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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第一節 世界の果てまで

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15話 新たな術式

 マルティネス領から少し離れた商業街のダールデンで、一人の商人が居酒屋で食事を取っていた。

ダールデンは周りの農村などから働きに来る人が多いが、街そのものに住んでいる人は少ないため人の出入りが多い街であった。


 居酒屋以外にも洋服屋や武具屋など基本的な生活に必要な商業施設から、薬屋や装飾品を売る雑貨屋など売るものが細分化されたお店なども多く並んでいた。



 商人がお酒を頼もうと、店員のおばさんに話しかけると「あら、お嬢さん。お酒は成人してないと飲めないのよ。」と、諭すような口調で商人の申し出を断った。

商人は「僕は男だし成人してるんだけどぉ」というと、、おばさんは怪しむ顔をしながら大きなグラスにがれたお酒を手にもって運んできた。



「ふふ。やっぱり南雲なぐもさん可愛いですよね。女の子みたい」

「はっ。別に僕は自分の容姿には興味はないんだけどこうやって間違われると不便なんだよねぇ。」



 全身包帯は、浅久良がお酒を頼むついでに頼んでおいたランチを受け取ると自身の目の前においた。

全身包帯が肉をナイフで切り分けて、フォークを突き刺し持ち上げると肉が消え去った。

同時に全身包帯の口がモグモグと動いている。



「お前さ、いつも思うんだけどどうやって食ってんのよ。」

「ふふ、企業秘密です。」



 浅久良が怪訝そうな顔をしながら全身包帯に尋ねても、全身包帯は笑うだけで教えようとはしなかった。

水を飲むときも、コップの水かさが勝手に減っていき何とも奇妙な光景となっていた。



「あぁー完璧な計画だと思ったのに。」

「なにがですか?」



 浅久良はジョッキのお酒を一気に喉に流し込むと大きなため息をついた。

全身包帯は指先までしっかりと包帯で巻かれている腕で浅久良の頭を撫でる。

浅久良はその包帯で巻かれた腕を振り払うと愚痴を言い始めた。



「水銀だよ……リヌイ・マルティネスがいない間に、スタンピードを煽って街に危機を与えた後に街全員に水銀を配ってからおさらばって計画だったのにさぁ、なんか洞窟では俺のこと見た悪魔が逃げ出すしスタンピードの規模がでかくなりすぎてリヌイ・マルティネスが戻ってくるし。何も上手くいかない。」



 全身包帯は浅久良の愚痴を「まぁ、イレギュラーが多かったですし仕方ないですね。」と言いながら、再度浅久良の頭に腕を伸ばしていた。

浅久良は腕を振り払うのを諦めておつまみに手を伸ばす。

棒串をてにして雑に撫でられてる頭を気にすることなく、ただ今回の作戦の反省を考えていた。


「ていうか、あの異世界人の女。Cランクの大型魔獣をあんな早く倒すなんて。」

「まぁ、術式との相性がよかったんでしょう。元々はクロエ・フローレスを足止めするための魔獣でしたから。」


 2人は食事を終えると机の上にお代を置いて出ていった。

昼のダールデンはとても人が多く、2人の姿は人混みへと紛れ込んでかき消えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 一方マルティネス領では、命が倒したCランクの大型魔獣・オオカミべロスの解体作業が進んでいた。

命は町中の人から話しかけられて沢山のお礼の品を受け取っており、その間にクロエが薄い結界を使って大型魔獣を解体していく。


 オオカミべロスの肉はマルティネス家の調理場で肉たっぷりの煮込み料理となって街の人々に振る舞われた。マルティネス家の専属料理人が手掛けた煮込み料理はとても反響がよくお代わりをする人が多かった。


