1話 幼馴染のいる場所へ
はじめまして、今回この作品に興味を持っていただきありがとうございます。
誰でも感想が書けるので、思ったことや好きなキャラなど書いて頂けると幸いです。
更新は不定期ですが、最低でも月一で更新しているのでブックマークして最新話をお読み下さい!
1765 ワットが蒸気機関を改良
1859 ダーウィン『種の起源』
1895 レントゲンがX線を発見
1903 ライト兄弟が飛行機を発明
1905 アインシュタインが相対性理論を発表
1913 フォード、自動車の大量生産
1953 ワトソンとクリック遺伝子はDNAの二重らせんを発表
2003 ヒトゲノム解読完了
2006 山中伸弥がiPS細胞の作成に成功
世界は天才たちが生み出す発明によって今までの常識が崩れ落ち、新しい世界へと変わっていった。
そして、2216年
「22年と5ヶ月………やっと…ここまできた。」
白衣を着た男が小さい声で呟く。
男の目の前には配線が剥き出しで、基盤さえ最低限の補強しかされていない椅子のような形をした機械がが置かれていた。椅子の側面には無数に積み上がられたコンピューターが並び、後ろで発電機が僅かに音を立てている。
男の名前は、斥宮朔、斥宮は歴史上最高と呼ばれた天才だった。
高校1年生までは一般的な普通の学生だった。
だが彼は高校2年生の途中の模試で突然全国1位を獲得したのち、全ての模試で全教科満点という偉業を成し遂げた。
大学は偏差値60くらいの普通の大学に進学したが、大学2年生の時にアメリカの研究雑誌に自分の研究を公表したことがきっかけで、数多くのスポンサーがつくことが決まり、大学中退を経て研究者となった。
斥宮が機材を確認して一旦外に出ようとすると、慌ただしい足音とともに一人の助手が飛び込んできた。
「博士!全ての準備が整いました、いつでも試運転を開始できます。」
そう言った助手の手にはこの部屋とオペレーションルームを繋ぐためのスピーカーとマイクが握られていた。
斥宮はそれを手に取り、椅子に設置すると助手に合図した。
助手は斥宮の合図を受けると部屋の外に出てまた慌ただしい足音を立てて出ていった。
装置の名前は「ノアの椅子」と名付けられた。
「ノアの椅子」は時空を歪め過去へと向かう装置だった。
斥宮が天才となり「ノアの椅子」を作ることになったきっかけは、14歳の下校の際起こった事件によるものだった。
斥宮には同い年で同じ学校に通う幼馴染がいた、名前は神代命、斥宮の家の近くにある神社の跡取り娘だった。
お互い小さい頃から仲が良く登下校一緒に帰るほどだったが、14歳の猛吹雪の夕方に神代命は暴走トラックに車ごと挟まれ凄惨な死を遂げた。だが、完全に押しつぶされ肉塊となったはずの神代命は、わずかな血痕を残すのみでその場に遺体はなかったという。
遺体が無かったことと血痕の少なさの事実を知った斥宮は、まだ命を救う手立てがあるかもしれないと淡い期待を見出した。そして斥宮は猛勉強をはじめてここまで上り詰めた。
「オペレーションルームとの接続を確認、第一フェーズに移ります。戻る場所はどこにしますか。」
斥宮の耳には助手の質問するが声流れ込んでくる、フェーズへと移行する間、斥宮は自ら開発したノアの椅子の仕組みを考えていた。
ノアの椅子は時間や世界などのあらゆる制約を超え、目標を追いかけることが前提となって作られている。目標を追いかけるというシステムは、斥宮が神代命の命を救うために編み出した方法であった。
ただしこのシステムの問題は、搭乗者の肉体が戻る時間の分、若返ってしまう可能性があるということだった。また莫大なエネルギーが必要で、1日で日本が使用するエネルギーの約3倍を消費することが計算では出ていた。
ただ斥宮にとっては全てどうでもよく、幼馴染を救う事が目的であった。
だからこそ答えは一つしかない。
「22年と6ヶ月前、そこの紙にある座標の神代命がいる場所だ。」
斥宮がはっきりとした声で吐き捨てるように言うと、助手達は少しざわつき戸惑いながらもセットした。
「そ、それではフェーズ2へと移行してください、博士ご無事で。」
