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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第二節 学院入学試験

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24話 寝起きのリヌ様

 朝一番に起きるクロエは朔と命の部屋にあいさつしに行った。

二人の部屋をノックすると返事があり、もうすぐ食堂へ降りてくることが窺われた。

そして、クロエは最後にリヌイの部屋まで向かうと、ドアをノックした。


 朔と命の部屋からは返事があったので確認して入ったが、案の定リヌイの部屋からは返事がない。

クロエがドアノブを回してリヌイの部屋を開ける。


 金具がすれる音がして、少しきしんだ音がする。

クロエはちらりと金具を見ると、リヌイの元までいつものように歩いていった。



「りぬ様ー起きてください。あさですよ。」

「うぅーあと5ふん......」



 毛布を抱きしめて寝ていたリヌイはクロエから声をかけられると、ごろりと寝返りをして毛布を抱きしめたままクロエへと背を向ける。


 こんな姿を見るととても愛らしく、現冒険者の中でも最強の一人であるとはどうしても思えない。

だが、クロエは呆れた顔でリヌイが抱きしめている毛布を奪い取ってしまった。



「うぁぁー俺のもうふー」



 毛布を奪い取ったクロエがカーテンを開けると、リヌイの寝ぼけ眼が日の光によって明るく照らされる。

急に入ってきた光にリヌイはまぶしそうにして目を細めると、顔をごしごしとこすった。


(あーあーそんなにこすったら肌荒れするのに......)


 クロエはリヌイの肌を心配する。だが、どれだけ強くなっても朝に弱く何回も注意しても起きたら顔をこすってしまうリヌイをかわいく感じていた。


「それでは朝ご飯には着替えて出てきてくださいね。」


 まだ寝間着で夢現ゆめうつつのリヌイに着替えを押しつけたクロエは部屋を出ていく、再び金属が鳴ってドアが軽い音立てて閉じられた。


 リヌイは持たされた着替えを両腕で抱えたまま閉じたドアを見つめる。

数秒経った後やっと頭が覚めてきたリヌイは一旦着替えを机の上に置くと、自身の寝間着の前ボタンを外す。そして寝間着を適当にベッドの上に放り投げると、着換えを着てその部屋を後にした。


