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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第一節 世界の果てまで

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11話 始炎剣フレイア

「わ、我はまだ消えるわけにはいかないぃぃぃぃ」


 リッチはリヌイの莫大な魔力が籠った神聖魔法を受けてもなお、肉体の一部を保っていた。

叫ぶリッチを見て、倒し切ったと思っていたリヌイは驚いた顔をする。

リヌイが周りを見ると制御を失った魔物たちが四方に散り始めていた。


 リッチが制御できなくなるほどのダメージを受けたことによって、リッチの影響下で強化されてい魔物が弱体化していた。リヌイはそれを見て、この程度なら迎撃部隊に任せても大丈夫だと判断して放置することにした。


「とても特級には届かない器なのに。よく俺の神聖魔法受けて生き残ったね。」


 リヌイはあり得ないと、思いつつ話しかける。

リッチはそれに答えることはなく、カクカクと骨を震わせていた。

するとリッチの下の地面から、膨大な魔力と怨念が吹き出した。


「ワレハ、ワレハァァァァァァァ、、!!」


 具現化されて視認できるほど濃い魔力と怨念は、満身創痍となりただの骨と化したリッチを取り囲み、吸収されていった。

吸収には時間がかかっているが、あまりにも濃い魔力でリヌイは妨害することを諦めた。


 だがリヌイのこの判断は後に自身の首を絞めることとなった。


 リヌイの神聖魔法で消し飛ばされた体が再生していく。

再生されたリッチの身体は更に太く大きく頑丈になったことをリヌイは肌で感じ取った。

そして、それと同時にこの怨念がどんなものなのかも理解できた。


それはこの場であった過去の戦争で、自身が刈り取った魂達の怨念である。



「戦争によってここで散った死者の怨念……か。それが、今になって封印が解けて君となったんだね……」



 リッチの体長は更に大きくなって、リヌイの数倍のサイズとなった。


 リッチはロードリッチとなって、せいぜい特Sランクに片足突っ込む程度だったのが本当に特級へとなった。


 死の間際の、「怒り」「悲しみ」「屈辱」「後悔」様々な感情が悪意となり、怨念となり地に染み付いて。リヌイに再び刃を向けるために、この死の間際だったリッチに力を分け与えたのだ。



「これは、、強すぎるかも。」



 リヌイは意を決した顔で、ロードリッチの顔の虚空に目を合わせた。

ロードリッチの表情などわかるはずもないのだが、リヌイには自身へ向けられる悪意を感じ取った。

リッチから湧き上がる魔力がリヌイを攻撃しようと煽れだし、オーラとなっている。



「『始炎剣フレイア』解放。」



 リヌイの始剣が新たに力を解放すると、リッチも魔導書と杖を掲げた。




◇◇◇◇◇◇




 同じ時、アルダー隊ではアルダーによって下級冒険者3人に始剣の授業が行われていた。

ほとんどの魔物を刈り尽くして、あとはアルダが使役しているアンデットで対抗できるようになった事で暇ができたからだ。


「フィリムさん。あなたは始剣というものがどれだけ強大な力を持っているか知っていますか?」


 朔が知らないと答えると、「でしょうね」とアルダーは分かっていたように頷いた。



「私は始剣を研究しています。見たことがある始剣はリヌイの始炎剣を含め四振り、どれも強大な力を持っていました。始剣には解放段階が3つあるのです。」


「3つ?そんなに制限が必要なのか?」



「えぇ、一つは『始剣解放』所有者のみに許された始剣の鍵を開ける解放です。これにより所有者は始剣と繋がり、始剣の力と魔力を扱えるようになります。

2つは『始剣全解放』始剣解放と唱えるのではなく、正式名称を唱えることによって、その始剣の能力をフルに扱えるようになります。ここまでするのは私もほとんど見たことがありません。

