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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第二節 学院入学試験

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19話 過去の超越者

 晴れてDランク冒険者に昇格した朔は、アナスタシアに呼び出されてギルドマスターの部屋の前に立っていた。


 朔が扉叩いて中に入ると、書類仕事をしているアナスタシアの姿があった。

アナスタシアは入ってきた朔を見て、仕事の手を止める。


 朔がどうしたらいいか分からずに突っ立ってると、アナスタシアは近くに来るように手招きをした。

「なんで、呼び出されたかわかってる?」アナスタシアが穏やかに聞くと、朔は緊張した様子で「いえ。」とだけ答えた。


 アナスタシアはがちがちに緊張している朔の様子を見て、クスッと笑う。

そして、多くの書類の中から2枚の紙を取り出した。


 一つは朔の冒険者情報が載っている紙と、もう一つはSランク上級任務の紙だった。


「冒険者登録して4か月でDランク昇級達成。あなたは我がアナスタシアギルドの最速昇級の記録を塗り替えたのよ。」


 アナスタシアは嬉しそうに朔に報告した。

おめでとうと言いながら渡されるお茶菓子を朔が受け取ると、アナスタシアの表情が少し曇った。


「ただねぇ、ちょっと最近大変なのよね。」


 朔が何について言及されるのだろうと思っていると、それは朔が異世界人であることについてだった。


 今この世界で異世界人の立場は立ち揺れている。

それは異世界人が強力な影響をもたらすことが示唆されているからであった。


 異世界人は世界をわたってくる際に魔力を扱える体へと肉体が作り替えられて、術式またはスキルが刻まれる。その術式は十人十色だが大抵強力である場合が多い。


 そんな時に急に現れた浅久良南雲という男。

彼の存在は異世界人否定派の動きに強力に作用することとなった。


 アナスタシアはできる限り朔には異世界人としての素性は明かさないでほしいと言った。

それは朔自身を守ることにもつながるという。


 朔は元からそうするつもりであったこともあり、すぐに承諾した。

朔が承諾すると、アナスタシアはほっとしたような顔になる。


「なら、次の話題ね。」


  アナスタシアは朔の冒険者登録の書類を片付けて、もう一方の書類を朔に差し出した。

Sランク上位と書かれている書類の依頼受付欄にはアナスタシアの文字が書かれている。


「これは、不在のリヌイに代わって私が引き受けた依頼よ。あなたにはこの依頼についてきて貰うわ。」


 不敵に笑うアナスタシアの目には、朔ではなく、Sランク上位の文字が写っていた。

アナスタシアの背後にいた秘書が苦笑いをする。


 後日またこの場所を訪れるように言われ部屋を出る朔に、アナスタシアの秘書が「頑張ってくださいね。」と労いの言葉をかけた。


 朔が出ていったあと、アナスタシアは秘書であるオリビアから小言を言われていた。


 Dランク冒険者をSランク上位の任務に引っ張り出すのは異常で、オリビアは朔が負傷しないか心配していた。オリビアの小言をアナスタシアは書類仕事を淡々とこなしながら聞き流していた。


「オリビア、そんなに低ランク冒険者のことが心配ならばあなたもついてくる?」

「行きませんよぉ、あんな怖い依頼。」


アナスタシアが持つSランク上位の依頼の紙には「Sランク上位魔獣(朱雀)」と書かれていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 朔が装備を整え再びアナスタシアの元へ向かうとアナスタシアは部屋の観葉植物に水を与えている様子だった。朔が来たのを確認すると、アナスタシアは金属製の水入れを日が入り込む窓の縁において秘書のオリビアが手に持っていたランドセル程のバッグを受け取った。


 ギルドを出て、街の門の外まで歩く。

アナスタシアのドレスは膝下までしかなく、思っているよりも歩くのが早かった。


 アナスタシアが歩くと、街の人が恐れおののくようにチラチラと視線だけを送ってくる。

勝手に人混みが分かれていき中心を歩む、そのアナスタシアの歩みは堂々としたものであった。


 デルデアの武具屋を通り過ぎ、いつもよっていく精肉店を通り過ぎて門番のおっさんがいるところまできた。朔が門番のおじさんもおびえるのかと思っていたら、朔に挨拶するように愛想のよい顔で普通に挨拶をしている。