 食堂についたリヌイは小さくあくびをしながら自分の席に座る。

そして、目を半分閉じたまま「いただきます」と言うと、温かいコーンスープに乾いたパンと浸して口に入れ咀嚼し始めた。


 ご飯を食べたことにより目が覚めたリヌイは食卓についてるみんなを見て違和感を感じた。


「あれ?朔ちゃんは?」

「朔君なら試したいことがあるって言ってもうご飯食べて出ていったよ。」


 命がリヌイの言葉の質問に答えると、リヌイはしょんぼりと尻尾と耳を下げた。

この時リヌイは朔に冒険者ギルドに行くのに付き合ってもらおうかと考えていたのだ。

残念がってるリヌイにクロエが「だから早く起きてくださいって言ったんですよ。」と言ってさらに追い打ちをかける。


 その言葉がかなり効いたのか、リヌイはご飯を終えて任務の支度を済ませても機嫌は直っておらず、マルティネス邸を出るときの声も弱々しかった。


 リヌイが家を出たころ、ギルドマスターのアナスタシアはギルトでリヌイが来るのを待っていた。

アナスタシアの机の両端には大量の書類が積み上げられており、アナスタシアがどれだけ多忙であるかが窺われる。


 アナスタシアがいつも通り書類を処理していると、2回ドアが鳴った。アナスタシアが「入れ。」と一言言うと、入ってきたのは秘書であるオリビアだった。


 オリビアは紅茶とお茶菓子が乗ったカートを押して来ていた。

ギルト長室はすぐに鮮やかな紅茶の香りとお茶菓子の甘い香りで包まれた。


「アナスタシア様~どうですか、もうそろそろ休憩致しませんかぁ。」

「まったく.....貴方がお茶菓子を食べたいでけでしょ?。」

「あ、バレちゃいましたか?」


 オリビアはさぼりたいのがバレたことに驚きつつも、アナスタシアが書類を置いているテーブルの横に紅茶の入ったカップを置こうとする。


「失礼しまーす。」


 その時、ギルト長室の扉が大きな音を立てて開けられた。

オリビアはびっくりして足がもつれてしまいカップが乗った銀トレイをひっくり返してしまった。

咄嗟にアナスタシアは自身の術式である「反発」を発動させて何とか紅茶が書類に降りかかるのを防いだ。


 扉を開けたのはリヌイだった。

リヌイは不思議そうに慌てた2人を見て、「あれ、大丈夫そ?」と言うと普通にギルト長室へと足を踏み入れる。


「リヌイ・マルティネス!!いつもノックをしてから入りなさいって言ってるでしょ!!」


 せっかくのオリビアとのティータイムを邪魔されたアナスタシアは、座っていた椅子から立ち上がり机を軽くたたいて声を出した。


 今朝の朔の事でしょんぼりしていたリヌイは、下がり気味だった耳と尻尾をさらに下げて「ごめん」と誤った。


 アナスタシアはそんな様子のリヌイを見て、大きくため息をついてお茶菓子を一つ手渡した。

受け取ったリヌイは小さく口に入れると、もぐもぐと口を動かす。

甘いものを食べて元気出たリヌイは、アナスタシアになんで呼び出したのかと質問した。


 アナスタシアは、はっとしたように顔を上げた。そしてリヌイにロードリッチが持っていた杖とマントを取り出して見せた。


「この二つはあなたが回収したロードリッチの遺品よ。でもこれを調べるとこの杖は150年前にほかの地方で発生したロードリッチの杖だったことが分かったわ。これが何を示すかわかるかしら?」


 リヌイは言われたことがあまりわからず、頭上にはてなマークを浮かべて首を傾げる。

その様子を見たアナスタシアは苦虫を嚙み潰したような顔で更に言葉をつづけた。


「要するにあのスタンピードは誰かが意図的に起こしたものだったのかもしれないということよ。」


 アナスタシアがそういった瞬間、リヌイの雰囲気が少しだけぴりついたように感じた。

二人の間に冷たい空気が流れ、僅かな沈黙が更にその場を冷ややかに重くする。

だが、その場を開いたのはアナスタシアだった。


「で、今回はリッチが初めに出現したであろう洞窟の調査を頼みたいの。事前にAランクの冒険者が2人入っているのだけれども帰って来なくてね。クロエを連れて行きなさい。2人なら半日もあれば終わると思うから、頼んだわよ。」


 アナスタシアはそう言ってリヌイをそそくさとギルドの外へと追い出した。


 リヌイが居なくなったギルト長室では、スタンピードの話をしたことによって再び重たい空気で包まれるが相変わらずお茶菓子の甘い香りが漂っていた。


 すると、ギルト長室の端っこで立っていたオリビアから「きゅるる」とお腹がなる音がした。

重い空気には不釣り合いのなんとも間抜けな音である。

だが今のアナスタシアにとってはその間抜けさが心地よかった。


 恥ずかしさで顔を赤くするオリビアに、アナスタシアも「私もお腹が空いたな。」と言って一つお茶菓子を手に取り口に入れた。オリビアはその様子を見てほっとしたのか美味しそうにお茶菓子を口にヒョイと入れていた。


 追い出されたリヌイは、クロエに連絡して洞窟の中に入ることにした。

洞窟まで行く途中のお店から漂ってくる甘いお菓子の香りに誘われて、ついつい別の方向に足が向いてしまうのをなんとか我慢しながら町を出ると、そこではクロエが普段は着けていない手袋をはめて待っていた。