 朔はマルティネス家のベンチに座ってその様子を見ながら一人で炊き出しの料理を食べていた。

味はとてもおいしいが朔はあまり食べる手が進んでいない。

そんな時、お礼の品を両手いっぱいに抱えた命が朔の横に座った。



「朔君どうしたの?浮かない顔してるけど。」



 命が朔の顔を覗き込みながら心配する様子を見せる。

朔は冷める前に炊き出しを食べ終えてしまうと「なんだろうな」と呟いた。


「今回のスタンピード、俺は何もしてなかった。アルダーさんに守られて見てるだけだった。敵もⅮランクを相手にするので精一杯だった。」


 朔は太ももの上に乗せている拳あてを見ながら声を落とした。

少し沈黙があった後「んー」と命が唸る。

命は難しい顔をしながら、お礼品の中からフェルクッドを取り出して口の中に放り込んだ。


「ふぁん、ふぃふぃんふぁあい?」

「え、なんて?」

「ん、うん。まぁいいんじゃないって言ったの。」


 朔は命からフェルクッドを受け取って食べる。

蜜の甘い味が朔の口いっぱいに広がった。甘いものを食べたおかげかある程度気も晴れたようで朔の顔が少しだけ明るくなる。


 命はそんな朔を見て安心したのか、その場でうとうととし始めた。

しばらくすると朔の肩にもたれかかって微かに寝息を立てる。



「俺、もっと強くなって守るから。」



 朔は命をおんぶしてマルティネス家にある命の部屋まで命を運んだ。


 朔が命の部屋から、マルティネス家のリビングルームに行くと丁度すべての作業が終わったクロエが道具の手入れをしていた。リビングルームから外を見るとリヌイがまだ街の人に煮込み料理を配っている。



「クロエさんはリヌ様といなくていいんですか?」

朔がクロエに聞くと「えぇ。」と柔らかく笑って頷いた。


「ついでですので、延期になっていた朔のスキルの術式化を行おうかと帰ってきたんです。あと、敬語でなくてもいいですよ。ついてきてください。」


 クロエが手袋を外して大きく背伸びをすると耳と尻尾が真上を突き刺した。


 部屋を出ていくクロエに朔がついていく。

クロエはいつも使っている練習場や調理場を通り過ぎてマルティネス家の奥に進んでいく。

その足は最後まで止まることが無くて、マルティネス家の最奥にある扉の前で止まった。


「ここは、どんな魔法でも使えるように多重の結界で覆われた特別な部屋です。今からここで朔様のスキルを肉体に刻んで術式にします。」


 クロエが部屋の扉をひくと、冬の冷気が漏れ出てきた。

窓がなく道具が置かれている部屋からは、少しだけ紙とカビの匂いがして朔の鼻を刺激した。


 普段からよく清掃されているマルティネス家では珍しい光景だった。

床には一つの円が刻まれており、円の中は無数の線が彫られていた。

 


