いていると、朔はふと違和感を覚えた。

人混みを歩いているにしては余りにもするすると歩けているのだ。


 普通ならばここまで人が多いと歩きにくく滞ってしまうものだ。

が、リヌイを先頭として歩いているマルティネス家の一派は目的地まで滞ることなく歩けている。

気になった朔が前を見て見ると、モーゼが海を割ったように人混みがかき分けられていく。


 その時、一人の大柄の男が前から歩いてきた。

大男は腕を守るような金属の筒で手首から肘まで通しているが、パンパンに膨らんだ胸筋は薄いシャツを窮屈そうに張り伸ばしていた。そして額には太くて小さい双角が生えていた。


「よぉ、リヌイ。そこのガキどもはお前さんの子供か??」


 大男は手の埃を落とすように手を叩くとリヌイに話しかけた。

強面だが冗談っぽく言う様子からリヌイと親しい間柄なのだろうと見ていた者に感じさせた。


「あ、ドメストだ。久しぶり!この子たちは子供じゃなくて俺の弟子なんですよぉ」

「おおーそうか、弟子か!それなら入学試験に出るんだな?それは楽しみだ期待して見るとしよう。」


 大男はそれだけいうと、そのまま朔たちが来た道をかき分けて進んでいった。

リヌイとクロエの2人が手を振って見送るのを他の3人が不思議そうに眺めていると、クロエが「あの人は昔の戦争でりぬ様と共に戦った英雄の一人です。」と教えてくれた。


 リヌイに話しかけた人がいた影響か、ほかの勇気ある者がちらほらと話しかけにくる。

その人たち全てに対応すると面倒なことになるため、クロエは屋台につられるリヌイを引きはがして予約した宿まで急ぐことにした。



「ここが今回泊まるホテルですよ。」

「「マルティネス家の皆様、お待ちしておりました。!!」」

「「「「おおーーーー°˖✧」」」」


 クロエが予約していたホテルは警備や設備が充実している一等ホテルだった。

流石一等というべきであろうか、エントランスは広く、輝くような大理石が床を豪華に見せている。柱にも大理石が使われており、さらにその柱には石造細工が彫られてて腕の良い職人が建造を手掛けたことが分かる。



 しかも、エントランスではスタッフが並んで待っており朔たちが入ると綺麗なお辞儀と挨拶で出迎えた。

並んでいるスタッフ中でもランクが高そうなお爺さんが一歩前に出て深くお辞儀をする。




「マルティネス家の皆様、はじめまして。

本日は、私どもメガロイオニア・アクアウルプスにご宿泊いただき、誠にありがとうございます。

入学試験終了までの数日間ではございますが、世界一のサービスを心掛け、皆様のご滞在をお手伝いさせていただきます。何かご要望がございましたら、お近くのスタッフまでお気軽にお申し付けください。お名前と部屋番号をお伝えいただければ幸いです。それでは、ごゆっくりお過ごしくださいませ。」


 お爺さんはしがれた声で丁寧な挨拶をすると、一人一人にルームキーを差し出した。

ルームキーは魔力を流すことで特殊な鍵の形が出現する仕組みだった。

試しに朔が魔力を流してみると半透明の結晶が析出して、複雑な鍵の形となった。


 面白がったルシアが鍵を出したり閉まったりしている。その間にクロエが全員の荷物をスタッフに預けてしまった。荷物は後からスタッフが各々の部屋に運んでくれるようで、最低限の荷物を持った一同はアクアウルプスで各々自由行動をとることにした。


 因みにリヌイはクロエが自由行動と言い出す前に既にホテルを飛び出してしまっていた。

クロエは学園の教師に知り合いがいるらしく、会いに行くと言った。


 見知らぬ土地で取り残された受験者の3人は、取り敢えず出店を見て回ることにした。

ノリノリで外に向かう命とルシアに、朔が「受験勉、、、、」と言った瞬間ルシアが術式の「加速と加重ニュートラシオン」まで発動させて一瞬で朔の口を塞いだ。



「もーむり。あそぶ。前日はべんきょーなし!」



 ルシアは前日までの途方もない数の課題を思い出してげっそりとした表情を浮かべたが、目の前に広がる色とりどりの垂れ幕とそこから出る匂い、そして人々の楽しそうな声にモフモフの耳をぴょこぴょこと動かす。しかもスカートから見えている太ももに括られた尻尾はぶぉんぼぉんと音が聞こえるほど動いていた。


