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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第二節 学院入学試験

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22話 受験に向けて

 アルダーの介入もあり無事にマルティネグラスを手に入れることができた朔は、クロエとアルダーと共に下山した。アルダーは良い実験ができた上に、クロエをからかいまくったのが楽しかったようでホクホク顔で自分の研究室へと戻っていった。


「クロエさん。このマルティネグラスって何に使うんだ?」


 朔が真っ赤な花を振りながらクロエに話しかけた。

クロエは朔から花を受け取ると茎についている葉っぱを一枚ちぎる。

すると、ちぎられた葉っぱは赤く輝いて色褪せた。


「お茶にするんですよ。今見せたようにこの花は高純度の魔力を蓄えてます。そしてこの花を紅茶にすると今出た魔力が花のエキスと共に抽出することが出来るんです。」

「それを何に?」


朔が不思議そうな顔をするとクロエは少しだけニヤッと笑った。


「今の朔様だと2杯も飲めば魔力は全開でしょう。」


 朔はその言葉を聞いて嫌な予感がした。

クロエは朔が察したことに気付いて、「大丈夫ですよ。」と笑った。


 マルティネス領の北門を通り過ぎ、マルティネス家に戻る。

するとバッタリ倒れていたはずの命とルシアがリビングで待っていた。


「え。クロエ見つかったの?!」

「あ、クロエ見つかったんだね。」

「そうなんです、まさかアルダーにひとやを解除させられるとは思いませんでした。」


 朔と一緒に戻ってきたクロエを見てルシアと命が驚いたような顔をする。

クロエは照れくさそうに笑い、会話を聞いた朔はこの二人もグルだったと確信した。


 朔が後から聞いた話によると、ぶっ倒れていたのはフェイクでただ寝ていただけだったらしい。

不貞腐れた朔はその日2人と口を訊かない事で許してあげようと考えていたのだが、その考えはお昼ご飯の時に覆った。


 お昼ご飯の時間、クロエ・朔・ルシア・命の四人で食卓を囲んでいた。

そのとき話題になったのは命とルシアの勉強事情だった。


 学園での入学試験で必要な科目は数学・基礎魔法学・基礎魔法学科学の3つである。


 ルシアと命は数学と基礎魔法科学が苦手らしく、ずっと合格ラインギリギリぐらいだった。

なんでも基礎魔法学は魔法の種類や魔法の効果など日常や冒険者をする上で必須な内容だった為2人は解けたのだが、数学は言わずもながら基礎魔法科学は魔法薬の作り方や魔法生物の能力などが主な内容のため勉強をしてきていない者にとっては難しい内容となっていた。


「まぁ、学力試験だけで決まるわけではないので受かるとは思っていますが。」とクロエが言ってフォローをする。等の2人は体を動かしたい欲求と机に縛られるストレスでがっくりとうなだれていた。


 空気を換えようとルシアが「そういえば朔君の特訓はどうなの?」と朔に話題を振る。

昼食のサンドイッチを噛んでいた朔はそれを飲み込んで、思い出したかのようにクロエの方を見た。

 


「Ⅾランクにも昇級したし結構いいと思う。そういえばマルティネグラスってどんな特訓に使うんだっけ?」



 朔がそういった瞬間、命とルシアが石造のように固まった。

そして顔がサーと青くなる。



「可哀想に。」

「頑張れってね、朔君。」



 命が憐れむような顔をして、ルシアが朔に声援を送った。

だが、何も知らない朔にとってはただただ混乱を招くだけでうまく状況が飲み込めなかった。


 するとクロエが赤い液体の入った小さな瓶を取り出す、瓶の中にある液体には膨大な魔力が入っており魔力感知がなくとも魔力を視認できていた。



「魔力の最大出力は限界があり天性の才能に頼る部分が大きいです。ですがその限界を超えさらに成長する方法が一つだけあります。その方法とは魔力を一気に使い果たし一気に回復すること。そこでこのマルティネグラスが役に立ちます。」



