27話 水と氷
始まる激戦。
生徒最強の2人 対 侵入者。
侵入者は2人の攻撃を爆発でいなしていく。
メーアが超加重した黒水で侵入者の行動を制限して、アリスタが地面からとげのように氷の柱を生やす。
だが、侵入者は生えてくる氷の柱を一目見ると素手でつかみ麩菓子のように粉々にした。
「冷たいっスね。」
「え、なんで!?」
アリスタは驚き思わず声が出てしまう。
侵入者の男は面倒くさそうに冷えてしまった手を空ぶりし冷たさをどこかに追いやろうとした。
だがその間にメーアが魔力で巨大な魔法陣を組み上げていた。
メーアの目の前には巨大な水色の魔力が陣を成し決壊する川のごとく魔力があふれ出ていた。
「アリスタ!!凍らせて!!」
メーアがアリスタに叫ぶと、魔法が放たれた。
光を弾くような黒色に透き通る液体がメーアの巨大な魔法陣から放たれる。
その勢いはダムの水を一気に放流したようで圧倒的な物量で飲み込もうと侵入者に向かい流れた。
その魔法に気づいたアリスタは自身の体を氷で押し出し水の全流に触れる。
メーアの黒い水はアリスタが触れることで透明の氷に変化する。
凍ったそばからメーアの魔法によって押し出され、透明の龍のように侵入者に衝突した。
「禁術・錬爆」
侵入者の男は片手に本を持ちながらもう片方の手で透明な龍を受け止めた。
その瞬間、透明な龍はねっとりとした爆発に包まれて元の黒い液体となる。
爆発は黒い水を弾き飛ばし、一切侵入者の男に危害を加える事を許さなかった。
侵入者は油断していた。
メーアとアリスタの龍が男の爆発と押し合いをしている間、アリスタはこっそりと地面に氷の根を張り巡らせていた。止まらない小さな爆発が透明な龍を全部飲みこもうとした瞬間、侵入者の男の足元から無数の根が飛び出して男の足にまとわりつく。
男は足元を爆発させて何とか逃れるが操っていた錬爆が途切れて氷の龍に飲み込まれた。男がいた場所には氷が山となって積もった。既に辺りは水浸しになっており木々が濡れ、水たまりができている。
「あ゛ーこの技ダメっスね。使ってると動けないっス。てか冷た、、、、。」
氷の龍に飲み込まれた男は何ともないように氷の山を溶かし出てきた。
ローブがはだけて顔があらわになる。
金髪の髪をしており先端が赤くなっている。
男はめんどくさそうにぺらぺらと本をめくりながら、小さい爆発を起こして冷えてしまった自身の肉体を温めていった。
それは、先日リヌイとクロエが戦ったケフィ・アフタルシアだった。
ケフィはリヌイと戦ったその足で、このテオス・アナテマ学園まで飛んで来ていたのだ。
「目的は何ですか、、、、、」
「うーわ。その質問前も聞いたっすよ。まぁ何でも抑えれる物の回収っスよ。」
「まさか?!」
アリスタにはケフィが回収したいであろう物の目星が付いていた。
それは学園の隠し部屋にある封印用の魔道具である。
「メーア!!」
「うん!!」
アリスタが叫ぶと、既にメーアは飛び出していた。
行かせまいとするケフィの前にアリスタは氷を出しながら立ちふさがった。
ケフィは小さく舌打ちをして、上空に爆発を発生させる。
すると、学園の方から発煙筒が発射させて赤い光を放った。
アリスタは地面に手をつき莫大な魔力を流し込む。
するとアリスタの後ろから氷の芽がでて急速に成長していった、
「落葉樹氷・オオクス!!」
一瞬にして巨大な氷の楠木が生えて氷の木の葉が舞い始めた。
氷の葉に触れたところは凍り付き霜が降りる。
だが、ケフィの下に落ちた葉は熱した金属に水滴を落としたような音をさせて蒸発した。
ケフィが神剣を扱うことは無く、自身の爆発だけでアリスタをいなしていく。