そう助手は言ってマイクを切った。
斥宮は上半身の服を全て脱ぎ、配線で覆われたスーツを着る。
これにより斥宮自身が機械の一部へと取り込まれた。
「さぁ、始めるか」これからする事の重さとは不釣り合いの軽さでぽつりと呟く。
斥宮はこの日のためにあらゆる準備を尽くしてきた。
覚悟は決まっていた。
斥宮が椅子に座ると上から機械の音声が降ってくる。
「生体認証を確認………朔様フェーズ2へとようこそ(^^)、今からノアの椅子を始動します。
サポートAIのシズテムです。」
それは斥宮自身が開発したノアの椅子専用のAIだった。
椅子の側面のコンピューターからガスが漏れるような音がし始め、後ろの発電機が低い音を立てて轟き始める。
「マスターの肉体に電気が流れます。準備をしてください。」
シズテムがそう言った瞬間、斥宮の肉体に負荷がかかるそれは到底人では耐えることのできない電圧と電力量だった。
「う゛ぁぁぁぁああああああ!!」
斥宮は意識が飛ばないように叫びながら調節のレバーをあげていく、
電圧と電気量は最大になり斥宮の指先は炭化し始めた。
実は実験前に斥宮はいくつかの人間性を捨てていた。時代の流れにより痛覚を無効化することができるようになっており、斥宮はこの実験のためにその手術を受けていたのだ。
だがそれでも、荒れ狂う電力による痛みは手術すらも貫通していった。
「もっとエネルギーを大きくしろ!俺はどうなってもいいっ!」
斥宮は叫んだかが、シズテムは反応がなかった。
するとノイズ混じる。
「ズズーザザーーーーー」
「エネルギーを増加させますか。」
そう言うシズテムに斥宮は、違和感を感じながらも急げと叫ぶ。
「エネルギーを増加させる範囲を指定してください。」
「あ゛?俺を中心として8メートルだ!!」
斥宮は途切れそうな意識を必死に保ちながらプログラム外の質問をしてくるシズテムに答えていく。
「増加量はどうしますか?」
「んなもん、できるだけしろ!!」
「範囲を半分まで絞ることで、3000倍まで引き上げることが可能になります、それでいいですか?」
「それでいい!!」
「搭乗者のエネルギーを一定に保つために効果対象の選択とエネルギーを減少させる効果、そしてエネルギーを操作する効果をシステムに付与します。いいですね?」
「なんでもいいから早くしろ!!」
そう答えた時に斥宮の意識は途切れた。
プツリと意識の途切れた斥宮の肉体は、配線まみれのスーツごと消え去っていた。
「なんだこれ、見えない、、、、、思考以外の何もできない、、、、、、」
斥宮が再び意識を取り戻した時はただただ考えることしかできない、空間と言えるのかわからない状態だった。手足の感覚はなくて目も見えない、朔はそんな感覚が初めてで気持ち悪さすら感じた。
「#&;@s#.”€£^^=<!〆※$£」
斥宮に聞いたことのない言語が流れ込んでくる。
「なんだって?おい!」
「#¥*-%^_^&*€-¥^(『)(*&€&、、、、、適応完了」
斥宮は急に分かるようになった言語に言葉が出なくなり、既に自分が理解できる範疇を超えていることを察して考えるのを諦めた。
「個体名、サクセキミヤの記憶から、言語をラーニングしました。
ここは世界の狭間、私はあなたが作ったAIを元にして生まれました。そのままシズテムとお呼びください。」
斥宮のAIであったと自称する声が意味のわからない説明を続ける。
「ここは世界を行き来する際の世界の狭間です、あなたはあの装置と一体化したため開いた世界の狭間で意識を覚醒させることに成功しました。指定された箇所には、すでに個体名ミコトカミシロは存在せず、現在、他の世界で生きていることが次元を通じて確認できたので、カミシロのところまで転移します。また、その際、今から転移する世界で使用することができる、スキルというものを得ることに成功しました。いまからそのスキルの説明をさせてもらい…」
「まて!!」
意味のわからない事を言い続けるシズテムを斥宮が止める。