 クロエは取り出した瓶を再びポケットに戻しながらそう言った。

つまり朔はこれからひたすら魔力放出と魔力回復を繰り返して最大出力を上げていく修行を行う。

だが、その修業はルシアと命の様子からも分かるように壮絶なものである。


 朔は嫌な予感が的中したと感じながら、あと少ししか残ってない準備期間を乗り切ろうと気合を入れてお昼のデザートをほおばった。



 そうして朔・命・ルシアの3人が学園受験に向けて準備を進める中、リヌイはその学園に向かっていた。

両足からでる獄炎をジェット噴射のように細く制御して、青い光だけを反射する海面の上を飛んでいる。


 学園はマルティネス領が接している南の海を30キロ渡った先にある。

マルティネスからは毎日船が出ており学生はそこからも通うことができる。


 だが、現在春休み期間であるマルティネスの海には漁にも出ている船すらもなくリヌイはある程度速度を上げて飛ぶことが出来ていた。リヌイが海面すれすれを飛ぶと海面は風圧によってえぐられ白波が立った。


 そうやってリヌイは僅か5分ほどで学園の上空で止まった。


 水上都市「アクアウルプス」は水上都市と言われてはいるが、その実態は大きな島をいくつかの島を繋投げたものであり寮やスーパーなどのインフラが完備された学園のための造りをしている島であった。


 リヌイはそんなアクアウルプスの中心から少し離れた広場へと降り立つ。

そこはアクアウルプスの公園で寮生活で地元に戻っていない学生たちがちらほらと見え遊んでいた。


 学生たちは突然降り立ったリヌイの姿を見て目を丸くる。

そして慌てて頭を下げた。


 そんな学生たちにリヌイは小さく手を振ってアクアウルプスの公園を歩いて抜ける。

公園を抜けた先には蛇行した道と階段がある一本道があり、その道は学園へとつながっていた。


 リヌイが階段道を歩いていると学生服を着た一人の少年が同じ道を降りてきた。



「お久しぶりです、リヌイ・マルティネス様。学園長に命じられてここまでお迎えに上がりました。」

「あ、アリスタ君だ、わざわざありがとぉ~」



 その少年はアリスタ・サランドラと言った。

この学園の3年生でありAランクの冒険者でもある生徒会長だ。


 少年は綺麗なお辞儀をして前へと進む。

リヌイもそのあとをついていった。



「マルティネス様はこの学園には通われていないのでしたっけ。」

「そうだよ。学校とか行きたくなかったんだよね~。」

「?!...そう....だったんですね。(こんな時なんて言えばいいんだっけ?!)」



 気遣いをしすぎるアリスタは、リヌイが言ったことにどう反応したらいいか分からずうなりながら考えていると「あっはっは。何変な顔してるの」とリヌイが笑った。


 丁度その時、学園の扉が開いて一人の老人が出てきた。

白くて長いあごひげをはやしておりやせこけた頬はあまり強そうには見えない。



「おぉ、リヌイ様やっといらっしゃいましたか。」



 杖を突きながら老人は一歩一歩を踏み出してリヌイの元まで歩いてくる。

だが、リヌイはその様子を見て不思議そうに顔を傾げた。



「ん?アルデのおじいちゃん、どうしたの?杖とかいらないでしょ?」

「ふぉっふぉっふぉ。流石にリヌイ様にはばれてしまうな。」



 そう指摘された老人は杖を長いステッキに変化させると曲げていた腰を伸ばして美しいローブを身にまとう。老人の名前はアルデリウス・フローヴィル。アナスタシアが信頼する友人の一人であった。


 人間とはあまり見た目が変わらないが少しだけとがった耳が特徴的で、その老人が耳長属エルフと呼ばれる種族であることが分かる。


 そんな老人は学園の中を歩いて進んでいった。

リヌイがついていくとそこは学園長室でアルデリウスはその部屋に入り一番奥の座席に座った。



「さて、リヌイ様や。わざわざ出向いてもろて悪かったのう。」

「いやいや、全然大丈夫。俺も用事あったし。」



 リヌイはそう言ってアルデリウスの話を聞く前に3枚の紙をカバンから取り出した。

異世界の文字で書かれており、一人一人の本名と冒険者名が書かれている。

さらには術式の有無や冒険者ランクを記入する欄や、今まで通っていた学校での成績などを書くための欄もある。



「これを頼みたいんだけど、いい?」



 リヌイがアルデリウスに紙を差し出そうとすると、アルデリウスはがっくりと頭が机につかんばかりにうなだれた。リヌイはアルデリウスのため息にビクっと驚いて差し出そうとした手を止めた。