 朔がその様子を面白そうに眺めながら挨拶すると、おっさんは「アナスタシア様と依頼かぁ、いい経験になるといいな!」とにっこり挨拶を返してくれる。


 朔がなぜアナスタシアが畏怖されているのか疑問に思っていたら、ふとアナスタシアが口を開いた。


「私は滅多にああやって人前を歩くことがないのよ、この門には仕事に来るけどね。未知の物が強大な力を持っているというのは、例え守ってくれる存在でも怖いものよ。」


そう言ったアナスタシアの顔は少し下を向いていて、つまらなさそうだった。


 マルティネス領から出て北に15分ほど歩くと開けた草原に出る。

そこには体長10mほどあるであろうドラゴンがうつぶせで寝ていた。

ドラゴンには座るためのくらがつけられ、手綱にアナスタシアと書かれている。


「カームドラゴン。Aランクだけど大人しいドラゴンでね、なついた人の言うことを聞いてくれるいいドラゴンよ。」


 アナスタシアが素手でドラゴンの大きな鼻にそっと触れると、ドラゴンが大きなあくびをして一声鳴いた。地面が僅かに震えて小鳥が飛び立つ。その様子からはおとなしいながら強力なドラゴンであることがひしひしと伝わってきた。



 このドラゴンに乗って30分程空を南に移動すると、灼熱の火山地帯がある。

今回はそこで定期的に発生する朱雀と呼ばれるSランク上位の魔獣の駆除である。

その場所に生息する分には構わないのだが、あまりにも増えると北上して来て村などを襲うため定期的な駆除が必要だった。


 普段はリヌイが行っている仕事であったが、現在リヌイは学園試験の準備のため学園長に会いに行っており動けないため、アナスタシアが仕事を受けることとなった。



 ドラゴンが翼を動かすと草原の草花が揺れ、辺りに豪風が巻き上がる。

広い草原を駆けながら羽ばたいているとふわっと浮く感覚があって、朔の耳に風を切る音が轟々と気持ち良く入ってきた。


 朔の髪が風によってかき上げられて、洋服もなびく。

ぐんぐんと遠くなる地面が朔を見送っていた。


「そういえば、君は学園に入学するのよね?」

「受かれば、ですけどね。」


 アナスタシアが唐突に学園の話を始める。

朔の方をチラチラと見るが、ドラゴンの操縦があるようで真っ直ぐ前をみて髪をたなびかせながらアナスタシアは話を続けた。


「あそこの現学園長はいい人よ。異世界人の保護にも積極的に取り組んでくれているし冒険者のイメージ向上にも多大に貢献してくれている。もう600歳超えてるじじいだけどね。」


 アナスタシアはにこやかに話をする。

朔がアナスタシアから聞かされた話によれば、今の学園長は6代目の学園長であり500年ほど学園長を務めているとのことだった。また、アナスタシアの良き友人であるらしい。


 学園の話を30分続けると涼しかった風がいつの間にか熱風へと変わっていた。

程よく湿度のある熱風が朔に吹き付け、朔の額にはじんわりと汗がにじんでくる。


 朔が下を見下ろすと5枚の翼で身を包んでゆったりと丸まって寝ている大きな赤い鳥の姿があった。


「あれが朱雀。まだ子供の個体ね。私が戦うのはもっと成長した強い個体よ。」


 アナスタシアは起こさないようにドラゴンの速度を緩め火山地帯の上をゆっくりと飛ぶ。ドラゴンが下りれそうな場所を見つけるとそこにドラゴンを着地させた。


 アナスタはありがとうと言って、持っていた収納袋から2m程の巨大な肉を取り出しドラゴンに与える。

ドラゴンは小さく一声鳴くと肉をくちばしで切り分けながら食べ始めた。


 そんなドラゴンをアナスタシアは撫でて歩いて行く。

朔はその後ろをついていった。


 アナスタシアの周りはほんのり涼しく火山地帯の熱気が伝わってこない。

しばらく歩くと周りよりひと際大きな火山が見えてきた。


 さらに朔とアナスタシアが山に近づいていくと、2匹の朱雀が争っていた。


 2匹の朱雀は5枚の翼を大きく広げ羽ばたかせながら、時にはぶつかり、時には炎の刃を飛ばしてお互いを攻撃している。


 アナスタシアは足を止めてその様子を数秒見つめる。

自身が持っているバッグを地面に置くと中から1つの杭を取り出した。


 地面に突き刺し呪文捕らえると杭の遥か上空にひとつの光が現れ、光から山全体を覆うように光の弧が延びていく。光の弧が地面に到達すると弧と弧の間に魔力の障壁が現れて2匹の朱雀と朔たちを閉じ込めた。