「あれ、クロエ手袋変えたの?」

「えぇ、ちょっとしたひみつ道具ですよ。」


 クロエは興味深々のリヌイに、いたずらっ子のように笑いかけると並んで横を歩いた。


 街の外はスタンピードが起こった頃とは違って、草が生えて黄緑色になっている。

花々もつぼみを咲かせて、季節の変わり目を教えるかのように美しく花弁を広げていた。


 そしてリヌイが作った地面のクレーターには雨水と湧水がたまり小さな湖となっていて、すでに水草が生えており、どこからともなくやってきたのか小魚が気持ちよさそうに泳ぎ回っていた。


 リヌイは湖を見ながら孤児院の子供たちが遊ぶのに丁度いいのでは?とクロエに相談する。

少し湖の水を触って飲んでみたクロエは、綺麗な水だと言ってその意見に賛成していた。


 そしてクロエは孤児院の子供たちを連れてくる前に、マルティネス家のみんなで来ようと提案する。

リヌイはその提案を訊いた瞬間、目を輝かせ大きく頷いていた。


 そんなほのぼのとした会話をしながら1時間ほどゆっくりと歩くと、スタンピードの元凶である洞窟の前までやってきていた。


「この洞窟ってここまで魔力濃かったっけ。」

「いえ、昔りぬ様と遊んでいた際はここまで魔力は濃くなかったですよ。」

「すごいやな予感がする。」


 リヌイは魔力障壁を自身の周りに展開すると、自分の肉体を魔力で包んで防御した。

クロエも手袋に魔力を通していつでも「装衣結界」を発動できるように準備をする。


 リヌイとクロエは横並びで洞窟へと入っていく。

洞窟の中は少し温度が低く、外から流れ込んでくる温かい空気が2人を誘い込んでいるようだった。

2人が洞窟へ入って数歩歩いた瞬間、衝撃波が発生して莫大な熱量が2人を包み込む。


「武気術・99%」


 クロエが武気術を発動させて自身の身を守るのに対して、リヌイは魔力障壁を一切消費することもなく無傷で耐えていた。


「うるさいなぁ。」


 爆発の爆音で耳がしびれたリヌイが、顔をしかめて自分の耳を抑える。

洞窟へ響く爆音が鳴り止むと、魔力感知が効かないほど濃かった洞窟の魔力はかなり薄くなっていた。


 やっと魔力感知が使えるようになったリヌイは目を閉じて感覚を研ぎ澄ましながら洞窟の最奥まで気配を探る。そのリヌイの感知は完璧だった。


 リヌイは何かを感じたようで、閉じていた目を開けて真っ直ぐ洞窟の奥へと進んでいく。

クロエはいつものように穏やかな顔をしながらリヌイの後ろを歩くが、既に数枚の結界が2人の周りを漂っておりクロエも警戒している様子が分かる。


 洞窟の最奥は広い空間があり、祭壇のようになっていた。湿度が高くべたべたしており地中の成分を溶かし込んだ液体が長い年月をかけて結晶となってつらら状に長く垂れ下がっている。


 だが、それだけだった。

リヌイは不思議そうに周りを見るが何回確認しても、綺麗な結晶がつららとなって伸びているだけで魔獣も見当たらない。



「りぬ様。ここ、奥に空洞がありそうですよ。」



 その時壁を叩いていたクロエが、祭壇の奥に空間を見つける。だが、その祭壇は石を掘って作られているようでどこにも出入り口など見当たらなさそうだった。



「クロエ、俺が穴空けるからちょっと横にいてね。」



 そう言ってリヌイが祭壇の前に立つ。

そして何か特別なことをすることもなくただ拳を壁に全力で突き立てた。

再び衝撃が洞窟全体を揺らす、つららが折れて地面に衝突し粉々に砕け散っていく。

そして天井にもひびが入ってクロエの執事服に砂ぼこりがかかっていた。


「へぇ、まさかここがバレるとは思わなかったっすね。」


 クロエの思惑通り祭壇の奥には空間が広がっていた。

そしてその空間から一人の男の声が響いてくる。


 だが、リヌイが破壊した二つの空間を隔てる壁の砂埃によって中が見えず男の姿を確認することができない。クロエは男を逃がさないように元祭壇に結界を張るが、男は慌てる様子がなく逃げようともしなかった。



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