 3人は肩がぶつかるほどの人込みをかき分けながら、がやがやと夏の祭りのような試験祭を見て回った。

異世界にも出店で遊ぶ文化があるようで、歩き回っていれば木のボールを魔力で打ち出す遊びがあったり、指で弾いた輪っかで的を壊す遊びなどが並んでいる。


 朔はそんな出店の遊びを本気で攻略して回る2人の後ろを、ついでに買った食べ物を持たされながらついて回っていた。だが彼は微塵も不満を感じてはいなかった。

ただ、命が友人と仲良く遊んでいる姿を見れるだけでも十分幸せなのだ。


 空が高く広がり太陽がその身を傾け始めたころ、友人に会ってきたクロエが戻ってきた。

クロエの頬には一筋の傷がある。執事服の端も少し切れてぼろぼろになっており激しい戦いがあったことが3人には感じられた。


「あれ、クロエどうしたの?珍しいね。」

「あぁ、これですか。」


 ルシアが質問すると、クロエは今まで気にしていなかったかのように頬の傷をすっとなでる。

顔にも傷がつけられ執事服もボロボロなのに、傷を撫でるクロエはどこか楽しそうだった。


 3人が不思議そうにクロエを見つめると、クロエはその雰囲気を察してか3人に話をしてくれた。

リヌイが特Sランクとなった昔の大戦の話だった。


「皆さんも知っていると思いますが、つい数年前までは世界のどこでも戦争が起こっていました。りぬ様も戦争に身を投じて戦いました。私が今会いに行ってきたのは戦った敵兵の一人です。王族を守る近衛兵の一人で私は彼をりぬ様の元に行かせないために立ちはだかりました。結局、彼女との闘いは勝敗がつくことなく、その時の戦争はりぬ様が終結させました。それでその彼がいま学園で教鞭を取っていると聞いて会いに行ってみたら、戦闘になっちゃいました。」


クロエは傷が腫れて少しかゆいのか、頬の傷をポリポリと搔きながら照れくさそうに笑った。


「あ、そうだ。なら私、薬屋さんにクロエと傷薬買いに行ってくるから、朔君と命ちゃんで遊んでて!」


 ルシアは突然思いついたようにクロエの腕をつかんで人ごみの奥へと消えていく。

あっという間に祭りのど真ん中に取り残された朔と命はあっけにとられてその場に立ち止まった。


 流れる人の流れは、朔たちを囲んで壁のようになっていく。

二人は無言のまま数秒立ち止まったあと、お互いの顔を見合わせて祭りの人込みを抜けることにした。

わずかに歩いて出店の裏を通り階段を上ると、祭りの様子が良く見渡せる崖のような場所を二人は見つけた。


 命が「わぁ綺麗ー」と言って崖に取り付けられている手すりから僅かに身を乗り出して、祭りの色とりどりの灯りを眺める。下からのざわざわとした人々の楽しむ音がこの場の静寂をより引き立たせていた。


 朔はそんな命の後ろ姿を見ながら、綺麗な包装紙で包まれた髪飾りを肩にかけているバックから取り出した。それは、朔がDランクの昇格任務が終わったときにデルデアの鍛冶屋でプレゼントとして購入したものだった。


「命、これ、お守り。」


 朔はどういって渡そうかと悩んだ挙句、口から出たのは短い三つの言葉だけだった。

横に並んで急に渡された命は、驚いたように包み紙受け取る。朔の手はちょっと軽くなり命は僅かな金属の重さを確かめた。


「開けてみるね。」


 命は朔に聞くと、包んでる包装紙ののりを手の平の上で慎重にはがした。

一枚一枚をはがす時間が永遠に感じる中、包装紙が全部はがされると透き通る銀色の髪留めがその姿を現した。


 髪留めは真横から浴びる橙明色の光を屈折させ、トパーズのようにキラキラと光を反射させた。


「すごく綺麗だね。ありがと。」


 命は包装紙を折りたたむと、胸のポケットにしまって胸元で髪飾りをぎゅっと握りしめる。

そして、サラサラのショートカットの前髪を止めるように髪飾りを付けて朔に「どう?」と少し恥ずかしそうに笑いかけた。少し恥ずかしくて目線を下げていた朔が顔を上げて命の顔を見ると命は不思議そうににっこりと笑う。


「ちょーかわいい..........」


 朔は無意識のうちにそう呟いていた。

命にもその言葉がはっきりと聞こえたのか、一瞬硬直したのち目を大きく見開いて「あ、りがと.....」といって言葉を詰まらせた。そしてすぐに朔の目からすっと顔をそむけてしまった。


「あ、あそこ!りぬ様いるよ!おーーい、りぬ様ーーーー」


 命は恥ずかしいのを隠すように大きな声でリヌイの名前を呼んで大きく手を振る。

そういう彼女の横顔は夕陽に照らされて赤く染まっていた。






デルデアの髪飾り


16話で12テスラ(日本円で1万2千円)で朔が買ったデルデア制作の髪飾り。

実は12テスラではなく120テスラのところを、デルデアが気を利かせて0を1つ消していた。

朔はかなり命に渡すタイミングを見計らっており、だらだらしているといつの間にか試験前日だった。

ちなみに耳も鼻も感ものいいルシアはそのことに気が付いており、二人の時間を作ってあげていた。

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