アリスタを爆発させるために全方向に魔法陣を展開させて魔力を流す。
だが、アリスタは既にその場にはいなかった。
離れていたケフィの目の前に突然移動して、ケフィを殴り飛ばす。
アリスタの放った拳は見事ケフィの顔面をとらえて、ケフィの身体は後方へと飛ばされた。
さらに剣山のような氷のとげがケフィの先にあり、ケフィは突き刺さった。
「あー思ったより強いっスね。さすが学園最強っス。でも、甘い。」
ケフィは剣山のとげを掴み抜け出すと、体に風穴が空いたまま立ち上がった。
何とも無いように立つケフィを見てアリスタは驚愕の表情を浮かべる。
ケフィが自身の風穴を気にせずに手の平を叩くとアリスタがいる場所で爆発が起こった。
だが、その爆発にアリスタが巻き込まれる事は無い。
ケフィは爆発が当たらないアリスタに段々とイライラが募っていった。
「なぁ、あんたAランクっスよね!!俺はただ足止めしてるだけっスけど、Aランクの実力じゃないっスよ。」
短距離の瞬間移動を続けるアリスタはすきを見て、樹氷の根を鋭くとがらせてケフィを刺し殺そうと画策する。だが、ケフィのどこに刺さろうともケフィは止まることを知らなかった。
時間がたつにつれて息が上がるアリスタに対して、面倒くさそうにケフィは爆発を発生させ続ける。
いつの間にかアリスタが出現させた氷のオオクスは樹齢数百年の大きさまで大きくなっていた。
(このガキが造ったでかい木、何のために出したんっスかね。何回か爆発をぶつけてるけど倒れる様子もないっス。ずっと氷の木の葉が舞ってるのも面倒くさいっス、てかあの瞬間移動はどういう理屈っスかね。)
ケフィはまずアリスタの瞬間移動の仕組みを考えることにした。
アリスタがいる場所を爆発させると、アリスタは姿を消してカウンターを狙ってくる。
ケフィはアリスタが逃げれないように、自身の周りから一気に爆発させることにした。
爆発で自身の身体が巻き込まれるが気にせずに爆破させ続ける。
氷の木の葉が上空へと舞い上がり、自生していた木々が倒れていく。
やはりアリスタは爆発に巻きこまれないように瞬間移動をしていた。
瞬間移動先は上空だった。
「樹氷!!!!」
上空に移動したアリスタは慌てた顔で地面から樹氷を生やして自身の身体を何とか受け止める。
ケフィはその様子を見て、アリスタの瞬間移動の仕組みを理解していた。
ケフィは威力の無い細かい爆発を自身の周りで起こし続けた。
爆風が生まれ、木の葉が遠くに飛んでいく。
そう、アリスタの瞬間移動はオオクスの葉と場所を入れ替える仕組みだった。
完全に仕組みを理解したケフィには、アリスタは手も足も出なかった。
そしてアリスタが気付いた時にはケフィに金色の片翼が出現していた。
長期戦の上に爆発の余波で満身創痍のアリスタに比べて、ケフィの顔は生き生きとしていた。
ケフィの爆発は更に威力が増してオオクスにひびが入り始める。
落ち続ける木の葉もケフィの爆発で溶かされ、オオクスから供給される魔力も減ってきてしまっていた。
アリスタは必死に戦う中で、勝てるわけがないと悟っていた。
自身の仕事は倒れないことでメーアの下にこの男を行かせないことだと考えて、必死に意識を保っていた。
その時、結界を張ったはずの校舎の方から発煙筒が上がってまぶしいほどの光が二人を照らした。
ケフィの仲間が道具を回収した合図だった。
ケフィは口角を上げて生えた片翼を大きく羽ばたかせた。
今までとは比べ物にならないほど大きな爆発が起きて、アリスタのオオクスも今まで生やし続けた樹氷も全てが一瞬になって溶けて粉々に散っていった。
ケフィは新地となったのを見ると、やっと顕現したもう片翼をはばたかせて上空へと飛び立った。