「はぁ.........その願書は3日前までじゃの。」

「えぇ!どうしよ、アルデのおじいちゃん。俺が忘れてただけだからさ....何とかならない???」



 アルデリウスはどうしようかと悩んだが、可愛らしいリヌイに上目遣いで懇願されてしまい願書を承諾してしまった。何とかなったことにホッとするリヌイを見て頬を緩めてしまうアルデリウスだが、真面目な別件があったのを思い出し気を引き締めた。



「さて、リヌイ様。本題じゃが......わがのテオス・アナテマ学園の教師になる気はないかの?」

「え、教師?俺が?」



 リヌイはアルデリウスの予想外の言葉に面食らった。

もちろんリヌイは現役の特級冒険者として誰よりも強い自負があったのだが、あらゆる魔法や技術を感覚として研鑽してきたためあまり教えるという事は得意ではない。


 またリヌイは常に王族の護衛や出没する高ランク魔獣の駆除などをしながら大陸各地を飛び回っているのでなかなか難しい話であった。



「そうじゃ。もちろんリヌイ様が忙しいのはわかっておる。だが、力を付けたあの子らは少し世界を甘く見ておるような気がしてならん。アナスタシア様は神話と呼ばれる時代の終焉を見てギルドを造りこの学園の創設にも携わった。そしてまたこの世界では出没する魔獣のレベルが上がっておる。もしこのままあの子らが卒業したら立ち向かってはならない脅威に手を出し死んでしまうかもしれん。だから、暇な時にでも圧倒的な力を見せてやって欲しいのじゃ。」



 アルデリウスは一息でリヌイに全てを伝えた。

普段堅苦しい話にあんまり参加しないリヌイもちょっとだけ真面目な顔で聞いており、頭についている耳がアルデリウスの方をしっかりと向いていた。



「俺はさ、沢山の人を殺した。いっぱい...いっぱい.....それでも平和な世界は来なかった。ただ俺のわがままで生かす人を選んできた。そんなわがままで壊すことしかできなかった力を見せていいの、アルデのおじいちゃん。」



 リヌイは逡巡していた。戦争を一人で終わらせた英雄、そう言ってしまえば聞こえは良い。だがその称号はリヌイにとって沢山人を殺した証であり自身が背負っている罪だった。そんな罪を背負っている人が何を教えれるのだろうかと、リヌイは考えていた。


 そんな様子を見たアルデリウスは、目の前にいる人間がどれだけ優しいか他人を思える心を持っているのか計り知れずにっこりと笑った。



「そうじゃなリヌイ様は強すぎた。今のリヌイ様が全力を出せばアナスタシア様を含めた国すべての人を一晩で消し炭にできるじゃろうな。」

「うん。できるよ。アナスタシアに勝てるかはわかんないけど多分勝てる。」



 リヌイはさっきの神妙な顔つきを取り払い、誇らしげな様子で答えた。

アルデリウスはにっこりと笑っているままで、孫を見るような温かい目をリヌイに向け続ける。



「神獣はただ生きているだけで災害をもたらした。神と呼ばれる知恵を持った生き物は他の生物など見えてすらいなかった。リヌイ様の力は誰かを守る優しい力じゃよ。」



 アルデリウスの言葉を聞いたリヌイはまだ迷っているような顔をして耳をぺたんと下げている。

数秒立った後、リヌイの顔が前を向いた。



「おっけ。やってみる。できるかわかんないけど。」



 そういったリヌイは、アルデリウスから教員免許を渡された。

シルバーの金属で出来ている教員免許にはリヌイ・マルティネスの文字が書いてある。


リヌイはそんな教員免許免許を目の当たりにして、先程の心配とは裏腹にワクワクしていた。







アルデリウス 元Sランク冒険者


アナスタシアとは80歳のころに出会い、後にこの学園の学園長に推薦される。

冒険者としての全盛では特Sに最も近いSランクと言われていたが、昇格する前に引退をしてしまった。

現在ではテオス・アナテマ学園にて後身の育成と共に異世界人の保護などをしている。

性格はとても穏やかで優しい。だが厳格な一面もあり生徒からは尊敬されている。

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