 朔がクロエに言われて円の中心部に立つと、クロエは円のふちにしゃがんで手をかざした。

クロエが手かざしたところから四方の溝を伝って魔力が流れていく。

魔力が部屋全体を覆うとクロエは手を離した。

魔力の線は内装の本や椅子にも刻まれていて、朔は少し目をすぼめた。


「この部屋は全面が魔力が流れる通路となっています。今から魔法を発動するので術式にしたいスキルを強く思い浮かべてください。」


 朔はクロエに言われたように術式にしたいスキルを思い浮かべる。

朔が思い浮かべたスキルはもちろん「エネルギア」であった。


 朔のスキルの一つ「シズテム」が肉体にスキルが刻まれると警告する。

朔はシズテムの警告をいつも通り無視して刻まれるのを承認した。


「(!○ ○)すでに肉体に術式が刻まれています。上書きすることでさらに肉体に術式を刻むことが可能です。どうしますか。」


「仕方ないから、そのまま術式化しろ。」


 朔の全身に電撃が通るような激痛が走るが、一瞬で痛みは無くなった。

異世界に来た際の「ノアの椅子」と似たものであった。そして痛みがなくなった代わりに朔の意識はどんどん遠のいていく。


 終わって様子を見ていたクロエが焦った様子で駆け寄ってくる。

それで安心した朔は息を切らしながら、クロエに身を任せて意識を手放した。


 再び朔が目覚めたのは自分の部屋のベッドだった。

クロエが手を握って覗き込んでいて、朔が目を覚ましたのを見て安堵あんどした様子であった。

朔がいつも使っている椅子にリヌイが座っているが、寄り添っているうちにつかれてしまったようで寝てしまっていた。


 朔が術式化するために奥の部屋に行ったのがお昼過ぎだったが、外はすっかり暗くなっている。

ずっと起きていたクロエは小さく欠伸あくびをした。


 朔が「ありがとう。」と言おうとすると朔のお腹が「ぐぅ」と鳴った。

クロエは小さく笑って「今、夜ご飯を持ってきますね。」と言って部屋を出て行った。


 朔は意識を失っている間深い深い夢を見ていた。


 朔は夢で伊勢神宮を訪れていた。

朔が幼い時から命の家族に連れられて何度も来た思い出の土地だ。

幼い朔の隣では小さい命が大きな鳥居を見てはしゃいでいる。


 神社の鳥居をくぐって朔が瞬きをすると、朔がいたのは真っ白な空間だった。

その空間はゆらゆら揺れていて、何か見えたり聞こえたりするが意識をすると感じなくなるような不思議な空間だった。


 朔が一歩一歩踏み出すたびに少しずつ朔の体が成長していく。

遂に異世界に来る前の30代の姿まで成長した時、一人の女性が見えてきた。


 彼女は朔に背中を向けて地面に座っており、美しい白髪と体のラインがが神々しさを醸し出している。

朔が更に近づこうと足を踏み出すと、女はゆっくりと振り向いた。

女が振り向くと同時に、空間が真っ白に光って視界が光で覆われる。

朔は女の顔をはっきりと見ることはできなかったが、女の口元が僅かに笑っていたかのように感じていた。



「あの夢は何だったんだろう。」


 寝ているリヌイをしり目に、腰まで起き上がった朔がぼそりと呟いた。


マスター(#。。)。すでに刻まれていた術式を解析しようとしたところ、内部から強い力で干渉されてはじかれました。」

「そうか、まぁ仕方ないだろう。」


 朔とシズテムが話していると、クロエが雑炊ぞうすいのようなものを持ってきた。

疲れた体には少し塩味が効いた雑炊ぞうすいは染み渡るようで、不可解な夢のことも少しまろやかにしてくれるようだった。





斥宮せきみや さく / 冒険者名:フィリム・エヴァーローズ


概要 本作の主人公。2216年の世界から異世界に転移してきた16歳の少年。元は「歴史上最高の天才」と呼ばれた研究者で、幼馴染の神代命を救うために「ノアの椅子」を開発し、過去へ戻ろうとしたが異世界に飛ばされた。


術式「エネルギア」

自身を中心とする半径4m内でエネルギーを増減(最大3000倍)。

生物のエネルギーは変えられないが、物体や自身の攻撃力を調整可能。


術式「????」

15話にて朔に元々刻まれていたことが発覚。詳細は不明。


自立思考型スキル「シズテム」

元はノアの椅子のAIがスキル化したもの。自動で状況判断やスキル発動をサポート。


スキル「武気術」

マルティネス家相伝の肉体強化スキル。魔力で身体を硬化し、衝撃を受け流す。出力3%からスタート。


- その他: 「翻訳」「魔力感知」「魔力制御」など

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― 新着の感想 ―
第一節を通じて、キャラクターの個性と関係性が丁寧に描かれ、軽妙な掛け合いや命が巨大魔獣を圧倒する戦闘など、日常と迫力あるバトルのコントラストが際立っていて、物語に惹き込まれました。 特に、朔の「命を守…
XのRT企画より参りました。 幼馴染を助けるために研究を重ね、ノアの椅子を完成させ、その結果異世界で幼馴染と再開できたというのはそれだけでも感動的なストーリーですね。また、自力で異世界の扉をこじ開ける…
スタンピードって仕組まれてたんだ、、。 やっぱリヌイ様最強!
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