校舎に向かったケフィはありえないものを目にした。それは、巨大な黒い水のゴーレムが暴れまわっている様子だった。
「ねえぇ!!これは何っスか!!ミーニス!!」
ケフィは一人の女の下に降り立った。そのミーニスと呼ばれた女は髪が腰まであり綺麗な顔をしているが目の下から首まで一筋の傷が入っていた。
「あの女の子をさ、雷鳴で気絶させたら急にあの巨大なゴーレム出てきて暴れ始めやがったの」
「はぁ....?ダルイっすね。まぁ回収できたならアルデリの爺さんが戻る前に立ち去るっスよ。」
ケフィはミーニスを片手で抱きかかえると、学園から飛び去った。
ゴーレムが段々と小さくなっていくのを見ながら、ケフィはため息をついていた。
「てか、何でこの俺がアリスタ君の足止めをしないといけなかったんスか、、、、あいつなかなかだるかったスよ。」
「だからに決まってるでしょ、生徒の中でもアリスタとメーアの二人は別格。貴方じゃないと抑えれないわよ。」
「そうっスけど.....だるかったっス。禁術も全然使えなかったっスし。」
ケフィは更に飛ぶ速度を上げる。その先はエルンテルだった。
ケフィが飛び去った後の学園は混乱に包まれていた。アリスタが張った結界によって外に被害も影響も出ていないが、学園に残っていた生徒などは状態を察していた。
次第に先生方が戻ってきて、さら地で倒れているアリスタと校舎の屋上で意識を失っているメーアを医務室に運んだ。
2人にはあまり外傷が無く意識を刈り取られていたことから、かなり手加減されていたことが分かる。
先生達は状況の把握と済ましたあと、会議が開かれ保護者会が行われ説明が行われた。
このように襲撃があったのは開校史上初めてのことで、入学試験の延期も示唆されたが結局のところ予定通り実施されることとなった。
「ねぇ、アリスタ。あの爆発男強かったね。」
「えぇ、落葉樹氷・オオクスでも止められませんでした。」
医務室で並んで寝てたメーアがアリスタに話しかける。
メーアは悔しそうにバリバリと小麦でできたお菓子を咀嚼する。
その音だけを聞いていたアリスタは何も言わずにベッドのシーツをバレない様に掴んでいた。
敗戦で屈辱感だけが引っ掛かりとして残る中、奪われたものは大きかった。
被害は校舎外れの庭の被害と盗まれた宝具、そして2人の怪我だけで終わった。
アルデリウスはこの事を深刻に受け止め、侵入者が入らないようにさらなる強化をする事を発表した。
この事件はすぐにアナスタシアの下にも伝わって、アナスタシアギルドではリヌイの件も合わせてケフィを浅久良と共に重要手配人として賞金首として依頼を出した。
そんな中始まる入学試験。
世界中から志願者が集まり入学を決める試験。
それは、この事件もあってより厳しくなるとのことだった。その代り合格できれば全員が入学を認められる。しかも入学試験は見学可能であり有名な人物なども見に来るので、自分自身を売り込む第一歩にもなる。
こうして、後に史上最大規模と呼ばれるテオス・アナテマ学園の入学試験が始まった。
教えてシズテム!!~なんでテオス・アナテマ学園の入学試験では人が集まるの?~
(!・・)/ はい!テオス・アナテマ学園の入学試験では自由観戦が可能になっております。その理由は入学試験から目星を付け弟子に取る冒険者や、ギルド勧誘、衛兵などの勧誘があるためです。元々はその様なことは実施されていませんでしたが強い生徒を作るという理念の下、実施されることとなったようです。また人が集まる理由としては育成機関としてはテオス・アナテマ学園が歴史も長く信頼性が高いので数多くの人が集まることとなったようです。