「どうなっているんだ、俺は死んだのか、それとも生きているのか、世界とはなんだ時間を戻っているのではないのか、なぜ他の世界に命がいるんだ!」
そう聞いた斥宮にシズテムは答えになるような回答を持ち合わせていないと答えた。
その後、シズテムから話を聞く中で斥宮が理解できたことは五つだった。
一つ、あの時炭化して死んだが肉体の時間が戻る事で完全に死ぬ前に助かったということ、
二つ今時間が戻っているわけでなく時間軸と世界のシステムそのものが違う異世界に向かっていると言う事、
三つその世界は自分たちの世界より時間の流れが遅いため22年と5ヶ月と言う時間が約2年ほどになるため肉体がそこまで巻き戻ったと言う事。
四ついまから転移する世界には超常的な力があるらしいとのこと。
五つシズテム自身も斥宮のスキルになったと言う事だった。
斥宮が状況をある程度理解したシズテムはスキルの説明を始めた。
「スキルの説明をさせていただきます。マスターが世界の狭間へのゲートをネジ開けた瞬間あちらの世界とマスターが接続されることによってスキルを獲得しました。正確に言うとノアの椅子にスキルを付与する際、ノアの椅子と一体化していたマスターにも付与される形となりました。
効果は自身を中心とする半径4メートルの球の中のエネルギーの増減です。
増加の最大値は3000倍そして減少の最大値はマイナス3000倍までです。
また0にも設定できます。
効果対象の除外もでき、除外の方法は自認することで、その際効果のバランスも変更できます。
また効果を与えるためには対象の全てが効果範囲内に収まっていることが条件です。
また自身を例外とする生物体のエネルギーを上げ下げすることはできません。
ただし、水や砂などの形を持た無いものは効果範囲に触れるのみで効果を与えることができます。
今回名称のないスキルかつ、名称の希望も無かったのでスキル名「エネルギア」と名称をつけさせてもらいました。」
「計6つ……以上がマスターの今持ってるスキルです」
シズテムが他のスキルの説明を終えると斥宮は眉を寄せた。
「スキルがどんなものっていうのはわかったがどうやって使えばいいんだよ。」
「それはシズテムにもわかりません、ただ使う意思があれば使えるらしいです。」
シズテムはまるで他の人から聞いたかのように答えた。
斥宮は少しそのことに疑問を抱きながらも、闇へと引っ張られていく意識にまた身を任せた。
世界の扉は開き膨大なエネルギーが放出される、斥宮はそこから放り出された。
斥宮は少し鈍い音がして地面に落下したものの、なぜか無傷だった。
「緊急事態でしたので「エネルギア」を発動させていただいてました。」
「こんな使い方もできるんだな。」
シズテムが斥宮に報告する。
そうやって少し会話してると、少し離れたところで交通事故のような衝突する音が聞こえた。
斥宮がそこに行ってみると、ショートの黒い髪に日本人と一発でわかる綺麗な顔立ちの美少女が、巨大なサソリのような生物を殴り飛ばしていた。
大きな身体能力に差はあるものの、そこにいたのは22年以上も会うことを望んで世界すら超えるきっかけとなった少女、神代命、本人だった。
斥宮は幼馴染に会えたことと、その幼馴染が人間を超越している動きをしている状況がすぐに飲み込めるわけなく、それを呆然と眺めていた。
そんなことに命は気づくことなく、3分もせずに巨大サソリを殺してしまった。
巨大サソリ倒した命が周りを見渡した瞬間、一人の男が目に入った。男はボロボロの配線まみれのスーツを着て、ただ呆然と立ち尽くしていた。
命は目を丸くする、それは彼女にとって2年前に一生会うことができなくなったはずの人物だったからだ。彼女は慌てて男の元に駆け寄った。
なにも理解できない男と違って、彼女はすぐに状況が理解できたようでそれほど慌てた様子もなかった。
「朔………君……だよね。どうやってこっちに………しかもこんなところに来たの」
命が朔に呼びかける、衝撃から半ば意識を手放していた朔の目の光が戻る。
「ほんとうに命なんだよな………俺は再会できたんだよな…………」
そう言った朔はずっと堪えていた涙流して崩れ落ちた。