表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第一節 世界の果てまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/39

13話 深い帽子の商人


 戦いが終わった次の日朔はアルダーのもとを訪れた。

朔がアルダーのもとに行くと言ったら、クロエは物凄く心配して「何かあったら逃げてくださいね」と言った。



 朔が街を歩いていると、クロエとよく訪れる精肉屋のおばちゃんが声をかけてきた。

おばちゃんは「フィリムちゃんじゃない、ちょうど新商品作ったの食べていってちょうだい」といって、墨色の粉がかかった串肉を、両手にもって差し出してきた。



 受け取って一口食べてみると、ほんのりとした苦みの後に甘辛い肉汁が口いっぱいに広がった。

肉は程よい焼き加減で、柔らかく老人や子供でも食べれそうだった。


「おばちゃん。うまいよこれ。」


 朔が2串ほどぺろりと平らげると、肉屋のおばちゃんは嬉しそうに「そうだろう?」と言って笑って、ついでに串肉を詰めて持たせてくれた。



 アルダーの研究室は町の外れの小高い丘の頂上にあった。

外には何やら道具が散乱しており、さらに積み上げられた道具が崩れそうになっていた。


「あのーアルダーさーん、この前のフィリムですけど、いますー?」


 朔が声をかけると、一度物音がしてアルダーが出てきた。

手には怪しい液体が握られており、何かの作業中だったことが伺われた。


 朔がお礼にブラドホーンシープの角を持ってきたというと、アルダーは朔を外に出したまま一度研究室の中へ戻っていった。再び戻ってきたアルダーの手には机と椅子が握られており、アルダーの後ろを骸骨がティーカップが乗ったカートを押してついてきた。


 アルダーは机を置き、椅子に座ると朔にも座るように促した。


 骸骨が朔とアルダーの前にカップを置いて飲み物を注ぐ、程よく温められているようでカップからは湯気が立った。


 朔がブラドホーンシープの角を渡すと、アルダーは「これはこれは、アンデット用の薬品の材料ですね。有難いです。」といって、そばに仕えていた骸骨に手渡した。


「俺は、少し始剣について聞きに来ました。」


 朔が切り出すと、アルダーはやっぱりそうかという顔で頷いた。

アルダーは「そう思っていましたよ」と言って、懐から例の手帳を取り出した。


「始剣の中に、始剣β(ベータ)と書かれた物がありました。それについてです。」


「なぜそれを。」


「見た時、世界に関する能力って書いてありました。そして横には異世界人の文字が。」


 アルダー朔の言葉を聞いた瞬間、「2年ほど前に全く同じ言葉を言った人がいましたよ。」と言って口を開けて大きく笑った。朔が「え」というと、アルダーはクロエが命を元の世界に戻すために聞きに来たのだと言った。



「あなたも、前の世界に帰りたいんですか?無理ですよ、これは今所有しているのが異世界人ってだけです。世界に関する能力ってのは本人が言ってただけに過ぎません。私も実際は知らないんです。なんせ使われる場面を見たことがありませんからね。」



 アルダーは「他に聞きたいことが?」というと、カップにそそがれた飲み物をぐびっと一気に喉の奥へ流し込んだ。


「なんで、俺が前の世界に戻りたいと思ったんです?」


「簡単なことですよ、黒目黒髪、あのマルティネス家、さらには異世界人の文字に敏感。そこまで条件が揃えばあなたが異世界から来た事はわかりますよ。」



 アルダーは常に何かしていないと落ち着かないのか、手に持った試薬を混ぜ合わせて何か実験を再開していた。朔がアルダーにお礼を言ってその場を去ろうとすると、アルダーは「まだ話は終わってませんよ、私も貴方を訪ねようかと思っていたところです。」と言って朔を引き留めた。


「フィリムさん、100㎏の男が200㎏の力で上斜め方向に突き上げられた場合、男が抵抗しなかったらその男はどうなりますか?」



 朔はアルダーの質問意図が分からず、眉をひそめたが「そりゃ、上斜めに吹っ飛ぶに決まって、、、、」と言って、すぐに答えた。


「そうです、男はどれだけ身体強化していても絶対に吹き飛ばされます。無傷ではあるでしょうが。」


「何が言いたい?」


「貴方のスキルです、あなたは身体強化のスキルだと言いましたが、あなたはアンデットに下から吹き飛ばされても、微動だにせずそのまま反撃していた。他にも魔力出力に対してあまりにも身体能力が高すぎるうえに、稀に自身の動きに反射神経が対応できていない。と、あと一つ。あなた、自律思考型のスキルを所持してますね。」


「持ってないけど、、、?」



 朔はアルダーの質問に対して、表情を変えずに噓をついた。

だが、アルダーは方眉を上げた。



「噓ですね。わかるんですよ。私他の人の思考の波が見えるんです。あなたには常に二つの波が見える、一つは早いが不安定な形の波、もう一つはとても早く安定した波。この波を見れば噓をついてるかどうかも結構わかるんですよ。これが私の術式です。」