3つは、、、私も知りません。ただ剣で収まる範疇の力では無いと文献には書いていました。」


 アルダーが朔に見せた資料には四振りの始剣の名称や能力がまとめられていて、使用された時の被害や規模が事細かに書かれていた。



「他にも始剣と同じレベルで莫大な力を持っている剣があります。それは「神剣」と呼ばれるものです。」



「始剣よりどう考えても神剣の方が強そうだけど、、?同じレベルっていうならそれこと一緒じゃないのか?」



「全く違いますよ、神剣は神剣鍛冶師が一生をかけて一振り作るか作れないかという代物です。神剣と呼ばれる所以は、莫大な力と剣の名所が神によって名付けられるということです。そして神剣は解放段階が1しかない。」


 アルダーはあまり興味がなさそうに神剣の話をした。

どうやらアルダーは、未知のものに惹かれるらしい。


 朔がアルダーの資料を貸してもらい眺めていると、アルダーが急に大きな声を出して先ほどリヌイが居た方角を見た。


「そんな急にそっち見てどうしたんだ?」


 朔がアルダーに問いかけるとアルダーは今までに見たことがない嬉々とした顔で「これは私も初めて見ます。」と目を話さずに言った。


 アルダーは朔が持っていた資料を素早く取り上げると、懐からペンを取り出してメモを書き始めた。

その上小型のアンデットも呼び出して映像でも記録し始めた。



「何があってるんだよ?」


「始剣全解放ですよ!!あのリヌイが始剣を全解放したんです。まさか、こんな事があるとは、」



 アルダーの話によると、リヌイは始剣が無くても圧倒的な力を持っているそうで、ほとんどが始剣解放止まりだったらしい。それが理由でこれまで始剣全解放する場面が見られることが無かったという。


「さぁどうなるんでしょうか。あぁ大丈夫ですよ、一応クロエさんから預かった結界があるので絶対安全です。」



 アルダーはどうやら、リヌイの戦いを見るために魔力を込めるだけで発動できるクロエ印の結界すら調達していたようだった。




◇◇◇◇◇◇



 リヌイの手に収まっていた始炎剣フレイアはノイズが走ったように消え去った。するとリヌイの頭上に剣の柄だけが現れた。


 リヌイが少し飛び上がり柄を掴むと空間がひび割れ刃が現れた。

刃がリヌイの身長ほどになり、赤色の模様が刻まれていた。


 ロードリッチが杖を掲げると、リッチの背後に数多くの魔法陣が浮かび上がりそこからは武器の刃が見えていた。


 そのまま杖をリヌイに向けると、無限と言える武器がリヌイに向かって放たれた。


 だがリヌイはその場から動く気配がない。

リッチの攻撃がリヌイの間合いに入った瞬間、リヌイの周りを浮遊していた炎が武器を全て溶かした。


 溶かされて、制御を失った鉄塊は地面へとへばりついていく。

リヌイはリッチを見下ろすと、空を蹴った。隙を見せたリッチに剣を突き刺そうとするが、リッチもギリギリでかわす。かわした隙に、リッチは魔法陣を展開し大技を浴びせる。


「す、すす、スキが、多いの、ののの、だよ。」


 リヌイはモロに喰らってしまうが、何事もなかったように剣で連撃を与える。リッチは魔物を間に挟むことでリヌイの連撃から抜け出し、リヌイは連撃をしている間に魔力を練り魔法を発動させる。



火炎(フレア)



 リヌイが放った魔法は子供でも使えるような基礎魔法であった。

だがリッチの半身を消し飛ばし、リッチが召喚していたSランク相当の魔物の軍隊を消し飛ばした。


 その魔法はリヌイの莫大な魔力と始剣での強化、そしてリヌイの術式によりその威力は通常の魔法の中でも最強レベルとなっていた。


 リヌイは生まれつき術式が肉体に刻まれていた特異体質である。

術式は「蓄熱」自身が受けたダメージや日々の代謝・魔力をエネルギーに換えてため込み、自身の望む形で熱や炎として放出する。

その術式の特性上、リヌイが扱う炎系の魔法は威力が底上げされていた。



「そそそそんんんなはずずは」


 半分ほど理性を失っているリッチが、骨の肉体を再生させながら、あまりの威力に戸惑う。

リッチは慌ててリヌイに極大魔術を複数放つ、様々な系統の魔法が入り混じったことにより効果は混沌として、威力もSランクの冒険者であれば一瞬にして殺されてしまうのでは、と思われた。



