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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第二節 学院入学試験

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17話 不審な追手

「これ、つけられてるね。」

「そうですね、同じ魔力の波形が同じ人物が2人ずっと追ってきています。」


 居酒屋を出て人混みにまぎれた浅久良は、目だけで全身包帯に合図をする。

2人は気付いたことに気づかれないようにダールデンの人込みを抜けて郊外を目指した。


 たまに二手に分かれてみても、追手も二手に分かれるだけであまり効果がない。

浅久良はたまにお店のキャッチに声をかけられたりするが何とかダールデンの出口までやってきた。

だが見渡してもどこにも全身包帯の姿がない。


 追手がついてきているので仕方なくダールデンを出ることにした浅久良は警備で立っている門番に会釈をして出ていく。ダールデンの周りは林になっているため追手は隠れやすく追われている方は追手を見失いやすい。


 それでも浅久良は追手を見失うことなく林の奥まで速度を変えることなく進んでいく。

浅久良の道を外れた不可解なコースにも追手は出てくることなく付いてくる。


「もうそろそろ出てきたらどうだい」


 浅久良の声が静かに木々が佇む林に反響する。

すると後ろの頭上でガサガサと音が鳴って一人の人物が降りてきた。


「なんでばれたかなぁ、これでも隠密特化の諜報員なんだけどなぁ。」


 声では男っぽいが顔や体格がもやのようにおおわれており、浅久良の目では判別することができない。

浅久良は周りを警戒すると、いつでも「世界ヲ分ケルマイワールド」の発動ができるように準備をした。


 もやの追手は顔を上げると消え去り、浅久良はすぐに世界を展開した。


 2人の行動が勢い良くぶつかって林の木々に衝撃が伝わって揺れ、止まっていた鳥が飛び立つ。

浅久良からはもや奥の表情は読み取れないが、ビリビリと向ける殺意がもやを越して浅久良に届いていた。


 浅久良は一歩も動くことはない、追手は何度何度も浅久良に突撃するが衝撃で木々が揺れるだけで浅久良を動かす事は叶わなかった。


勧誘インヴァイト


 浅久良は言葉を発すると、追手の姿が消えて浅久良の目の前に現れた。

追手のもやは取り払われており、そこらへんに居そうな男の顔があらわになっていた。

今まで入ることが叶わなかった浅久良間合いに突然放り込まれた追手は、目を白黒させながら浅久良に短剣を振りかざす。


 浅久良はグッと間合いを詰めると振りかざされた腕を抑えて、開いた相手の胴体に一撃加える。

小さいからだとは裏腹に重い一撃を繰り出ず浅久良に、敵は思わずひるんでしまった。


 そこを見逃す浅久良ではない。

相手の振り上げていた腕を叩きながら掴むと、相手は短剣を手放す。

カタンという音がなると同時に追手の男は地面に叩きつけられた。

男は認識阻害のスキルも身体強化のスキルも使えないことに戸惑っていた。


「な、なんで、阻害が効かない。」


 叩きつけられた衝撃で動けなくなっている男を浅久良は縄で縛る。

キリキリと強い力で縛られて骨が折れる音がした。


 痛みと疲労で意識がもうろうとしている男に浅久良は痛み止めと覚醒剤を与える。

無理やり起された男の目は真っ赤に充血していた。


「さぁ、話せ。君は何者なんだい?言わなければ殺すよ。」


 浅久良は言葉の重さには不釣り合いな調子で尋ねる。


 圧倒的


 男はその調子で自分の命は浅久良の手の平の上にあるのだと実感した。

冷汗の止まらない男だったが、それでも冒険者としてのプライドがありいつまでも口を割ることは無かった。


 浅久良はそんな様子に辟易していた。

だから、最後の手段をとることにした。


 浅久良はバックからゆっくりと回復薬を取り出す。

それは共に行動していた全身包帯から手渡された低級のポーションであり、一つ一つ並べられたポーションの数は30個近くまで並べられた。


「僕は今から君に激痛を与える。でも治してあげる。さ、どこまで持つかな。」


 浅久良は鈍器を取り出すと男の右大腿骨に振り下ろす。

骨が折れる音がして男の顔は苦痛で歪んでしまった。


一本折って、治してまた一本


 浅久良は淡々と作業を進める。

最後の一本となったとき、男の目に僅かな希望の光が写っていた。


 浅久良は直すために蓋を開けたポーションを地面に置くと、カバンから更にポーションを取り出して地面に並べた。またこの地獄が繰り返される、男は実感してしまった。



「お、おれ、は。エルメスギルドの諜報員だ、マル、ティネスでのお前たちの行動で怪しんだエルメス様は俺たちを派遣した。抹殺できるのであれば殺せと伺っていた。」



 浅久良は「あっそ。」とだけつまらなさそうに言うと、並べていたポーションを回収する。

もう直されて骨を折られることがないと分かった男に安堵の表情が浮かんだ。


「言えたご褒美に僕の術式を教えてあげる。僕の術式は自身の周りに小さな世界を生み出す。

普段は誰も干渉できないけど俺が招けば入れる、入ったときのルールは2つ。スキルが使えないこと、そして中の人間が僕に安心感を持った時、それは僕の所有物だ。」


 浅久良はあどけない表情でにっこりとわらう。

そして男から一本後ろに下がると左手を90度傾けて手を叩いた。


 浅久良の目の前から男が搔き消える。

男がいなくなり静かになった林を何事もなかったかのように浅久良は歩き始める。

元の行商路ぎょうしょうろに戻って、ダールデンの外側に止めていた馬車に乗り込む。

馬の手綱たずなを握って動かす様子はただの商人にしか見えなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 浅久良が靄の男からまだ追われているころ、一足先にダールデンを出ていた全身包帯は毒使いの女と対峙していた。辺りにまき散らされた毒が、生えている植物にかかって植物を腐食させる。