「これはひとや。敵を閉じ込め外の私達を外から見えなくする特殊な結界よ。」


 牢で閉じ込められたことに朱雀たちは気づいていない。

アナスタシアはバッグを持ち上げると、朔に持っておくように渡した。


「あの子たちは多分100年は生きてる個体ね。強い個体が縄張り争いしているのよ。貴方はそこに立っておきなさい。」


 アナスタシアは朔にバッグを持たせたままその場に立たせると2匹の朱雀の方へ向かって歩き始めた。

一歩一歩進んでいくその足は、次第に地面から離れて透明な階段を歩くように空中を立っていた。


 アナスタシアの10倍はありそうな朱雀が自分たちの領域に侵入してきた敵を見つける。

朱雀らはお互いへの攻撃を止めて邪魔な侵入者を排除することにした。


 アナスタシアに向かって2匹の朱雀が炎の刃を飛ばす。

熱風と共に衝撃波が空気を揺らしてアナスタシアに高速で向かっていった。


 だが炎の斬撃はアナスタシアに届く前に爆発するように散った。

アナスタシアはただ空中を歩いているだけである。


 朱雀は何度もアナスタシアに斬撃を飛ばすがどうしても数m手前で爆散する。

アナスタシアは久しぶりの戦闘で少し高揚していた。


「私の術式「反発」は魔法・呪い・術式・スキル・斬撃・打撃・時間などあらゆる現象を反発させる。神属性を扱えない敵は私の敵じゃないのよ。」


 炎の斬撃が効果ないと判断した朱雀たちは突っ込んでアナスタシアを攻撃しようと5枚の羽根を動かして急加速する。だが、アナスタシアは一切よけようとはせず淡々と歩くだけであった。


 アナスタシアに近づこうとすればするほど反発の影響は強くなる。

それを知らずに全力で突っ込んだ朱雀たちは途中で跳ね飛ばされた。


「武気術・極(しろ)」


 辺りに圧倒的な重圧が重くのしかかる。

アナスタシアからは白く輝くキラキラとした濃い魔力があふれ出ており、アナスタシアの背後には天使のような大きな1対の翼が円を作るように浮かび上がっていた。

その瞬間、朱雀たちは喧嘩を売ってはいけない相手に手を出したのだと理解した。

だがひとやは既に降ろされ、アナスタシアを戦闘不能にして牢を解く以外に朱雀が生き残るすべは無い。


 無謀にも一体の朱雀がアナスタシアに突っ込んでくる。

だが、先ほどとは違って朱雀がはじき返されることは無い。


 だが朱雀のどんな装甲も食い破るくちばしがアナスタシアを捕らえようとした時、アナスタシアの体はギリギリでひらりと朱雀を躱した。アナスタシアの横を勢い良く通り過ぎる朱雀。


 アナスタシアが通り過ぎた朱雀を目で追っていると、目の前のもう一体の朱雀が小さな太陽のような豪火球を生み出していた。その火球からは神の魔力がほとばしりアナスタシアを焼き尽くさんと燃えていた。


 長く生きる強力な種族はSランク上位の範疇を超えて特Sランク程の実力になる場合がある。

今アナスタシアの目の前にいる朱雀はそんな超越した存在であった。


 朱雀が猛々しく一声鳴くと神々しく燃える火球が放たれる。

火球は一瞬にしてアナスタシアのところまで直進し、反発を貫通してアナスタシアを飲み込んだ。


教えてシズテム!!「神属性とは?」

(!・・)神属性とは神の力と呼ばれている魔力とは別の力です。

あらゆるスキルや術式の効果を阻害して対象に効果を与えます。

また神属性で与えられた傷は普通の回復手段では回復が遅く自然治癒に任せるしかありません。

神属性には神属性で対抗するしかなく、リヌ様の「武気術・極(赫あか)」やアナスタシア様の「武気術・極(皎しろ)」には神属性に対抗するための神属性が組み込まれています。

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― 新着の感想 ―
神属性というのは他作品ではあまり聞かない設定でいいと思います。
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