 朔は苦い顔をした。あからさまに面倒くさいって顔だ。

アルダーはその顔を見て、高笑いした。



「あっはっは、別に脅したいわけじゃないですよ。ただの忠告と質問です。」


「忠告と質問?」


「えぇ、自立思考型のスキルのデメリットです。まぁもうわかっているかと思いますが。」



 アルダーはそう言って話し始めた。


 自立思考型のスキルはスキル自身のが思考してくれているわけではないということだった。

普段、人は脳のリソースの1割ほどしか稼働させていない、そこでスキルはその残った9割のリソースを使うことによってスキルの発動が成立しているらしい。


 そのため普通の人間ならば自立思考型のスキルを発動しながら術式やスキルを扱うと、並列処理することができずに脳がショートする。そういう内容だった。


 そう、アルダーが言ったことは普通の人の話しである。


 朔はこの世界に来る前は、史上最高の天才と呼ばれていた。

だが朔は特別記憶力がいいわけでも無く、特別とびぬけた勉学の才能を持っていたわけではなかった。

その天才の本質は、広い無意識の範囲、素早い理解と応用、そこから産まれる適応能力の高さであった。


 そんな朔だからこそ、自立思考型スキル「シズテム」を常時運用しながらも、普通レベルの日常生活や戦闘ができていた。



「はぁ、飛んだ期待外れでした」


 アルダーは朔のからくりを聞いてすっかりうなだれる。

どうやらアルダーは並列思考に興味があったらしく、スキルを所有している朔に話を聞きたかったとのことだった。だが、朔の場合は体質だったので、どうしょうもないとアルダーは言った。


 アルダーは「もし、スキルのことや術式のことで悩んだらぜひ私を訪ねてください。あなたの術式とスキルは面白い。」と言って朔を見送った。




 朔が丘を降りて、街を歩いていると街の中心部に人だかりができており、朔が何事かと中心を見ると一人の商人が銀色に光る液体が入った小瓶を売っていた。


 深いぼうしを被っている商人は中性的な声をしており背が低かった。


「世にも珍しい、魔法を使わない薬だよ!!このビンの液体をほんの少し料理に混ぜて毎日食べれば、毎日すっきり起きることができて病気も治る、「しあわせ」になれるよぉ!!」



 商人は必死にお客にアピールする。

丁度スタンピードで負傷者が多いためこうやって自慢の薬を売りにくる商人は少なくない。

他の商人もいるためか皆薬を買うのを渋っていたが、一人の女性が買ったのをきっかけにして飛ぶように売れていった。



 朔はその様子を見てもあまり気に留めることなく、精肉屋のおばちゃんのところで朝試食した串焼きを持ち帰り用で10本購入した。


 事件は次の日に起こった。

町中で謎の体調不良が相次いだのだ。


 朔はすぐにあの商人の薬が原因と思い行動を起こす、今も商人が街にいて薬を売っていると聞いた朔はすぐに商人の元へ向かった。


「おい、今街で起こってる原因不明の体調不良はあの薬が原因だろ。」


「なんだいきみはーなわけないだろーあれを飲んで治ったって人もいるんだぞー」



 何回問い詰めても吐く気がない商人に朔は「もういい」と言って吐き捨てる。


「良かったら君にもあげるよー」



 全く気にしていない様子の商人は朔に瓶を投げた。

朔は舌打ちしながら瓶を受け取ると、マルティネス邸へと走った。


 マルティネス邸では、朔に言われて白い石を集めてきた命とルシアが待機していた。

朔は自室から白い粉を大量に持ち出すとリヌイの部屋に駆け込んだ。


「リヌ様!!これ全力で溶かして下さい。あと電撃魔法とかって使えたりしますか?」


 朔は命たちから石を受け取って、街がピンチだと知って慌てて戻ってきたリヌイに差し出した。

作業はマルティネス邸の庭で行われた。


 炭素で作った型に、リヌイが溶かした白石を流し込んで粉を投入する。

そして炭素で作った棒をその液体に刺してリヌイが電気を流した。


 すると炭素型からは、真っ赤に燃えるドロッとした液体が流れ出てきた。

液体が冷えると、金属光沢を発した。


「朔君、これってもしかして。」


「あぁ、」


「鉄!?」、「アルミニウムだよ!!」


「ボーキサイトから採った酸化アルミニウムを溶かした氷晶石にぶち込んで、炭素で作った型と電極に流して電気分解する。するとアルミニウムができる。」


 リヌイはアルミニウムの棒を持つとグイっと曲げてしまった。

「軽いけど、あんまり頑丈じゃないね。簡単に曲げれちゃう」


 そう言ったリヌイに、クロエは「食器とかで使う分にはよさそうですよ。」と言った。


 朔はリヌイにアルミニウムを薄くしてもらうと、商人が売っていた薬をアルミニウムの板に垂らした。

僅かな時間でアルミニウムは解けてしまい下に落ちた。

朔が険しい顔をする。


「ビンゴだ。一刻も早くあの商人を捕まえないと、これは『水銀』だ」


 朔がそう言った瞬間、ルシアが駆け出した。一瞬の間に見えなくなる。

その間に朔はリヌイとクロエに説明する。


「今作ったのは、アルミニウムっていう金属なんです。この液体金属、水銀は色んな金属と溶け合ってアマルガムという合金を作る。そしてこのアルミニウムとも溶け合います。そしてこの金属は極めて有害、魔法薬とかとんでもない、ただの猛毒ですよ。」


 その頃、商人はマルティネス邸を抜けて森の商人道を歩いていた。

すると、後ろにはだれもいなかったはずが肩を叩かれた。

恐る恐る振り向くとそこには、冷ややかな目をした狼人ウェアウルフの少女が立っていた。


「君が、昨日と今日マルティネス領でお薬を販売していたっていう商人だよね、来てもらおっか。」


 商人は「違うけど」と言って肩を振りほどこうとしたが、狼人ウェアウルフの少女の力は強く連れてかれた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
色んな謎が増えて面白くなってきましたね。 楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