「武気術…きわみ(あか)」


 リヌイの全身から赤く視認できるほど高密度の魔力が立ち昇る。

そしてリヌイの背後に目が眩むほど白く輝く日輪が現れていた。


赫刃かくじん


 リヌイが剣を一振りすると、獄炎の赤い刃がリッチの攻撃を打ち消した。

攻撃の余波が衝撃波を発生させ誰も近づくことができなかった。


 リッチは衝撃波に紛れてリヌイから距離を取ってドラゴンを召喚した。召喚したドラゴンのゾンビはリッチを庇うように守っており、その後ろでリッチは時間経過とともに魔物を召喚し続けてリヌイし差し向けてくる。ロードリッチが召喚する魔物はリッチの召喚する魔物と違い一個体がかなり強化されていた。


 リヌイはドラゴンの爪を避けながら再び赫刃を繰り出すとリッチを守ってたドラゴンを真っ二つにした。


 ハッとしたリヌイがすぐにリッチの居場所を確認するが、リッチはその場におらずリヌイは見失ってしまった。


 リッチはリヌイのはるか上空にいた、ドラゴンが2つに分断される前にドラゴンに上空へと打ち上げてもらっていたのだ。



『フォールレア』


 リッチは遥か高く雲の上まで上昇していた。リッチが呪文を唱え魔導書を広げ杖を掲げる。

すると上空で静止するリッチの足元に無数の巨大な魔法陣が展開され、リッチの最高出力の極大魔法が放たれた。


見失っていたリヌイはその時点で自身の上空にある巨大な魔力の気配に気づいたがもう遅かった。

結界魔術を発動させる前にリヌイに攻撃が降り注ぐ。

照射された台地は数センチほど沈みこみ、範囲内の山は削られてなだらかな斜面が崖になっていた。

そして微かな生き物の痕跡すことなく、自軍のアンデットもろとも全てを消滅させた。



ただ一人を除いて。



 赤髪の戦神(リヌイ・マルティネス)は僅かに焦げてしまった尻尾の毛を気にしながら、上空の死霊の帝王ロードリッチを見つめた。



放出エミシング


 リヌイが地面を蹴って上昇する。

爆発と共に地面には巨大なクレーターが生み出され、天に向かって一筋の線が瞬く間に描かれた。


晄芒一閃こうぼういっせん


 リッチは2つに分けられ獄炎と共に爆散した。


「あぁーつかれた!! まさかこんな強くなるなんてなぁ、て………わぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 遥か高くまで飛んだリヌイは、限界高度まで達するとそのまま落下していった。


特級個体 死霊の帝王ロードリッチ 


アンデットの最上位に存在する、リッチが膨大な魔力と怨念によってごく稀に進化することで生まれる。

莫大な魔力を有しており様々な魔法を使いこなし、アンデットの弱点である神聖魔法も通用しない。

アンデット特有の不死性を持っており、ほとんどの魔法や術式、スキルが通用しない上に、無数のアンデットを召喚し続け、軍隊を形成する。


以前ロードリッチが確認されたのは1000年も前のことで、その際には大陸全てが死者で埋め尽くされてしまった。今回この規模の被害で収まったのは、進化して順応しきれていなかったことと、ロードリッチが怨念によって理性を失い合理的な判断ができておらず、すぐに討伐されたためであった。


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― 新着の感想 ―
首を絞めるといわれてリヌイ様大丈夫!?となりましたが最強で最高でかっこよくて惚れ直しました。ほんとリヌイ様の魔力に包まれたい。
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