「毒」というよりかは強い酸性のような液体であった。


「わわ、ちょっと何するんですか?危ないですよ。」


 全身包帯は華麗な動きで散らされた毒を避けるが、避けきれなかった毒液が服の裾に当たって洋服が音を立てて溶けた。


「あぁーこれお気に入りの服なんですよ!!」


 全身包帯は一瞬にしてその場から離れ、10mほど転移して再び姿を現した。

洋服の溶けた部分を気にしているようで何度も触って確かめている。


 全身包帯は裾をつかむと一部を分解した。

そして一瞬にして溶けた部分が元に戻る。


「ほんき、出しますね」


 全身包帯の姿が消える。毒使いの女は全身に毒を纏って相手が触れれないように防御した。

だが毒使いの女が瞬きした瞬間女の両手が包帯でグルグル巻きになっていた。


 啞然とする女にの後ろには全身包帯が立っていた。

全身包帯は片足を音もなく頭上まで振り上げると、ためらいなく毒で覆われている女の脳天にかかとを落とす。


 女は膝から崩れ落ちようとするが、それは包帯によって止められた。

足からグルグルと首まで包帯で巻かれた女は近くの木の枝から吊り下げられた。


「あぁ、もう!何で溶かせないのよ!!」


 女は体を揺らして脱出しようともがくが、吊り下げられた包帯が揺れるだけで効果は一切無かった。

全身包帯はあごに手を当ててどうしようかと考える。

女はどうにかして抜け出そうと騒いでいたが、時間が経つとおとなしくなった。


 女を覆っていた毒が包帯によって地面に全て落ち切った時、全身包帯は女を解放した。

女は再び毒を身に纏うが全身包帯は中途なく女の首を掴んで持ち上げた。


 苦しそうにもがく女を持ち上げて全身包帯は「あと少しで楽になりますから」と言いながら片方の手でバッグの整理する。一時はバッグの中身を確認をしていたが、すぐには死なないため待つのが飽きてきたらしく、女に目を合わせることない様子で暇つぶしの話を始めた。


「私の術式は「分散移転ディストリケーション」と言って、手で触れたものを分子レベルで分解して転移させることができるんです。どんなものでもできますよ、まぁ生物は時間がかかりますが」


 全身包帯が言葉を言い終わる前に、女は掴まれていた首から粉となって崩れ去った。

水分は水分子の気体となって大気中に逃げる、ほかの物質は地面に落ちるが女が出していた毒で全て溶かされてその場に残った。


「げ、やらかしてしまった、結構時間かけたのに情報の一つも聞き出してないです...まぁ大丈夫ですよね。」


全身包帯は辺りを見回すと道を歩きながら転移して林の奥に消えていった。



 浅久良が馬車を走らせていると、横に突然全身包帯が現れた。

行商路には誰一人おらず、馬車が石を弾き飛ばす音だけが鳴っていた。


「あの二人はエルメスギルドの諜報員みたいだよ。」

「え、あぁーそうなんですね!!」


 浅久良が取り出した情報を交換しようと全身包帯に話しかけるが、全身包帯は聞くばっかりで自分が引き出してきた情報を話そうとはしない。

それもそのはず全身包帯は追手の毒使いの女を殺しただけで一切の情報を聞き出していなかった。


 怪しんだ浅久良がどんな情報を吐いたのかとたずねると、全身包帯は焦った様子で泊まる場所やご飯の話にすり替えようとする。

浅久良が何度も問いただすと、やっと何も聞き出していないことを白状した。


 浅久良は大きなため息をつくと、手綱を少し強めに振って速い速度で馬を走らせる。

全身包帯が怒られるのかとチラチラと様子をうかがっているが、浅久良は無視して話を進めることに決めた。


「次の目的地はエルンテル、エルメスギルドの本拠地があるんだ。僕らはそこを落として拠点にする。」



 浅久良の言ったエルンテルはマルティネス領とは別の国にあり、直線距離にして700㎞も離れた都市であった。ダールデンはマルティネス領から90㎞ほどしか離れていなかったが、今回は更に国境を越えて8倍ものある距離を行く。


 浅久良が言った言葉に、全身包帯ががっくりとうなだれる。

理由は途中の経路にある。

ダールデンからエルンテルまで向かう途中には極寒の山がそびえたっており、そこは猛獣がよく出没する地域であったからだ。本当ならば迂回して進むのだが、浅久良達には急がなければいけない理由がある。


 日が沈みだして辺りが薄暗くなっていくと、浅久良は更に手綱を振って馬を急がせた。

全身包帯が浅久良の顔を覗くと、微かに笑みを浮かべていた。









全身包帯


年齢・性別・名称不明


術式

分散移転ディストリケーション

触れた物質を分子レベルまで分解して短い距離で転移させることができる。

転移する判定はゆるく手でつかんだナイフで刺したりしていれば分解せずとも転移は発動する。

分解するためには最低でも3指で触れていなければいけないという制約もある。


浅久良を助けたりなど仲が良い様子を見せるが、本人には別の目的があるようで行動を共にしている。

術式の扱いにもけており、エルメスギルドの諜報員である毒使いの女との戦闘では女が纏っている毒を分解転移する事で毒に触れることなく女をつかんでいた。


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